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TAD、音楽ファンに向けた1本50万円のブックシェルフ「Micro Evolution One TAD-ME1」
2016年9月16日 16:00
テクニカル オーディオ デバイセズ ラボラトリーズ(TAD)は、小型のブックシェルフスピーカー「Micro Evolution One TAD-ME1」を11月下旬に発売する。価格は1本50万円。スピーカースタンドの「TAD-ST3」も同時期に発売し、ペアで16万円。カラーはいずれもブラックとなる。
TADは、ブックシェルフスピーカーとして「TAD-CE1」(1台80万円)を既に発売しているが、よりコンパクトかつ低価格なモデルとして「TAD-ME1」を追加する。平野至洋社長は狙いとして、「従来のオーディオファンに加え、購買のポテンシャルがある音楽ファンにもアプローチするためには、(オーディオシステムの)トータルで200万円程度がMAXではないかと考えている」とし、ペアで100万円のME1を投入。100万円以下の、USB DAC内蔵プリメインアンプなどと組み合わせたシステムを主に想定しているという。
同社のエントリーと位置付けられるスピーカーだが、上位機種の技術を多く投入。ユニット構成は、2.5cm径のツイータと、9cmのミッドレンジの中高域用同軸ユニット「CSTドライバー」と、16cm径ウーファの3ウェイとなる。エンクロージャはバスレフ。
CSTドライバに搭載するツイータとミッドレンジユニットはどちらも新規開発されたもの。CE1など、上位モデルは3.5cmツイータと14cm径ミッドレンジを採用しているが、ME1用には2.5cm径と9cm径の小型のユニットが作られた。
CSTドライバの大きな特徴は、ツイータとミッドレンジの音源位置を揃え、ミッドレンジの振動板をツイータのウェーブガイドの一部として動作させるように設計。クロスオーバーにおける位相特性と指向特性を一致させることで、全体域で自然な減衰特性と指向放射パターンを両立した事。「ユニットの軸上から外れた場所で聴く場合も、スムーズに減衰する。いろいろな部屋に持って行っても、反射音の特性が基本的に変わらないのが特徴」だという。
帯域としてはCST全体で420Hz~60kHzを担当。クロスオーバーは420Hzと2.5kHzに設定されている。スピーカー全体では36Hz~60kHz。出力音圧レベルは85dB。最大入力は150W。インピーダンスは4Ω。
ツイータには、独自の蒸着法で加工したベリリウム振動板を採用。ベリリウムはとても軽く、剛性が高い。中心部や周囲の形状も最適化する事で、ピークディップを持たない、なめらかな再生が可能になるという。
ミッドレンジの振動板はマグネシウム。従来モデルもマグネシウムを使っているが、ME1では外観の処理を変更。マグネシウムの質感をもう少し表に出すようになった。また、マグネシウムは酸化しやすく扱いにくい素材だが、陽極酸化処理と薄い磁気膜を作る事で、軽量さを維持しながら剛性をアップ。ダンピング性能も加える事で、スムーズな特性を実現したとする。
ミッドレンジとツイータの磁気回路は独立しており、ボイスコイルも個別に搭載。同軸ユニットで、同心円上に配置するため、相互干渉しないように磁気回路は銅のスリーブに入れ、磁気的、機械的にアイソレーションしている。
ウーファも新たに開発。振動板は、アラミドの織物で作ったものと、もう一枚同じ形状で不織布で作ったものを貼りあわせている。織物には方向性があり、不織布には無いが、2つを組み合わせる事で、強度としなやかさを両立。スムーズな中域特性を実現した。ボイスコイルには高強度のチタン製ボビンを採用。LDMC採用の磁気回路や、発泡ポリカーボネート系のウレタンエッジなども搭載する。
バスレフポートは、CE1と同じ「Bi-Directional ADS」システムを採用。エンクロージャの両サイドに穴があいており、その上にパネルを配置。エンクロージャとパネルの間には隙間があり、それがスリット形状のバスレフポートとして機能する。
開口部は外に行くつれて幅が広くなるホーン形状で、空気の流れを滑らかにしている。大振幅時のポートノイズを低減しつつ、ポートからの内部定在波の漏洩を抑制。レスポンスの良い、豊かな低音が再生できるという。
なお、CE1では10mm厚のアルミパネルを使っていたが、キャビネットが膨らんだり縮んだりしないよう、高い強度を持たせるために、ME1アルミより強度がある4mmの鋼板を採用。スリットと合わせて、厚みはトータル7mmとなった。
ネットワークはCST用とウーファ用で独立させ、干渉を低減。素子は従来モデルで採用してきた、実績のあるパーツを使っているという。
スーピーカーターミナルはバイワイヤリング対応で、端子自体は上位モデルよりコンパクトになっているが、「締め付けの確実性や構造、素材なども上位モデルと同じ」だという。
別売のスタンドは、発音源であるバッフル面から反射が起きないように、スピーカーの前面に対して、やや奥に傾斜したオフセット設置になっている。また、スタンドの重心を下げ、地震でも倒れにくい安定性も追求。下部には鉄製のプレートを使い、インシュレータは3点支持。高さ調節にも利用できる転倒防止用スパイクも付属する。
ME1のエンクロージャ仕上げはピアノ・ブラック。CE1にはカラフルなモデルもラインナップしているが、「CEでいろいろなバリエーションを用意した。ディーラーやユーザーからのリクエストに応えたつもりだが、実際に販売比率を見るとピアノ・ブラックが9割ほど。いろいろな意見を伺いながら、必要であればバリエーションを増やそうとは思っているが、当面はピアノ・ブラック一本で行く」という。
外形寸法は251×402×411mm(幅×奥行き×高さ)。重量は20kg。
音楽ファン層に向けて
平野社長はオーディオ市場について、「製品が高価になる一方で、対象が一握りのユーザーに限られてきている。我々は40カ国弱で販売しているが、日本とアメリカでマーケットの調子がいまひとつ。300万円以上の高額商品が苦戦している。ヨーロッパはステイ、東南アジアや中国、中近東がまだまだ伸びていく市場。ユーザーの平均年齢はどんどん上がっている」と分析。
一方、「ヘッドフォンやイヤフォンに新しい市場が出来ており、若い人たちに響いている。しかし、こうした人達がすぐにピュアオーディオに来るとは思っていない。聴く曲も購買力も違う」という。
これとは別に、「音楽が好きで、購買力があるけれど、オーディオの世界はまったく知らないという方も大勢いらっしゃる。そうした層に、今までの製品ではなかなかアプローチできない。従来のオーディオファンにもアプローチでき、購買のポテンシャルがある音楽ファンにもアプローチできる製品としてME1を開発した。(新たな層には)システム価格でトータル200万円程度がMAXではないかと考えている。TADのパフォーマンスを守りながら、ペアで実売100万前後を実現した」と語り、200万円以下のシステムの中に取り入れやすいME1のコストパフォーマンスをアピール。
さらに、「このモデルを皮切りとし、エントリーも随時導入していく」と語り、ME1と組み合わせて200万円を切るようなアンプなどの機器の開発も検討している事を明らかにした。
音を聴いてみる
USB DAC機能付きSACD/CDプレーヤー「TAD-D1000MK2」(160万円)と、ステレオパワーアンプ「TAD-M2500MK2」(168万円)でドライブし、試聴した。
まず感じるのは、SNが非常に良く、ヴォーカルや弦楽器などの細かな音が微細に表現される解像感の高さだ。余分な響きを排除し、切れ込むような中高域の鋭さがある。
かといって、音像の輪郭や定位がシャープすぎて、頭を少し動かしただけで聴こえ方が変わるような緊張感のある音ではなく、CSTドライバならではの、ユニットの軸上から外れた場所でもスムーズに減衰する特性の良さも感じさせる。
ブックシェルフならではの音場の広さや奥行きも持ち味。音源が小さくなるCSTの利点は、ブックシェルフとも相性が良いと感じさせる。低音のクオリティが気になるところだが、オーケストラの音圧も十分。バスレフスピーカーの、膨らみ、間延びしたような低音とはまったく異なり、シャープでトランジェントも良い。密閉型かと思わせる細かな描写と、量感を両立させている。