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マランツ、独自DAC「MMM」搭載で30万円のSACDプレーヤー「SA-12」

 ディーアンドエムホールディングスは、マランツブランドの新製品として、独自のDAC「Marantz Music Mastering」(通称MMM)を搭載したSACD/CDプレーヤー「SA-12」を7月13日に発売する。USB DAC機能も搭載しており、価格は30万円。カラーはゴールド。

SACD/CDプレーヤー「SA-12」

 新たな「12シリーズ」に位置づけられる製品で、マッチするプリメインアンプ「PM-12」も同日に発売される。価格は30万円で同じ。PM-12に関しては、別記事で紹介する。

下段がプリメインアンプ「PM-12」、上段がSACD/CDプレーヤー「SA-12」

独自のDACを搭載した「SA-12」

 12シリーズは、SA-14S1/PM-14S1の後継機種という立ち位置よりも、少しグレードが上のモデルとなり、新世代の単品コンポとして2016年に発売されたSA-10/PM-10の技術をふんだんに取り入れながら、コストダウンを図ったシリーズと言える。

左がSA-14S1/PM-14S1、右がSA-12/PM-12

 SA-12最大の特徴は、SA-10と同様に、汎用的なチップメーカーのDACを使わず、「Marantz Music Mastering」(通称MMM)と名付けたマランツ独自のDACを搭載している事。同社はドライブメカエンジンを自社で手掛け、デジタルフィルターも独自開発。DAC後段のアナログステージにも「HDAM」を使うなど、ディスクプレーヤーのほぼ全てのパートを自社で手がけているが、DACも自社開発する事で、全ステージをオリジナル技術で構成。理想の音を目指している。

DACも自社開発する事で、全ステージをオリジナル技術で構成

 音の入口となるドライブメカエンジンには、SA-10と同じ最新の「SACDM-3」を採用。ローディングメカ、デコーダ基板はSA-10のものとまったく同じで、高剛性のスチールシャーシや、アルミダイキャストトレー、アルミ押し出しのトレーカバーを採用。違いは、下部のベース部分で、SA-10は10mm厚のアルミ押し出しベースだが、SA-12は2mm厚の高剛性スチールベースになっている。また、トレー先端部分の装飾が、SA-10は彫り込みだが、SA-12は印刷処理となる。

 なお、USB-B、同軸デジタル、光デジタルが選択された際には、メカエンジンへの電源供給を停止し、高音質化を図っている。

 オリジナルDACは、元フィリップスでアプリケーションラボに所属し、DSPに関する高度なノウハウを持ち、現在はマランツのヨーロッパリージョンの音質担当者でもあるライナー・フィンク氏が開発したもの。同氏はかつて、「DAC7」でビットストリームDACの開発を担当、「CD-7」のデジタルフィルタの開発者でもあるなど、マランツサウンドを理解し、知り尽くしており、そんな彼が手がけたアルゴリズムがMMMには投入されている。

「Marantz Music Mastering」(通称MMM)の構成図

 汎用的なDACは、オーバーサンプリングデジタルフィルタ、ΔΣモジュレーター、DAC、I/Vコンバーターで構成される。MMMはこの中の、オーバーサンプリングデジタルフィルタ、ΔΣモジュレーター、DACまでを内包した名称。

 具体的には、オーバーサンプリングデジタルフィルタ、ΔΣモジュレーター、I/F×2、DACで構成。MMMの中の前半部分、オーバーサンプリングデジタルフィルタ、ΔΣモジュレーター、1つ目のI/Fまでを「MMM-Stream」。後ろのI/F、DACを「MMM-Conversion」と名付けている。

 MMMは、全てのデータをDSDにΔΣ変換して処理する。MMM-Stream内部のオーバーサンプリングデジタルフィルタとΔΣモジュレーターは、PCMデータ用のもの。入力されたPCMをDSDデータへと変換し、MMM-Conversionへと渡す役割を担う。DSDデータが入力された場合は、オーバーサンプリングデジタルフィルタとΔΣモジュレーターはスルー。その後のI/Fに直接入力する。PCMデータであってもDSDデータと全く同じD/A変換プロセスで再生できる。

 これにより、後段のMMM-ConversionはシンプルなアナログフィルターのみでD/A変換できる。ディスクリートで構成しているため、音質に大きく影響するパーツを自由に選択でき、回路規模も自由に構成できるのが利点。SA-12では、MMM-Conversion出力部に精密メルフ抵抗やマイカコンデンサなど、高品位なパーツを使っている。

高品位なパーツが投入された「Marantz Music Mastering」部分

 また、マランツはこれまで、PCと接続するUSB端子からのノイズが、DACなどに影響しないように高速なデジタルアイソレータとリレーを使って、ノイズの回り込み、グラウンド電位の変動を排除してきた。

 MMMでは、このノウハウを内部に投入。MMM-StreamとMMM-Conversionの間に、デジタルアイソレータを投入。DAC内部でデジタル/アナログステージをアイソレーションして、高周波ノイズの流入を徹底的に排除した。信号ラインだけでなく、アースも分離。USB入力、光デジタル、同軸デジタル入力からの信号も、同様に処理する。「コンプリートアイソレーションシステム」と名付けられている。

 これに加え、DSPやUSBコントローラーICそれぞれの電源ラインに、導電性ポリマーコンデンサを挿入するなどの対策も実施している。

「コンプリートアイソレーションシステム」
尾形好宣サウンドマネージャーが解説

SA-10を超える最新世代の超低位相雑音クリスタルを搭載

 SA-10の開発から時間が経過しているため、SA-12ではそれを超えるパーツを投入している部分もある。クロック部分で、最新世代の超低位相雑音クリスタルを採用。位相雑音は、SA-10採用品よりも15dB改善したという。

 SA-10の仕様と大きく異なる点は、SA-10がバランス出力を備え、全段バランス構成になっているのに対し、SA-12はRCAのアンバランス出力のみになっている。これにより、基板の面積はおおよそ半分になっている。

 ただし、アナログオーディオ回路は、独自のHDAMアンプモジュールを使ったフルディスクリート構成。DACのディファレンシャル出力を、初段はFET入力のHDAM-SA3バッファアンプ(兼1次ローパスフィルタ)で受け、次にHDAM-SA3電流帰還型差動アンプ(兼2次ローパスフィルタ)を経て出力する。

 また、不燃抵抗を排除。通常の製品では、ショートした際に火災にならないよう、回路を遮断する不燃抵抗を搭載している。しかし、音質的には無い方が理想的であるため、回路に工夫を施し、抵抗を無くした状態で、安全テストをクリアしたという。これにより、電源ラインがよりクリアになったとのこと。

SA-10の内部

USB DAC機能も搭載

 SACD、CDに加え、DVD-R/RW、DVD+R/RWやCD-R/RWに記録したMP3/WMA/AAC/WAV/FLAC/Apple Lossless/AIFF/DSDファイルの再生が可能(DSDはCD-R/RWでは非対応)。さらに、USB DAC機能も搭載。DSDは11.2MHzまで、PCMは384kHz/32bitまでサポートする。DSDの再生方式は、WindowsのASIOドライバを使ったネイティブ再生とDoPに対応。PCとクロックを同期せず、SA-10側の高精度なクロックで制御するアシンクロナスモードにも対応し、ジッタフリー伝送ができる。

 デジタル入力分を含む、デジタルオーディオ基板はシールドケースに封入し、高周波ノイズの輻射による音質への影響を防止した。

 USB-A端子もリアパネルに装備。USBメモリ内の音楽ファイル再生などに対応。同軸デジタル入力、光デジタル入力も各1系統用意。192kHz/24bitまでのPCMデータを入力できる。

強力な電源部やヘッドフォン回路も

 電源トランスには、SA-10と同等のコアサイズを持つトロイダルコアトランスを採用。アンプに使えるほどの余裕があり、ゆとりのある電源供給が可能という。二次巻線は、アナログオーディオ回路、デジタルオーディオ回路、メカニズム、ディスプレイなど、それぞれに専用のものを使い、回路間の干渉を抑制。トランス外周に取り付けられたコアリングとショートニングにより、漏洩磁束による周辺回路への悪影響も抑えている。なお、SA-10では銅メッキシールドに封入されているが、SA-12では使われていない。

左がSA-12、右がSA-10

 アナログ回路とMMM-Conversion回路に給電するブロックケミコンには、SA-10と同様に大容量の4,700μFのニチコン製マランツ専用カスタム品を採用。ブロックコンデンサとして組成の改良に加え、端子の素材を真鍮から銅に変更した。試作と試聴を繰り返し、音質検討を重ねて完成したという。

 アナログオーディオ出力端子には、純銅削り出しのピンジャックを採用。一般的な端子に使われる真鍮に比べて硬度が低く、機械加工が難しい純銅のブロックから、熟練工が手作業で切削加工して作る特注品。銅は銀に次ぐ電気導電性を持ち、再生音に力強さと安定感をもたらすという。表面処理は従来のニッケル下地+金メッキの2層から、厚みのある1層のニッケルメッキに変更している。

 インシュレータは、SA-10はアルミ削り出しだが、SA-12ではアルミダイキャストを採用。3mm厚のスチールボトムプレートを採用し、トップカバーはスチール製(SA-10はアルミ)。最厚部26mmのアルミ無垢フロントパネルも採用している。

 ヘッドフォン回路も、SA-10よりはグレードが下るものの、充実したものを採用。HDAM-SA2搭載のフルディスクリート電流帰還型アンプで、回路定数を見直し。さらなる音質チューニングを行なったという。3段階のゲイン切り替え機能や、ヘッドフォンアンプ回路自体のON/OFFも可能。

 アナログ出力は、RCAアンバランス、ヘッドフォンを各1系統装備。デジタル出力は、同軸、光を各1系統装備する。入力は、同軸デジタル、光デジタル、USB-A、USB-Bを各1系統。リモートバス(RC-5)入出力も搭載。消費電力は47W。待機電力は0.3W以下。外形寸法は440×419×123mm(幅×奥行き×高さ)。重量は16.4kg。リモコンが付属する。

SA-10の背面

音を聴いてみる

 SA/PM-14S1、SA/PM-10、そしてSA/PM-12の組み合わせを聴き比べた。音源はハイレゾで、USB DAC機能を使って試聴している。

SA/PM-14S1

 SA/PM-14S1は全体的に優美なサウンド。空気感の表現力が高く、クラシックのオーケストラでサウンドがホールに広がるリアルさ、チェロのしなやかかつ、堂々とした鳴りっぷりだ。

SA/PM-10

 SA/PM-10では、分解能とクリアさが大幅にアップ。目のさめるようなシャープなサウンドで、高精細なサウンドが低域から高域まで貫かれている。しかし、神経質な音ではなく、ドッシリとした安定感のある低音や、リアルな空気感も兼ね備えており、重厚感と繊細さを両立させている。

 SA/PM-12は、SA/PM-10のサウンドと非常によく似ている。価格が半額であるため、さすがに低域の押出の強さや、全体の透明感ではSA/PM-10に及ばない部分はあるが、音の1つ1つの粒立ちの良さ、中低域の分解能の高さなどは、SA/PM-10に肉薄、よりクリアに聴き取れる部分もある。パワーアンプモジュールとスピーカー端子をほぼ直結させるなどの工夫で、鮮度や駆動力を向上させた効果が感じられ、価格差を感じさせない実力派サウンドとなっている。

SA/PM-12