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“解き放たれたSOULNOTEの音”がver.2に進化。注目アンプ「A-1」、20万円以下「A-0」を聴く

SOULNOTE「A-1 ver.2」

“自分のいい音”を探す

オーディオ機器で一番大切なことは音質であるということは、おそらく100パーセント正しい。では、オーディオ機器は音がよければ他はなんでもいいのかと問われれば、ぼくはそれは違いますね、と答えるのだけれど、その話を展開するとまた長くなってしまうので、ここではしない。

音がいいオーディオ機器とはしかし、その定義が実に難しい。われわれ聴き手は、聴いてよければいいと済ませられないわけではないが、誠実な作り手(メーカー)であればそこに何某かのいい音の根拠が必要になってくるだろう。

その場合、いい音の根拠とされやすいのは、測定に裏付けされた物理特性(スペック)だ。ぼくたちだって、自分の愛機が特性がいいですよとメーカーに言われれば悪い気はしない。代表的な物理特性を挙げると、アンプで言えば、周波数特性、全高調波歪み率、SN比、ダンピングファクター、ゲイン、出力(パワー)、入出力インピーダンス、入力感度等々が挙げられる。スピーカーで言えば、周波数特性、全高調波歪み率、能率(出力音圧レベル)、インピーダンス等々である。

アンプでは、先に記した項目の中で、最初の4つは優秀であればあるほどよいと考えるメーカー(人)は多い(残りの4つはケース・バイ・ケースの方が多いと思う)。ずいぶん昔のことだけど、低歪率(ローディストーション=Lo-D)をブランド名にしたメーカーがあったくらいだし、たしかに半世紀以上前であれば、そうした数値の改善こそが音質の向上につながることを実感する例は多かったのだろうと思う。

時を経て21世紀のこんにち、半世紀前には信じ難い優れた物理特性を獲得することが容易になった。もはや限界なのでは?と思うような数字が並ぶ製品もある。そしてそうした製品の物理特性を凌駕するアンプが登場したりもするのだから恐ろしいし、その数値向上が音質の向上と感じられることも多い。

いっぽうで、個人工房的メーカーに多いのだが、作り手個人の感性を主とし、すなわち聴いてよければ(心地よければ)それでよし、極端に言えば物理特性など気にしないとする例もないわけではない。聴感重視というやつだ。あるいは、大きなメーカーでも、コストやリソースの制約を聴感重視と言い換えているケースもあるだろう。

さて果たして、ぼくらにとってどちらのメーカーが好ましいのだろうか。前者はある意味、科学的普遍性がある。後者は主観的で普遍性に欠けるおそれがある。実際には物理特性重視のメーカーでも、最終的には聴感によるチューニング(音作り)が施されるし、聴感重視と言ってもほとんどの場合、製品化の際には物理特性を測定するのだが……。

それはそれとして、みなさんもご経験があるかもしれないが、残念ながら物理特性が優れているアンプが必ずしもいい音がするわけではないし、(作り手の)聴感重視のアンプの音質は作り手のオーディオ的&音楽的リテラシーにほぼすべて依存するという根源的な問題があり、リテラシーが異なり、好みも合わなければどうしようもない。

オーディオは趣味だし道楽だから、使い手が気に入る音がする製品を選べばいいと言うのは本当だけど、それだけではレベルは上がらない。多様な価値観(いい音)を否定せず、その上で自分のいい音を探るのが肝要だと思う。

SOULNOTEの“解き放たれたサウンド”との出会い

SOULNOTEは神奈川県相模原市にあるオーディオブランドで、誕生は2006年(母体となる株式会社CSRの設立は2004年)。手頃な価格で特徴ある製品を輩出していくが、転機となったのは2016年、加藤秀樹氏がチーフデザイナーに就任し、いわゆるハイエンドオーディオの世界に積極的に参入していったことだろう。

それまでのSOULNOTEは手頃な価格帯の製品が主だったのだ。もちろん手頃な価格だからといって音質を疎かにしていたわけでは断じてない。でも、コスト等の制約はあったはずで、それを感じさせる瞬間があったのも事実である。

SOULNOTEの加藤秀樹氏

加藤さんは以前、NECと日本マランツでアンプ設計者として活躍しており、SOULNOTEのチーフデザイナーになった時点ですでにすっかりベテランだった。しかしながらそれまで表に出てくることは少なく、ぼくも一度うっすらとお会いしただけで、どういう人なのかはよく知らなかった。

ぼくが加藤さんが設計したSOULNOTE製品として初めて認識したのは、プリメインアンプの「A-1」だった。オーディオのことならとにかくなんでも情報通な三浦孝仁さんが、ステレオサウンド誌の試聴で取り上げているのを見て聴いてみたいと思ったのだ。そしてA-1を聴いて驚いた。それは価格やサイズや出力といった、言ってみればオーディオアンプという「商品」を形作るもろもろの事柄から、(全てとは言わないが)解き放たれたサウンドを持っていたからだ。それは何者にも似ていないアンプであり、独自の価値観の裏付けがあったように思われた。

2016年に発売されたプリメインアンプ「A-1」

ぼくが加藤さんと親しくお話しするようになったのは、SOULNOTEの本格的ハイエンド世界への参入宣言となった2シリーズの誕生以後。たしか2シリーズのD/Aコンバーター「D-2」の登場時が最初だった。

D-2の最大の特徴はNOSである。NOSとは、デジタルオーディオ機器において滑らかなアナログライクな波形再現には必須と言われていた、デジタルフィルターによるオーバーサンプリングを否定するもので(ノン・オーバー・サンプリング=NOS)、たとえ正弦波の再現波形がギザギザであっても、音質的にはNOSの方に優位性があるというのがその採用の理由だった。

D/Aコンバーター「D-2」

NOS機能を搭載したD/AコンバーターはD-2が世界初ではないのだが、ここまで全面的にフィーチャーした製品はなかったし、音質もまた、それまでのものとは一線を画す、生き生きとしたものであった。

2シリーズはD-2の他、フォノイコライザーのE-2、プリメインアンプのA-2があるが、そのいずれの音質も共通点があり、設計者のポリシーが貫かれていることがよく伝わってきたものだった。その共通点とは「鮮度の高さ」「反応の速さ」と言えばいいだろうか。

2シリーズはその価格が信じられないほどの物量が投入されていた。またE2で言えば、MM/MC型のカートリッジに対応するのは普通だが、イコライザーカーブを自由自在に設定できる機能も特徴であった。

物量投入や多機能というのは、ともすると複雑化を招くのだけれど、単純に言うと複雑化は音声信号の鮮度を落とすことにつながりがちだ。特に電気回路や電気経路はそうで、複雑な回路・経路は、ある種の鮮度を確実に低下させる。ただ、SOULNOTEの製品においては、物量はおもに電源部に投入されており、多機能であっても電気回路とその経路は極力シンプルに設計されているのであった。

また、回路面で言えば、諸特性を劇的に向上させるNFB(ネガティヴ・フィードバック=負帰還)を全製品で廃しており、無帰還回路であることが大きな特徴。その理由は、SOULNOTEによれば、無帰還の方が音がいいということ。ここでも特性ではなく音質が優先されているのだ。

しかしながら加藤さんが物理特性を無視しているわけではないと、ぼくは思っている。ここで書いている波形の滑らかさや諸特性というのは、テスト信号である正弦波を対象にした結果である。正弦波とは同じ波形が連続するもので、それを測定したものは静特性と呼ばれる。いっぽう音楽信号は正弦波のように単純ではなく、その波形は時と共に千変万化、ひとときも同じ姿をとどめない。動いているのだ。

つまり、現状重視されている静特性の向上と音楽再生における音質の相関性は薄く、静特性の向上を目的にすると、かえって音質の低下を招くことがあるのではないかというのがSOULNOTEの主張である。静特性のよさが必ずしも音質を保証しないという点では、ぼくも同感だ。

いっぽうで静特性とは別に、音質と相関性のある物理特性(動特性)が何であるのか、加藤さんは常に探っておられる。それは歴史的・世界的にも探求されていることなのだけれど、残念ながら今のところ決定打とされるものを、少なくともぼくは知らない。

ここに、加藤さんの設計フィロソフィ(リンク先はPDF)が綴られているので、ご興味のある方は、ぼくがあれこれ書くよりもこれを一度お読みいただいた方がいいような気もするのだが、ここで物理特性と音質の相関についてこれほど詳しく書かれているのは、加藤さんが科学を重んじる技術者だからだとぼくは思う。物理特性を気にしない人だったら、ここまでのことは書かないはずなのだ。

例えば、ぼくだったら「音がよければそれでいいんですよ」でおしまいだろう。そこに科学的な理由づけを求めようとするのは技術者ゆえであり、それはひとつの誠実な製品開発の姿勢として信用できるし、そこにSOULNOTE製品の独自性があるのだろう。始めから物理特性を疎かにしているわけではなく、長いキャリアの中で、この設計フィロソフィが導きだされたことに価値があるのではないかと思う(そしてそれはいまも進化しているようだ)。始めから物理特性なんてどうでもいいというわけではなかったはずだ。

加藤さんは、とにかく自分の製品のことになると話が止まらない。己の信じることについてあれほどの熱意を持って話す設計者を、ぼくは他に知らない。でも、その音の判断は(回路と同じく)極めてシンプルで、要は「音が生きてるか死んでるか(鮮度、動的な反応)」という加藤さんの瞬時の判断で、ほぼ全てを決めていく。

全てというのは回路だけでなく部品の選別、配置、配線、筐体とあらゆる範囲におよび、隅々に至るまで何故それがそうなっているのか理由がある。設計する側としては、それらがすべて測定で決められればどれだけ楽だろうかと想像する。ひとつでも判断を間違ったらすべてがオジャンだから。

生きた音を届けるため、天板や基板の無固定や、筐体構造にこだわる

このSOULNOTEのフィロソフィのひとつの到達点となったのが3シリーズで、コスト度外視で同社の理想を追求したその製品群には凄みがある。2シリーズでも採用されていた独特の筐体設計はさらに徹底され、天板や底板、端子群、はては回路基板まで無固定とし、機械的ストレスの排除が図られている。

こうした無固定化は、確実に音を変化させるのだが、この音の変化は測定できないものだ。とりわけぼくがシビれたのはモノラルパワーアンプのM-3の筐体構造で、なんと1シャーシながら、電源部と増幅部を分離させた2ボックス構造を実現、これほどまでに振動対策が施されたアンプは世界でも初めてのことだったと思うし、その純度の高いサウンドを聴くと、類例のない設計の成果に唸らされたものだ。

モノラルパワーアンプの「M-3」
M-3の内部
アンプコンテナをメイン筐体から完全に分離し、スパイク3点支持で自立させている

そうそう、この間、同様のフィロソフィで設計された小出力のコンパクトなプリメインアンプ「A-0」も発売されており、物量やパーツコストの差による音質の違いはあるとはいえ、0から3までの音質には一貫性とそれぞれの魅力があり、単純なヒエラルキーを形成していないこともSOULNOTE製品の特徴として挙げられよう。

ここまでのことをまとめると、SOULNOTEとは、鮮度高く生きた音をリスナーに届けるために、シンプルでストレスのない設計を施したオーディオ機器を作るメーカーとなるだろう。

2025年春、SOULNOTEは前記したM-3のバージョンチェンジ版である「M-3X」を発表した。異なる点はメタルキャントランジスターを採用した出力段の構成のみで、オリジナルのシングルプッシュプルから、Xではパラレルプッシュプルに変更された。パラレル化の目的は出力アップではなく電流供給能力の向上であり、このことによって実質的なスピーカーのドライブ能力のアップが図られた。

トランジスターのパラレル化は、音の純度を最重視すると実はなかなかに難しい。完璧に動作が揃うトランジスターを選別するのは大変な作業であり(と言うか「完璧」には揃わない)、動作が揃わなければ音に滲みが発生する。

M-3の電流供給能力を2倍に高めた「M-3X」

ぼくは個人的にはシングルプッシュプルが好きだけれど、でも、歪みやノイズなどの物理特性同様、こうした滲みがあっても魅力的な音がする製品を実際に知っているので、原理主義に陥らないように注意している。それはそれとして、純度をとことん追求した3シリーズにおける出力段のパラレル化はある意味コンセプトから外れる危惧もあろう。

実のところ、オリジナルM3開発段階で、出力段のパラレル化は検討されていた。出力トランジスターが取り付けられるバスバー兼用の銅製ヒートシンクに謎の小孔が開いているのはそのため。それはこのクラスのパワーアンプは、現代ハイエンドスピーカーに組み合されることが多いと想定され、その場合、パワーと電流供給能力が高い方が有利だからだ。

M-3内部のバスバー兼用銅板ヒートシンク

現代ハイエンドスピーカーは能率もインピーダンスも低いものが多く、特に帯域によって変動するインピーダンスが低すぎるとアンプが気絶する恐れすらある。それはぼくに言わせればスピーカーが悪いのだが、世間のハイエンド好きの多くはアンプの力不足だと考える。出力トランジスターをマルチパラレルプッシュプル構成としてドデカイ電源部を持つモンスターアンプがハイエンドに多いのは、そういう理由が大きいのだ。

ともあれ、M-3開発時点ではパラレル化による音の滲みを解消する手段がみつからず、純度を追求するSOULNOTEとしては、ビジネス的に不利になることも承知でシングルプッシュプルを選択した。だが、加藤さんは諦めていなかった。トランジスター選別に新たな手法を導入し、厳密なマッチングに成功したのだという。それまでの選別方法は静的な特性でペアリングを行なっていたのに対し、M-3Xに使われる出力トランジスターは、「動的な」特性でマッチングさせたのだ。その結果、シングルプッシュプルの純度を保ったままドライブ能力の向上が実現したというわけだ。その音を聴いたぼくも、M-3Xがパラレルプッシュプル構成であることをにわかには信じることができなかったくらいである。

けれども、ここで重要だとぼくは思うのは、シングルかパラレルかということより、出力段の構成以外、回路もパーツも構成も筐体も全て同じというM3とM-3Xに、電流供給能力の向上以上の音質の違いが感じ取れることである。純度や鮮度では説明しきれない、いわば音楽の表現の仕方が異なるのだ。

どちらは上とは言わないが、M-3が(やや)ストイックな美しさに特徴があるとすれば、M-3Xは音楽の楽しさや表現をより重視しているようにぼくは感じている。ぼくはどちらの音も魅力があると思う。オーディオにおける真実はひとつではないのだから。

0~2シリーズが「ver.2」に進化。最も注目はプリメインの「A-1 ver.2」

M-3XはSOULNOTEサウンドの新しい扉を開いたとぼくは思っているのだが、どうしてかと言えば、同年(2025年)の初秋に一挙に発表された、0から2シリーズのバージョン2(ver.2)モデルの全てが、前作よりも一段と音楽表現の幅や厚みが増していたからで、それはM-3とM-3Xの違いとピタリとベクトルが一致しているのである。

プリメインアンプの「A-0/A-1/A-2」、フォノイコライザーアンプの「E-1/E-2」、D/Aコンバーターの「D-1/D-2」がすべてバージョンチェンジしたのは、旧モデルに使っていた半導体などの各種パーツの入手が困難になったことがひとつのきっかけだったようなのだが、パーツ代替で済ませるのではもちろんなく、加藤さんは、この短期間で7モデル全てを新規設計してしまった。現代の普通のオーディオ専業メーカーではまずあり得ないことであり、どうかしていると思う。

  • プリメインアンプ「A-0 ver.2」 181,500円
  • プリメインアンプ「A-1 ver.2」 308,000円
  • プリメインアンプ「A-2 ver.2」 682,000円
  • フォノイコライザー「E-1 ver.2」 286,000円
  • フォノイコライザー「E-2 ver.2」 682,000円
  • D/Aコンバーター「D-1 ver.2」 385,000円
  • D/Aコンバーター「D-2 ver.2」 748,000円
プリメインアンプ「A-1 ver.2」
フォノイコライザー「E-1 ver.2」。従来のMC/MMに加え、光カートリッジ入力にも対応したのが特徴
D/Aコンバーター「D-1 ver.2」。E-3で開発したNew Type-R回路をDAC用に最適化して採用。DACチップはESS「ES9038PRO」を左右独立で採用し、SOULNOTE独自のNOSモードが選択できる

M-3Xを含めて1年間で8機種の新製品投入は、設計した加藤さんは凄いとしか言いようがないけれど、それと同時に生産やプロモーションやデモも行なわなければならないわけで、製造現場もそうだし、営業担当のAさん(仮名)など本当に大変だろうなとぼくは心配している。

それはさておき、既述の通り、バージョン2シリーズは極めて魅力的な製品揃いだ。これも先に記したが、1シリーズには1シリーズの魅力があり、2シリーズには2シリーズの魅力がある。上下関係ではないのだ。ぼくがAV Watchの読者のみなさんにまずおすすめしたいのは、1シリーズ、とくにプリメインアンプの「A-1 ver.2」である。

プリメインアンプ「A-1 ver.2」プレミアムシルバー

A-1 ver.2プリメインアンプはアナログライン入力専用機で、出力は8Ω負荷時で40W×2。負荷インピーダンスが4Ωに下がると出力は理論通り倍となり80W×2となる。この場合の負荷とはスピーカーシステムのこと。そしてインピーダンスが下がると出力が上がるのは電流供給能力(主に電源)に余裕があるということを意味している(インピーダンスが下がると電流が多く流れる→電圧は同じで電流が増えると、電力は電圧×電流の値だから、パワーがアップする)。

オリジナルのA1の出力段の構成はパラレルプッシュプルだったのだが、バージョン2はシングルプッシュプルへと変更され(M3とM-3Xとは逆の変更)、8Ω負荷時の出力は80Wから40Wへと減少した。そしてオリジナル機では4Ω負荷時の出力は120Wと増えはするが倍までいかない。

数値であれこれ言うのはあまり意味がないかもしれないけれど、これらが意味することを読み解くと、バージョン2では出力段をシングルプッシュプル構成にし、電源トランスの二次側電圧を下げたことで、スペック上のパワー値は下がってしまったが、音楽再生に必要とされるエネルギー(電流)を瞬時に供給する能力の向上を図ったものと思われる。

もちろん、得られる最大音圧はパワー値が大きいほど大きくなるのだが、通常、家庭で音楽を楽しむ上ではそんなことよりも、音楽の無数のピークに対して瞬間的に変幻自在にエネルギーをスピーカーに送り込む能力のほうがよほど重要で、それがA-1 ver.2(だけでなくSOULNOTEの全アンプ)が目指していることのように思う。実際、極端な低インピーダンススピーカーや広い場所でもない限り、40Wというパワーは必要充分な値である。

「A-1 ver.2」の内部

もしお手持ちのスマホに音圧測定アプリなどが入っているなら実践してみるとわかるのだが、たとえば90dBという音圧はかなりデカい。そしてこれ、スピーカーのスペックにはほぼ必ず載っている能率(出力音圧レベル)が90dBとすると、(1メートルの距離であれば)たったの1W(8Ωの場合)で到達してしまう音圧なのである。

ついでに書くと、能率といったスピーカーの諸特性も、正弦波などの定常的信号で測定される(静特性だ)。ぼくは何も静特性の追求を否定しているのではない。でも、さっきと同じようなことを書くが、スピーカーでも極めて大事な、音楽の千変万化するダイナミクスや音色への瞬時の追従性はなかなか数値化できないのだ。アンプもDACもプレーヤーも同様。余談だけれど、これは録音がきちんと音楽のピークディップを捉えている場合のいい再生の条件であり、音楽のダイナミクスを圧縮し収録の平均音圧レベルを上げた音楽と録音にはあてはまらない条件だろう。

A-1 ver.2の回路的な特徴は無帰還増幅とそしてSOULNOTEが必要最小限のシンプルさと謳う4段ダーリントン構成を採用していること。これは他のすべてのSOULNOTEアンプに共通する。音量調整はバランス型の抵抗切替方式アッテネーターで行なう。筐体構造は2や3シリーズのような無固定化は導入されてはいないが、これも聴感で決められたもの。面白いのは同じようなボンネット(天板)構造を持つ「A-0 ver.2」は無固定とされていることで、ケースバイケースの判断がされている。

「A-0 ver.2」の天板は固定されていない

キビキビとした反応の良さはA-1 ver.2のもっとも得意とするところ。A-2 ver.2はもっとパワフルな音ではあるけれど、反応性のよさは引けを取らないし、A-1 ver.2のライトウェイトならではの躍動感あふれるサウンドは爽快の一言。

脚色を排することをSOULNOTEは目指しているので(音作りはしないと宣言している)、ちょっとサッパリしていると感じる方もいらっしゃるかもしれないが、適度な質量感や厚みはしっかりとあるし、基本となる質感や音色はナチュラルで、さまざまな変化への追従性は抜群だから、長く聴けば聴くほど本機のよさはじわじわと沁みてくるかもしれない。

またコストにかかわらず最高を狙って開発されているため、ゴチャゴチャしたセッティングでは本領を発揮できないどころかノイズを拾う可能性もある。と言っても何も難しいことを言っているのではなく、アンプ回りをスッキリさせてシンプルに接続することを心がけるだけでよいと思う。それはこのモデルに限らないセッティングの基本だけれど。

現在のプリメインアンプはデジタル対応をどうするのかの判断が迫られている。DACを内蔵しストリーミングに適応したプリメインアンプはたしかに利便性が高く魅力的だ。

だが、原則論で言えば、デジタル回路を同居させたアナログアンプは、デジタルノイズの影響を大なり小なり受けることは避けられず、自ずと純度の高さでは妥協をせざるを得ない。純度が高ければいい音になるわけではないのだけれど、それでもやはり純アナログアンプにはそれならではの代え難い魅力がある。その意味においても、A-1 ver.2のサウンドはアナログアンプのひとつの典型となるものであり、デジタル全盛のいまだからこそ、読者のみなさんにも是非聴いてみていただきたいと思う次第。

あ、能率の高いスピーカーをお持ちの方(もしくは小音量派)には、出力10W×2のA-0 ver.2もオススメですよ。シミジミといい音がします。

出力10W×2のプリメインアンプ「A-0 ver.2」
小野寺弘滋

酒も飲まずギャンブルもやらず、ひたすら音楽を聴き続けて約半世紀。ネコと小鳥とカメラ(レンズ)と双眼鏡とシトロエンとコーヒーと空が好き。季刊「ステレオサウンド」元編集長。