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五輪を追い風に“家電のDNA”を活かし、BtoBソリューション拡大するパナソニック

 パナソニック AVCネットワークス社は、スタジアムやテーマパーク向けのエンターテイメント分野において、サイネージや高輝度プロジェクターなどの活用したソリューション提案を加速。2018年度には、同カンパニー全体で1兆2,500億円の売上高を目指す。また、東京オリンピックに向けた商談がすでに開始しており、パナソニック全体では、1,500億円規模になると想定。「リオオリンピックでは、AVCネットワークス社だけで3桁の億には届かなかったが、東京オリンピックでは桁が変わる規模になる」(パナソニック 代表取締役専務 AVCネットワークス社社長の榎戸康二氏)とした。AVCネットワークス社では、プロジェクターや放送機器、放送カメラのほか、東京オリンピックではセキュリティ関連ソリューションなどにも商談の幅が広がるという。

パナソニック 代表取締役専務 AVCネットワークス社社長 榎戸康二氏

 パナソニック AVCネットワークス社は、2018年度に売上高2兆9,000億円を目指しているB2Bソリューション事業の中核となるカンパニーであり、AV技術とICT技術を融合した法人向け製品およびソリューションをグローバルに提供している。

 エンターテイメント、流通・物流、パブリック、アビオニクスの4つの事業領域において展開。2015年度実績で1兆1,727億円の売上高を、2018年度には、1兆2,500億円にまで拡大させる考えだ。

AVCネットワークス社のBtoB事業の方向性

スタジアムなど五輪需要が見込めるエンターテイメント事業に注力

 パナソニック AVCネットワークス社の榎戸康二社長は、「AVCネットワークス社は、パナソニックのBtoBソリューションを牽引していく役割を担う。また、家電のDNAをしっかりと継承し、『お客様のお客様』を意識した視点で取り組んでいる。テクノロジーの強みを発揮できる分野において、グローバル展開を行ない、IoTソリューションのリーディングカンパニーを目指す」とする。

 とくに、重点領域のひとつとするのが、現在、2,500億円の事業規模を誇るエンターテイメント事業である。2018年度には3,000億円の事業規模を目指す。

 「オリンピック需要が見込める領域であり、パナソニックにとって追い風になる分野」と位置づける。

 ここでは、「スタジアム」、「テーマパーク」、「IR(統合型リゾート)、MICE(会議、研修旅行、国際会議、展示会・イベント)の3つの市場において成長が期待できるとする。

エンターテイメント事業の注力領域

 「スタジアムではオリンピックを含み、大きな事業成長が見込める。また、テーマパークでは、テクノロジーが重要視されている。さらに、IRおよびMICEにおいても、施設強化に対する要望が増えている。集客力向上、客単価向上、来場者の満足度向上、体験価値の最大化、ファンやリピーターとの関係強化といった点において、パナソニックは明確な価値を訴えることができる。世界ナンバーワンシェアを持つ高輝度プロジェクターや、放送業務用カムコーダー、サイネージやディスプレイパネルといったコア商材を活用したソリューション提供で差別化を図る」と語る。

 スタジアムソリューションでは、やはりリオオリンピックでの成果が大きい。オリンピックの公式TOPスポンサーでもあるパナソニックは、大型LED映像表示装置では72面、1,886平方mと過去最大規模で納入したほか、プロ用音響システムを41会場に納入。会場でのオペレーションやメンテナンスを含めた映像トータルソリューションを提供。また、放送機器では、システムカメラを約40台、放送用スイッチャーを約70台納入。プロジェクターは、開会式用に約110台、その他で約210台を納入。「それぞれの機器が、ロンドンオリンピックの2~4倍の規模になっている。開会式、閉会式の映像演出を元請けとなって対応。プロジェクションマッピングは、イベント演出における大きな事例のひとつになる」とし、「リオオリンピックでの実績をきっかけに、米国、欧州、日本において、エンターテイメントソリューションにもっと力を注ぐきっかけができた」とする。開会式では、4Kシネマカメラ「VARICAM 35」で独自映像を撮影。250型の大型スクリーンで4K上映してみせた。

 さらに、リオオリンピック開催期間中には、シュガーローフマウンテンに、企業パビリオンとして「Stadium of Wonders」を開設。最先端技術を活用したトーチリレー情報の提供や、透明ディスプレイによる空間演出などを行なった。

 リオオリンピック以外の案件でも、スタジアムへの大型案件が相次いでいる。宮城県仙台市の東北楽天ゴールデンイーグルスの本拠地である楽天koboスタジアム宮城において、縦10.24m、横25.088mの大型LEDビジョンによるスコアボードを導入したほか、コントロールルームにスタジアム統合演出マネジメントシステムを導入。リモートコントロールカメラを活用して、試合の状況を録画。チームの戦略分析にも活用しているという。また、モバイルオーダーシステムを導入し、座席から食べ物などを注文し、イニングの間にこれを受け取れるようにした。

koboスタジアムの事例

 「koboスタジアム宮城は、最も最新の技術を取り入れたスタジアムといえる」と位置づける。

 また、北海道日本ハムファイターズの本拠地である札幌ドームでは、バルーンカムによって、上空からの撮影を行ったり、380型相当のガラスにプロジェクターで情報を投影する高臨場感プレミアム演出空間を用意。試合をみながら、選手の情報などを得られるという。「バルーンカムは、今後ライセンスビジネスとしても展開できる環境が整っている」とした。

札幌スタジアムの事例

 海外でも大型案件がいくつも出ている。

 2017年完成予定の米大リーグのアトランタ・ブレーブスの本拠地であるサントラストパークでは、LEDビデオディプレイ&メッセージボードを14面、55型2面デジタルサイネージシステムを13台のほか、AVシステム/サウンド、放送カメラ、セキュリティカメラなどを導入。米アメリカンフットボールのフィラデルフィア・イーグルスの本拠地であるリンカーンフィナンシャルフィールドでは、LEDボードおよびリボンLEDを39面、フラットパネルディスプレイを1185台、統合グラフィックヘッドエンドシステムおよびウルトラワイドカメラシステムなどを導入。「米国で最大規模の導入案件となり、LEDなどの表示装置だけでなく、放送機器を含めた大型案件となっている」とする。

MLBアトランタ・ブレーブスのサントラストパーク

機器ベンダーから総合演出のテクノロジーパートナーに

 榎戸社長は、エンターテイメント事業において、2つの方向性を打ち出す。

 ひとつは、製品軸のビジネススタイルから、顧客中心の事業への転換だ。榎戸社長は、「機器ベンダーから、総合演出・運営ソリューションのテクノロジーパートナーへと転換。コア商材で事業基盤をつくり、ソリューションへと展開する」と語る。

コア商材をつくり、ソリューション展開

「これまでのビジネスは、コア商品を軸とした製品提案であったが、そうしたテクノロジーパートナーとしての立場でのさらなる技術追求はもちろんのこと、映像、音、光の総合演出やデザイン、運営ソリューションの提案により、空間を演出する演出業にも進出。コンサルティングを含めた領域でエンターテイメント事業を行なうことで、代替不可能な存在へと進化。さらに、この実績を様々な業態に横展開することで、全体で営業利益10%以上を実現する事業へと育てていく」とした。

 AVCネットワークス社では、これにあわせて経営管理の指標も、商品軸から、業界軸へとシフトする考えを示し、アビオニクス事業がすでにこの体制に移行していること、エンターテイント事業においても北米の拠点ではすでに導入していることを明かしながら、AVCネットワーク社全体に、この仕組みを導入する意向を示した。

もうひとつは、これらのエンターテイメント事業を推進する上で、北米市場を重視していく点だ。エンターテイメントビジネスにおいて重要な役割を担っているのが、北米に本拠を置くパナソニックエンタープライズソリューションカンパニー(PESCO)である。

 「ハードウェアの設計は日本の拠点で行なってもいいが、演出やサービス、施工の中心となるのは、市場の大きいところを拠点とすることが適している。AVCネットワーク社のアビオニクス事業は、カルフォルニアを本拠にして、グローバルでビジネスを行なっている。エンターテイメント事業についても、その方向で考えている」と述べた。

東京オリンピックでは「桁が変わる」

 エンターテイメント事業の今後の事業成長の柱になるのが、2020年に向けた東京オリンピック/パラリンピックである。

 リオオリンピック/パラリンピックでは、AVCネットワークス社だけで、「3桁の億には届いていない」としたが、「東京オリンピックでは、桁が変わってくる。リオオリンピックでは、映像や放送ソリューションが中心であったが、東京オリンピックではカメラや画像認識技術などのセキュリティ分野にも範囲が広がる」とする。

 パナソニック全体では、映像、放送、セキュリティのほか、ライティング、空調などを含めて、1,500億円規模の事業を想定。AVCネットワークス社とエコソリューションズ社を中心に積極的な受注活動を開始している。

 パナソニック AVCネットワークス社の川島孝一常務は、「リオオリンピックでは、商談時期が開催直前に集中することや、スタジアムを中心とした案件であったが、東京オリンピックでは、かなり前から納入案件があること、スタジアムだけでなく、関連する施設やビルにも商談が広がり、お役立ちできる範囲が広がる。規模感はまったく異なるものになる」と語る。

 榎戸社長も、「東京オリンピックに向けては、いまから予定通りにパイプラインができている。リオオリンピックでは、目に触れるところへの納入は進んだが、セキュリティカメラなど目に見えない部分での商談がまとまらなかった。東京オリンピックではそうした案件も取り込める」などと語った。

 現時点では、AVCネットワークス社単独での東京オリンピックの事業規模は明らかにしていないが、「桁が変わる」というような表現からもわかるように、10倍規模の事業が想定される可能性もある。

 一方、エンターテイメント事業以外の、流通・物流では、2015年度実績で800億円弱の売上高を2018年度には2,000億円規模に、パブリックでは2,800億円規模を3,000億円規模に、アビオニクスは3,000億円強を、3,000億円規模にする計画を掲げている。

 流通・物流では、「伸びしろが一番大きい分野である」とし、「チェーン展開するファストフードへの導入促進とともに、これを横展開していくこと、物流領域においてもトラックで利用するモバイル端末への展開などの大型商談も期待できる。単品だけの販売では、競争が激しいが、店舗オペレーションなどを含めたトータルソリューション提案を進める」と語る。

 これまで単体で販売してきたPOSシステムもソリューションサービスを軸とした提案にシフトする姿勢を示したほか、国内で実績を持つ物流業界向けソリューションを、欧米市場にも展開。タフパッドとの組み合わせ提案も加速させるという。

 パブリックでは、PC事業の強化が鍵になる。2015年度は北米市場で苦戦したが、「米国での体制を改革。2016年度に入ってその成果が出ている。前年比2桁成長を遂げており、想定通りの回復が見込める」としたほか、「日本ではレッツノートが好調に推移している。ロイヤリティの高いユーザーが購入しているほか、タフパッドも商談が増加。欧州も堅調である」と説明した。

 市場成長が著しいセキュリティカメラは、その一方で中国メーカーの参入などにより、価争が激化しているが、「日本ではシェアナンバーワンを獲得。欧州市場では中国メーカーの参入が早かったこともあり、いち早くソリューションビジネスへと舵を切り、その成果が出始めている。だが、北米市場は中国メーカーの参入が活発になってきており、利益確保が厳しくなってきた。映像ソリューション、分析ソリューションなどとの連携提案を加速させ、昨年よりも健全な事業体質に持っていきたい」とした。セキュリティカメラ事業が黒字化しているかどうかについては言及を避けた。

 市場が縮小している固定電話事業については、「身の丈にあった形にしていく」とし、新規機種の開発見直し、ポートフォリオの見直し、人員の再配置などに取り組む考えを示した。固定電話の開発部門の人員の一部を、オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社に異動させるという。

 アビオニクス事業においては、2016年度に減収減益を見込むなど、厳しい局面のように見えるが、榎戸社長は、「2015年度が異常値ともいえる業績を達成しており、減収減益といえども、心配する段階にはない。マクロに見れば順調である」とコメント。また、「飛行機向けのエンターテイメントシステムや通信関連事業の商談が堅調であり、LCCからも通信システムだけを受注するといった動きもある。他社に先駆けて新たな技術に投資をしてきたが、これが回収フェーズに入ってくる」などと説明した。

 パナソニック AVCネットワークス社では、2018年度までに、M&Aなどに1,000億円の投資を計画しているが、「過去3年間で12社の買収を行っており、これまでに500億円程度を使ってきた。流通分野におけるソフトウェア企業、販売を行うシステムインテグレータ、アビオクスにおける通信事業、スタジアムの音響管理システムなどがその対象。1,000億円はひとつのガイドラインであり、筋のいい案件があれば、1,000億円を超えてもいいと考えている」と語った。