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'18年の4K/8K本放送へ、超スローカメラなど機器開発とHDR番組制作が加速

 放送サービス高度化推進協会(A-PAB)は、会員社の映像制作者やエンジニアなどを対象とした「4K制作者のためのワークショップ」を1月26日~27日に開催。'18年12月1日から開始される4K/8K実用放送などに向けて、最新の4K番組制作や、4K機材の現状などを紹介している。会員社であれば参加でき、入場は無料。会場はベルサール秋葉原。

4K番組の上映コーナー

パナソニック「GH5」や、4Kスーパースロー「FT-ONE-LS」。低価格4Kモニタも

 パナソニックは、4Kカメラなどを中心に展示しており、25日に発表した4K/60p撮影対応デジタルカメラ「LUMIX DC-GH5」を、プロの制作者向けに紹介。ドキュメンタリーの映像制作者による、照明の少ないバーを撮影したコンテンツを再生し、暗い場所でも画質を落とさず本格的な映像が撮れる点などをアピールしている。

パナソニック「LUMIX DC-GH5」
バーを撮影したコンテンツを上映

 朋栄は、4Kスーパースローカメラとして定評のあるFT-ONEの新機種として、SSD記録などを行なう本体とカメラヘッド部を分離型とした「FT-ONE-LS」や、NHKと共同開発している8K/4K字幕制作システム「NeON-SHV」、4K/HD信号発生器「ESG-4100」などを展示している。

朋栄「FT-ONE-LS」。左下がカメラ部、右下が本体

 Super 35mmセンサー搭載の4Kスーパースローカメラ「FT-ONE-LS」は、カメラとレコーダ部を分離型とすることで、従来のFT-ONEから機動性を向上。移動の多いスポーツ中継などの撮影で、カメラの電源を落としても本体部でスーパースロー映像が再生できる点もメリット。新CMOSセンサーを採用し、暗部ノイズを低減。暗部の画質が向上したことで、放送用のB4バヨネットマウントのレンズも常用可能としている。高速撮影は、4Kで最大500コマ/秒、HDで1,300コマ/秒まで対応する。カメラ部の重量は約8kg。本体とカメラヘッド部の接続は、光伝送により2kmまで対応可能。価格は本体/カメラヘッドなどを合わせて1,200万円で、間もなく発売予定としている。

FT-ONE-LSのカメラ部
8K/4K字幕制作システム「NeON-SHV」
4K/HD信号発生器「ESG-4100」

 キヤノンは、'16年11月に発売した4K/HDR対応モニタの24型「DP-V2420」や、2月下旬に発売予定の17型4K「DP-V1710」を展示。想定価格は24型が286万円前後、17型が120万円前後。24型は1,200cd/m2の明るさに対応し、ST.2084や、HLGに対応した“フルスペックHDR対応”としている。17型は300cd/m2だが、HDRの入力には対応し「HDRレンジ」調整機能により、実際のHDR表示に近い細かな階調表示ができるという点を特徴としており、1台のカメラから通常のSDRと、HDRレンジ調整後の映像を同時に表示して見比べられる。

左が17型、右が24型の4Kモニタ
HDRレンジの調整画面

 ソニー、ソニービジュアルプロダクツ、ソニービジネスソリューションのブースでは、ソニーの4K HDRソリューション「SR Live for HDR」のワークフローなどを紹介。機材としては、HDRコンバータユニットの「HDRC-4000」などを展示している。また、今回のワークショップの4K映像上映デモには、テレビのBRAVIAフラッグシップモデル「Z9Dシリーズ」が採用されている。

「BRAVIA Z9Dシリーズ」などのソニー製品
HDRコンバータユニットの「HDRC-4000」など

 アストロデザインは、HDと4K、SDRとHDR、BT.709とBT.2020のそれぞれを相互変換できる4Kコンバータボードの「SB-4024」を紹介。価格は120万円で、複数枚の同時利用も可能。ソニーのシグナルプロセッシングユニット「NXL-FR318」に装着した形でも提供可能としている。

4Kコンバータボード「SB-4024」などのデモ

 同社は液晶モニタの4K/24型や、HDの17型も展示。いずれも12G-SDI入力に対応しながら低価格化しており、24型「LM-3416」は108万円で販売中。17型はHDパネルだが4K映像を本体でダウンコンバートしてHD表示でき、中継車やスタジオなどでの利用を想定。3月の発売を目指し、価格は60万円前後。いずれもパネル輝度は350cd/m2だが、HDR(PQ/HLG)のEOTFカーブに対応し、明るい部分などをHDR映像に近い表示できるという。

17型HD(左)、24型4K(右)のモニタ
8K SSDレコーダを用いた再生デモも

 池上通信機は、HDカメラと同様の運用を実現するという小型/軽量の8Kカメラシステム「SHK-810」や、2/3型4K CMOS搭載の4Kカメラ「UHK-430」などを展示している。

8Kカメラシステム「SHK-810」のデモ
4Kの「UHK-430」

UHD Blu-ray版の4K/HDR評価動画など、4K/8K機器開発用コンテンツも

 キュー・テックは、映像機器製作向けの評価用4K動画コンテンツ「QT-4000シリーズ」の新たな展開として、UHD Blu-rayディスク版を'17年春に発売することを案内。SDR版のDisc1と、HDR版のDisc2を用意し、価格は未定だが、既存の2K BD版(12万円前後)に比べると高価になる予定。UHD BD版は、映像ファイルとして提供している評価動画集の「QT-4000」のコンテンツから抜粋したダイジェスト版で、100GBディスクに収録。

UHD BDの「QT-4000」。左がSDR版、右がHDR版
再生には、Dolby Visionにもアップデートで対応予定のOPPO Digital製UHD BDプレーヤー「UDP-203」を使用していた

 ドルビーは、HDRのDolby Vision(ドルビービジョン)映像をデモ。1月からNetflixで配信されている「シドニアの騎士」などを上映している。今回のワークショップに合わせ、映像制作者などに向けて、放送でもPQカーブに基づいた番組制作を訴求。12bit映像の“最高画質”としてアピールしている。

Dolby Visionコンテンツのデモと、ワークフロー

 IMAGICAは、映像制作会社のロボット(ROBOT)と製作した8K/HDR映像「LUNA」をデモ。8K映像編集に特化したIMAGICAの「渋谷公園通りスタジオ」でポストプロダクションを行なった映像で、“現代版かぐや姫”というストーリーの約17分のオリジナル映像。8Kコンテンツ制作事例がまだ少ない現時点では、自然の美しさなどをそのまま伝えるデモ映像が多い中、「LUNA」はドラマ風に作り込まれた映像となっており、実際のテレビ番組などに近い内容となっているのが大きな特徴。フィルム制作時代からのノウハウを持つIMAGICAのカラーグレーディング技術などが活かされており、今後は映像機器メーカーの評価用コンテンツとしての採用も見込んでいる。

8K/HDR映像「LUNA」

 NHKメディアテクノロジーは、4K映像の“ポン出し”制御を行なうWindows用ソフト「Hyper PON!」を展示。Blackmagic Designの「Hyper Deck Studio 12G」を4Kプレーヤーとして利用し、Windowsタブレットで任意の動画のサムネイルをタップすると、4Kテレビ上で再生。プレーヤーやSSD、タブレットなどを含めて50万円以内でポン出しのシステムが構築できる(モニターは除く)点を特徴としている。コンテンツの入れ替えは、編集ソフトで作成したファイルをプレーヤーのSSDに保存するだけの簡単な作業で行なえる。ソフト単体で、三友(MITOMO)から約19万円で販売する。

Hyper PON!
Windowsタブレットをコントローラとして利用

 アドビシステムズは、Premiere Pro CCなどのCreative Cloud製品を用いた4K/8K/HDR制作向けソリューションをデモ。編集したHDR映像と、従来のSDR映像との違いなどを紹介している。

アドビの4K/8K/HDR制作向けソリューション

CGアニメや、戦闘機からの空撮、秘湯ロマンなどの4K制作事例も

 今回のワークショップでは、テレビ局などの制作担当者が、最新の4K映像制作について、講習や番組上映を通じて紹介。また、映像制作機器/ソフトウェアなどのメーカーによる最新4K/8K関連製品が展示され、地方局を含めた制作者向けに、4K/8K番組制作や、対応機材の開発などを想定した情報共有の場と位置付けられている。なお、講習は定員制で、参加には申し込みが必要となる。

 上映コーナーでは、7つのブースにおいて、番組制作者による4K HDR番組が上映され、制作におけるポイントなどが解説されている。

 主な上映作品は、フジテレビ「Time Trip 日本の海岸線」や、東海テレビ「SKE48 Premium Live」、テレビ朝日「秘湯ロマン」、TBS「世界遺産4K」、WOWOWのアニメ「ムーム はじまりの物語」HDR版など。

テレビ朝日は「秘湯ロマン」の4K版を上映

 毎日放送制作「泉涌寺音舞台」の上映では、異なるガンマカーブ素材が混在したマルチカメラHDR制作について紹介。色環境が大きく変わる、夕暮れ時から夜の寺院境内での収録をマルチカメラで行ない、異なる規格の映像が混在する状況での HDR 番組制作について解説している。

毎日放送の「泉涌寺音舞台」

 WOWOWによる「ムーム はじまりの物語」HDR版は、全編4K/HDRで制作されたCGアニメ。BD/DVD化もされた短編作品のスピンオフで、今回のワークショップにおいてHDR版が上映されている。また、「Blue Horizon」HDR版は、戦闘機のコクピットに持ち込んだ4Kカメラで多彩なアングルから成層圏の世界を撮影。ソニーのF55/F65や、アクションカムのFDR-1000Vなど7台のカメラを用いて撮影されたもの。

【訂正】記事初出時、「ムーム はじまりの物語」のSDR版は現在の4K試験放送で上映されている、としていましたが、実際は放送されていないため削除しました(1月31日)

WOWOWによるCGアニメ「ムーム はじまりの物語」HDR版
戦闘機から撮影した「Blue Horizon」HDR版
上映4K番組

テレビ朝日「秘湯ロマン 秋田県 蒸ノ湯温泉・乳頭温泉郷/岩手県 国見温泉」
TBSテレビ「TBS 4Kコンテンツ・ダイジェスト」
毎日放送「泉涌寺音舞台 ~西本智実が振り、井上八千代が舞う」
フジテレビ「正しく学べる楽しい4K講座!」
東海テレビ「SKE48 Premium Live」、「はいふれまにあ」
関西テレビ「3人のヤマトナデシコ ~ただ勝利のためでなく~」
WOWOW「ムーム はじまりの物語 HDR版」、「Blue Horizon HDR版」