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NHK、放送技術研究所を一般公開
-地上デジタル用の高圧縮技術や折り曲げディスプレイなど


NHK放送技術研究所

会期:5月22日~5月25日


 日本放送協会(NHK)は、東京・世田谷区にあるNHK放送技術研究所を22日から25日まで一般公開する。22日、23日は専門家向け、24日、25日は一般向けと位置づけられている。入場料は無料。

 同イベントは毎年行なわれており、NHK放送研究所の研究活動と成果を視聴者に公開するもの。今年は、「テレビ50年、地上デジタル放送、そして未来へ」というテーマで、テレビ放送の発展を振り返るとともに、地上デジタル放送の開始に向けたNHKの取り組みや、新たな研究成果を公開する。

 会場では12月1日より開始予定の地上デジタル放送に関する告知活動を広く行なっているほか、走査線4,000本の高解像度カメラを利用した表示デモなどが実施されている。



■ 走査線4,000本級の映像表示デモやMPEG最適化技術など

走査線4,000本対応のカメラ

 会場で最も人気が高かったのは、走査線4,000本級の高解像度映像の表示デモで、30分以上の待ち時間となっていた。

 昨年も走査線4,000本級のカメラを展示していたが、今年の展示機は、可搬性を考慮してより小型化したものとなった。

 小型化は撮像素子の変更などにより実現され、従来機では撮像素子に2.5型800万画素CCDを4枚使っていたが、1.25型800万画素CMOSの4板式に変更された。CMOSの採用は主に小型化、低消費電力化のためとしており、CMOSはMicron Technologyに依頼して製造したものという。

 レッド/ブルー(R/B)にグリーン×2(G1/G2)を合わせる4板撮像方式で、インターフェイスは合計でHD SDI×16。

 映写デモは、320インチのスクリーンに2台のプロジェクタで投射し、22.2チャンネルの音響システムを利用。同カメラで撮影した映像の中継のほか、専用のHDDシステムに記録した2分間の映像が再生された。記録システムが一新されたことで、従来の34秒から、18分の映像の記録が可能となったという。

 実用化のめどは立っていないが、説明員は「高臨場感の放送に向けて、品質の検討を行なうためこうした超高解像度システムの検証を行なっている」と話していた。

昨年のカメラに搭載されたCCD(左)と今年採用されたCMOS(右)の比較 昨年のカメラ 走査線4000本級システムの概要

ハイビジョン映像の高圧縮符号化技術のデモ

 映像関連で注目されるのは、ハイビジョン映像の高圧縮符号化技術。BSデジタル放送は約22Mbpsでハイビジョン放送を行なっているが、地上デジタル放送ではさらに低い約15Mbpsに圧縮する。しかし、従来方式(MPEG-2 TM5)でより高い圧縮を行なうと、ブロックノイズの発生するなどクオリティの低下が顕著なため、さらなる最適化が検討されているという。

 今回公開された新方式では、「フィールド/フレーム画像構造適応選択方式」、「伝送符号量を最小にする動きベクトル検出方式」、「高度な画像解析に基づいた量子化特性制御方式」により高圧縮を実現したとしている。会場では、従来方式と新方式の比較デモが行なわれており、その差は顕著に現れていた。

 なお、新方式もMPEG-2の規格に準拠しているため、エンコーダの変更のみで対応可能で、デコーダの互換性検証も終了しているという。そのため、放送局側での導入が進めば、受信側のデコーダの変更は必要ない。デモもアイ・オー・データの「Rec-POT S」に記録したハイビジョン映像で行なわれていた。

デコーダの変更は必要なく、デモも民生機で行なわれていた 高圧縮符号化技術の概要

地上デジタル受信端末。試験放送電波を受信して表示していた

 三洋電機製の地上デジタル放送向け携帯端末も展示。会場内に設置された試験放送用のアンテナより放送を受信して表示した。液晶の解像度は360×240ドットでワイド表示にも対応している。

 また、超高感度ハイビジョン用撮像デバイスのデモや、JPEG2000準拠のハイビジョンリアルタイムエンコーダ/デコーダカードを展示。地上デジタル放送向けの放送波中継技術や移動受信技術の展示も行なわれている。


超高感度ハイビジョン用撮像デバイスのデモも行なわれている 超Super-HARP撮像管を採用 「JPEG2000」に準拠し、ハイビジョン動画信号をリアルタイム圧縮/伸張できるPC用拡張基板。Analog DevicesのJPEG2000試作LSIを使用


■ 青紫色レーザを用いたハイビジョン光ディスクシステムなど

ハイビジョン光ディスクシステム

 ストレージ関連では、青紫色レーザを用いたハイビジョン光ディスクカメラを展示。Blu-rayやAODなどの次世代光ディスクと同様に相変化方式/12cm径の光学ディスクを利用するが、それらとの互換性はなく、ソニーが発表しているBlu-rayベースの放送用光ディスクとも異なる方式となっている。

 2つのヘッドを搭載し、記録レートを140Mbps(1ヘッド約70Mbps)と高速化したのが特徴。Blu-rayの記録レートの36Mbps(2chで72Mbps)に比べて大幅に高速なため、現行のハイビジョンVTRと同等の性能を光ディスクにより実現できるめどがたったという。


 メディアは1層記録で容量は23GB。記録時間は約20分。今後は記録レート向上や、多層記録による大容量化を目指していくという。

放送用ハイビジョン光ディスク ハイビジョン光ディスクの目標性能

 また、垂直記録型のHDDも展示。富士電機との共同研究により垂直磁気記録の大容量HDDの実働機を展示し、ハイビジョンデータの再生を行なっている。実用化までは1~2年程度必要としており、microdriveのような小型ディスクから実用化される見込み。

垂直磁気ディスク 試作HDDでハイビジョン映像を再生


■曲がるディスプレイやシリコンマイクも

フレキシブル有機ELディスプレイ

 また、折り曲げ可能なフレキシブルディスプレイも有機ELディスプレイと、フィルム液晶が展示されていた。ともに将来像として、シート型テレビや壁掛けテレビなどが想定されており、来場者の注目を集めていた。

 フレキシブル有機ELディスプレイは、RGBの高効率化などが行なわれ、赤色で5.5%、緑色で9%、青色で3.5%を実現。白色発光も可能となった。

 また、ガラス基板上に64×64ドットの単純マトリックディスプレイを試作し、5階調の表示ができるようになったという。今後は3色(RGB)のEL素子を用いたフルカラーディスプレイの試作を予定しているという。


フレキシブル有機ELディスプレイの解説 巻取り型有機ELテレビのモックアップ

フィルム液晶ディスプレイ

 フィルム液晶は、強誘電性液晶とポリマーの複合膜を薄いプラスチック基板で挟み、折りたたみ可能なディスプレイを実現するもの。液晶内のポリマー壁が基板の間隔を一定に保持するため、折り曲げても高速な階調表示ができるという。実際に折り曲げデモも行なわれた。

 昨年まではモノクロ表示だったが、今年は、RGBの3色のカラーフィルタを実装し、カラー化が行なわれた。強誘電性液晶とポリマーの複合構造により、従来の液晶に比べて大幅に高速な応答速度(1ms以下)が実現可能という。実用化は「10年ぐらいはかかる」とのことだが、今後は大型化や、画像表示に必要なマトリックス駆動技術を開発していく。

フレキシブル有機ELディスプレイの解説 【動画】
(340KB)

シリコンマイクのデモ

 音声系での注目は、シリコンマイク。超小型化を目標としたコンデンサー型の単結晶シリコンマイクで、実働デモも行なわれている。

 シリコンウエハ上にダイアフラムとバックプレートを構成したマイクエレメントを利用したマイク。試作マイクでは24kHzまでの周波数特性や、114dBの広ダイナミックレンジを実現。実用化を前提に試作品を作ったとのことで、実際にマイクで収録した音をヘッドフォンで聞くデモも行なわれている。

 シリコンウェハから大量のマイクエレメントを一括して形成できることから、量産性が高く、低価格化できるというメリットもある。松下電器産業と東北大学と連携して研究が進められており、実際の製品化や製造についての研究も進めている。最初の製品化は放送用となる見込み。これは放送用マイクが48V駆動で統一されているためで、例えば3V、5Vといった乾電池での駆動にはまだ時間がかかりそうだという。

マイクエレメントとシリコンマイク シリコンマイクの解説

白色LEDを使ったカメラライト RZ-AMラジオのレシーバ。通常のAMラジオ放送をクリアに受信可能

□NHK放送技術研究所のホームページ
http://www.nhk.or.jp/strl/index.html
□2003技研公開のホームページ
http://www.nhk.or.jp/strl/open2003/index.html
□関連記事
【2002年5月17日】NHK、放送技術研究所を一般公開
-走査線4,000本クラスのカメラ/プロジェクタなどを展示
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020517/nhk.htm
【2001年5月18日】NHK、放送技術研究所を一般公開
~ 走査線2,000本以上のカメラなどを展示 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20010518/nhk.htm

(2003年5月22日)

[AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]


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