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ビエラ「Z95C」はなぜ美しい? パナソニック流4スタックパネルの使いこなしを観た

パナソニックの有機ELテレビ「TV-65Z95C」

前回の連載記事は、初回としてLGディスプレイの有機ELパネル開発について分析した。今回から、各メーカーがそれをどう使いこなし、どう高画質を実際に仕込んているのかを、研究しよう。まずは最新の4スタックパネル(「タンデムWOLED」と命名)を搭載したパナソニックの最新機「TV-65Z95C」(Z95C)である。

Z95Cで観る『ラ・ラ・ランド』は次元の異なる感動性だ

「薄暮、全体に青を帯びた画面の中で原色の光が、このテレビでは凜としている。木々の深い緑、空のダークブルー、エマ・ストーンのワンピースの黄色、皮製のショルダー・バックの鮮やかな赤……と、コントラスト感を狙ったダイナミックな配色が、実に鮮明に描かれた」。

Z95Cでの、映画『ラ・ラ・ランド』(UHDBD)のチャプター5、マジックアワーのロサンゼルス郊外の丘の上シーン“A Lovely Night”のインプレッションだ。

かつての名作「バンドワゴン」(1953年)のフレッド・アステアとシド・チャリシィが、NYのセントラルパーでエレガントに踊るDancing in the Darkの現代版だ。

深い青に沈み往く、薄暮のロサンゼルス遠景を背景に、エマ・ストーンの鮮やかな黄色服が浮き立つ。フィルムでなければ表せない濃密で深い色の饗宴に感動を覚えない人はいないだろう。

このシーンは、私のテレビ評価の定番。画質を要素別にチェックするというより、そのシーンがもともと持っている「感動要素」をどのように、そのテレビが表現しているかをチェックする名場面だ。これまでのパナソニックの有機ELテレビでも当然、チャプター5はインプレッシブだったが、Z95Cは次元の異なる感動性だ。

UHD BD「ラ・ラ・ランド」
ギャガ/ポニーキャニオン PCZE-57001 8,580円

具体的に述べよう。

従来モデルとの違いは、全体にヴェールを1枚剥いだようなダイレクトな描写性だ。微小信号がヴィヴッドに跳躍し、ごく小さな部位まで、フォーカスが確実に与えられている。

有機ELの液晶に対するアドバンテージとして、画素単位にコントラストが描かれることが、よく挙げられるが、まさにその動作がリアルに感じられる、ハイエモーショナル&ハイフォーカスだ。

特にエマ・ストーンの黄色のワンピースと赤のショルダー・バックの対比が鮮やかで、軽妙なデュエットダンスと相俟って、テクニカラー的な鮮明にして懐古的な絢爛なシネマトーンを、軽やかに見せていた。ワンピースの黄色は濃い青紫の暮れゆくマジックアワーの遠景を背景にしているからこそ、浮き立った。

もうひとつ感心したのが、彼方の山々の暗部描写。4スタック化によって明部の階調再現が格段に向上したわけだが、一方、黒側の階調感はパナソニックの絵づくりの巧妙さが継続的に効き、実に明瞭。暗い中にも、確実に階調情報が豊かに存在していた。

パナソニックはどのようにパネルを使いこなしてきたのか

TV-65Z95Cの感動性については、のちほど別のコンテンツで詳説するが、まずは、ここに至るまでLGディスプレイと二人三脚でいかに、その時代の最新パネルを使いこなしてきたかを振り返る。

パナソニックは、LGディスプレイのWRGBパネルを毎年搭載、製品化してきた。2022年のEXパネル、23年のMETAパネル、24年のMETA2パネル、25年の4スタック(「Primary RGB Tandem technology」とも呼称)、そして26年の4スタック(タンデムWOLED)という具合だ。

それは有機ELテレビ各社も同じだが、パナソニックは特にどの時代においても“画質の頂点”のポジションをキープしようとする意欲が強い。パネルはまさに画質のインフラストラクチャー。この土台からいかに有意義にリソースを引き出すかが、セットメーカーのミッションなのだ。

パナソニックの有機ELテレビの基本的なキーワードは「表現力」。そして決して極端には走らない。過度に黒を沈めたり、白を伸ばしたりせず、まさに“ミドル・オブ・ザ・ロード”を往く。そこからは「パネルを最高に使いこなしてみせる」という貫禄と懐の深さを感じるのである。

その意味でパナソニックのパネル使いはアートと言っても過言ではないほどの、階調コンシャスだ。レンジの広さも大事だが、その中の実際の階調数こそ、表現に枢要という規範が、観ると痛感させられる。

2023年7月に発売した65型「TH-65MZ2500」

まず、2023年のMLA(マイクロ・レンズ・アレイ)パネル。マーケティング的には「METAパネル」だ。

“迷光”を徹底的に追放することに挑戦。前年のOLED.EXまでは、有機ELレイヤーにて発光した光の利用効率が悪かった。同レイヤーでは180度、上方に発光するのだが、上層との間で反射がおき、本来はまっすぐ上方に行くべき光が、さまざまな方向に飛び散ってしまうため、開口率が低くなっていた。

そこでレンズの力を借り、不要な迷光を発生させず、光を前方に押し出す仕組みを開発。最大の収穫が輝度向上だ。22年のOLED.EXパネルでは、ピーク輝度が1,300nitsだったが、23年のMETAパネルでは60パーセントの輝度向上が実現し、2,100nitを得た。

この時のパナソニックのフラッグシップ4K有機ELテレビ「MZ2000(日本型名はMZ2500)」は、METAパネルの力でピーク輝度は2000nits超す勢いだった。

2023 CESのパナソニックのプレス・カンファレンスで、最前列に座った私の前にMZ2000があった。白の突き上げが尖鋭で、クリアー。しかも眩しい感じはなく、透明感があり、抜けがいい。ハリウッドの山頂から撮影した映像は、空気が澄んでいる印象だった。

色が大きく躍動した4スタックパネル採用「Z95B」

2024年はその改良版のMETA2パネルを採用、モデル名はTV-65Z95A。この時から「Z95“X”」のナンバレングが始まった。

私は、HIVI2024年秋号のテレビテストで以下のように評価した。

すべてのメディア、コンテンツに対し、極めて適切な表現を与える有機ELテレビだ。BS4KのNHK『英雄たちの選択』では、黒の沈みと階調のバランスが絶妙。明確なコントラストに拠り、2Kと4Kの違いは歴然で、テーマである戦国時代の火薬の黒色の微粒子が実に細やかに表示された。中間調の力感も、すこぶる説得性が高い。4K「ショップ・チャンネル」も鮮明、尖鋭。まさにテレビ通販に適合した、ディテールまで明確に訴える明瞭絵だ。

もちろん映画も良かった。しかし、“感動性”という意味では、その翌年の初代4スタックパネルで大きく飛躍したと感じる。

それまでのパネルは、ブルー・イエロー・ブルーの補色が入った3層構造で発光していたが、新パネルは、レッド・ブルー・グリーン・ブルーの4層で発光。補色なしの原色のみでの発光だから、色再現が格段に優れる。同時にひじょうに明るい。小面積のピーク輝度は24年パネル、META2の3,000nitsに対して4,000nitsに向上した。

パナソニックでは、パネルの高輝度化、高色彩化に対応し、25年のTV-65Z95Bではハード的に2つの工夫を成した。

ひとつが画質調整の「明るさ」インジケーターだ。全白輝度の向上を具体的に活かし、それまでのデフォルトの最大値100ポイントの輝度と同等レベルを、「70」値で得られるように設定した。

向上した部分を最大輝度をデフォルトにするのではなく、従来の最大輝度を「70」とし、その上部にヘッドルームを「30」設けたのである。パネルが明るくなったと言って、それを唯々諾々と受け容れるのではなく、ユーザー調整によるDレンジ拡張の可能性を与えたのが光った。

もうひとつが色再生アルゴリズムの改良だ。それまでは赤がやや朱色に傾いていたが、新しいパネルの赤再現力に対応し、パネルの色の純度を活かすべく、色の制御方法を変更し、色の透明度を高めた。具体的にはくすみを抑制し、より濃度を上げたわけだ。

それら成果を、私は2025 CESのラスベガスのシーザースパレスホテルで開かれたZ95Bの発表会で見た。赤、青、黄の原色衣装を纏ったダンサー達が、水しぶきを浴びながら、闊達に踊る。シズル感が横溢した画面には色が躍動し、緑色の溌剌さ、赤の妖艶さもリアル。有機ELもここまで、色の魅力を発揮させるのか……と、会場で私は思ったものだった。

パナソニック流4スタックパネルの使いこなしを観た

さて、前置きが長くなったが、冒頭の『ラ・ラ・ランド』に続き、Z95Cのインプレッションを詳説しよう。再生したのは、私の最近のリファレンスUHD BDだ。

ビデオ作品の『8K空撮夜景 SKY WALK TOKYO/YOKOHAMA』(モードは「シネマプロ」)。

4スタックバネルも2代目になり、さらに上がったピーク輝度を巧みに活用していたことが分かった。ワイドレンジな表現力を活用し、黒の漆黒感から白ピークまで、余裕で描く。といってもいたずらに煌びやかにはせず、落ち着きと華やぎ並立させる、プロっぽい絵だ。

画素単位にピークの尖りが先鋭に描かれていると形容できる光の精密さ。横浜のBAYQUTERのネオンの光の勁さ、東京・月島の高層マンションの窓の光と色の饗宴、そのグロッシーさ、絢爛さはまさに色再現と光再現にこだわった4スタックパネルと、その実力をフルに引きだすパナソニックの絵づくり力の合わせ技と観た。

UHD BD「8K空撮夜景 SKY WALK TOKYO/YOKOHAMA」
ビコム VUB-5713 6,600円
UHD BD『ベン・ハー』
ワーナー 1000860908 10,890円

次に、最近リファレンスとして使っている『ベン・ハー』(チャプター4・「Dolby Visionダーク」)を再生する。

遠景の兵士の赤の衣装が明確なパワーを持ち、鎧の金属調の反射の光は太陽の光の反射なのだが、このテレビでは、内在する光のエネルギーが強大なので、それは内部から"自発光"しているようにも感じる。

赤の鶏冠の階調感と色の種類の多さ、赤の幟の鮮明さ。金色の壮麗さは、 黒の沈み感、その部分の階調感の情報の多さを伴って、刮目。特筆はその密度。曖昧な段差ではなく、緻密なステッピングだ。

25年モデルのZ95Bと比較すると、赤の中の階調のひとつひとつの段差の小ささ、換言すると階調全体の精密さが明らかに違う。より繊細に、より丁寧に、より細やかになり、加えてテクニカラー的な濃密さ、黒の艶感、鎧の光反射の煌びやかさ……などの質感再現も格段に向上した。パネルの持てるパワーを余裕で使い、風格を感じさせる画調にまとめる力はさすがだ。

映画『マリアンヌ』(UHDBD)こそ、まさに得手に帆を上げた得意中の得意コンテンツ。

チャプター2のカサブランカの都会の夜。街灯やネオンの輝き、車の金属反射、地面の土色感肌の階調感……など、臨場感の高い描写だ。特に丸いラウンドしたボディへの反射の煌めきが美しい。他社の有機ELテレビではブリリアントとか、ピーク感とかいう言葉で形容するところだが、パナソニック機は特別に「美的」という形容を与えたい。

単にピークが鋭く光るという段階を超え、美味しく調合された鋭利な光の集合と反射が、そこにはあると形容できよう。それだけ、味わいの深い光反射なのである。このシーンにおける適正なDレンジ、適正なピーク感、適切な質感は、一朝一夕には成せないだろう。

UHD BD『マリアンヌ』
NBCユニバーサル PJXF-1093 6,589円

チャプター2は、過度に明るく絵づくりを施すメーカーもあるが、パナソニックは表現の完成度が高く、都会の夜の空気感を確実に感じさせ、しかも光と色の臨場感情報がひじょうに多い。

シャンデリアシーンでは、光源のランプの形や表面ガラスの模様描写が実に鮮明。彫塑がより深く、エッジがより鋭利に、よりフォーカスが鋭く、ガラスの表面が細密描写された。これも旧モデルとの表現における目立った違いだ。コントラストと階調が難しいチャプター11の空襲シーンも。巧みなバランスと色着けで難なく、こなしている。

従来からのインプレッションを紐解くと、LGディスプレイのWOLEDパネルの革新ごとに感動性を高めているのがわかる。それは最新パネルから、潜在能力まで引き出すパナソニックの絵づくり力であり、もともとそこまでのリソースを有すパネルのインフラストラクチャー力でもあろう。

麻倉怜士氏(左)とパナソニック株式会社 テレビ事業部 事業戦略部 主幹 真田優氏
麻倉怜士

オーディオ・ビジュアル評論家/津田塾大学・早稲田大学エクステンションセンター講師(音楽)/UAレコード副代表