◇ 最新ニュース ◇
【11月30日】
【11月29日】
【11月28日】
【Watch記事検索】
エプソン、プロジェクタ用液晶拠点「千歳事業所」を公開
-環境配慮型工場としての取り組みを紹介


エプソン 千歳事業所

7月4日開催


 セイコーエプソン株式会社は4日、プロジェクタ用の高温ポリシリコンTFT液晶(HTPS)を製造している北海道 千歳市の「千歳事業所」を公開。同事業所における、環境配慮への取り組みなどを説明した。


■ プロジェクタ用HTPS製造の一大拠点

目前に新千歳空港が広がる

 千歳事業所は、新千歳空港の東に広がる工業団地「千歳美々ワールド」内に設立されており、眼前に新千歳空港が広がる。敷地面積は16万m2

 同事業所はプロジェクタ用のHTPSの生産拠点として、2005年4月に稼動開始。2008年3月に累計500万パネルの送品を完成したという。クリーンルームの実装面積は現在3,000m2で、最高9,000m2まで拡張可能となっている。

 同社の諏訪南事業所と並ぶ、HTPS生産の中核拠点となる千歳事業所。諏訪南と比べて、大幅に生産効率を向上しているほか、環境負荷の低減対応についても積極的に取り組んでいる。今回、千歳事業所の環境対応を中心に、説明が行なわれた。


左が千歳の300mmウエハ。右は南諏訪の200mmウエハ

 千歳事業所では、諏訪南と比較して約140%の生産効率向上が図られたという。諏訪南では、ウエハ石英ガラスの基板サイズが200mmウエハだが、千歳では300mmウエハを採用。さらに、製造プロセスの縮小により生産効率を高めている。

 また、従来は各工程にてウエハを数十枚単位で処理していたため、各工程において、待ち時間/処理時間が増えていたが、千歳事業所では、ウエハを一枚ごと処理することで、処理時間を短縮。生産効率化とともに使用エネルギーの削減を達成したという。

 プロジェクタ用HTPSの生産では大きく分けて、原料の石英ガラスから基板を作り出す「TFT基板工程」、TFT基板の「組み立て工程」、FPCやフレームなどの「実装工程」、「出荷検査」の4つの工程から構成されるが、このうち千歳事業所では組立工程までを担当。その後、国内輸送により長野県内で実装工程の後、部品として出荷。同社のプロジェクタ向け出荷の場合は、中国の工場にモジュールを送った後、現地で組み立てて完成品として輸入する。

モジュールの生産工程。千歳では組立までを行なう 千歳事業所で生産する優位性

 千歳事業所における、HTPSの生産能力は、8インチ換算で月産5,000~6,000ウエハ(実際の製造は12インチウエハ)。一方の諏訪南事業所では、10,000ウエハ。どちらも現在稼働率はほぼ100%という。

 なお、千歳事業所の建屋にはまだ空きスペースが残っており、現在の約3倍までクリーンルームを拡張可能できる。そのため、今後の需要などを見極めながら対応を検討していくという。

HTPSモジュール 千歳/南諏訪でHTPSパネルを生産。長野県内での後工程を経て、モジュールとして出荷する


■ 千歳事業所の環境対応とは?

 最新の製造設備とともに、千歳事業所の特徴といえるのが、環境負荷の低減のための取り組み。産業廃棄物の再資源化や有価物化、排出物のリサイクル/リユースなどによる「ゼロエミッション」に加え、外気を利用した冷却システムや地下水の利用などによる「省エネ・省資源」、「公害防止」などを掲げ、環境負荷の低減に取り組んでいる。

千歳事業所のクリーンルーム

 生産ラインにおける環境配慮のポイントは、クリーンルームの“スペックダウン”によるエネルギー節減という。

 南諏訪では、部屋全体で空気清浄度を高めた「クラス1(1立方フィートあたり0.5μ以上の粒子が一個)」と高いクリーン度を保っている。一方の千歳事業所では、部屋全体は「クラス1,000(同1,000個)」と大幅にクリーン度を落としているが、クリーンルーム内で装置と製品を運搬する容器「FOSB」の内部のみを「クラス1」と局所化する「ミニエンバイロメント方式」を採用。

 こうして、クリーンルームの性能を局所化したことで、冷却のための外気の導入量を大幅に削減。消費エネルギーを約30%削減できたという。なお、HTPS製造ラインにおいては、基板工程は汎用の装置が使えるが、組立工程については装置を内作するなど、エプソン独自のノウハウが導入されているという。具体的には、配向やガラス貼り合わせ、液晶注入などの工程で自社開発の装置などを多数導入しているという。そのため今回の工場公開でも組立工程は非公開とされた。

装置と運搬設備だけにクラス1エリアを限定する「ミニエンバイロメント方式」でエネルギー削減 FOSB(Front Openning Shipping Box)内だけをクラス1化 千歳事業所の300mmウエハ

千歳事業所における環境活動

 また、工場全体でもエネルギー削減のためのさまざまな工夫が施されている。クリーンルームの環境調整(温度/湿度)のために、7~8度の冷水を使って生産後の熱を取り除いているが、使用後の水は温度が上昇するため、再度冷水として利用するために冷却する必要がある。

 従来はこの冷却のために、冷凍機を使っていたが、千歳事業所では外気(冬場に約マイナス15度)を利用して、冷水を作るフリークーリング方式を採用。縦型の蓄熱槽の導入に加え、独自の凍結対策を導入し、外気を効率的に吸引できるという「クーリングタワー」を構築。冬場の省エネ効果を高めているという。

屋上に備えた「クーリングタワー」 建屋のすぐ脇に冷水を供給するための「蓄熱槽」を備える 天然ガスの供給設備も敷地脇に配している

有機系排水受槽

 また、蒸気発生用ボイラーのための燃料にも、液体燃料を使用せずに、CO2やNOx、SOx発生の少ない天然ガスを採用。さらに、製造工程で使用した排水の無害化にも取り組んでおり、複数の中和層を経たうえで、pH、CODなどの濃度センサーで水質を監視。無害化して下水道へ放流する。異常が見られた場合は、放流前に再度無害化を行なうため、24時間体制での監視を行なっている。

 そのほかにも、地域コミュニケーションや教育活動などでの環境貢献にも取り組んでいくという。


複数の中和槽を経て、最後の監視槽で放流の確認を行なう 24時間体制で放流を監視


■ 2050年に向けた環境ビジョンも。J8サミットに協賛

地球環境推進部 田中部長

 同社経営戦略室 地球環境推進部の田中規久部長は、エプソンの環境への取り組みについて説明。「時計から発祥しているエプソンの技術の根源は“省”の技術」とし、省エネルギー、省資源に強みを持つ、とアピール。プロジェクタは10年間で明るさ1,000ルーメンあたりの消費電力を約1/10に、インクジェットプリンタの待機電力は4年間で約73%削減した事例などを紹介した。

 さらに、インクジェットプリンタを中心に活用されている「マイクロピエゾテクノロジー」について解説。必要なときに、必要な量を、必要な場所に吹き付けられるという特性や、シンプルな構造のため小型化がしやすいなどの利点を強調。さらに、HTPSパネル製造の配口膜形成工程でも活用されており、従来のフレキソ印刷法より大幅に環境負荷を低減できるという。

 こうした取り組みに加え、エプソンは、環境活動の長期的な取り組みを「環境ビジョン 2050」としてまとめ、16日に発表している。

 「環境ビジョン2050」では、2050年に向けて、CO2排出を10分の1まで削減すると目標設定。非常に高い目標をあえて掲げて、全社的な取り組みを促すという。今後10年の重点目標としては、製造段階でのCO2削減や、商品の長寿命化とリサイクルを促すビジネスモデル開発、さらにクリーンルームのエネルギー消費半減などを図っていくという。

マイクロピエゾテクノロジーを製造装置などに応用 「環境ビジョン2050」実現後の姿 CO2を1/10に削減の根拠

J8サミットの各国代表に浴衣を進呈

 また、地域コミュニケーションの強化の一環として、同社では、7月1日から10日まで支笏湖畔地域を含む千歳市において開催されている「J8(ジュニア・エイト)サミット2008千歳支笏湖」に協賛している。

 エプソンでは、同社のプリンタ「PX-20000」で浴衣の模様を印刷し、国内外から千歳を訪れている参加者に提供。浴衣の模様は、千歳市の高校生や小学生がデザインしている。印刷は型紙と布地を張り合わせて、プリンタに装着。プリント時間は「前身ごろの印刷だけで、約40分」という。


インクジェットプリンタで印刷した浴衣 PX-20000で印刷
浴衣の印刷方法 型紙に貼り付けて印刷 PM-T990でうちわのデザインを印刷
千歳の高校生がデザインしたうちわ

□エプソンのホームページ
http://www.epson.jp/
□エプソンの環境活動
http://www.epson.jp/ecology/
□J8サミット2008 千歳支笏湖
http://www.city.chitose.hokkaido.jp/j8/japan/j8index.html
□関連記事
【2004年10月25日】エプソン、千歳の新工場で300mmウエハのパイロットラン開始
-3板液晶プロジェクタ向けHTPS製造ライン
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20041025/epson.htm
【7月23日】エプソン、液晶プロジェクタ向け新工場が千歳で竣工
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040723/epson.htm

( 2008年7月7日 )

[AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]


00
00  AV Watchホームページ  00
00

Copyright (c)2008 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.