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DVDの“次世代”を争うBlu-rayとHD DVD。国内においては東芝製HD DVDプレーヤー「HD-XA1」の3月31日発売で幕を開けた次世代フォーマットだが、Blu-rayはパソコン以外の対応製品がまだ存在しない。 しかし、北米市場では、Blu-ray Discのパッケージ向け規格「BD-ROM」のビデオソフト発売に併せて、SamsungのBlu-rayプレーヤー「BD-P1000」が7月に発売された。現状、北米におけるBlu-rayプレーヤーといえば、このBD-P1000となるだろう。 BD-ROMではリージョン設定が北米と日本で共通となっている。そのため、北米仕様のディスクはもちろん、日本向けディスクも、BD-P1000で再生も可能となるはずだ。ただし、現在のところBD-P1000は、国内市場向けに販売される予定はない。今回、BD-P1000の試用機会を得て、世界初の民生用BDプレーヤーの実力を検証した。 なお、BD-P1000の実売価格は999.99ドル。東芝のHD DVDプレーヤー「HD-XA1」は799ドルで、さらに、499ドルの「HD-A1」も発売されている。BD-P1000も一部の販売サイトでは800ドル程度まで値下げしているところもあるが、それでもHD DVDプレーヤーより高価。 しかし、現在パソコンでBlu-rayを視聴環境を整えようとすれば、10万円近いドライブを購入するほか、ビデオカードやソフトウェア環境まで用意しなければならない。それと比べれば、現在のところ「Blu-rayを見る」ためには、BD-P1000が一番安いともいえる。 ■ シンプルかつ高級感ある筐体 同梱品は、リモコンとHDMIケーブル、コンポーネントケーブルなど、非常にシンプル。
本体の外形寸法は約429×325×78mm(幅×奥行き×高さ)、重量は約4.1kg。通常のDVDプレーヤーとあまり変わりばえしない外観ではあるものの、さすがに日本円換算で10万円を超える製品だけに、ピアノフィニッシュ調の外装などには高級感がある。 重量も4.1kgと、最近のDVDプレーヤーの中では重い部類といえるだろう。ただし、10万円台のミドルクラス以上のプレーヤーでは10kg近い重量も珍しくない。HD-XA1も8.9kgと2倍以上重い。もちろん重ければいいというわけではないが、物量を投入して音質などにこだわったHD-XA1には本体の大きさも物量感も及ばない。 本体前面の左側にBlu-rayドライブを装備。プレーヤー専用機でドライブがセンターでないのは比較的珍しい。説明書によれば、BD-ROMやDVDビデオ、音楽CDはもちろん、ビデオを記録したBD-R/RE、DVD-RAM/RW/R、CD-R/RWなどの再生も可能という。 前面にはBlu-rayロゴのほか、DTSやMP3などのロゴもプリントされ、[1080p]というマークもある。また、JAVAのシールも貼付されている。ドライブ部の下にはメモリーカードスロットを備えており、CFとSD/MMC、メモリースティックなどが利用可能。 前面左に電源ボタン、右端にはサークル形状のボタンを備えており、再生/停止、スキップ、バックなどの基本操作が行なえる。その左に出力端子の切替ボタンも備え、HDMI/コンポーネント/ビデオ出力を切替えられる。電源を投入するとドライブ部のBlu-rayマークと、サークルボタンがブルーに点灯する。
背面にはHDMI×1のほか、コンポーネント、S映像、コンポジットの各映像出力を1系統、光デジタル×1、同軸デジタル×1、アナログ音声×2、アナログ5.1ch音声×1を装備。また、大型のファンを内蔵している。 リモコンはシンプルなデザインで、高級感こそ無いものの、使い勝手は悪くない。
■ 起動は高速も、砂時計は…… 電源ボタンを投入すると起動画面が表示される、起動までは約28秒。ディスクを入れてから出画されるまでは30~35秒程度なので、出画までは大体1分かかる。HD-XA1の起動約45~50秒、ローディング35~50秒と比較すると、BD-P1000のほうがかなり高速な印象だ。 起動やローディングが、新規格のプレーヤーとしては比較的早い点はとても良いことなのだが、操作時にどうしても気になることが……。それは、ローディングや各種操作で数秒以上の待機時間がある場合、「砂時計」が回転すること。まるで、Windows 95の頃のパソコンでも使っているようだ。 しかも、かなり大きく解像度の低い砂時計画像なので、「“次世代”ディスクを使うぞ」、という気分が全く湧いてこない。せっかくのピアノフィニッシュ調の筐体も台無しだ。
設定画面は比較的シンプルで、リモコンのメインメニューボタンを押すと、Title/Music/Photo/Setupの各メニューが立ち上がる。Titleでは、BDのタイトル設定が行なえ、音声や字幕、ディスクメニューなどの標準言語を選択できる。 [Setup]は、使用言語や、音声設定、ディスプレイ設定などを用意。ディスプレイ設定では、アスペクト比(16:9/4:3)や黒レベル(ON/OFF)、出力解像度(480i/480p/720p/1080i/1080p)、HDMIフォーマット(MONITOR/TV)が用意される。また、フロントパネルの青色LED表示もSetupからON/OFFできる。
[Music]や[Photo]は記録型DVDやCD-R/RW、メモリーカード上のMP3ファイルやJPEG画像を再生するモードとなっている。メインメニュー表示中に、リモコンの赤ボタンを押すとメモリーカード再生に切り替わる。MP3プレーヤーとして特別な機能があるわけではないが、リビングで気に入った音楽を気軽に聴けることで、活用の幅も広がるだろう。 HD-XA1は、ハードウェア的にはほとんどPCながら、ディスクからの高画質/音質再生に特化したプレーヤーだが、BD-P1000はマルチメディアプレーヤー的な方向で、機能を充実させている。このあたりからも製品コンセプトの違いが窺える。
音質設定では、HDMI出力のビットストリーム/PCM変換などが選択可能なほか、PCMのダウンミックス、ダイナミックレンジ圧縮、スピーカーコンフィグレーションなどが選択できる。
■ レスポンスは良好。ディスクの画質向上に期待
ディスクを認識すると自動的にメインメニューが起動。チャプタ選択や音声、字幕選択が可能となる。再生ボタンを押せば、再生開始し、スキップ/バックや早送りなどの基本操作のレスポンスは良好。DVDプレーヤーとほとんど遜色ない。ただ、メニューを呼び出している間など、いちいち砂時計を表示するのは気になるが……。 今回、以前WinDVD HD for BDの試用時に利用した「Underworld Evolution(アンダーワールド:エボリューション)」、「The Fifth Element(フィフス・エレメント)」のほか、「TERMINATOR 2: JUDGMENT DAY(ターミネーター2)」、「House of Flying Daggers(LOVERS)」、「Crash(クラッシュ)」、「The Punisher(パニッシャー)」、「Saw(ソウ)」など、9枚のディスクを簡単に見てみたが、すべてのディスクで次世代ディスクの特徴ともいえるポップアップメニューに対応。映像/音声を途切れさせずに、再生しながらチャプタや音声、字幕などが変更できるのは、やはり便利。リモコンにはポップアップメニュー用ボタンを備えており、ワンボタンで呼び出せるのも使いやすい。 なお、本体にはJAVAのシールが貼付されているが、今のところBlu-rayのインタラクティブ機能である「BD-JAVA」がどこまで活用されているのかは、よくわからない。 画質についてもチェックしてみよう。このBD-P1000、海外のサイトなどでは、発売後に内蔵チップのノイズリダクションに問題があることがが話題になったようだ。Samsungの製品情報サイトでもファームウェアのアップデートを予告しており、専用ページでユーザー向けに告知を行なっている。 “世界初”の民生用プレーヤーとはいえ、画質がウリの次世代ディスクでいきなりつまずくのはいただけない。一応HDMIの時のみのようで、コンポーネント接続であれば問題ないようだ。 だが、それより気になるのはソフト自体の映像品質。さすがに解像度は各ディスクともそれなりに高いが、「House of Flying Daggers」、「The Fifth Element」あたりは、フィルムの粒状ノイズが多く見通しが悪いだけでなく、モスキート調のノイズが散見される。HDMI出力だけではなく、見え方は若干異なるがコンポーネント出力でもノイズが多く、ソースに起因する問題も多いようだ。 合計で、9枚のディスクを見てみたが、「Underworld Evolution」は、解像感も高く、ノイズも少ない。ただし、暗いシーンの多い映画なので、クリアで見通しの良い映像や、鮮やかな色再現を求めるチェックディスクには向かない。 もっとも、HD DVDプレーヤーでも「HD-XA1」の発売時に付属の「ムーンライト・ジェリーフィッシュ」、「バイオハザード」の画質は今ひとつで、ハイビジョンではあるが……、というクオリティにとどまっていたが、発売後一週間で「夜桜」、「virtual trip さくら」などの画質にこだわったタイトルが発売されたことで、フォーマットとしての魅力を確認できるようになったといえる。 今回試した9枚の中では「Underworld Evolution」はそれなりの高画質だったが、プロモーションや、クオリティチェックに使える、一見してこれぞ「HD品質」というディスクの登場にも期待したい。 なお、HDMIとコンポーネントの同時出力はできない。また、BD-P1000では、Blu-rayの映像出力は480i/pでは行なえず、720p/1080i/1080pのいずれかを選択する必要がある。つまり、D1/D2入力までしか対応していないディスプレイではBD映像を視聴できない。他社製品でどうなるか不明だが、もしD3/4非対応のテレビで見たい、といった人は注意が必要だ。なお、HD-XA1ではHD DVD映像を480i/pで、コンポーネント出力できる。 また、HDVソースをVAIO Type Rの「Ulead BD DiscRecorder for VAIO」でBD-REに記録したディスクや、デジタル放送を録画した2層BD-REディスクについては延々とローディングを試みるものの、認識できなかった。デジタル放送を録画したディスクは、録画用のAACSなど問題もあるのかもしれないが、自作BD-REも利用できなかったのは残念だ。 なお、ビデオカメラ用のH.264記録規格「AVCHD」については、「HDR-UX1」で撮影した8cm DVD-Rメディアの再生を試みたが、認識されなかった。 DVDビデオも同様に再生可能。ただし、BD-P1000は北米モデルのため、日本版のDVDディスク(リージョン2)は再生できない。もっともそれは当たり前なのだが、問題なのは、DVD音声で、リージョン1であっても、DTS音声のデジタル/アナログ出力ができない。最新のDVDプレーヤーでDTS非対応というのは、やはりDVDプレーヤーとして、活用の可能性を狭めているとしか思えない。 ■ BD-P1000の完成度は今ひとつ 画質に関するトラブルや、音声出力などに不満は残るが、初代のBDプレーヤーとして、レスポンスは良く、操作性もしっかり次世代を感じさせてくれる。やはりパソコンで再生するより気軽かつ、簡単という民生用プレーヤーならではの魅力というのは、十分に備えている。今後、より画質や音質にこだわったプレーヤーを投入してくれそうな、日本メーカーのがんばりに期待したいところだ。あわせて、発売時などに「これぞ」という高クオリティのディスクを同梱するなど、次世代の本物の実力を多くの人に伝えて欲しい。 同じ値段でどちらが高そうか、といえばHD-XA1だが、改めてHD-XA1のスペックを見ると、10万円でもかなり無理をした価格設定のよう思えてくる。しかし、両製品を使ってみると、やはり再生用ディスク規格が分裂してしまった、ということの深刻さを痛感する。もちろん次世代に最高のクオリティや使い勝手を求めたいが、自分が見たいソフトを気軽に見られるということがないがしろにされないことを願うばかりだ。 ディスプレイ環境はますます進化しており、フルHDモデルも多くの人の手に届く価格帯に近づいている。国内での薄型テレビ普及率は10%を目前とし、いよいよ普及期に突入しようとしているが、これ以上パッケージソフトが遅れていく、というのはビデオソフト業界にとってもかなりの機会損失だろう。いまさら「第3の規格」などの話は相当無理がある。市場で消費者を巻き込んだガチンコ勝負が、まもなく国内でもスタートする。次世代のポテンシャルを最大限に発揮する製品の登場を期待するとともに、ユーザーが迷わずにソフトを買いやすい環境になってほしいと願う。 □Samsungのホームページ(英文) ( 2006年8月11日 ) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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