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“進化でなく革命”iFiのこだわり満載ポタアン「iDSD GR 2」。DAC刷新、iEMatch進化の狙い
- 提供:
- エミライ
2026年9月18日 08:00
9月18日に発売された、iFi audioの「iDSD GR 2」(以下GR 2)は、2021年に発表された「xDSD Gryphon」(以下Gryphon)の後継機である。ただし、単なるマイナーチェンジではない。iFi自身が海外の公式ページで「Revolution, not Evolution(進化ではなく革命だ)」と公言するように、DAC・アナログ回路・電源・UI・ワイヤレスのすべてにわたって全面的に刷新された、まったく新しい機種と言える。
価格はオープン、市場想定価格は99,000円前後。携帯性を考慮してMagsafe機能のついたiDSD GR 2専用保護ケースも9,900円前後で用意されている。
iDSD GR 2の特徴
iDSD GR 2の仕様を端的に紹介しよう。USB、光/同軸デジタル、4.4mmバランスと3.5mmシングルエンドのアナログ接続に加え、aptX LosslessやLDACといったHD Bluetooth信号も受信できるDAC内蔵ポタアンだ。
バッテリーを内蔵したポータブルヘッドフォンアンプだけでなく、据え置きのDAC/プリアンプとしても活躍する一体型モデルであり、高出力と多彩な接続性を1台に凝縮した製品と言える。
最大の特徴は、ポータブル機として極めて完成度が高かったGryphonに対し、主要な3つの基本性能を大きく引き上げた点にある。さらにK2HD、ワイヤレス機能、電源周りにも新機能が追加された。
第1にDAC部分。Gryphonが「DSD1793」というDACチップを搭載していたのに対し、新たに「PCM1795」を採用したことで音質が大幅に向上した。ここは本機のキーポイントとなるため後述する。
第2のアンプ部分については、Gryphonのバランス32Ω時約1,000mWに対し、GR 2は1,513mWと50%と、大幅な出力向上を果たした。これは鳴らしにくいヘッドフォンや平面駆動型ドライバーを駆動させるうえで非常に有効だ。
第3の使い勝手については、Gryphonのモノクロ画面からカラーのタッチ式液晶ディスプレイへと進歩し、さらにiFi独自のコントロールアプリ「Nexis」にも対応した。
これほど大幅な刷新を行ないながら、実売10万円以下と、このご時世に価格が抑えられている点も見逃せない。このあたりは実に誠実なiFi Audioらしいところだ。
お馴染みの機能が進化、新たにK2高音質化も可能に
従来のiFiユーザーが留意すべき点として、お馴染みの「iEMatch」機能の切り替えスイッチが廃止されたことが挙げられる。とはいえ機能自体が消えたわけではない。iEMatchの機能は「iEMatch / Normal / Turbo」という3段階のゲイン(パワー)モードへと統合され、回路のMOSFET化も図られた。
つまりゲイン切替に組み込まれる形となり、iEMatch選択時にはゲインが約-12dB減衰するとともに出力インピーダンスも引き上げられる。つまりヒスノイズ対策機能そのものはしっかり継承されている。(海外公式ページの仕様欄に明記あり)
新規ユーザー向けに補足しておくと、iEMatchとは高感度イヤフォン使用時に発生しやすいヒスノイズを低減させる、iFi Audioの代名詞的な機能のことだ。
GR 2で新たに追加された機能として、iFi Audioの「Valkyrie」などでお馴染みとなったJVCKENWOODの誇る高音質化技術「K2」および「K2HD」の搭載が挙げられる。K2とは、デジタル化やマスタリングなどの過程で失われた倍音成分などを独自の信号処理で補完・復元する技術である。K2HDではさらにアップサンプリング処理も行なわれる。
ワイヤレス機能においてもチップが更新され、対応Bluetoothバージョンは5.4へ進化。高音質コーデックとしてaptX Losslessが新たに追加されたほか、LDACも引き続きサポートされている。
電源回路では、外部電源駆動時であっても再生時に電流供給が不足した際、バッテリーから電力を補う「ハイブリッドモード」が新たに搭載された。これは目立たないながらも重要なポイントだ。
なお、連続再生時間はGryphonの8時間から7時間へとやや短縮しているが、これは純粋な性能向上に伴うものであり、iFiらしい正直な仕様開示であると捉えるべきだろう。
DAC変更の理由と、iFiらしいこだわり
さて、次にGR 2の核心と言えるDAC部分の改良について、さらに詳しく掘り下げていこう。
実はGR 2には、筆者のようにiFi設立当初から製品を見てきた者にとって少々驚くべき変化がある。それはDACチップ名を明記したという点だ。
従来、iFi Audioは他メーカーのように使用DAC名を大々的に打ち出すことはなかった。しかし、Gryphonではバーブラウン製DSD1793が用いられており、新機種のGR 2では同じくバーブラウン製のPCM1795が採用されていると公表された。
そして、この公表により、iFiの設計思想がより明確になったと言える。iFiの説明によれば、DSD1793(Gryphon)とPCM1795(GR 2)はいずれも純粋なマルチビットDAC ICではないものの、マルチビットの系譜を継ぐハイブリッド設計を採用している。これにより、PCM再生において極めて良好なアナログ的特性を備えているのだ。
なおDSD再生時には、どちらのチップでもDSD専用パス(従来から「True Native」と称していた方式)を通る。ちなみに「DSD1793」「PCM1795」という型番の接頭辞は名称上の区分に過ぎず、両チップともPCMとDSD双方の再生に対応している。
iFiの哲学とは、データシート上の数値を追うのではなく「それが音にどう作用するか」を最優先してチップを選定することにある。この観点から、PCM再生時に優れたアナログ的な性格をもたらすバーブラウン製DACが一貫して選ばれてきたわけだが、ストリーミング全盛となり再生ソースの大半をPCMが占める現代において、iFiの哲学がより生きてきたとも言える。
GR 2におけるPCM1795の採用がもたらした恩恵は極めて大きい。スペック面を見ると、歪み率(THD+N)は0.001%から0.0005%へと大幅に低減。音の濁り成分が減少したことで、とりわけ複雑な編成の楽曲において透明感が引き立つだろう。ダイナミックレンジも113dBから123dBへと約10dB向上し、静寂の底が下がることで微小な音のディテールが埋もれにくくなっている。
さらにPCM1795は、32bit入力に対応した電流出力型DACである。電圧出力型だったDSD1793とは異なり、DAC後段のI/V変換やアナログ出力段をiFi側で自由に設計できるようになった。GR 2ではこの自由度を余すことなく活かし、アナログ回路が刷新されている。
つまり今回のDAC変更は、単に24bitから32bitへスペックアップしたという話にとどまらない。電流出力型DACを軸として、その後に続くアナログ回路までを含めたトータルでの音作りが可能になったことこそが本質なのだ。こうしたDAC周辺回路の進化は音質全体に波及し、単なる「出力50%増」にとどまらない豊かな音の余裕を生み出している。
ノイズレスで鮮明なフラットサウンド
続いてデモ機を使用し、実際の使い勝手と音質を検証した。
手に取ってまず感じるのは、その質感の良さと心地よい重量感だ。ポータブル機としては決して小型と言えないが、GR 2単体であれば、やや重いもののシャツの胸ポケットに入るサイズ感に収まっている。ワイヤレス音質も優秀なので、胸ポケットに入れて運用する場合はワイヤレス接続での使用をおすすめしたい。
スマホと重ねて二段にすると、シャツのポケットに入らないわけではないが、ケーブルの取り回しまで考慮すると少々無理が生じる。二段重ねで持ち歩くなら、バッグ等に入れたほうが安心感があるだろう。
とはいえ、重量級DAPほど重くはないため、バッグに入れて持ち運び、喫茶店などで取り出してじっくり使うスタイルなら持ち運び自体はさほど苦にならない。
外観をGryphonと比較すると、より縦長になったフォルムは、かつて“meaty monster(中身が詰まった怪物)”と称されたiDSD microやBlack Labelの系譜を思わせる筋肉質な力強さを感じさせる。
Gryphonからの外観上の変化として最も大きいのは、やはり画面の大型化とタッチ操作への対応だ。機能が多岐にわたるiFi製品において、タッチパネルの採用は操作性を劇的に向上させている。iEMatchの設定がタッチメニュー内へ移動したため、旧来のユーザーは最初少し戸惑うかもしれないが、ボリューム表示が大型化し、サンプリング周波数が色識別ではなく数値でダイレクトに表示されるようになった点は実にありがたい。
旧来のユーザーの利便性のために、入力切り替え等の物理ボタンも残されている。Nexisアプリを立ち上げて接続してみると、現時点では使用コーデックの選択やOTAなどが行なえるようだ。
試聴にあたっては、まずK2機能をオフ、デジタルフィルターをSTD(標準)に設定。高感度マルチBAドライバーを採用したイヤフォンであるCampfire Audio「Fathom」を使用した。試聴ではiPhone 15 ProをUSB接続で使用した。
GR 2のサウンドは目が覚めるほど鮮明で、とても解像力が高く感じられるフラットなサウンドである。着色感は少ないが、無機質な印象はなく、リスニング的に好ましい音色を描き出している。
さらにGR 2では音が力強く逞しく聴こえるのも特徴的だ。Fathomのように解像力の高いイヤフォンを組み合わせると、Gryphonと比べて一段と細かい音の抽出に優れていることがわかる。例えばKate Wadeyのジャズヴォーカルでは声の掠れ具合、かすかな息遣いにおいてGR 2の方が格段に生々しく聴き取ることができた。
驚くのはiEMatchモードを有効にしなくとも背景はかなり黒く、ノイズがほとんど聞こえないことだ。高感度のFathomを組み合わせても標準の0dBモードで背景ノイズをほとんど感じさせない。思わず部屋の空調を全て切って再度確かめたほどだ。試しにiEMatchを有効にしてみると、やはりヴォーカルの細かい表情などのディテールがさらに鮮明に浮かび上がってくる。
GryphonでFathomを組み合わせると、iEMatchモードを有効にしない標準の0dBモードではやや背景ノイズが感じられる。長年iEMatch機能を愛用してきた筆者にとっても、この新しいiEMatch回路の仕上がりは極めて優秀であり、特筆に値すると感じられた。
K2機能をオンにすると、音が一段階鮮明になり、より音像のフォーカスがくっきりと結ばれる。例えばアコースティックギターの弦を擦る音がよりリアルに聴こえる。それでいて音色変化はほとんど感じられない。K2HDに切り替えると、さらに豊かな音になり音場にも余裕が生まれる。なおK2HD選択時は自動的にフィルターがGTOに固定されるようだ。いずれにせよ、再生音のグレードを確実に引き上げてくれる機能と言える。
GR 2はワイヤレスでも素晴らしい音質で楽しむことができる。USBの有線接続があまりに良いので、“有線並み”とは言えないが、K2HDモードも使用できるので通常使用では十分過ぎるほど高音質だ。試しに筆者のiPhone 15 ProにNoble Audio「Sceptre」を装着し、Sceptre経由でaptX Adaptiveでも接続してみたが、さらに良い音質で楽しむことができた。
平面駆動型ヘッドフォンの能力もしっかり引き出す駆動力
次に、平面駆動型ヘッドフォンであるSendy Audio「Peacock」を組み合わせて試聴した。
まずGryphonでベートーヴェンの交響曲第5番を聴くと、音量自体は十分確保できるものの、全体的にやや暗めなサウンドに感じられる。GR 2に変えると全体的に明るく感じられ、より軽快でスムーズに振動板が動いている感触がある。有名な「運命はかく扉を叩く」の主題が響くトゥッティ(全奏)においては、音の押し出しとパンチ力がGR 2で明確に増し、圧倒的な迫力が迫ってくる。
単に音量を確保するという意味ではGryphonでも十分だが、ヘッドフォンの潜在能力を引き出し、朗々と鳴らし切る駆動力という点においては、明らかにGR 2に軍配が上がる。弱奏部における細やかな楽器のニュアンスについても、やはりGR 2の方が一層鮮明に聴き取ることができた。
こうして検証を重ねていくと、GR 2における改良は、出力が増えた、音が細かくなった、という個別の話に見えて、実は1本の線でつながっていることに気づかされる。
DACを電流出力のPCM1795へ移し、アナログ段を自由に組めるようにしたことが、Fathomで空調を切って確かめたくなるほどの静寂感となり、Peacockでは運命のトゥッティが一段と身体を揺さぶる駆動力になっている。また、新設計されたiEMatchが優れているのは予想外の収穫であった。
据え置き級アンプを持ち出せる
Gryphonより価格が下がったとはいえ、約99,000円という価格は決して安い買い物ではない。しかし、iFiサウンドに惚れ込んだ既存のGryphonユーザーにとって、大幅な音質向上とタッチ液晶による使い勝手の進化は十分買い替えを検討する価値がある。改良された新iEMatchの出来栄えも、ぜひ試してほしいポイントだ。
一方、現在2万円前後のスティック型DACを使っているユーザーがステップアップするには、少々段差が高く感じられるかもしれない。だが、GR 2は単なる大きなスティックDACではない。むしろ本格的な据え置き級ヘッドフォンアンプを外へ持ち出すものと捉えてみてはどうだろうか。
自宅ではPCなどに接続し、高品位なヘッドフォンアンプとして存分に活躍してくれる。これまでイヤフォンしか使ってこなかったのなら、ぜひ本機で本格的なヘッドフォンを鳴らしてみてほしい。これまでにない音楽の楽しみ方が開けるはずだ。これを買えば、しばらくDACアンプの買い替えに悩まなくていいと考えれば、約10万円という価格の見え方も変わってくるだろう。
xDSDからiDSDへモデル名が改められたのも、今回の変化の大きさの結果だろう。筆者がかつて初代xDSDを見た時に、コンパクトサイズに豊富なiFi Audioの機能全部いり、さらにワイヤレスや多色表示などが盛り込まれた多機能性と、その音質の素晴らしさに感銘を受けたのを思い出した。GR 2はサイズ的には大きくなったが、“meaty monster”の怪物性と初代xDSDのスマートな思想が確かに息づいているのを感じる。それが変わらぬiFi Audioの哲学であり、その体現がiDSD GR 2なのだ。
















