|
NHKは16日、12月1日よりスタートした有料VODサービス「NHKオンデマンド」の運用設備を報道向けに公開した。同設備は、東京渋谷のNHK放送センター内に設置しており、放送番組を同時録画し、各配信サービス向けのデータを生成することが主な役割となっている。 NHKオンデマンドは、NHKサイト内でPC向け配信が開始されたほか、対応テレビで使用できる「アクトビラ ビデオ・フル」と、ケーブルテレビの「J:COM オン デマンド」、対応する光回線向けの「ひかりTV」で展開をしている。PC向けはSD解像度のWindows Media Video形式で配信、テレビ向けはMPEG-2もしくはMPEG-4 AVC/H.264のHD映像で配信される。
番組の販売方法は2方式あり、NHKの地上波/BS合わせて1日10~15番組を放送後から約1週間、購入後24時間まで視聴できる「見逃し番組」と、1,200本以上のタイトルを用意し、購入後72時間まで再生可能な「特選ライブラリー」の2種類を用意。単品の視聴料金は、PC/テレビ向けいずれのサービスも105円~315円。「見逃し番組」には1,470円の「見放題パック」も用意し、ニュース番組は「見逃し番組」のみで提供している。
■ MPEG-2 25Mbpsで同時録画の後、各サービス向けに変換
オンデマンド運用設備は、東京 渋谷のNHK放送センターに設置されている。コンテンツ制作ルームはさほど大きくなく、24時間常時数人程度のスタッフで運用できるという。 運用設備内では、NHK総合や教育、BS-hi、BS1、BS2などの放送から、配信用の番組を48時間連続で同時録画し、見逃し番組用のファイルなどを作成する。 見逃し番組と特選ライブラリーでは、運用のフローが異なっており、見逃し番組は放送番組を同時録画して、ファイル化。MPEG-2 TSの放送を録画するのではなく、放送用エンコード前のHD-SDI出力を25MbpsのMPEG-2でエンコードするため、放送された番組より高画質なファイルが作成できるという。 このファイルに、字幕の付加や著作権処理上配信不可能なコンテンツの削除などの編集を実施。その後自動検査を経て、作成したファイルを各配信サービス用のマスターファイルとして利用する。なお、特選ライブラリー向けの番組は、古いコンテンツが多いため、川口アーカイブスで各種編集/ファイル化した後、渋谷放送センターに専用線で伝送する場合が多いという。
配信用の元ファイルを用意した後は、見逃し番組/特選ライブラリーとも共通で、渋谷の放送センターで各配信サービス向けの動画形式に変換。PC向けはSD解像度のWindows Media Video、テレビ用は1,440×1,080ドットのMPEG-2(J:COM)もしくは、MPEG-4 AVC/H.264(アクトビラ、ひかりTV)。テレビ用のビットレートはJ:COMが約14.5Mbps、アクトビラ、ひかりTVが約7Mbps。それらのファイルに、公開管理用のメタデータを付与した後、各社の配信サーバーに登録する。 なお、作成した「見逃し番組」用ファイルは、ライブラリー化が見込めるものを除いて、原則削除していく方針。「例えば半年蓄積した後に消すなど、運用法を考えていく」とした。
■ 登録者数は一万人突破。権利処理に工夫。機能強化も検討中
NHKオンデマンド室の清水裕子副部長は、これまでの利用状況や今後の番組強化方針などについて説明。PC版の12月1日からの総登録者数は、11,000人を超えており、その約半数が実際に番組を購入しているという。また、購入者の約3分の1が見逃し番組の「見放題パック」に加入している。なお、アクトビラなどのテレビ向けサービスの課金数は、「先週末時点で約1,000件」としている。 見逃し番組と、特選ライブラリーのそれぞれの番組は、出演者は権利者との契約形態が異なっているため、権利処理上は分割して管理されている。権利交渉は、“見逃し”については、基本的に制作時に許諾を得るようにしているという。特選ライブラリーは、権利料や支払い方法などが異なるため、制作時に全てクリアにしているわけではない。ただし、“見逃し”の実現のために、権利者情報を管理する仕組みを取り入れているため、権利者を探す手間/コストなどは削減できるとしている。なお、「篤姫」が見逃し番組に入っていないのは、出演交渉が2~3年前で、まだ配信用の契約がなされていない時期だったため、としている。
見逃し番組については、基本的に前の週に配信予定番組を確定しており、例えば今週の場合は、122番組を配信予定という。基本的には放送そのものを各プラットフォームにあわせてエンコードし、配信するが、例えば特定のシーンで、放送用に借用した映像の利用料が高く、2次配信には利用できない場合もある。そうした場合は、一部を編集で削除する、あるいは放送予定リストから外すといった事例も出ているという。こうした編集が必要となるのは、「特にニュースの中のスポーツなど」(NHKオンデマンド室 所洋一副部長)で、ネット配信用の権利許諾を得ていない場合が多いため、削除する機会が多い。 NHKオンデマンド用の配信番組作成はほぼすべて自動化しているものの、一部の番組では編集が必要となるため、運用室にも編集機材を用意している。 1月には見逃し番組にドラマを追加するなど、コンテンツの幅も拡大する。清水副部長は「一日、10~15番組と発表していたが、その程度かやや多めにコンテンツを増やしていけている。ただ、その日にならなければ、出るか出ないかわからないこともあるが、それでも、なんとかやっているという“綱渡り的な運用”」と現状を紹介した。 特選ライブラリーについては、「大型のシリーズ番組に人気があつまっているほか、経済最前線などBSで放送中の番組も人気が高い」とする。「その時歴史が動いた」、「プロフェッショナル 仕事の流儀」などの人気番組だけでなく、放送時にはそれほど人気の高くなかったNHKスペシャルの各番組もかなり見られているという。 12月には約1,200本の番組を用意。音楽番組や、「BS鉄道ファンクラブ」など幅広い作品の配信を開始している。1月には「美空ひばり わが命燃えつきるとも」、「ハイビジョン特集 千の風になって」などの配信も開始する。
また、「第一回の大河ドラマを見たい」など、古い番組を求める声もあるが、昔の番組についてはアーカイビングされていないものが多いという。ただし、「全部は無くても、一話目や残っているものだけでも、揃えていくことも考えている。貴重な映像を気軽に見ていただくものNHKオンデマンドの趣旨。人気がある番組だけではなく、NHKならではの番組を残していく」とした。 PC用の配信サーバーについては、「3年後の規模として30万の同時アクセスでも、大丈夫な規模と考えている(NHKオンデマンド室 所洋一副部長)」としている。 今後のプランとしては、ダウンロード対応なども検討されているという。ただし、「ダウンロードに対応するとしても、テレビ、PCともにレンタルモデルになるのではないか」としており、「実際にPC向けでは、3Mbpsのレンタルについても検討し、主観評価による実験を行なったが、1.5Mbpsと大きな違いがでなかった。ただし、8MbpsでHDが見られるようになればまた変わってくる。レコメンド機能などの声も受けており、ニーズに対してはクイックレスポンスを、と考えている」とし、ユーザーニーズや環境の整備が整えば、ダウロードやPC向けのHD配信もありうるとの考えを示した。 なお、字幕のON/OFFなどには対応していないが、この理由はテレビ向けの各配信プラットフォームが対応できていないため。「早送りした際にきちんと同期できないなどの問題がある」という。今後検討は続けていくとしている。 また、現在PC向け配信サービスはWindows Media Video形式だけで、Windows OS搭載PC以外では視聴できない。この点について、所副部長は「4月にサービスの検討を本格化した際には、コンテンツ保護機能には使えるものがあったが、ビジネスモデル/ルールとしてきちんと使えるものはWindows Mediaしか無かった。きちんとビジネスができるもので、費用対効果にあうものであれば、ニーズにあわせて対応していきたい。ただ個人的には、枯れた(採用事例の豊富な)ものを使いたいと考えている」とした。 □NHKオンデマンドのホームページ ( 2008年12月16日 ) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
Copyright (c)2008 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved. |
|