ニュース

自社開発DAC マランツ「MMM」搭載。USB DACにもなるハイエンドSACD「SA-10」

 ディーアンドエムホールディングスは、マランツブランドのフラッグシップSACD/CDプレーヤー「SA-10」を10月下旬に発売する。「マランツの今後の5年、10年の基礎となるモデル」と位置付けられ、マランツ独自のDACを搭載するなど意欲的なモデルとなっている。価格は60万円。

マランツブランドのフラッグシップSACD/CDプレーヤー「SA-10」

 なお、発表会場には「SA-10」との組み合わせを想定したプリメインアンプ「PM-10」が参考展示された。SA-10と同時に登場する予定だったが、音質を追求し、開発に時間がかかっているとのことで、来年の早い段階での登場が予定されている。

参考展示されたプリメインアンプ「PM-10」
SA-10とPM-10を組み合わせたところ

オリジナルDAC「Marantz Music Mastering」を採用

 「SA-10」の最大の特徴は、汎用的なチップメーカーのDACを使わず、「Marantz Music Mastering」(通称MMM)と名付けたマランツ独自のDACを開発・搭載している事。マランツはドライブメカエンジンを自社で手掛け、デジタルフィルターも独自開発。DAC後段のアナログステージにも「HDAM」を使うなど、ディスクプレーヤーのほぼ全てのパートを自社でハンドリングしてきた。しかし、DACチップだけは他社のものを使っていた。これを自社開発する事で、「入り口から出口まで、全部マランツ製でコントロールできるようになった」という。

SA-10

 他社の汎用DACを採用した場合、自社開発をする必要がなく、低コストで低リスク、1チップにまとまっているので省スペースで実装基板の小型化ができるといった利点がある。逆に、1つのICチップであるがゆえ、より高音質なパーツをDAC内部に使えない、オーディオメーカーの音質ポリシーに沿ったプログラムを使えないといった問題もあり、これまで「汎用DACである限り、製品を作る際にもどかしいと感じる部分はあった」という。

 そこで、元フィリップスでアプリケーションラボに所属し、DSPに関する高度なノウハウを持ち、現在はマランツのヨーロッパリージョンの音質担当者でもあるライナー・フィンク氏が、マランツオリジナルDACを開発した。同氏はかつて、「DAC7」でビットストリームDACの開発を担当、「CD-7」のデジタルフィルタの開発者でもあるなど、マランツサウンドを理解し、知り尽くしており、そんな彼が手がけたアルゴリズムがMMMには投入されている。

ライナー・フィンク氏

 汎用的なDACの内部は、オーバーサンプリングデジタルフィルタ、ΔΣモジュレーター、DAC、I/Vコンバーターで構成される。MMMこの中の、オーバーサンプリングデジタルフィルタ、ΔΣモジュレーター、DACまでを内包した名称。

汎用的なDACの構成図
茶色い部分がMMM

 具体的にMMMは、オーバーサンプリングデジタルフィルタ、ΔΣモジュレーター、I/F×2、DACで構成する。MMMの中の前半部分、オーバーサンプリングデジタルフィルタ、ΔΣモジュレーター、1つ目のI/Fまでを「MMM-Stream」。後ろのI/F、DACを「MMM-Conversion」と名付けている。

 MMMは、全てのデータをDSDにΔΣ変換して処理する。MMM-Stream内部のオーバーサンプリングデジタルフィルタとΔΣモジュレーターは、PCMデータ用のもの。入力されたPCMをDSDデータへと変換し、MMM-Conversionへと渡す役割を担う。DSDデータが入力された場合は、オーバーサンプリングデジタルフィルタとΔΣモジュレーターはスルー。その後のI/Fに直接入力する。PCMデータであってもDSDデータと全く同じD/A変換プロセスで再生できる。

MMMの内部構成
デジタルオーディオ基板は銅メッキシールドケースに封入されている
MMM-Stream部分

 これにより、後段のMMM-ConversionはシンプルなアナログフィルターのみでD/A変換できる。ディスクリートで構成しているため、音質に大きく影響するパーツを自由に選でき、回路規模も自由に構成できるのが利点。

 また、マランツはこれまで、PCと接続するUSB端子からのノイズが、DACなどに影響しないように高速なデジタルアイソレータとリレーを使って、ノイズの回り込み、グラウンド電位の変動を排除してきた。SA-10にも同様の回路が搭載されているが、それだけでなく、MMMの内部、MMM-StreamとMMM-Conversionの間にも、デジタルアイソレータを投入している。MMM-Streamはデジタル基板に、MMM-Conversionはアナログ基板にそれぞれ分かれて配置。こうすることで、デジタル基板からアナログ基板への高周波ノイズの流入も徹底的に排除した。DSPやUSBのコントローラーICそれぞれの電源ラインに、導電性ポリマーコンデンサを挿入するなどの対策も行なっている。

 全体では2箇所にデジタルアイソレータを使っているため、この対策は「コンプリートアイソレーションシステム・デュオ」と名付けられている。

MMM-Conversion部分。デジタル基板ではなくアナログの基板に配置されている
MMMの内部にもデジタルアイソレータを搭載。合計で2箇所のデジタルアイソレータを採用している

 なお、オリジナルDAC採用の副産物として、処理時のパラメーターをユーザーに開放。PCM信号を処理する場合は、デジタルフィルタ、ノイズシェーパー、レゾネーターの設定を各2項目から、ディザーを3項目からそれぞれ選べるようになっており、最大24通りの音の違いが楽しめる。

 クロックは、従来の2倍の発信周波数の超低位相雑音クリスタルを採用。44.1kHz系、48kHz系それぞれに専用のクリスタルを使い、最適なクロックを供給。ジッタを抑制している。

 DAC以降のアナログステージは、ハイスピードで情報量豊かなサウンドを実現するため、フルバランス・ディファレンシャル構成の回路とし、DACからの出力を受ける初段のバッファと二段目のフィルタアンプに独自の高速アンプモジュールHDAMを、三段目の電流帰還型出力バッファアンプにHDAMとHDAM-SA2を採用。パーツも厳選したものを使っている。

USB DAC機能も搭載

 SACD、CDに加え、DVD-R/RW、DVD+R/RWやCD-R/RWに記録したMP3/WMA/AAC/WAV/FLAC/Apple Lossless/AIFF/DSDファイルの再生が可能(DSDはCD-R/RWでは非対応)。さらに、USB DAC機能も搭載。DSDは11.2MHzまで、PCMは384kHz/32bitまでサポートする。DSDの再生方式は、WindowsのASIOドライバを使ったネイティブ再生とDoPに対応。PCとクロックを同期せず、SA-10側の高精度なクロックで制御するアシンクロナスモードにも対応し、ジッタフリー伝送ができる。

 デジタル入力分を含む、デジタルオーディオ基板は銅メッキシールドケースに封入し、高周波ノイズの輻射による音質への影響を防止した。

 USB-A端子もリアパネルに装備。USBメモリ内の音楽ファイル再生や、iPhone/iPodとのデジタル接続が可能。iPodの充電にも対応する。同軸デジタル入力、光デジタル入力も各1系統用意。192kHz/24bitまでのPCMデータを入力できる。

背面端子部
内部

メカエンジンも最新世代に

 ディスクドライブには、最新世代のオリジナルメカエンジン「SACDM-3」を採用。ピックアップの制御とデコードを行なう回路を新開発し、回路を最短、最小化。余分な電流やノイズの発生を抑えている。

最新世代のオリジナルメカエンジン「SACDM-3」

 高剛性なスチールシャーシとアルミダイキャストトレイを使い、ディスクの回転によって発生する振動を抑制。データ読み取り精度を向上させた。2mm厚のスチールメカブラケットと、最大10mm厚のアルミ押し出し材を使ったベースブロックで2重構造のボトムシャーシにしっかりと固定。ディスクの回転によって発生する振動の周辺回路への影響を抑えつつ、外部振動からの影響も受けにくい構造としている。

 読み取り精度を高める事で、サーボへの負荷やエラー訂正処理も軽減。USB DAC用のUSB-B、同軸や光デジタル入力が選択された際は、メカエンジンへの電源供給を停止。高音質化を図っている。

 アンバランス出力、バランス出力は完全に同等グレードで、バランス出力のHOT/COLDを反転させるデジタル位相反転機能も搭載。デジタル信号の段階で処理するため、音質劣化の無い位相の反転を可能にしている。

アナログ基板

 左右チャンネル間のクロストークやレベル差を抑えるために、左右のアナログ出力回路はシンメトリーにレイアウト。等長、平行配置を徹底し、チャンネルセパレーションや空間表現力を高めている。

 アナログ出力回路には、純銅箔を採用した最上グレードのオリジナルフィルムコンデサ「ブルースターキャップ」や、高音質電解コンデンサなどを投入。

 電源トランスには、SA-7S1と同等コアサイズのトロイダルコアトランスを搭載。アンプに使う事もできるほどの容量があるもので、ゆとりのある電源供給ができるという。二次巻線はアナログオーディオ回路、デジタルオーディオ回路、メカ、ディスプレイなど、それぞれに専用のものを使用し、回路間の干渉を抑制。巻線には高純度なOFCを使っている。

 アナログ回路とDAC回路に給電するブロックケミコンには、4,700μFのニチコン製、マランツ専用カスタム品を採用。ブロックコンデンサとしての組成の改良や、端子の素材を真鍮から銅に変更するなどしている。

 アナログ出力には、純銅削り出しのピンジャックを採用。一般的なものと比べて硬度が低く、機械加工の難しい純銅のブロックから手作業で切削加工している特注品となる。表面処理は試聴の結果、あえて1層のニッケルメッキを採用している。

 ヘッドフォンアンプも搭載。フルディスクリートで、HDAM-SA2による高速電流バッファアンプを使い、メインのアナログオーディオ出力回路との相互干渉を抑制。安定した再生ができるという。オペアンプICは一切使っておらず、ディスクリート回路でハイスピード化を徹底。3段階のゲイン切り替えもできる。メイン回路を高音質化するため、ヘッドフォン回路をOFFにする事もできる。

ヘッドフォンアンプ
ヘッドフォン出力は標準ジャックを1系統

 デザインは既存の11/14シリーズと似ているが、若干異なる。センターピースの幅が広くなり、その左右に並んでいたボタンが省かれた。「新たなデザインは企画段階では10種類ほど存在したが、まったく新しいデザインの採用には至らなかった。11シリーズが登場して10年以上経過し、市場にこのデザインが受け入れられたと感じている。“デザインを変える事”が目的ではなかった」(サウンドマネージャーの尾形好宣氏)という。正面から見た際に、ビスが一切見えないなどの特徴も従来モデルを踏襲している。

解説はサウンドマネージャーの尾形好宣氏が行なった

 アナログ出力は、バランス、アンバランスを各1系統装備。ヘッドフォン出力は標準ジャックを1系統用意する。マランツリモートバス入出力も搭載した。消費電力は50W。待機電力は0.3W以下。外形寸法は440×419×127mm(幅×奥行き×高さ)。重量は18.4kg。リモコンが付属する。

インシュレータはアルミ削り出し

2012年の「SA-11S3」から音はどのように進化した?

 マランツの試聴室でSA-10と、2012年発売「SA-11S3」(48万円)のアナログ出力を比較試聴した。

 SA-11S3は、分解能が高く、空間表現もハイクオリティ。どことなく気品も感じさせるサウンドのプレーヤーだが、SA-10に切り替えると、音がガラリと変化する。

 最も驚くのはスピード感だ。トランジェントが良くなり、音がズバッと出て、スッと消えるスピード感が劇的にアップ。音像の輪郭がさらに細かく、情報量が多くなる。

 このシャープさとスピード感は特筆すべきレベルで、研ぎ澄まされた刃物を連想させるほどだ。SACDとCDを聴き比べると、CDの情報量の少なさや、音像の厚みが薄い事など、アラがむき出しになるような印象も受ける。再生能力として超一級品なのは間違いない。使いこなしに、”ユーザーの腕が鳴る”プレーヤーと言えそうだ。