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ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)から21日、PSP用の最新ファームウェア「バージョン3.00」が公開された。PSPとPLAYSTATION 3の連携をメインとしたアップデータで、最大の目玉は「リモートプレイ」と呼ばれる機能だ。 PS3の発売前から発表されており、発売されたPS3のXMB内にも「リモートプレイ」というアイコンが用意されていた。今回PSPがバージョンアップされたことで初めて利用できるようになった。 「リモートプレイ」とは、PS3の画面をリアルタイムで480pのMPEG-4 Simple Profile(ビットレートは1Mbps程度)に変換し、ストリームとしてPSPに伝送するという機能だ。簡単に言えば、PS3の画面をPSPの液晶に表示するということ。表示だけでなく、PSPのコントローラーでPS3の各種操作が行なえ、もちろんその結果をPSPの画面で確認することができる。PSPを「液晶付きのPS3用コントローラー」として利用する機能と考えるとわかりやすいだろう。
■ PS3とPSPは直接通信
PSPのファームウェアをバージョン3.00にアップデートすると、XMBメニューの[ネットワーク]欄に、新たに[リモートプレイ]というアイコンが追加される。さっそくこれを選択したいところだが、その前に、送信側となるPS3でリモートプレイ用の設定を行なう必要がある。
PSPとPS3の連携は無線LAN経由で行なう。その際、ルータなどを経由することなく、PS3とPSPは直接接続することになる。イメージとしては、PS3側でリモートプレイ用の新しいネットワーク設定(アクセスポイントのようなもの)を作成。PSP側でその設定を検索/選択することで、初めて両機がリンクするというイメージだ。 まず、PS3のネットワーク設定欄にある[リモートプレイ接続設定]を選択。そこでアクセスポイント名となるSSIDと、セキュアな通信を行なうためのWPA-PSK(AES)の暗号化キーを入力。設定を保存しておく。
そして[ネットワーク]欄に移動。[リモートプレイ]という項目を選択すると、画面がSD解像度に切り替わり、「PSPからリモートプレイ接続をしてください」という文字が表示されるだけとなる。こうなるとPS3はPSPのアクセスを待つだけとなり、キャンセル以外の操作は行なえなくなる。
次にPSP側を操作しよう。まず、[設定]メニューから[ネットワーク設定]を選択。機器との無線接続方法を[アドホックモード]と[インフラストラクチャーモード]の2種類から選ぶよう促される。PSPと直接接続を行なうため、ここでは[インフラストラクチャーモード]を選ぶ。 そしてアクセスポイントの検索を行なうと、先ほどPS3で作成したSSIDの設定が見つかるはずだ。それを選択し、WPAの暗号キーを入力。接続方法は[かんたん]を選択。設定を保存しておこう。 ここまで来たら後は簡単。[ネットワーク]欄に移動し[リモートプレイ]を選択。先ほどのSSIDを選択するだけで、PS3の画面がPSPの液晶に表示される。
■ ストレスの無い動画表示
PSPはPS3と同じXMBメニューを採用しているため、文字が若干PS3メニューの方が小さいことを除けば、いつものPSPメニューと印象は変わらない。なお、PS3から伝送される画面情報は480pに変換されているため、PS3の設定でフルHDなどを選択していても、PSPの表示は480pだ。 PSPのキーでPS3のメニューを操作してみる。XMBの動きは高速なのが特徴だが、無線LANがしっかりとリンクしていれば、ほとんどストレス無く操作できる。大量にコンテンツが保存されたメニュー欄を高速スクロールすると若干引っかかることもあるが、通常の使用ではまったく問題ないだろう。
次に、PS3のコンテンツを表示してみよう。PS3のHDD内に保存した動画ファイルは、フルHDやSDなど、解像度やビットレートなどを問わず、PS3で再生できるものはPSPでも表示可能。デコードなどの処理はPS3側で行なっているので当たり前といえば当たり前だ。HDVカムで撮影した約25Mbps/1,440×1,080ドットのMPEG-2や、PLAYSTATION StoreからダウンロードしたフルHD(1,920×1,080ドット)のMPEG-4 AVC/H.264のトレーラーなども再生できる。 タイムラグはほとんど感じられず、バッファリングもなく、押せばすぐに動画がスタート。480pに変換されているため本来の精細さは失われているが、PSPの小さい画面で縮小表示しているため、粗が目立たず、HDV動画の輪郭のシャープさも十分に感じられる。最大100倍速の早送り/戻しも利用可能だ。
PSPの「HOME」ボタンを押すと[設定]が表示され、その中で[反応速度]が1~5段階で指定できる。「1」が最も反応が鈍いが、画質にデータレートを割り当てたため、高画質なモード。「5」は画質を落とすことで反応速度を上げたモードだ。デフォルトでは「4」になっている。
「1」を選ぶと確かにブロックノイズが減り、輪郭がよりシャープになる。だが反応速度が極度に鈍くなり、PSP側でカーソルを3個進めたはずが、PS3画面では1個も進まず、「おかしいな」と思っていると急に3個進んで……という具合にタイムラグがヒドイ。XMBのコンテンツ選択でも行き過ぎ/戻り過ぎが多発し、常用に耐えるとは言い難い。デフォルトの「4」が最もバランスが良いだろう。ちなみに、PSPで表示中、PS3本体を接続したテレビには「接続中」と表示されるのみで、音も出ない。
次に、DVDビデオやBlu-rayビデオをPS3に挿入。だが、PSPの画面には何も表示されない。ディスクをロードしているアイコンは表示されるのだが、アイコンが消えてもXMBメニューには何も表示されない。再生できないものは、マウントしていないものとして扱われるようだ。なお、リモートプレイ機能をOFFにしてPS3のダイレクト表示に戻すと、当然ながらディスクは認識/表示されている。 著作権保護がかけられていない、DVDレコーダで録画したDVD-R/RWなどのメディアを挿入しても表示されず、AVCHDカムで撮影/作成したAVCHDディスクも表示されない。しかし、データ形式でライティングしたDVD-Rメディアは表示。内部の動画にもアクセスでき、再生も可能だった。どうやらビデオ形式のメディアは全てはじいているようだ。
音楽再生も可能。PS3のHDDに保存した楽曲を、PSPのスピーカーやイヤフォン出力から聴くことができる。PS3のビジュアライザー表示もそのままPSPで表示されるため、PS3をミュージックサーバー、PSPを再生端末として利用することもできそうだ。伝送時のビットレートやフォーマットは不明だが、再生音質は高く、イヤフォンやPSPのスピーカーで聴く分には不満無く利用できるだろう。 音楽CDも認識/表示され、PSPから再生可能。ただし、SACDをマウントしたところ、CD層は表示され、再生もできるのだが、SACD層が2ch/マルチチャンネル層ともに表示されない。ビデオ形式のディスクが表示されなかったように、あたかも通常のCDのようにCD層しか表示されない。
静止画は特に制約なく表示が可能。PS3の処理能力が高いため、大量の画像を次々と表示したり、回転させた際のレスポンスは、無線伝送のラグを加えても、PSP本体の静止画表示よりも早い。品質はPSP本体表示の方が上だが、PS3はスライドショー機能も充実しているので画像の閲覧という意味では十分実用的だと言えるだろう。
なお、ゲームソフトも認識/表示されないため、ゲームをリモートプレイすることはできない。[設定]アイコンも用意されているが、その下に何も表示されておらず、操作することはできない。「利用できない機能はアイコン表示のみ」というスタンスなのだろう。 ほかに利用できる機能は、ネットワーク機能の[インターネットブラウザ]、PLAYSTATION Networkの[フレンド機能]だ。同項目からメッセージボックスの確認も可能。ブラウザはPSPにも搭載されているが、キャッシュ容量などを含めてPS3のブラウザの方が高機能なため、利用価値はありそうだ。
■ 画期的な機能だが、どのように利用するかが問題 携帯ゲーム機に据え置き型ゲーム機の画面を表示させるという機能は非常に斬新だ。HD動画のデコードや、480pへの変換、MPEG-4 SPへのリアルタイムエンコードなどの重い処理をPS3側で全て行なうことで、ビューワとしてのPSPはストレスなく、各コンテンツが楽しめる。 PS3向けの有料動画配信などがスタートした際、著作権保護がかけられたコンテンツがPSPで表示できるかどうかはわからないが、PS3に静止画/音楽/HDV動画/ダウンロードしたHD動画などを蓄積し、家庭内のメディアサーバとして利用するようになれば、手軽なPSPビューワの存在はかなり魅力的なものと言えるだろう。 残念な点は、ビデオ形式のディスクが表示できないこと。BDビデオやDVDビデオは別として、著作権保護がかけられていないDVD-RやAVCHDはそのまま表示して欲しいところ。このあたりは今後のアップデートに期待したいところだ。 また、PS3の処理能力を活かすという点では、ゲームもPSPでプレイしてみたい。PSP単体では実現不可能なグラフィックのゲームを、PSPで表示するというのも興味深いが、例えばPS3でゲーム中、家族にテレビを奪われてしまったが、PS3はそのまま居間で起動させておき、PSPに切り替えて自室でプレイを続行……などの利用ができると便利だろう。無線のタイムラグが問題になるだろうが、RPGなど、問題なくプレイできるゲームもあるだろう。 以上のように、非常に可能性を感じる機能ではあるが、PS3内に保存したコンテンツが少ない現段階では「どのように活用するか悩む機能」と言えるだろう。テレビが存在しないピュア・オーディオルームで、PS3をSACDプレーヤーとして利用しているユーザーがいれば「簡易ディスプレイ」としてPSPを利用できそうだが、リモートプレイ中はPS3本体から何も出力されないので意味がない。 また、リモートプレイを開始するために、PS3を操作しなくてはならないのが難点だ。PSPからも[リモートプレイの終了]が行なえるだけで、PS3本体の電源をリモートでOFFにすることはできない。リモートプレイのON/OFFが、PSPから完全なリモートで行なえれば文句はないのだが、ワイヤレス接続しているのにON/OFFのたびにPS3のある部屋に行かなければならないというのは改善して欲しいポイントだ。
PSPはバージョンアップを繰り返すことで、発売当初からは考えられない、様々な機能を追加搭載してきたゲーム機だ。今回PS3と連携したことで、PSPの可能性がより広がっただけでなく、PS3側の可能性も広がったように感じられる。現時点ではその能力を発揮しきれていない印象もあるが、今後、両機の相乗効果が生み出す便利さやサービスに期待が膨らむところだ。
□ソニー・コンピュータエンタテインメントのホームページ
(2006年11月21日) [AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]
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