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スカパーが4K/HDR中継車を導入、ライブ4K番組制作拡大へ。内部を見てきた

 スカパー・ブロードキャスティングは、1月より4K/HDR対応の中継車「SR-1」を導入。中継車の内部や技術の詳細を説明する完成披露会が3月17日に行なわれた。この中継車を使った最初の4K/HDR放送は、Jリーグ「YBCルヴァンカップ」において4月12日に行なわれる。

4K/HDR対応中継車「SR-1」

 従来は、スカパー! でスポーツなどの生中継を行なう場合の中継車は、テレビ局など他社が持つものを借りる形だったが、スカパー・ブロードキャスティングが自社で持つ最初の中継車として、4K/HDR制作対応の仕様を導入。

 左右に広く拡幅する(正面向かって左側が1.2m、右側が0.5m広がる)ことで、SW(スイッチャー)卓とSUB卓の間も人が通りやすいスペースを確保。SW卓は前後にスライドし、SWパネルは左右に可動する。出入り口が前後の2つあり、出入りしやすくなっている。実際に4K/HDR放送する際の人員は、中継の規模にもよるが、15名程度で運用可能としている。

左右に拡幅
手前がSUB卓、奥がSW卓
SUB卓(左)とSW卓(右)の間に広いスペース

 各カメラの映像を確認するモニターウォールは、1つの画面内をさらに分割表示することも可能なマルチビューワを採用。トータルで48入力まで対応するという。

SW卓のモニターウォール

 自社での4K制作だけでなく、外部にもレンタルの形で利用可能とする予定。「露出機会を増やすことが、2018年からの本格的な4K/8K放送の普及促進にも資する」(スカパーJSATホールディングスの高田真治社長)と説明。貸し出す場合の料金は明らかにしていないが、撮影機材や人員を含めて提供可能で、「それぞれ特色ある4K制作、放送につかっていただきたい」(高田社長)としている。

 スカパー・ブロードキャスティング 取締役の早尻隆文技術本部長が、新しい中継車のSR-1に搭載された技術の概要を説明。実際に撮影された映像の試写も行なった。

スカパー・ブロードキャスティング 取締役の早尻隆文技術本部長

 車両はいすゞの6x4低床 QPG-CXY77BJ-SX(380PS)で、全長は11m、全幅2m49cm(両側拡幅時4m19cm5mm)、歩道側拡幅は0.5m、車道側拡幅1.2m。全高は3m65cm。重量は20t未満。なお、発動発電機は搭載せず、中継支援車の「SA-1」から給電する。

 既存の中継車との違いの一つとして、車内にVE卓とは別に、4K/HDRのクオリティチェック(QC)専用の席も設け、SDRとの比較が同じスペース内で行なえるのが特徴。4KとHDのサイマルで放送する場合にも、両方の放送で破綻なく、かつHDRの画質を活かしたクオリティで放送可能としている。4K HDR S-Log3/BT.2020による映像品質管理や、出力信号フォーマットのモニタリング、統括管理を行なう。

独立したQC卓を用意
上がHDR映像、下の2つがSDR映像のチェック用
下側に設置されたモニタで、SDR放送用の映像をチェック。白飛びなどの部分が分かる

 制作ワークフローは、ソニーの提唱する「SR Live for HDR」を採用。カメラから出力される4K HDR S-Log3のBT.2020フォーマットを基本とし、4K/HDR放送向けはHLG、OTT(ネット配信)向けにはPQ、SDのSDR放送にはBT.709といった形で変換する。VEによる画質調整はHDマスターモニターを使用し、従来の運用を大きく変えずにHDRとSDRのサイマル制作ができるという。

システムの概念図
SR-1の主な仕様
HDR(右)とSDR(左)で制作された映像

 カメラとCCUはソニー製で、HDC-4300と、HDCU-2000/BPU-4500を使用。常設は8台で、12台の増設(20台分の機器を中継車内に実装)可能としている。レンズはキヤノンのUJ86×9.3B ISS、CJ20e×7.8B、CJ12e×4.3B。

 レコーダはEVS XT-4K(4ch)3台を常設し、XAVCフォーマット収録に対応する。ビデオ/オーディオルーターは朋栄のMFR-8000。

 マルチフォーマットコンバータとして、ソニーのHDRC-4000(9式)、朋栄のFA-505(4式)、アストロデザインのSB-4024(12式)を備え、4KとHDの解像度変換や、SDRとHDRのガンマ変換、BT.709とBT.2020の色域変換を相互に行なえる。

 前面モニターにソニーのBVM-X300を2式、KJ43X-8300Dを6式搭載する。光多重装置は、オタリ(OTARI)のLWB-64が2式。

 HDRとSDRのサイマル放送における従来の課題として、輝度レベルはカメラの絞りによって左右されるため、例えば日中のスポーツ中継などでも、HDRとSDRの両立は難しい場面もあることを指摘。そこで活用するのが、変換ユニットのHDRC-4000(ソニー)。「4K/HDRの高輝度を活かしつつ、SDRにはゲイン差をつけることでSDRの適正なレンジを探って放送する。収録環境の明るさにもよるが、経験では-4dB~-10dB程度」(早尻隆文技術本部長)としている。

 なお、音声は5.1chに対応可能だが、音声中継車は外部に委託するか、電源供給する支援車のSA-1に積んだ機材を使うことを想定している。

 中継支援車のSA-1は、80kVAの発電発動機を搭載。SR-1へ50kVAの電源供給が可能なほか、音声機材など外部機器への給電も同時に行なえる。中継機材を運搬後に機材を下ろしたスペースを活用し、前述の音声制作や、収録環境として活用できる。空調機も2式装備。

中継支援車「SA-1」
SR-1に電源供給
機材を下ろした後のスペースを活用できる

サブスタジオにも活用。「コンスタントに4K/HDR番組を制作」

 この中継車を使った最初の4K/HDR放送として、4月12日に開催されるJリーグのYBCルヴァンカップにおいて、横浜F・マリノスとヴィッセル神戸の試合を生中継予定。それ以降の具体的な予定は明らかにしていないが、スポーツ中継などを中心に活用。さらに、既存のスタジオに横付けしてサブスタジオとしての活用も想定しているという。

 スカパーJSATホールディングスの高田真治社長は、2012年にスカパーがJリーグのメディア向け生中継を行ない、同社の取り組みが4K試験放送や、4K制作の活発化へつながったと振り返り、現在は商用で3chの4K放送を展開していることを説明。昨年10月から「スカパー! 4K体験」チャンネルでHDR放送へ試験的に取り組み、今年3月からは4K総合チャンネルでもHDRのレギュラー放送を開始するなど、4K/HDR化を着実に進めていることをアピール。

 4K/HDR中継車を自社で導入した背景については「4Kは衛星が先行したが、ケーブルテレビやIPでも取り組みが進み、ますます4K制作需要が増える」とした。

スカパーJSATホールディングスの高田真治社長

 この中継車を導入することによって、どれくらい4K/HDR放送が増えると計画しているのかについては、「具体的な数字は出さないが、コンスタントに生み出していく」(執行役員専務 有料多チャンネル事業部門長 兼 放送事業本部長 小牧次郎氏)としている。