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「交響組曲 AKIRA 2016」試聴会で、DSD 11.2MHzの“圧倒的な音”を聴いた

 大友克洋監督による'88年の劇場アニメ「AKIRA」。その劇伴を手がけた「芸能山城組」組頭・山城祥二氏が新たに生み出した、「Symphonic Suite AKIRA 2016 ハイパーハイレゾエディション」(交響組曲 AKIRA 2016)が、各種ハイレゾ配信サービスから配信されている。

「交響組曲 AKIRA 2016」リリース記念試聴会・トークが東京・八重洲のGibson Brands Showroom Tokyoで行なわれた

 中でも、e-onkyo musicではDSD 11.2MHzバージョンの配信を行なっているのが特徴。新たな独自技術「ハイパーソニック・ウルトラディープ・エンリッチメント」による音響処理を施して今回のWAV/FLAC/DSDでのハイレゾ音源化が実現したが、DSD 11.2MHzはその”究極の形”を提示するものだという。実際にどのような音なのか、東京・八重洲のGibson Brands Showroom Tokyoで7月28日に開催された試聴会を訪れた。

「AKIRA」BD発売記念のポスターや、芸能山城組の催しのポスターが並んでいた

 「交響組曲 AKIRA」はこれまでにも、CDやDVD-Audioなどのパッケージで発売されてきたが、それらの規格に収めると音の器として小さいために“完全な形”にはならなかったという。そこで、昨今のハイレゾブームを踏まえ、新たに”究極の形”となるDSD 11.2MHzなどのハイレゾ音源で配信することになった。e-onkyo musicではWAV/FLAC 192kHz/24bitが3,672円(税込)、DSD 5.6MHz(DIFF)が4,212円(同)、DSD 11.2MHz(DIFF)が5,292円(同)で配信されている。

 今回の試聴会では、山城氏が学者・大橋力として開発した、特殊なスーパーツィータを使用。バイモルフ型積層圧電セラミクスアクチュエータを使ったもので、広い指向角と200kHzまでフラットに再生可能な特性を持つ。

大橋力氏が開発した特殊なスーパーツィータ

 筐体内にアンプを内蔵し、超高周波の信号が入力されると、その状況を前面の赤青緑3色のLEDで表示する。外形寸法は11×22×6.5cm(幅×奥行き×高さ)。

スーパーツイータの背面
超高周波の信号入力で前面に3色のLEDが灯る

 このスーパーツィータと組み合わせるのが、GENELECの3ウェイラージモニタースピーカー「GENELEC 1234A」。クラスDの専用アンプを繋いでおり、各ユニットを独立駆動。

GENELECの3ウェイラージモニタースピーカー「GENELEC 1234A」

 試聴会当日に、GENELEC製品を取り扱うオタリテックの担当者が会場に持ち運び、マイクを使った測定を行なって会場に合わせたチューニングを施したという。

GENELEC 1234Aの特徴を説明するオタリテックの担当者
専用アンプが下に置かれていた
試聴音源の再生に使われた機材

 試聴会は、曲長が長いものは一部抜粋という形をとりつつ、全楽曲を再生。楽曲ごとの合間に、製作時の思い出や聴きどころが短く紹介されるという形で進められた。

 この組み合わせによるサウンドは非常にインパクトがあり、聴いていると「交響組曲 AKIRA 2016」で使用されているガムランやジェゴクといった南方の民族楽器や、日本の能楽のリズムや音声が、強い音圧で押し寄せながらも繊細に、1音1音細かく感じ取れる。それは音を耳で聴くというよりも、密度の濃い音を全身で浴びているイメージで、圧倒的なものだった。

 会場には様々な年代層の男女が集い、交響組曲 AKIRA 2016の究極の音にじっくり耳を傾けていた。今回のイベントの進行役を務めたAV評論家の麻倉怜士氏によると、芸能山城組のメンバーもこのDSD 11.2MHzの音源を同じような環境で聴いたところ、音がよりリアルになったために、自分がどこで歌っていたかがはっきり把握できるようになっていた、とのこと。

会場には様々な年代層の男女が集い、その音に耳を傾けていた

新技術「ウルトラディープ処理」で、AKIRAのサウンドをより濃厚に

 イベントには山城氏のほか、レコーディングエンジニアの高田英男氏、マスタリングを担当した放送大学の仁科エミ氏が登場。

山城祥二(大橋力)氏

 山城氏は今回、交響組曲 AKIRA 2016のDSD 11.2MHzバージョンを制作した意義について「(音を入れる)メディアとして、どこまで射程距離を持っていくか。今回は(DSD 11.2MHzを使ったことで)圧倒的に射程距離が伸びた。全てを込めたつもりで作った。ゆっくり聴いて楽しんでいただきたい」と話した。

麻倉怜士氏の進行で進められた

 イベントの進行を務めた麻倉氏は、DSD 11.2MHzバージョンを「人間にふさわしい音」と表現。「生々しい肌にビンビンくる音が楽しめ、暴力的な音すら楽音に聞こえる。11.2MHzの一番素晴らしい部分が感じ取れる。GENELECの中域の音は大橋さん(山城氏)のスタジオでも聴けたが、そのスタジオクオリティの音をこの会場までもってくることができた」とコメント。

 山城氏と共に音作りに携わった高田英男氏は、「音のリアリティを山城氏とともに追求した。ガムランやジェゴクといった楽器の音に“色彩感”を与え、日本のトップドラマー、山木秀夫氏のドラムサウンドや、全体のベースとなるシンセサウンドを手がけた浦田恵司氏の音に躍動感、グルーブ感やパワーといったものを付けていった」と、音作りの方向性を振り返った。マスター音源では、音の移動感を感じさせるためにダミーヘッドマイクによる音源の収録も行なわれていたが、そうした独特な音の広がり感も再現されている。

高田英男氏
「交響組曲 AKIRA 2016」音作りのポイント
肉厚の竹を使った民族楽器「ジェゴク」の、当時の演奏の様子
「交響組曲 AKIRA 2016」の制作環境
仁科エミ氏

 仁科エミ氏は、「(楽曲制作時の)1988年にはできなかったことが、ハイレゾと(大橋氏の)独自技術の組み合わせでできるようになった」とコメント。大橋氏の独自技術とは、人の耳で知覚できない高周波を含む音が、脳のさらに奥の“基幹脳”を活性化するという理論「ハイパーソニック・エフェクト」と、これに基づいて開発された新しい音響技術「ハイパーソニック・ウルトラディープ・エンリッチメント」のこと。

 交響組曲 AKIRA 2016は、'88年の劇場版で使われた音源と同じマスターを使っているが、そこに熱帯雨林でオリジナルレコーダにより録音してきたという高周波音源を加える「ハイパーソニック・ウルトラディープ・エンリッチメント」(ウルトラディープ処理)を施している。熱帯雨林には瞬間的に200kHzに達する成分も含まれ、それらが交響組曲 AKIRA 2016の音により深みを与えるものとしている。

熱帯雨林で200kHzにも達する高周波音源を録音
オリジナル開発のDSD 11.2MHzレコーダ。出力信号の減衰を抑えている
ウルトラディープ処理の結果

 仁科氏によると、大橋氏の理論では、50kHz以上など人に聴こえない超高周波と、聴こえる帯域の音(可聴音)を組み合わせて人が聴くと、脳幹や視床下部、視床といった脳の深い部分「基幹脳」のネットワークが活性化され、免疫系や脳血流、認知機能などに活性化が見られるという。

 こうした超高周波は、ヘッドフォンやイヤフォンで、耳だけで聴くのではなく、可聴音と合わせて全身で受けることで、「ハイパーソニック」を発現させられるのだという。

ハイパーソニック理論の概要
基幹脳の活性化に効果的な超高周波成分は、市販スピーカーでは再生が難しいという

 ただし、市販のスピーカーは、効果的な超高周波成分の再生が難しいため、基幹脳の活性化には及ばない。そのため、今回の試聴会では独自に開発したスーパーツイータを使ってそれを実現した。

 実際、試聴会の終盤でこのスーパーツイータからの出力の有り無しで違いを聴き比べたところ、同じ音源で確かに音の細かさや音場の広がりに違いが感じられた。仁科氏は、このスーパーツイータを購入したいという要望が多いことから、将来的には市販化することも検討している、と話していた。