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株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)が開発した高音質な音楽CD「Blu-spec CD(ブルースペックCD)」。その第1弾60タイトルが、12月24日にニーミュージックジャパンインターナショナルから発売される。その名の通り、Blu-ray Discの技術を応用して高音質化を図ったという音楽CDだ。11月18日、その試聴会がソニーミュージックのレコーディングスタジオで行なわれた。
通常の音楽CDフォーマット(CDDA)に準拠しながらも、より高音質な再生ができるという技術は、ユニバーサルミュージックと日本ビクターが共同開発した「SHM-CD」(Super High Material CD)、EMIなどが手がける「HQCD」(Hi Quality CD)などが存在し、タイトルラインナップも増加している。いずれも普通のCDプレーヤーで再生できるのが特徴で、SACDなどのように専用プレーヤーを使わなくても、気軽に高音質な再生が楽しめるものとして注目を集めている。 各社で技術のアプローチは異なるが、Blu-spec CDは、Blu-ray Disc向けの製造技術や素材を利用することで高音質化を図っているのが特徴。具体的には、金型原盤(スタンパ)を作るカッティング段階で、BDで利用される「Blue Laser Diode(BLD)」を使用。ここから短波長のブルーレーザーを当て、ピット(くぼみ)を作っていく。 ブルーレーザーを用いることで極微細な加工ができるほか、最適化した光ファイバーと組み合わせて使用することで、より精度の高い加工を実現している。また、発熱の少ない半導体レーザーを使っていることで、カッティングマシンが熱くなりにくく、ファンなどによる冷却が不要になる。そのため、カッティング時にファンがマシンに与える振動の影響が無くなり、より正確なピットが作れるという。なお、カッティングマシンはCD用のもので、レーザー部分のみBLDと光ファイバーを使ったものに付け替えて使用している。
次に、その金型原盤のピットをCDに転写していくのだが、そのCD素材に高分子ポリカーボネートを使用。スタンパに刻まれたピットを正確に転写していく。従来品ではピットを作ると、くぼみの周囲に盛り上がりができるなど、滑らかなくぼみにならなかったが、高分子ポリカーボネートでは、よりスムーズなピット作成ができるとのこと。
ピットの位置が正確になると、再生時に読み取りレーザーを反射させた際、乱反射がおきにくくなる。また、穴の形状が綺麗になると、例えば穴の深さも均一になり、ピットごとにレーザーが反射して戻るまでの時間の差が無くなっていく。こうした改良は、ジッタの低減に繋がり、収録された音をより鮮明に再生できるという。
CDの素材に、転写性に優れるポリカーボネートを使っているという点では、先行するHQCD/SHM-CDも同様だ。HQCDはそれに加えて反射膜素材に特殊合金を採用し、反射率を改善させ、読み取り精度を改善させている。SHM-CDでは、ポリカーボネート樹脂の透明度にこだわっており、読み取り時にレーザー光の複屈折率が少ない光学特性を持つものを採用した。また、ビクター独自の成形工法を用いて、改良を加えたオリジナル高精度金型や専用生産ラインを用いて作られている。
こうした方式に対し、後発となるBlu-spec CDのアドバンテージを、ソニーミュージック コミュニケーションズ 執行役員で制作技術本部の渡辺隆志本部長は、「カッティングの段階から改良していること」だと説明する。つまり、転写する元のスタンパのピットを高精度化し、それを転写する素材も改良するという2点の改良が特徴というわけだ。「細かい点では、SHM-CDでは透明度にこだわり、Blu-specではピットの形状を綺麗に成型することにこだわるという違いもあります」(渡辺本部長)。
■ レンジや奥行きに大きな違い 比較試聴はソニーミュージック内のレコーディングスタジオで行なわれた。スピーカーは、同スタジオ用に設計されたモニタースピーカーTEC:ton「TTH-1s」。プレーヤーはソニーのSACDプレーヤー「SCD-XA777ES」だ。ソースはBlu-spec CDのプロモーション用に作られたサンプラーディスクを使っている。
クラシックの「エルガー:愛の挨拶 作品12/五嶋みどり」をCD/Blu-specで比較すると、一聴して音場の奥行きが1.5倍ほど深くなっているような印象。ピアノの低域の伸びも良くなり、音楽の腰が据わる。バイオリンの高音も伸びやかに開放的になり、Blu-specを聴いていると「CDの時は随分頭が抑えられたような音だったんだな」と感じる。 JAZZの「ソー・ホワット/マイルス・デイビス」では、ポール・チェンバースのベースの最低域がさらに伸び、ブルンと弦が震える音圧も強く感じられ、よりお腹に響く。クラシックと同様に音場の奥行きも出るため、右手上空に浮かぶドラムのシンバルの音像が、一歩前に出てきたように感じられる。音像の定位にも違いがあると言えそうだ。 「ありのままでそばにいて/郷ひろみ」などのボーカル曲でも、変化の印象は変わらない。上下のレンジが広く、音場も広大になる。CD再生時にはめられていた見えない透明な枠が消えて、音が奔放に動きだしたようなイメージ。マスタークロックを追加したような、CDプレーヤーをワンランク上のもにしたような違いがあると言っても過言ではないと感じた。
なお、試聴用のサンプラーディスクを持ち帰り、通常のCDとBlu-spec CDをそれぞれリッピングしてコンペアしたところ、両ディスクに収録されているCD-DAデータはまったく同じであることが確認できた。
■ 他社へも採用を呼びかけ
渡辺本部長によれば、Blu-ray Disc用に、Blue Laser Diodeと光ファイバーの組み合わせをカッティングマシン用に研究し始めたのが2年ほど前。「そこで培った技術を“CDに使ってみよう”という話になったのは今年の初め頃です。SHM-CDも良く出来ていたので“高音質CDはSHM-CDで出そうか”という話もしていたのですが、Blu-rayを作るにあたって高度な技術を研究開発したので、“これをCDに活かさないのはもったいない”という話になった。作ってみたところ良い結果が出たので、埋もれさせるのはもったいないという話になり、発売が決定した」という。 “高音質なCD”としては、SACDとの住み分けも気になるところだが「SACDの置き換えという気持ちはありません。普通のCDプレーヤーで再生できるというのがポイント。“普通のプレーヤーでかかる音をより良くしよう”というのがBlu-specのテーマです。それ以上の音を求める方にはSACDという位置付けになる」(渡辺本部長)とのこと。 ラインナップは専用ページに掲載されているが、「ベートーヴェン:交響曲第9番ニ短調『合唱』」(クラウディオ・アバド/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団)、「アヴェ・マリア」(キャスリーン・バトル)などのクラシックや、マイルス・デイヴィス「カインド・オブ・ブルー」、「オン・ザ・コーナー」などのジャズ、ELO「ディスカバリー」、ザ・バーズ「ミスター・タンブリン・マン」などのポピュラー作品が12月24日発売の第1弾として計60タイトル用意。第2弾はボブ・ディランやエアロスミスなど、洋楽20タイトルが2009年1月21日に発売される。
その後もタイトルは順次拡充される予定で、旧作だけでなく、新譜でもBlu-specの採用を増やしていくという。また、通常CDとの聞き比べを目的としたサンプラーCDの発売については「お問い合わせは何件も頂いているが、現在のところ予定はない」という。価格はほとんどが2,500円だが、タイトルによっては3,500円、4,200円などもある。通常のCDと比べると若干高価だ。
今後SMEでは、SHM-CD/HQCDと同様に、Blu-specをソニーミュージックだけで利用するのではなく、他社へも採用を呼びかけていく予定。ユーザーとしては名称が増えるので混乱してしまいそうだが、どのディスクでも通常のCDプレーヤーで再生できるのが救いと言える。クオリティには確かな違いがあり、オーディオファンとしては音楽CD高音質化の流れを素直に歓迎したいところだ。
□Blu-spec CDのホームページ (2008年11月18日) [AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]
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