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■ HDビデオパッケージのアナログ出力は可能、不可能? AACSは、1080pでのコンテンツ記録が可能になる次世代光ディスクにおいて、どのような運用既定と技術によってコンテンツを保護するのかを決める団体で、そのまま規格名称としても使われている。既に暗号化の仕組みやコンテンツ鍵、デバイス鍵などの鍵発行と運用に関しては詳細が決定しており、128ビットAESによる暗号化アルゴリズムやPC用ソフトプレーヤにおいてインターネットを通じた定期的な鍵更新が必要になるなどのルールが明らかになっているが、全仕様の正式決定はまだ行なわれていない。 AACSの正式決定は当初4月いっぱい、その後、8月末までと延長が繰り返されていたが、さらに9月末まで決定が先送りされた。正式決定が遅れている原因は、コンポーネント映像出力やD端子などによるハイビジョンのアナログ出力をどのように扱うのか、運用方法を巡って合意できていないためだ。 AACSに参加する一部の映画スタジオは、720p以上のアナログ映像出力を禁止するフラグを導入し、コンテンツベンダーが希望する場合はアナログ出力を575p(PAL解像度のプログレッシブ)までに制限する事を求めている。アナログ映像出力のプロテクトとして使われているマクロビジョンの技術が、575pまでしか対応していないからだ。 これに対して、ある時点以降に発売される機器までは、アナログ出力が可能な機器を開発しても良いという時限措置ではどうか?という意見も出ている。これに対して、ソニー、東芝、松下電器など家電メーカーは、そもそも解像度制限を行うフラグそのものの導入に反対している。 このフラグは「ICT」(Image Constrain Token)と呼ばれているもので、DTCPの運用既定を決める際に導入されたものだという。ICT自身は必ずしもアナログ出力を制限するものではない。実際に制限を行なうかどうかは、コンテンツベンダー側に一任されることになる。実際、現在のBSデジタル/地上デジタル放送において、ICTは存在するものの実際には利用されていない。 HDビデオパッケージとして販売される製品が、コンポーネントあるいはD端子でハイビジョン解像度を楽しめるか否かは、ICTの導入を認めるか認めないか。そして認められた場合にコンテンツベンダーがそのフラグをどのように扱うかにかかっている。
なお、AACSで議論されているのは、自己録再に関する運用ではなくパッケージ販売されるコンテンツに関するものである。混同されがちであるが、AACSでICTが導入されたとしても、現在のデジタル放送録画に関する運用が変更されるわけではない。
■ 20世紀フォックスはICTの設置を望まない ICT導入は、映像資産でビジネスを組み立てる映画スタジオの多くが求めていると考えられていた。しかし、少なくともウォルトディズニースタジオおよび20世紀フォックスは、ICTの導入を望んでいないようだ。ディズニーの関係者は電子メールでの質問に対して「もしICTが導入されたとしても、それを使用するつもりは全くない」と答えている。
実際、アナログでのHD映像出力が制限されれば、日本で使われているHDTVのほとんどは480pあるいは575pでの再生しかできなくなり、消費者から敬遠される可能性が高い。一度ソッポを向かれれば、二度と消費者の支持を得られない可能性もあるだろう。対応映像機器、対応コンテンツの価格も高止まりする可能性がある。そうした事態を避けるには、アナログ信号でのHD映像出力を制限しないという選択肢しかない。
ではある時点までアナログ出力が可能な機器を販売できる時限措置についての考えはどうなのか? 一方、ICT導入を主張して止まない一部の映画スタジオにもメールで質問してみたが、現時点で明確な回答は得られていないため、ここではスタジオ名は明らかにしない。ICTが導入されたとしても、それを利用するかどうかは現時点では未定とのコメントはある。 しかし、過去の例を振り返ると、「リージョンコードは新作のリリース時期をコントロールするために利用するもので、旧作コンテンツには利用しない」としながら、ほぼすべてのDVDに使われているという例もある。 ICT導入を望むハリウッドメジャーと導入反対の家電ベンダーという構図に見えたAACSの出力制御規約だが、意外にも映画スタジオ側も導入を望まない声が聞こえ始めた。一時は絶望的とも思えたアナログHD出力だが、ICT導入回避に向けて大きな光明が見え始めている。
□AACS LAのホームページ
(2005年9月14日) [Reported by 本田雅一]
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