鳥居一豊の「良作×良品」

驚異的な駆動力と鮮明な音場表現。マランツ新世代アンプ「PM-10」で「FF15」の旅へ

 「PM-10」は、マランツプリメインアンプのフラッグシップモデル。価格も60万円と高価だが、プリアンプとパワーアンプをひとつの筐体に収めるという理想を追求した意欲的な製品だ。個人的にも、使用しているスピーカーであるB&WのMatrix 801 S3を鳴らし切るアンプを探していて、このモデルの実力には興味津々だった。

マランツ「PM-10」

 製品のおおまかな特徴としては、フルバランス構成の回路を持ち、プリアンプ、左右のパワーアンプの電源を独立、さらに200W(8Ω)、400W(4Ω)というプリメインアンプでは常識外れな大出力と優れた駆動力を実現し、横幅430cmの一般的な筐体に収めたというものだ。重量は21.5kgとこのクラスのモデルとしてはむしろ軽いくらいだが、美しく仕上げられた天板や側板の作りもしっかりとしており、高級機にふさわしい作りとなっている。

PM-10の外観。フロントパネルは同社のデザインを踏襲したもので、シャンパン・ゴールドの落ち着いた色合いは高級感たっぷりだ
フロントパネル。左側が入力セレクターで、右側がボリューム。中央のディスプレイを含めてシンメトリーなデザインとなっている
フロントパネルの中央の下には、ヘッドフォン出力とリモコン用の赤外線受光部。これらの配置も電源スイッチを中心に左右対称だ
天面。厚みのあるパネルに放熱孔が空けられている。極めてシンプルだが、質感の高い作りだ
PM-10の側面。こちらもヘアライン加工されたパネルで仕上げられており、シンプルな意匠でまとめられている
脚部のインシュレーターは、アルミ削りだし。高級機だけあって、細部のパーツまで質の高いものが選ばれている

 上記の概要は、筐体がひとつという点を除いて、すでに生産終了しているセパレートアンプのSC-7S2、MA-9S2のそれをほぼ踏襲している。MA-9S2はモノラル・パワーアンプなので筐体は合計3つとなる。これをひとつの筐体に収めるというのは極めて困難だ。

 このために採用したのが、ハイペックス社のスイッチングアンプ・モジュール「NCore NC500」だ。スイッチングアンプというのはD級アンプに分類されるもので、電源効率が極めて高く、モジュールのサイズも極めて小さい。ハイペックス社のスイッチングアンプ・モジュールは、コンパクトなサイズのUSB DAC/プリメインアンプのHD-AMP1でも採用されている(こちらは「Hypex UcD」というモジュールを採用。「NCore NC500」はそのハイエンド仕様だ)。

ハイペックス社のスイッチングアンプ・モジュール「NCore NC500」

 海外のハイエンドメーカーのパワーアンプでも採用例がある「NCore NC500」を使い、しかもそれを左右およびプラス/マイナスの4回路からなるBTL構成で使用し、ハイパワーと優れた駆動力を実現した。

 内部の写真を見ると驚くのだが、本来プリメインアンプの内部の大部分を占めるはずのパワーアンプ部は、3分割された筐体内の中央のやや後ろに小さく収まっている。それ以外はすべてプリアンプ部で、中央にある円形のトロイダルトランスもプリアンプの電源トランスだ。パワーアンプ部の電源部はその場所を教えてもらわないと気がつかないほど小さい。

天面の放熱孔の下に見えるのが、パワーアンプ部。中央付近のシルバーの部分がモジュール回路を支えるサブシャーシで、そこに小さなヒートシンクがある
内部

 大きな回路基板はプリアンプ部で、もちろんフルバランス構成。同社独自のHDAM-SA3モジュールを使ったディスクリート構成の電流帰還型インプットバッファーアンプを備えて入力信号を低インピーダンスとするなど、チャンネル間の干渉をなくし、信号を劣化なく伝送可能としている。ボリューム回路も、電子ボリュームIC「MAS6116」を左右それぞれ使用したバランス構成として、チャンネルセパレーションやSN比を向上。その作り込みは、まさしくセパレートアンプ級のものだ。

プリアンプ部の基板

 ハイエンドクラスのプリメインアンプということもあり、デジタル入力などは備えない。D級アンプは動作の仕組みこそデジタルアンプと近いが、「NCore NC500」はアナログ信号の入力が可能で、純粋なアナログアンプとして設計することができる。これも採用の決め手のひとつだったという。

 そのため、デジタル入力の搭載が一般的になりつつあるプリメインアンプとしては、背面の入力端子は思ったよりもシンプルだ。背面から見て、左側にバランス入力2系統、アンバランス入力4系統、アンバランス出力1系統、フォノ入力1系統がある。スピーカー出力は2系統用意されている。このほか、複数のPM-10を連動させるためのコントロール端子やステレオ駆動/バイアンプ駆動の切り替えスイッチなどがある。

 背面のパネルが銅メッキされているのはマランツ製品に共通するものだが、独特の銅色のパネルはいかにも音が良さそうに感じてしまう。もちろん、内部でもフォノイコライザ回路などには銅メッキ鋼板などを使ったシールドケースが多用され、ノイズによる各部への影響を排除している。

PM-10の背面。中央のスピーカー出力を中心に左側にアナログ入力端子があり、右側にはコントロール端子などと電源用コネクターがある。銅色に黒の文字はマランツ製品の伝統
スピーカー端子。純銅のブロックを切削加工した削りだしのスピーカーターミナルを使用している。表面処理は音質を検討した結果厚い1層のニッケルメッキを採用
アナログ入力端子も、CD入力とフォノ入力に純銅削りだしのピンジャックを採用。上段がバランス入力×2、中段がアンバランス入出力、下段がフォノ入力と整然と配置される

 さっそくお借りしたPM-10を自宅の視聴室に設置。ふだんはフロント駆動用のパワーアンプをどかして、床に敷いたオーディオボードの上に置いた。接続はBDプレーヤー(OPPO BDP-105D JAPAN LIMITED)のバランス出力をバランス入力へ、念のためAVアンプ(デノン AVR-X7200WA)のフロントプリアウトをアンバランス入力へ接続している

視聴室の床に設置したPM-10の様子。右端で見切れているのはふだん使っているアキュフェーズのパワーアンプA-46

 電源を入れてみると、青いLEDのイルミネーションが思ったよりも強く輝き、円形のインジケーターにあるマランツの星印も小さく点灯する。インジケーターは入力ソースとボリュームを表示するだけのシンプルなものだが、プリメインアンプとしては十分だろう。

 なによりも、そのたたずまいが品がよい。こうした美しい意匠と剛性や振動対策も考えられた強靱なシャーシを持ったモデルだと、こうして部屋に置いたときの満足感は大きく違う。価格にも跳ね返ってくるのが悩ましいところだが……。

その音質に驚かされたBD版「FF15 オリジナル・サウンド・トラック」を聴く

 「PM-10」に組み合わせるということで、「これでいいのか?」という思いもあったのだが、自分がここ最近聴いた音楽ソースの中でもっとも印象的だった「ファイナルファンタジーXV オリジナル・サウンド・トラック」(以下「FF15 OST」)を良作に選ぶことにした。

 本作は昨年末に発売され、世界中で大ヒットしたRPGのサントラ盤。紹介するのが遅れたのは、ゲームのエンディングを迎え、ある程度一段落してから、旅の思い出を振り返る感じで聴いてみたかったから。主人公との仲間たちの旅を主題としたこのゲームにふさわしいと、ゲームをプレイした人ならばわかってもらえるはず。

 「FF15 OST」は、BDミュージック仕様のBD盤とCD盤(4枚組)があり、このほかmoraやe-onkyo musicなどでハイレゾ音源の配信も行なわれている。取材で使用したのはBD盤。こちらの音声は96kHz/24bitのハイレゾ音源で、映像付きの再生が楽しめる。

BD盤「FF15 OST」のトップ画面。メニューはシンプルで、「ALL PLAY」、「TRACKLIST」、「EXTRA」で構成される

 これに加えて、収録された96曲の音源のMP3ファイルも用意されており、ネットワーク経由、PCのドライブからの読み込みなどでPCやNAS、あるいはポータブルプレーヤーに持ち出せる。持ち出し用音源もハイレゾとは言わないまでもCD品質のFLACファイルがいいなぁ、などとも思うのだが、CD4枚組の容量を考えるとMP3が妥当と言えるかも。

TRACKLISTの画面。美しいCGイラストに曲目が表示され、好きな曲を選んで再生できる
EXTRAのメニュー。MP3音源のダウンロードはここから行なう。ネットワーク経由、PCでのダウンロードのほか、操作方法なども確認できる
ネットワーク経由でのダウンロード画面。画面の表示されるURLにPCのブラウザなどでアクセスすると、ダウンロードが行なえる
PCを使ったダウンロード画面。最近は光ドライブを備えたノートPCも減りつつあるので、ネットワーク経由でダウンロードすることが多いかも

 設置時でも触れたが、今回はBDプレーヤーのバランス出力をPM-10に接続し、映像出力はHDMIケーブルでプロジェクター(ソニーVPL-VW500ES)に接続している。映像付きのBDコンテンツだが、音の再生環境としてはピュア・オーディオに近い構成だ。

 「FF15 OST」に限らず、ここ最近のファイナルファンタジー作品のサントラ盤は、BD盤で発売されることが多いが、いつにも増してその音の良さに驚いた。ゲーム内で使われている楽曲用のデータとは、音の鮮度や空間感などがまるで違う。マスターとしての音源が96kHz/24bitなのか、CD品質なのかは不明だが、少なくとも素材からしてゲーム用音源とは異なっているのではないかと思う。

 曲の構成は、ゲームのストーリーに準じていて、王を継承するための旅の始まりの場面の楽曲からスタートする。どの曲を聴いてもゲームのサントラとは思えない質の高い演奏と音質になっているし、曲が使われた場面に合わせて編集されたゲーム映像を見ながらだと、まさに映画として再びゲームの物語を見ているような気分になる。

 マランツ PM-10の実力には、序盤から圧倒されてしまった。基本的に極めて高解像度な再現で、ものすごく鮮度の高い音が出る。音場感も広大で、ステレオ再生なのにゲームでプレイしていたときの5.1ch音声での再生をも超えるような空間感がある。現代のオーディオ機器として最高レベルの実力を持っていることがすぐにわかる。

 その凄さは単なる高性能で終わるはずがない。7曲目の「Stand Your Ground」は、いわゆるバトル時のテーマで、オーケストラ編成でスピード感たっぷりに演奏される曲だが、大太鼓や低音の弦楽器による力強いリズムがキレ味鋭く、しかも重厚に描かれるのだ。

 一般に高解像度で音場の広い鳴り方をすると、広大ではあるが個々の音色が薄まるというか、実体感に乏しくなることがある。情報量は多いのだが、一歩引いたような遠くから眺めるような再現だ。Matrix 801 S3もどちらかというと、広いホールの良い席で聴いているような聴こえ方になりがちだ。しかし、PM-10は音場が広いのに、音像も力強く立ち、前に出てくるような鳴り方をする。各楽器の音が調和した響きの広がりと個々の音の前に出る感じがよくでて、立体的な鳴り方になる。

 8曲目の「Relax and Reflect」は、ある意味このゲームを象徴するキャンプで流れる楽曲で、メンバーが作る食事のグラフィックの美しさは夜にプレイしているとお腹が空いて困るほど。そんな小休止のリラックスした場面で流れる曲は、ギターによる軽快なメロディーが生々しく鳴り、ピアノの楽しげな音色もあって落ち着いたムードを感じさせる。

 こんな心を落ち着かせるようなテンポも、変にキレ味が鋭すぎることもなく、柔らかな感触をそのままに描いてくれる。高解像度で俊敏といった印象はあるものの、それはPM-10の個性というわけではなく、音色的には色づけのない無色透明に近いものだ。だから、ゆったりとした曲はゆったりと鳴るし、パワフルで勢いのある曲はその勢いが衰えることなく鳴る。この表現力の幅の広さには驚いたし、Matrix 801 S3を完全にコントロールして自由自在に鳴らし切っている感覚がある。ここまでの音が出せるアンプはこれ以上のハイエンド級モデルを除けば、あまり例がない。

 16曲目の「A Quick Pit Stop」は、舞台となる世界に点在するドライブインのチェーンのテーマ曲。ハーモニカがメロディーを奏でるカントリー風(序盤の舞台はアメリカ西部あたりがモチーフのようで、ロードムービー的感覚が強い)の楽曲で、ギターやベースもゆったりとしながらも弾力のある再現だ。ハーモニカの鳴り方が息を吹き込む様子がわかるほどにニュアンス豊かだし、ギターも生き生きと鳴っている。最近のゲーム音楽は、いわゆる電子音主体になるどころか、オーケストラ編成もあればアコースティック楽器主体の演奏もありと、映画などの劇伴と変わらないものになっている。こうして聴いていると、ほとんどの曲が実は生演奏を録音したものではないかと思うほど。それは楽曲の一部に限られるだろうが、音質的にもかなりレベルが高いものになっている。こうして、PM-10を使ってリニアPCM 96kHz/24bitで聴いているとそれがよくわかる。

スイッチングアンプなのに、音が硬くならない。その音色は変幻自在

 今後は23曲目の「What Lies Within」。ダンジョン探索などで流れる曲だ。この曲はバイオリンの物憂げなメロディーが不気味な雰囲気を濃厚に感じさせ、プレーヤーに緊張感をもたらす。バイオリンの艶やかな鳴り方、後半で加わるオルガンの残響の多いゆったりとした鳴り方まで曲の雰囲気を鮮やかに描いてくれる。

 実は、筆者もPM-10がスイッチングアンプを採用したことは少々心配していて、D級アンプでありがちな音の硬さが出やすいのかと思っていた。実際にこうしたゆっくりとしたテンポで音の響きも豊かな楽曲で、音がタイトになったり、響きがやや細身になったドライな感じになることはなく、柔らかい感触から長い残響がゆっくりと減衰していく様子まで実に丁寧に再現する。D級アンプ自体も現在は優れた製品が数多く登場してきていて、しかもこの価格帯のモデルで、悪い意味でのクセを感じさせるような製品はあるはずがないのだが、それでもこの自由自在な音色の表現には感心してしまう。

 だから、その次の24曲目「Daemons」(ダンジョンでのバトル曲)での、パーカッションの重みのある音が鋭く出て、緊張感のあるリズムを鮮明に描いてくれると、そのコントラスト感に曲の持ち味がいっそう強く伝わってくるのだ。

 そしていよいよ39曲目の「APOCALYPSIS NOCTIS」だ。いわゆるボス戦の曲で、この曲が大好きという人は多いであろう。混声のコーラスと重厚なオーケストラの演奏で、ドラマティックに戦いを盛り上げていく。実は、PM-10の鳴り方で一番感激したのは低音の再現で、30cm口径の重たいウーハーが実に俊敏に動くのだ。

 これはMatrix 801 S3の個性と言える音の傾向で、重たいウーハーの低音は力感はあるが鈍重に感じやすく、響きは豊かだがやや甘い感触のものになりがちだ。これはこれで決して悪いものではないが、曲によっては、あるいは映画の爆音がややダルに感じることもあり、もう少し低音を引き締めたいと常々感じていたのだ。

 その意味では、この30cmウーハーをがっちりとグリップして自在に駆動しているかのような、まさしくドライブ感のある低音の鳴りは筆者の理想に近い。低音が遅れて鳴るような感じがないので、ドラムスの鳴りがゆるんだ感じにならないし、男性のコーラスの厚みや力感がストレートに出てくる。大太鼓の重厚な低音さえも出音が鋭く俊敏なのだ。それでいて量感が乏しいタイトさもない。こんな低音の鳴り方はMatrix 801 S3では難しいとも思っていたのだが、筆者の感覚として極上の鳴り方だ。

 このあたりのドライブ力の高さは、200W(8Ω)の大出力を実現したためとも思うし、音の鮮度の高さや躍動感のある鳴り方は、大出力とSN比やチャンネルセパレーションの高さが両立していることの証だろう。

 この後、曲はやや重たいムードの曲が増えていく。というのも「FF15」の物語が展開していくほどにシリアスになっていくため。もともとファイナルファンタジーでは、ともに戦ってきた仲間の裏切りや死など、悲しいイベントが盛り込まれることが少なくない。だが、王を継承するための(儀式的な意味も持つ)旅とはいえ、わりと気楽な諸国漫遊という雰囲気で始まっただけに、物語がシリアスな度合いを高めていくときのショックが印象に残るのだ。こうしたムードの変化、シリアスな曲調をPM-10はしっかりと際立たせてくれる。

 ちょっと話はそれる。「FF15 OST」で音楽を担当した下村陽子は、「キングダム・ハーツ」などでも知られ、多くのファンを持つ作曲家。FFシリーズは、近作では植松伸夫が関わることは少なくなり、作品ごとに異なる作曲家が起用されている。筆者はシリーズのどの音楽も好きだし、植松伸夫が作曲したメインテーマや象徴的な曲をそれぞれの作曲家が個性豊かにアレンジした曲を聴くのも好きだ。

 しかし、特に今作では過去のFFの印象を持ったまま実にスムーズに耳に馴染む。本作のメインの移動手段である車に乗ると、過去作のサントラをカーラジオで再生できるのは長年のファンには嬉しいサービスだった。それらを聴いていて、車から降りてFF15の曲が流れても、まったく作曲者が違うというような違和感がない。歴代のFFの音楽を踏襲しながら、それでいてオリジナルの音楽として完成していることがよくわかる。

 そのあたりは、自分でも少々不思議だったのだが、PM-10でこうして聴いていて、その秘密が少しわかった気がした。いくつかの曲で、実にこっそりと歴代の曲のメロディーやフレーズが忍び込ませてあるのだ。いわゆる変奏曲のような、メインテーマを元に新しい音楽を展開していく手法は、目新しいものではない。それがよくよく聴かないと気付かないくらいこっそりと行なわれていることに感心する。

 PM-10は音のひとつひとつを解きほぐして聴かせるような、単に高解像度とか分解能が高いといった表現を超えて、楽譜を追いながら音楽を解釈しているように、曲の構成や作り手の狙いを教えてくれるような鳴り方をする。作曲技法についてはまったくの素人だし、音楽もそれほど詳しいとは言えない筆者でも、主旋律に重ねるようにまったく別の旋律を重ねることで、曲に深みを出すというような、さまざまな曲作りのテクニックに気付いてしまうのだ。

 それでいて分析的な、音楽の授業を聴いているような小難しいものではなく、曲の構成がわかるから、ますます音楽を聴くのが楽しい気分になる。PM-10の音は、もしかすると自分でも作曲したり、音楽を演奏するような人が聴くと、ますますその良さがわかるのかもしれない。

 クライマックスに近づくほどに語りたい曲は増えるが、ここはぐっと抑えて、最後96曲目の「Main Theme from FINAL FANTASY」を聴いてまとめとしたい。誰もが知っているあのメロディをピアノ協奏曲のようなアレンジとしている。オーケストラによる聴き慣れたフレーズに、澄んだ音色を響かせるピアノの演奏が華を添えている。プレイした人ならばわかるが、広い場所で演奏されているとわかる豊かな響きがとても美しい。この空間描写のきめ細かさも感心させられる。

個人的にも欲しい! 高級プリメインアンプならではの凄さを実感

 PM-10の音は、特に低音の強靱なドライブ能力の高さなど、自分にとってもかなり好ましいものだった。すぐに買えるような価格ではないが、高級アンプの実力の高さを思い知らされた。

 サントラを聴いただけで満足はできず、実際にゲームもプレイした。PS4でのゲームでは、5.1ch音声はAVアンプに接続し、AVアンプのフロントプリアウトをPM-10のパワーアンプダイレクト入力に接続した。ボリュームなどを経由しないパワーアンプとしてフロント再生を担当させたわけだ。

 ゲームでは、BGMとして流れることもあり、また、やはり音の情報量に差を感じるのか、音楽としてはやや物足りなさを感じることもあった。しかし、それでもゲームをプレイする方が楽しいと感じたのは、バトルシーンでの効果音の数々が実にリアルで迫力ある再現になったこと。魔法を使えば、爆炎が燃え広がる様子が目の前に展開するし、対決するモンスターの鳴き声や咆吼の迫力もいっそう際立つ。ゲームとしての臨場感が倍増するのだ。この再現ならば、アクション映画の爆音もより力強いものとなるし、ダイアローグがしっかりと立ち、前へ出てくるような再現も映画と相性がよいはず。

 すべての要素が理想的と言ってもいいのだが、実際に自宅で使っているアキュフェーズのパワーアンプ A-46と比べると、ほんのわずかな部分だがPM-10が不足している部分もあった。それは中高域のふくよかさとも言うべき部分。特に声の質感が比較して聴き比べるとわずかに細身だと感じる。

 映画などのダイアローグもそうだし、ボーカル曲を聴いても、PM-10は肌の産毛までわかるような感触はありながら、ややクールになる。A-46は同様な質感を持ちながら、もう少し温度感が伝わる感触だ。

 ただし、A-46はそういったふくよかさや温かさを感じるぶん、細部のきめ細かさや細かな音まで解きほぐすような解像感は不足しがちと感じる。ダイアローグの前に出る感じも、PM-10の方が反応が良く、勢いがあるため、より声が前に出てくる感じがある。結論としてはどちらにも良いところはあり甲乙つけがたし。低音のドライブ能力の高さを考えるとPM-10にやや心が傾いているという感じだ。

 おおざっぱに言うと、アキュフェーズA-46もMatrix 801 S3の個性をそのまま出すような鳴り方をするが、マランツPM-10はMatrix 801 S3のポテンシャルをさらに引き出して、今までとは違った一面を見せてくれた。理想はその両方を兼ね備えたアンプの存在だが、さすがに欲張りすぎとも思える。

 いずれにしても、マランツPM-10は、プリメインアンプという枠を超えて、スピーカーのポテンシャルを引き出してくれる実力を備え、音質的にも極めて優れているということがよくわかった。

PM-10。白熱灯の照明下では、シャンパン・ゴールドはとても引き立つ

 高価な製品だから良いのは当たり前と思うかもしれないが、ハイエンド級の製品には、オーディオのことにあまり詳しくない人でも一聴しただけでその良さがわかってしまうような、次元の違う「凄さ」がある。そういう「凄さ」を感じる製品としては、60万円という価格は安いとさえ言える。発売直後であり、オーディオ専門店などでの試聴会も行なわれている注目のモデルなので、ぜひその「凄さ」を感じてみてほしい。

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鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40~60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。