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地上波テレビ番組のIPマルチキャスト配信は難航
-デジラジのビジネスフォーラムは第3期活動へ


6月19日開催


 地上デジタルラジオの普及に向け、ビジネス面での環境整備や技術検証、普及活動を行なう「デジタルラジオ・ニュービジネス・フォーラム」は19日、第3期の活動方針について説明を行なう総会を開催した。

 また、講演として内閣官房知的財産戦略推進事務局の杉田定大参事官が登壇。IPマルチキャストなど、日本におけるデジタルコンテンツ活用の現状を説明したほか、「ネット狂騒時代, テレビ局の憂鬱」と題して日経BP社 日経ニューメディアの吉野次郎氏が「放送と通信の融合」が抱える問題について講演を行なった。


■ 地上波テレビ番組のIPマルチキャスト配信は難航

内閣官房知的財産戦略推進事務局の杉田参事官

 安倍内閣は「世界最先端の知財立国を目指す」ことを方針として掲げており、それに沿って、2006年秋の国会で改正著作権法が成立。テレビ番組をブロードバンド配信する際の法制度や契約ルールの整備や、IPマルチキャストを利用した地上デジタル放送の再送信に向けて法整備が進められている。

 しかし、内閣官房知的財産戦略推進事務局の杉田参事官によれば「改正著作権法は成立したが、IPマルチキャストや製作会社の自主放送などの動きは少ないまま」だという。良質なコンテンツは放送局に抑えられており、「通信事業者が著作権者と配信に向けた話し合いをしているようだが、地上波のテレビ番組については交渉が難航しているものがほとんどと聞く。我々も“なかなか厳しい”という認識を持っており、IPマルチキャスト事業者の意欲が削がれてしまっていると感じることすらある」という。

IPユニキャストとIPマルチキャストの著作権法上の分類

 その上で、テレビ番組のネット配信が活発化している米国や欧州の例を紹介。「欧州ではケーブルやネット、放送が入り乱れ、テレビを観てはいるが、どの伝送経路で観賞しているのかを意識していない人もいる。日本でもこうした状況を実現するためには、映像版JASRACとも言える、著作権登録機関が必要」とする。

 その裏には、番組製作会社が作ったコンテンツでも、2次利用の窓口は7割以上が放送局が抑えているという日本の現状がある。また、番組に登場する出演者ごとに2次配信に関する契約が異なるため、権利構造が複雑化しているのも、コンテンツの再利用を困難にしている。

テレビ番組の2次利用の少なさを示すグラフ 番組制作会社が手掛けた番組で、二次利用の許諾窓口の7割以上は放送局にある 杉田参事官は、著作権者側が任意で登録できる著作権登録機関の設立を提案

 杉田参事官は1つの打開策として、番組制作時に著作権者側が任意で登録できる、著作権登録機関の設立を訴える。2次配信したい事業者は、その登録機関から許可を得ることで、スムーズに配信ができるというものだ。権利者の登録は強制でなく、任意という点が新しく、「リッチなコンテンツに参加している著作権者が登録してくれない可能性も残るが、ネットでも番組を流して欲しいという権利者がいれば、スムーズな流れが作れる」という。


■ テレビはなぜインターネットが嫌いなのか

日経ニューメディアの吉野氏

 次いで、日経ニューメディアの吉野氏が、通信業者と放送業者の両方を長年取材した経験から、自身の著書の紹介も交えて「テレビはインターネットがなぜ嫌いなのか」を解説。

 吉野氏はまず、テレビ局と芸能プロダクションの強固な繋がりや、番組制作会社を下請け化することで、テレビ局がコンテンツ産業の頂点に立つ仕組みなどを紹介。さらに、テレビ局自身が電波塔を各地に建て、テレビ以外の映像インフラの普及を抑え込んできた歴史などを紹介。

 「こうした放送を取り巻くビジネスモデルが今日のテレビの強さの基にある。そこへ、映像配信も可能な通信大手が登場。テレビ番組のブロードバンド配信を行なおうとしたため、テレビ局は強烈に抵抗した」という。

日本のテレビ局の強さはビジネスモデルにあるという

 吉野氏によれば、抵抗の裏には「米国のテレビ局の失敗」があるという。米国ではテレビ局1社が建てる電波塔は日本と比べて大幅に少なく、その結果、受信できない地域が大量に生まれていた。その穴を埋めるべく、80年代にケーブルテレビが爆発的に普及。テレビ放送の視聴シェアは70年代の90%から、90年代には40%台まで低下し、逆にケーブルテレビの有料放送加入率が9割になったという経緯がある。

 「日本のテレビ局は米国のテレビ局を反面教師として、自前の電波塔で番組を配信するという原則にこだわっている。ケーブルテレビに二次配信は認めているが、通信会社は規模が大きいため、認めなかった」(吉野氏)と分析する。

テレビ画面がネットに乗っ取られる? 番組制作会社の逆襲がある?

 その上で、2005年7月の総務省・情報通信審議会の答申で、NTTとKDDI、ソフトバンクが政府に働きかけ、2008年から地上デジタル放送をブロードバンド配信させる政策を打ち出させたことを紹介。

 「2008年からアナログ放送が終わるまでの3年間、まだ地上デジタル放送を観ていない2,500万世帯は、放送経由でテレビを観るか、通信経由かを選ぶことになる。そこで放送と通信の熾烈な戦いが起こるだろう。また、吉本興業など、芸能界も徐々にネットに進出している。テレビ画面がネットに乗っ取られたり、下請け番組制作会社の逆襲もあるかもしれない」と、今後を予測した。


■ フォーラムから提言をまとめる

フォーラムの代表で、デジタルハリウッド大学・大学院の杉山知之学長

 デジタルラジオの活動については、ニュービジネスフォーラムの第3期活動方針が発表。具体的な実証実験を開始した第2期の活動を継続させるほか、フォーラムとしての提言が発信できるような体制作りにも注力するという。

 提言は、デジタルラジオの魅力や、それが生み出す新しいライフスタイルを広く一般の人にも知ってもらおうことを目的としており、その足がかりとして、フォーラム会員へのアンケートを実施。デジタルラジオで期待するサービスや、デジタルラジオに求めるものなど、様々な意見が寄せられているという。

 こうした意見は内容ごとに分科会で検証され、コア会議で取りまとめ、マスコミ向けに発表するほか、総務省など、各省庁の研究会などにも配布するという。

□デジタルラジオ・ニュービジネス・フォーラムのホームページ
http://drforum.jp/
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(2007年6月19日)

[AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]


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