小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」

本稿はメールマガジン「小寺・西田の『金曜ランチビュッフェ』」からの転載です。金曜ランチビュッフェの購読はこちら(協力:夜間飛行)

アニメで稼ぐということ。まつもとあつしさんと探る「アニメビジネスの今」

まつもとあつしさんと探る「アニメビジネスの今」:小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」対談シリーズ、7月28日Kindleストアで販売開始

本電子書籍は、メールマガジン「小寺・西田の『金曜ランチビュッフェ』の人気連載コーナーである「対談」のうち、特に人気が高かったものを、シリーズ毎にまとめたもの。そのうち、2017年6月9日発行のVol.131から7月21日発行のVol.136まで6回に分けて掲載された、ジャーナリストのまつもとあつしさんとの対談をお送りする。基本的な内容については、1本にまとめるための編集に必要な部分を除き、メルマガ掲載時のものに基づいている。

まつもとあつしさんと探る「アニメビジネスの今」:小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」対談シリーズ(Kindleストアで購入)

今回の対談のお相手は、ジャーナリストで研究者でもあり、コンテンツプロデューサーという肩書きも持つ、まつもとあつしさん。まつもとさんはアニメ関連に強く、ビジネスとしてのアニメを継続的に取材しておられる、この分野では日本有数の論客である。

筆者は配信を長く取材してきたが、やはり「アニメ」は大きなテーマ。まつもとさんとは折に触れ情報交換をしてきたが、ここであらためて、アニメビジネスの今を確認してみたく思い、対談を申し込んだ次第だ。

今のアニメビジネスとはどんな状況なのか、お互いに意見を交わしつつ探っていく。

まつもとあつしさん。アニメをビジネスの観点から語らせたらこの人しかない、という人の一人だ

ネット配信はアニメにとって「カネになる」のか

西田:配信を含めたアニメのビジネスを、がっつりウォッチしている方は、意外と少ないじゃないすか。

たとえば、アニメの良し悪しを語る方は大量にいるわけですよね。映画の良し悪しを語る方も大量にいる。

でもそれをビジネスとしてどういう観点か、客観的に見つつ、たとえばネットカルチャーであるとか、そういったものの空気感まで知った上で喋れる方というのは、そんなにいないな、というのは思っているんです。

僕もなんとか頑張ってそれをやろうとはしているわけですけれども、まつもとさんはそれに加えて、より、アニメ業界側の視点をお持ちです。どこまで行っても僕はファンになりきれない、というのがある。アニメは好きですけど、トラディショナルなオタクの定義からはだいぶずれているわけですよ。というか、古いわけです、言ってしまえば。萌えがわかんないし。

まつもと:なるほど。

西田:そういう意味合いにおいて、やっぱりわかりきらないところもあるんですよね。

まつもと:はい。

西田:現場の方、いわゆる実ビジネスをしている方とのお付き合いというのはまつもとさんのほうが多いわけですが、どう評価しているか、というのを、一度じっくりおうかがいしておきたかったな、というのを思ったんですよね。

まつもと:逆に言うと、西田さんはたとえばNetflixの経営陣をはじめ、外資の配信側にはがっつりと入り込んで取材をされてるな、という印象を持っていて。西田さんは「そっち側」というとアレなんですけど、そちらにけっこう食い込んでいらっしゃる。

僕は、アニメ業界、たとえばこの5月の連休には、徳島の「マチ★アソビ」。僕はほぼ毎回参加してるんですけど、そこで業界の人と話をしたりとか、後はトークイベントもやったりしてるので。そのあたりの、お互いの軸足の置き方の違いからたぶん見えてくるものがあるんじゃないかと。

西田:そうなんですよ。

まつもと:楽しみにしておりました。

西田:この話を、きちんと、視点が違う人同士でお話できないかな……というのが今回の主旨でございます。

まず、読者向けに、まつもとさんのバックグラウンドを簡単にご紹介いただければと思うんですが。

まつもと:肩書きとしてはジャーナリスト、コンテンツプロデューサー、研究者、という、その3つの属性で活動していまして。ジャーナリストという部分は西田さんがやってらっしゃることと近いですね。

で、コンテンツプロデューサーがいつも謎だと言われるんですけど。たとえば『この世界の片隅に』のクレジットにスペシャルサンクスで入れていただいたりとかしてまして。

西田:ええ、入ってましたね。

まつもと:コンテンツそのものを僕が作るということはないんですけど、簡単に言うと、その宣伝のお手伝いとか、アドバイスをさせていただく、ということはやっています。昔はソーシャルゲームをプロデュースしたりということもやってたんですけど、最近は主に宣伝面でのお手伝いという感じですかね。

西田:なるほど。

まつもと:研究者というのは、東京大学の情報学科にまだ博士課程でいまして。なんだかんだで東大に10年ぐらいいるんですけど。

西田:そうか、もうそんなになるんですね。

まつもと:長いんです。休学とかも挟んでるので。あとは今、法政大学の社会学部で講師もやっているということで、一応研究者と名乗っていいだろう、と思ってやっております。

西田:それは十分名乗っていいと思います、はい。

まつもと:ニートじゃないぞ、と(笑)。

西田:(笑)。わかりました。といったところで、もう僕の質問にまず答えていただくところから行こうかなと思うんですけど。

まつもと:はい。

西田:これはおそらく読者の方も気になってると思うんですけど、ぶっちゃけ配信をアニメ業界の人はどう見てるの、と。

僕にも、Netflixの本を書いたりしたので、ヒアリングの依頼だとか、顔つなぎの依頼とかがたくさんあったわけですよ。

一方で、もうあれから2年、3年経って、普通にビジネスとして配信が使われている。皆さんマネタイズの中に明らかにきちんと組み込んできているんだけど、その現場の方々がどう見てるかというのが今ひとつ伝わってこない。ポリゴン・ピクチュアズの塩田(周三)さんなんかにはいろいろうかがって、「ああそういう見方があるのね」とは思っているんですけど、ポリゴンさんは特殊な会社なので。

まつもと:そうですね。

西田:ええ。なので、よりゼネラルにアニメ業界を見たうえで、配信というのがどう捉えられてるのかな、というところをまずうかがっておきたいなと思うんですよね。

まつもと:そうですね……。伝統的な、というか、標準的なアニメのアニメビジネスに関わっている人たちからすると、やはりテレビで認知を稼ぐ、というのは引き続き有効なんですよね。

西田:それがプライオリティ・ワンということですよね?

まつもと:はい。やっぱりそこは、配信が勝てるかというと、まだそうはなってないかなと思いますね。

ただ、これは西田さんには釈迦に説法なんですけど、じゃあ全国津々浦々で放送できるかというと、そうじゃないわけですよ。関東圏にいると気が付かないですけど、ちょっと出張に行ったらまったく放送されてなかったりするわけです。

そこで、ウィンドウを補完する、ファーストウィンドウを補完するために配信を使う、という意味で、配信がありがたいということにはなってきてますよね。

逆に言うと、BSのアニメチャンルとしてのプライオリティはちょっと下がっちゃってるかな、というふうに思っています。

西田:なるほど。やはり今の扱い方としては、金銭的な補完というよりは、ウィンドウ、認知を上げるためのプレースシフト的な捉え方が強いと。

まつもと:真っ先に想定というか、製作委員会の中で事業計画を組む上では、その発想にはなりますよね。やっぱりいかに多くの人に観てもらうか、というところがビジネスの起点ではあるので。

ただ、西田さんも仰ったように、マネタイズという部分でもかなり魅力的にはなってきているわけですよ。AmazonプライムやNetflixが、ちゃんとお金を出してくれる。

それまでの配信って、けっこう安かったじゃないですか。

西田:まあ、言ってしまうと……たぶん読者の方はあまり知らないと思うんですけど、ニコニコ動画で無料配信しても、お金なんてほとんど入ってこない。

まつもと:そうそう、それは象徴的な話ですよね。それはもうニコ動の中の人が「払いません」ということを公言されているので。

かつては「認知を取っていくために仕方がない」という捉え方があったわけなんですけど、そこに独占配信を含めて「ちゃんとお金を払いますよ」というプレイヤーが出てきた。そのインパクトがけっこう大きいですよね。

西田:なるほど。

まつもと:このあいだ「マチ★アソビ」で、ウルトラスーパーピクチャーズのプロデューサーの平澤(直)さんをお招きして話をする機会があったんですけど、明確に〇%、というふうにはおっしゃらなかったんですけど、最初に必要な原資の半分を超える額までもが、配信事業者によって支払ってもらえるケースがある、と。

西田:おお、なるほど。

まつもと:ただ、あくまで……特に外資は顕著ですけど、納品ベースでのお支払いなんですよね。完成して初めての支払いなので。

これはアニメの業界の慣習というか伝統なんですけど、たとえば企画段階でいくらかお金がもらえる、という形があるんです。しかし配信では、それはありません。結果だけ見ればありがたいんですけど、キャッシュフローという観点からは、もうちょっと早くくれないかな……みたいなところは正直あると思うんです。

いずれにしても、今までそういうお金の払い方をしてくれる、つまり、制作費は1億2000万から2億円ぐらいかかりますけど、その半分近い比率をポンと出してくれる会社ってなかなかなかったわけです。製作委員会にはけっこう細切れに、たくさんの会社が名前を連ねて数千万ずつ、場合によっては数百万出します、ぐらいの話だったところに、そういう人たちが現れてきた。これは非常にインパクトがありますよね。

「リクープ」と「レベニュー」の間に

西田:その時に――ここもはっきりさせておきたいなと思うのは、マネタイズを考えた時に、その方法って、いわゆるキャラクターグッズ、ディスクを売る、この2本。まあ他にもたくさんありますけど、この2本はすごく大きい。最終的に「物を売る」ということによってマネタイズをしようというのが主だったわけじゃないですか。

で、その中に「制作費の回収」という意味合いにおいては、配信収入を組み込めるようになった……と言っていいわけですね。

まつもと:そうですね。我々が言うところのマネタイズもたぶん分類しないといけなくて。やっぱり制作費の回収、リクープと言ったりしますけど、リクープをまず図るというのは絶対条件なんですよね。

西田:まあビジネスですからね。

まつもと:絶対条件なんですけど、ところが映像ビジネスにおいてはこれが果たされていないというケースがよくあってですね。映像業界以外の人から見るとびっくりされるわけなんですけど。

そのリクープの前段階の資金調達での非常に大きなメリットを、外資系の配信事業者は提供してくるようになった、というのがまず一点ですね。

ただ、マネタイズの第二段階というか、より、「リクープはしました、じゃあ儲けていきましょう」というところ。

西田:いわゆる“レベニューを上げる”という状態ですね。

まつもと:はい。そこで配信がどのぐらいのインパクトがあるかというと、動画協会さんが毎年レポートを出してますけど、比率は上がってるんですけど、まだまだ大きくはないですよね。レベニューという点では。

西田:おっしゃる通り。

まつもと:けっこう最近、パッケージってやっぱり大事だよね、とか。グッズもそうなんですけど、たとえば女性ファンなんかもすごく買うようになったということも含めて、ビット(情報)じゃなくてアトム(手に取れる物)ですよね。アトム型の消費ってやっぱり有効だよね、という、揺り戻しみたいな現象は起きてます。

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まつもとあつしさんと探る「アニメビジネスの今」 目次

・ネット配信はアニメにとって「カネになる」のか
・「リクープ」と「レベニュー」の間に
・アニメにおけるDVDは「バブル」だった?!
・アニメの「続き」とビジネスの継続
・CGは日本のアニメを救うのか
・アニメ配信のビジネス構造とは
・価値ある「売り場」をどう作るのか
・「マチ★アソビ」から考えるコンテンツツーリズム
・作品と「属人性」の関係
・産業が育つためには「アーカイブ」と「評論」が必要
・「直接伝える」時代へ、変わるプロモーション
・「テレビ放送」にとってのアニメとは

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西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
 メールマガジン「小寺・西田の『金曜ランチビュッフェ』」を小寺信良氏と共同で配信中。 Twitterは@mnishi41