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iPodなどのポータブルプレーヤーが一般的なものになった結果、それらに音楽を転送する母艦の役割を、コンポではなくPCが果たすようになった。当然の事ながら、CD/MD搭載のミニコンポ市場規模は縮小傾向にある。 PCにコンポの代わりが求められるようになった結果、アクティブスピーカーに注目が集まるようになり、例えばBOSEのM2(39,480円)やM3(49,980円)など、比較的高価なモデルも人気商品になった。また、iPodなどのプレーヤーのメモリ容量が増加すると、それ自身が音楽ソースとして使われるようになり、iPodスピーカーは1つのジャンルにまで成長している。 しかし、かつてのミニコンポがそうであったように、アクティブスピーカーやiPodスピーカーには、音質や拡張性、接続性の面で不満が残る。アクティブスピーカーには2系統のアナログ入力があれば良い方、iPodスピーカーに至っては外部入力の無いモデルも多い。 また、内蔵アンプ単体で利用できないため、音質クオリティの向上を考えてスピーカーを置き換えると、アンプまで新たに導入しなくてはならなくなり費用がかさむという難点もある。単品のオーディオ用アンプ、AVアンプにはコンパクトな製品が少なく、PCまわりで使うには不便という問題もある。 そんな不満を解消すべく登場したのが、ケンウッドの「CORE-A55」という小型オーディオ。身近に置いて使う至近距離再生(ニアフィールドリスニング)を想定しながらも、拡張性や接続性、音質にこだわった新製品ブランド「Prodino」(プロディノ)の第1弾モデルだという。 新世代のミニコンポとなるのか? さっそく使ってみよう。
■ アルミのカタマリが3つ まず目を引くのがデザインだ。一見すると同じようなフォルムのアルミのカタマリが3つ並んでいるだけに見える。左右のカタマリはスピーカー。中央がデジタルアンプ内蔵のメインユニットだ。
外形寸法はメインユニットが82×154×179mm(幅×奥行き×高さ/スタンド含む)と薄型。付属のスタンドを外し、横置きもできる。重量は本体のみで740g。スタンドを含めると790g。スピーカーは103×121×180mm(同/スタンド含む)で、重量は1.3kg(スタンド含む)。アンプ部と同様にスタンドが付属する。 メインユニットには10W×2ch(4Ω)出力のデジタルアンプを内蔵する。プレーヤーとしての機能も備えているのが特徴で、前面にSDメモリーカードスロット、背面にUSB A端子を備え、カードやUSBメモリ、USBマスストレージクラス対応のプレーヤーに保存された音楽ファイルが再生できる。フォーマットはMP3、WMA、AACに対応で、DRMには非対応。Apple Losslessも非対応だ。 さらに、PC接続用のUSB ミニB端子も備え、USBオーディオとしても動作。PC用スピーカーとしても利用できる。また、DACも内蔵しており、光デジタル音声入力も装備。16bit、32/44.1/48kHzまでのサンプリング周波数をサポートし、CDプレーヤーやゲーム機などとも接続できる。 加えて、独自のD.AUDIO入力も用意し、別売のケンウッド製プレーヤーや、別売のiPod用Dock「PAD-iP7」(12,600円)を接続可能。搭載したiPodを「CORE-A55」のリモコンから操作できる。音声伝送はアナログ。さらに、アナログ音声入力(AUX)も備えている。これらの端子はいずれも1系統だが、コンパクトな筐体からは想像できない豊富な接続性だ。
ミニコンポと比較するとMD/CDプレーヤーやチューナが不足していることになるが、それらをPCやSDメモリーカードとの親和性を高めることで解消しようという考えのようだ。「ネットワークプレーヤー機能も欲しい」という声もあるかもしれないが、PCとの親和性が高く、最近では低価格なノートPCも増えているので個人的にはそれほど気にならない。
質感もミニコンポのそれではない。スピーカーの筐体にはアルミ押し出し材を使っており、側板にはアルミダイキャストのパネルを装着。アンプにもアルミ板材/アルミ押し出し材を使っており、触るとヒンヤリと冷たい。梨地の仕上げで肌触りも良く、凝縮感と相まって高級感を高めている。
メインユニットで目を引くのが、中央に配置されたボリュームノブ。左右に回せば音量調整ができるほか、押し込んで再生/一時停止、長押しで電源ON/OFFも操作できる。付け根にはジョグノブも備えており、左右に回せばセレクターとして入力切り替え。メモリプレーヤー動作時は曲送り/戻しとしても利用できる。操作に反応するようにイルミネーションも点灯。リモコンを使わなくてもこの部分のみで操作が完結する。シンプルだが、よく考えられたインターフェイスだ。
スピーカーも一風変わっており、スタンド無しでは縦に自立できない。天面と底面が曲線を描いているためで、底面にはパッシブラジエーターを備えている。スタンドは側面からスピーカーを支える構造になっており、パッシブラジエーターからの低音をふさがない。スピーカーの角度は0~20度へ無段階調節可能。デスクトップ設置を想定した製品ならではの工夫だ。 ユニットは60mm径のフルレンジ1個。振動板にはファイバー素材を編みこんだクロスに特殊コーティングを施したハイブリッド素材の「MFP振動板」を使っている。サイズ的に低音が少なめだと予想されるが、リスナーとの距離が近いため、小さな筐体で無理にマルチウェイ化するよりもフルレンジの方が低域から高域まで、繋がりの良い再生音が楽しめそうだ。
■ デジタルアンプらしい清涼感のあるサウンド まずはPCと接続してみた。接続の方法としてはUSB 2.0、もしくはPCの光デジタル/アナログ音声出力との接続になる。クオリティを考え、USB/光デジタルをテストした。サウンドカードは「Sound Blaster Audigy 2 Digital Audio」を使っている。 光デジタルで接続し、さわり心地の良いボリュームノブを回すと、キーボードの左右に配置したスピーカーから、クリアで清涼感のあるサウンドが出てくる。第一印象は“非常に精密な音”。ノイズや雑味を感じず、女性ヴォーカルの口の動きや、JAZZピアノの左手の動きが良くわかる。高域寄りの再生音であることもその印象を強めている。 特定の帯域に誇張があるわけではなく、ニュートラルな音質。山下達郎「ヘロン」の奥行きのある音場の表現も精密で、ボリュームを上げてもカッチリと個々の音を描きわけながら音場が膨らんでいく。宇多田ヒカル「光」のヴォーカルの定位が明瞭で、高域で声がかすれ気味になる部分でも、感情の微妙なニュアンスがコーラスに埋もれずに聴き取れる。キマグレン「LIFE」のギター/パーカッションも音離れが良く、パツパツとした音の粒が見えるようで心地が良い。
関心したのは低価格なマイクロスピーカーにありがちな“箱鳴り”がほとんど感じられないこと。指で叩いてみても“コツコツ”とほとんど反響が無く、剛性が高い。安物PCスピーカーではプラスチックのエンクロージャが盛大に振動して、中音域を不明瞭にし、おまけに“コーン、コーン”とした安っぽい付帯音を付けるものがあるが、良い意味でそれとは次元の違うサウンドだ。 底面のパッシブラジエータにより、ある程度の低域は出ている。だが、個人的には「もう少しエンクロージャの鳴りを活用しても良かったのでは?」と感じる。というのも、あまりに剛性が高いため、まるでユニットから出た素の音だけを聞いているようなイメージなのだ。後述するデジタルアンプの素性の良さと合わせて、再生音は非常に精密でピュアオーディオライクなのだが、雑味や響きをそぎ落とし過ぎて、精進料理を食べているような気分になってくる。音場の広がりも最低限だ。
アンプそのものの実力が知りたくなったので、個人的にPC用スピーカーとして使っている「mini pod」(Blueroom Loudspeakers/ペア8万円程度)に変更してみた。値段とサイズがまったく違うので当たり前だが、流石に次元の違う音が広がる。上下のレンジがグンと拡大し、枷を外したように音場も広がる。アンプの能力で注目すべきは低域の解像感。「Kenny Barron Trio」の「Fragile」から、ルーファス・リードのベースの弦が気持ちよくほぐれる。低価格なアナログプリメインアンプではなかなか難しい描写だ。 マイルスの「Kind Of Blue」などのモダンジャズから、比較的録音の新しいJAZZも上手く再生してくれる。ただ、どちらかと言えば量感よりも分解能に寄った再生音であるため、迫力は乏しい。「Pure -AQUAPLUS LEGEND OF ACOUSTICS-」の「永久に」も、トーンコントロールでBassを「+3」して心地よく聴ける。Norah Jones「Don't Know Why」も、ノラが若返ったように声が軽やか。悪く言うと艶っぽさや色気が少なく、石けんで顔を洗った後のようなサウンドになる。 こうした傾向はデジタルアンプによくあるもので、結論としてはリスナーの趣向、良く聴く音楽の種類により評価が変わる。ポップスや録音の新しいJAZZ、フュージョン、クラシックなどは精密描写が心地よいが、音の張り出しや中音域の密度は、低域の迫力はアナログアンプと比べると演出が弱いため、ロックやライヴ盤などをノリノリで楽しみたい時にはちょっと向かない。 個人的な感想としては、デスクトップ上で楽しむニアフィールドリスニングでのデジタルアンプは大いに賛成だ。アナログアンプはある程度ボリュームを上げないと美味しい中低域を十分に味わえない場合が多く、その領域では再生音量そのものが近接試聴に向かないレベルになる。深夜にパソコンでネットサーフィンしながらだと近所迷惑になる可能性も高いだろう。その点、デジタルアンプであれば小音量でも比較的音場が狭くならず、解像感も高いため、音量をそれほど上げなくとも上から下まで豊富な情報量を聴くことができる。
USB接続に切り替えてみる。中域の密度が低下し、全体的に情報量が減ったように感じる。もっとも、じっくりと比較試聴して感じる程度の違いであるため、一般の利用ではこちらも十分に高音質だ。光デジタルと同様にPC内部のノイズの影響も受けにくい。逆にPCからの騒音の方が気になるだろう。
ちなみに、アンプ側で接続するスピーカーに合わせ、「Standard」(一般的な大型スピーカー用)、「Speaker.1」(付属スピーカー用)、「Speaker.2」(小型ブックシェルフ用)と、音質が選択できる。付属スピーカー以外の接続もしっかり想定されていることがわかり、アンプの利用価値が高まる配慮と言えるだろう。 SDカードに楽曲をフォルダ分けして保存/再生してみた。出てくる音は光デジタルよりも一段クオリティが高く、音の輪郭が太くなり、山下達郎「アトムの子」の冒頭ドラム乱打に凄みが加わる。T.M.Revolution「resonance」の疾走感もアップ。中低域がおとなしめなデジタルアンプ特有の音質を、ちょっとアナログに近付けたような旨味のあるバランスへと変化する。聴いていてニヤニヤしてしまった。
音質は素晴らしいのだが、楽曲の検索性はイマイチだ。リモコンの曲送り/戻しボタンを押しながら操作していたが、本体前面のディスプレイが小さいため、再生中楽曲のタグ表示をするのが精一杯でフォルダ構成が一覧表示できない。リモコンやジョグノブで一曲ずつ移動するか、リモコンのフォルダボタンでフォルダ/アルバム毎にジャンプするしかない。フォルダ/アルバムの数が増えると、正直そこにたどり着くまでの操作が面倒だ。
ジョグノブを回せば楽曲のインデックス情報が高速で送られ、目的の曲が来たら再生ボタンを押すような検索機能も欲しかったところ。しかし、その場合はデータベース構築処理に時間がかかりそうではある。基本はPCやiPod、ポータブルオーディオなどと接続して利用し、特にお気に入りの曲をSDカードに入れて楽しむといった使い方が良さそうだ。
最後にiPhone 3Gを別売のDockを介してD.AUDIOで接続。付属のリモコンでそのままiPhoneも操作できるため、SDカードよりも検索性は飛躍的に向上する。SDカードや光デジタルの音と比べると、中域が盛り上がり、良く言うと聴きやすい音になる。レンジは若干狭く、個々の楽器の音像が近く、弦の描写はほぐれが悪くなる。このあたりはiPod側のDACの性能がそのまま出ていると言えそうだ。
■ 結構使えるヘッドフォンアンプ機能
クリアな音質のイメージはヘッドフォンでも同じだ。ワイドでフラットという表現がピッタリくるサウンドで、ソースの特徴がそのまま楽しめる。試聴ではULTRASONEの「HFi 680」(インピーダンス:75Ω/出力音圧レベル99dB)を使ったが、駆動力はそれほど高くなく、光デジタル出力でPC側のWAVE/主音量をマックスにした状態で、アンプ側の音量を25~26に設定してちょうど良い感じ(アンプ側のMAXが30)。アンプ側をMAXにしてもうるさくてヘッドフォンを着けていられないというほどではない。 スピーカー用の10W×2chという出力を不安に感じる人もいるかもしれないが、普通の人が個室で利用する分には十分なパワーである。 なお、ヘッドフォンアンプでも同様に、音質補正を行なわない「Standard」モードと、インナーイヤー向けに、中低域を強め、高域のシャカシャカ感を低減し、20Hz以下の超低域をカットした「Headphone.1」。カナル型用に中高域を強めてバランスを整えた「Headphone.2」のチューニングが選択できるのがマニアックで面白い。
Dr.DAC2(ノーマル状態)と比較。解像感はどちらも高いが、低域の量感や、駆動力の高さから来る音場の安定感などでDr.DAC2に軍配が上がる。Dr.DAC2は45,000円程度するので当たり前だが、CORE-A55のモニターライクな再生音が好みと感じる人もいるだろう。
■ あると重宝する未来のミニコンポ デザインや価格的に、BOSEのM2/M3と比較したくなるが、あのスピーカーは“限られたサイズのスピーカーでどこまで低域を出せるか?”を追求したモデルとも言えるため、確かに驚くほど沈み込んだ音はするのだが、再生音としてニュートラルなのは「CORE-A55」の方だろう。低域のインパクトは薄いが、ニュートラルな再生音は長くつきあえそうだ。店頭で見かけた時は質感や音質をチェックして欲しいと思うが、ヴォーカルの声の自然さや誇張の無さなど、騒がしい売り場では忘れがちなポイントに注意して聴いてみて欲しい。
競合製品としてはNuforceのicon(35,700円)も浮かぶが、接続性や機能の豊富さでは「CORE-A55」の方が上回っている。PCスピーカーとして使わなくなったら、iPodスピーカーにもできるし、両方使わなくても余ったSDカードを挿入すれば単体プレーヤーとして使える。部屋間の移動も苦にならないサイズなので、書斎やベッドサイドなど、気分に応じて使う場所を変えられるのも良い。一家に一台あると重宝しそうだ。 アンプのクオリティの高さを考えると、付属スピーカーだけで終わらせるのはもったいない。サブウーファ用のプリアウトがあれば完璧と言えたかもしれないが、システムが大型化すると小型というメリットが薄まる。良質なブックシェルフスピーカーとの接続をお勧めしたい。スピーカーをグレードアップしたら、よりランクの高い単品アンプへ……と繋がると、ミニコンポやハイコンポが果たしてきた(?)、本格オーディオへの入門機としての役割も果たすかもしれない。 問題は実売45,000円という価格。DAC + アンプ + ヘッドフォンアンプ + スピーカー + SDオーディオプレーヤーと、機能を考えると格安とも言えるが、気軽にポンと払いにくい価格ではある。個人的にはメインユニット単体で3万円半ばで発売してくれると買いやすいのではないかと考えている。「LS-K1000」など、同社ブックシェルフスピーカーとのセットモデルや、購入割引キャンペーンなどがあっても面白そう。iPod Dock「PAD-iP7」(12,600円)は高価なのでこれをセットにしたり、映像出力を省いた低価格なDockをセットにするとiPodスピーカーに対する競争力が高まりそうだ。
ミニコンポやラジカセの代わりとなる決定打が登場しておらず、PCやiPod、ネットワークオーディオなどが混在する現状において、「とりあえずデジタル/アナログなんでも増幅できます」という「CORE-A55」のコンセプトは小気味良いものだ。機能としてはAVアンプに近いのかもしれないが、AVアンプが置けない場所でこそ活躍しそう。“未来のコンポ”として市場に受け入れられるか、楽しみな製品に仕上がっている。
(2008年10月31日) [AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]
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