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6日に一斉に発表された新iPodシリーズ。最大の注目株はタッチスクリーンUIや無線LANを備えた「iPod touch」かもしれないが、最も販売数量やユーザー数が多いと思われるシリーズの中核モデル「iPod nano」も一新された。 従来のiPod nanoシリーズで定着していたスリムな縦長のデザインから方針転換し、2型のカラー液晶を搭載したビデオ対応モデルとなった新「nano」。デザインには賛否両論分かれそうだが、ビデオ対応など第5世代iPodの機能をほとんど盛り込んでおり、機能面では意欲的なアップデートが行なわれたといえる。 AppleStore価格は、4GBで17,800円、8GBで23,800円。競合となるウォークマンが上位モデルの「NW-A800」が4GBモデルで24,800円、8GBで32,800円(いずれもソニースタイル価格)で販売されていることなどを考えると、かなり競争力のある価格設定といえる。なお、ボディカラーは4GBがシルバーのみ、8GBがシルバー、ブラック、ブルー、グリーンと、レッド(AppleStore限定)の5色が用意される。 「今週末に発売」とのことで、7日の開店直後にApple Store GINZAに行くと、4GBモデル(シルバー)と8GBモデルのブルーのみが販売開始されていた。classicも80GBモデルを販売開始しており、touch以外の新製品は、今週末より順次供給されていくようだ。
■ デザインイメージ一新。2型液晶に9行表示可能に
同梱品は、イヤフォンと、USB-Dockケーブル、Dock接続用の新nano専用アダプタのみ。iTunesのCD-ROMなどは付属しないので、Appleのホームページからダウンロードする必要がある。iTunes 7.4の対応OSはWindows XP/VistaとMac OS X 10.4.8以降。 AppleStoreでの購入時には、「利用環境は大丈夫ですか?」と質問された。「Windows VistaとXPなので大丈夫」と応じると、「iTunesをダウンロードして7.4にしてください」と念押しされた。サポートや問い合わせが多いのか、非常に気を使っているようだった。 外形寸法は、69.8×52.3×6.5mm(縦×横×厚み)と、従来のiPod nano(90×40×6.5mm)より、かなり横幅が広いデザインとなった。2型の大型液晶を前面に打ち出しているが、従来の“nano”ブランドが感じさせていたスリムでシャープなイメージは後退した。重量は49.2g。 厚みは従来のnanoと同じ6.5mm。そのため、他社の小型プレーヤーとはかなり印象を異にしている。最初に写真を見た時はクリエイティブの「ZEN V」などに近いと思っていたが、より平面的で大きく感じる。このあたりは好みが分かれそうだ。 液晶ディスプレイは2型/320×240ドット。従来のnanoよりかなり大きく、既存のiPodや新iPod classicでも2.5型で解像度は同じなので、ボディの大きさを考えると画面の大きさは際立っている。新nanoはこの「2型液晶」を前提にデザインされているともいえるだろう。 液晶自体も従来モデルの176×132ドットから大幅に高解像度化されており、9行表示が可能となっている(旧nanoは7行)。また、「前の世代に比べ65%明るくなった」とのことで、視認性もかなり向上した。
クリックホイールの操作パッド部分が若干細くなったため、従来のnanoユーザーは若干戸惑うかもしれないが、基本的な操作体系は変わっていない。 本体下部にDock端子とヘッドフォン/AV出力、HOLDスイッチを装備。全ての端子類が下部にまとめられた格好だ。
■ Cover Flow検索は新鮮。大型液晶による検索/操作性向上が魅力
転送ソフトにはiTunes 7.4を利用する。iPod nanoを接続すると、楽曲やビデオ、Podcast、写真などの同期を自動的に開始する。iPodのユーザーであれば、特に戸惑うようなところはないだろう。 対応音楽形式は、AAC(16~320kbps)、DRM付AAC、MP3(16~320kbps)、Audible(フォーマット 2、3、4)、Apple Lossless、WAV、AIFF。ビデオはMPEG-4 AVC/H.264とMPEG-4 SPに対応する。 ホイール状のタッチパッドと中央のボタンで操作する「クリックホイール」は従来モデルを踏襲。指先でなぞってホイール操作で楽曲検索などを行ない、上下左右と中央部分のボタンを押し込むことで、メニューの選択や取り消し、再生/停止などの操作が行なえる。基本的な操作方法は従来のiPodシリーズと共通だが、多くの改善が行なわれている。
液晶の高解像度化により、最大9行の表示が可能となっており、メインメニューを立ち上げると、ミュージック/ビデオ/写真/Podcast/エクストラ/設定/曲をシャッフル/再生中の各項目を選択可能となる。バックライトがLEDのためか、液晶のちらつきも低減しているように感じる。 メインメニューは液晶の左半分だけに表示され、右側には写真や楽曲のジャケット画像などを表示するなど、大きなデザイン変更が行なわれた。ミュージック/ビデオ/写真など、選択中のモードにあわせて、各モード内のコンテンツ情報が表示される。
音楽再生は当然ミュージックモードを選択する。プレイリスト/アルバム/アーティスト/ジャンルなどの各検索モードは従来と同様だが、最大の改良点は「Cover Flow」による検索が可能となったことだ。 Cover FlowはiTunes 7から搭載した表示モード。アルバム/シングルなどのジャケット写真(アルバムアート)から、楽曲の検索が行なえる。これが、iPod nano本体にも搭載されたわけだ。実際にできることはアルバム検索と同じではあるが、アルバムアートを見ながらの選曲は体験としてはかなり異なったものと感じる。 Cover Flowを選択すると、横位置でアルバムアートを配置。中央に選択中のアルバム/アーティスト情報を液晶下部に表示して、その左右に3枚づつアルバムアートが確認できる。アルバムアートは、アーティスト名のアルファベット順、その後に日本語のアーティストという順番で表示される。 クリックホイールを回すと、アルバムアートを一気にスクロールできる。レスポンスは非常によく、ホイールを回した(タッチした)速度に応じて、スクロールする。今回は4GBのnanoなのですぐスクロールが終わってしまうが、160GB HDD搭載のiPod classicなどでは触っているだけでも楽しそうだ。 時折、画像が出てくるのに0.5秒程かかることがあるが、それでも「待たされた」という印象はほとんどない。アルバムアートを選択すると、そのアルバム内の楽曲リストが表示される。最初の楽曲を選択すれば、そのままアルバム全曲を再生できる。
1,000枚以上のアルバムを管理していれば、アルバム名を知らないけれど、ジャケットは覚えている、という作品も多数ある。逆にジャケット画像は知らないが、お気に入りの曲もある。単にジャケットを見ているだけでも面白いが、忘れかけていた楽曲との出会い、という点でもCover Flowは面白いインターフェイスだ。 従来通りのアルバム/アーティスト/ジャンル検索や、プレイリスト再生も可能。アルバム検索時にもアルバムアートを表示するなど、細かな変更が行なわれている。内蔵フォントも変更されており、インターフェイス全体が、従来のiPod nanoからかなり変わった印象を受ける。 任意の英数字から、楽曲を探すことができる[検索]モードも備えている。画面下部に表示された[a-z]、[0-9]の文字を選んで楽曲検索が行なえるが、日本語楽曲の検索は行なえない。
再生画面もリファインされている。再生中の楽曲情報やアルバムアートとともに楽曲の再生時間を表示できるが、アルバムアートをより立体的に見えるデザインとなった。新しい再生画面を見てから、iPod(第5世代)やiPod nano(第2世代)を見るとちょっと古めかしく感じてしまう。 また、再生画面から、シャッフル設定が可能になった。再生中にホイールの中央ボタンを3回押すと、シャッフルの選択画面を呼び出せ、メインメニューに戻ることなくシャッフル再生に移行できる。
なお、音楽再生中でも、写真やビデオモードに移り、任意のコンテンツの検索が可能。ビデオを選んで再生を開始すると、音楽からビデオに切り替わる。
付属のイヤフォンは既発売のiPod nanoから変わっていない。本体の音質も良好だ。低域から高域までダイナミックレンジが広く、ヌケの良いサウンド。さまざまなソースで利用できそうだ。24モードのイコライザも選択できる。 また、ライブ盤などの曲間を意識させない「ギャップレス再生」も実現しているようだ。MP3形式でiPod nanoに転送した、Neil Young「Live At MasseyHall」を聞いてみた限りでは、自然に曲間が繋がっており、違和感を感じることはなかった。
■ ビデオ再生品質に満足。ゲームなど付加機能も充実 新iPod nanoの特徴の一つといえるのが、ビデオ再生機能。iTunesに登録したMPEG-4 AVC/H.264やMPEG-4 SP動画をiPod nanoに転送可能となっている。
対応ビデオ形式はH.264 Baseline Profileで、最高2.5Mbps/640×480ドット/30fps。MPEG-4 Simple Profileは、上限2.5 Mbps/640×480ドット/30fps。ファイルフォーマットは.m4v/.mp4/.mov。 MPEG-4 AVCについては、Baseline Profileのため、PSP用動画(MainProfile)は再生できない。基本的に、ビデオiPod(第5世代)用と同じファイルであれば再生できるようだ。最近は、多くのiPod用動画作成ソフトが用意されているのでそれらを利用したい。 米国のようにiTunes Storeにおける映画/ビデオの配信がもう少し充実すると利用シーンが広がると思うが、残念ながら日本におけるiTune Storeのコンテンツ強化はあまり行なわれていない。 ビデオでは、ムービー/テレビ番組/ミュージックビデオ/ビデオプレイリストの各メニューが用意される。テレビ番組/ミュージックビデオの2つはiTunes Storeで購入したビデオ用で、購入した映画もしくは自作のビデオファイルについては、ムービーに転送される。 今回は主に米国のiTunes Storeで購入した「Pirates of the Caribbean: The Curse of the Black Pearl」(640×480ドット/約1.5Mbps)を再生してみた。 画質については、小型のディスプレイでもしっかりとした階調と、力強い色表現などを実感できる。バックライトの透過光のために、若干黒が浮いてしまう傾向があり、暗部の階調がわかりづらい点はあれるが、鮮やかな海の色、暗闇の中の灯篭など、繊細な表現力を感じさせてくれる。十分高品位な画質を実現できている。 操作もシンプルで、中央ボタンを押すと、画面下部にタイムバーが現れる。iTunes Storeでの購入映画については、チャプタが切られているため、クリックホイールの左右でチャプタバック/スキップが可能。チャプタが切られていない場合でも、ホイールの左右を長押しして、早戻し/送りが行なえる。レジューム再生にも対応している。ビデオ出力機能も備えており、別売のAVケーブルでテレビ出力が可能となっている。
液晶のアスペクト比が4:3のため、シネマスコープの映画などを見ると上下の黒帯が大きすぎて少々物足りなく感じてしまう。中央を切り取って全画面表示するモードもあるが、映画観賞用と考えると4:3のディスプレイは若干物足りなさを感じる。 [写真]機能は、転送時にはiTunesで変換処理を行ない、iPod nanoに最適化した写真を表示する機能。大量の画像を転送するとかなり時間がかかるので、ある程度選別した画像をフォルダなどに管理して、同期したほうがいいだろう。音楽付きのスライドショー表示や、スライド時間などの設定も可能。テレビ出力にも対応する。
[エクストラ]以下では、世界時計やカレンダー、連絡先(アドレス帳)、アラーム、ゲーム、メモ、タイム計測(ストップウォッチ)などの機能が選択できる。 ゲームはiPodのコンテンツを使ったクイズ「iPod Quiz」、トランプゲーム「Klondike」、クリックホイールを活用したブロック崩し「Vortex」の3つを収録する。iTunes Storeでのゲーム配信も行なわれている。
ゲームでユニークなのは「iPod Quiz」だ。自分の手持ちの楽曲やビデオから“トリビア”クイズを出してくれる。楽曲のタグ情報などから抽出したデータをクイズ形式で出題するのだが、自分の手持ちのライブラリでもかなり知らない情報があることに気付かされるだろう。 ライブラリの情報を基に、[○○がが入っているアルバムは? ]といった質問が、三択などで出題されるので、ライブラリの楽曲を確認できるとともに、「こんな曲入っていたのか?」と驚かされることもある。新しいアプローチでライブラリの積極活用をしている点は非常に面白い。 ただし、楽曲情報のリリース年が、楽曲のリリース時でなく再販CDのリリース年になっている場合などもある。タグ情報を分析しているだけなので仕方がないとはいえ、それで不正解といわれると不愉快な時も……。
ビデオ再生時間は約5時間、音楽再生時間は約24時間。音楽再生時にはほとんど不満がないといえるだろう。
■ 操作の“気持ちよさ”が新nanoの魅力 デザインを一新し、ビデオ再生に対応した「iPod nano」。機能面でも価格においても、非常に魅力的な製品に仕上がっている。 ビデオ対応はもちろん大きなポイントだが、個人的には大型液晶の採用による操作性の向上、操作の“気持ちよさ”の向上が新nanoの一番のアピールポイントと感じた。Cover Flowによるアルバム検索はユニークなだけでなく、忘れかけていた楽曲の再発見の機会を提供してくれる。細かいが、確実な進化を随所に感じさせてくれるのはうれしいところだ。 ビデオについては、パソコンなどで録画したテレビ番組を、iPod用に変換して視聴するためのソリューションが必要となる。多くのビデオ変換ソフトがiPod対応しているので、それらを活用したい。やはり、欧米に比べてiTunes Storeのラインナップがイマイチなので、現在日本国内では「単に購入したビデオを見る」という利用方法には、まだまだ物足りなさは感じる。 デザインは最初は若干違和感があったものの、慣れれば手になじみ、操作性にも不満はない。ただ、従来のiPod nanoで多くみられた「首掛け」にはちょっと向かないデザインとは思う。nanoのスマートなデザインの印象が強かっただけに、できれば違うブランド名を付けてほしかった。とはいえ、強力な機能と価格競争力を持った新iPod nanoの登場は歓迎したい。 年末に向けてオーディオプレーヤー市場のベンチマークといえる製品。今のところ隙は無いようにも感じるが、他社の反撃にも期待したい。 □アップルジャパンのホームページ (2007年9月7日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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