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ソニーが進める4K/HDR映像制作、超高画質Crystal LED。iPhoneで撮るXDCAM Pocket

 ソニーは、4月に米国ラスベガスで行なわれた国際放送機器展示会「NAB 2017」に出展した4K制作機器などを展示する内見会を、放送局や映像制作などの関係者に向けて6月7日~8日に開催。4K/HDR対応カメラなどの撮影機器や、IPでHDR映像をライブ中継する「SR-Live」関連を中心に展示しているほか、大画面/高画質ディスプレイ「Crystal LED」や、ワイヤレスクラウドサービス「XDCAM Air」、16bitシーンリニアデータの新フォーマット「X-OCN」なども紹介している。

4Kカメラなどの展示

ソニーの4K/HDR制作トレンド

 4K/HDR対応製品増加などに伴い、ソニーはこれまでも「Beyond Definition」というキーワードで解像度だけではない付加価値などを訴求している。今回の展示では、コンテンツ価値向上の面で「HDR制作ワークフローのさらなる充実」と、ワークフロー/生産性の向上に関して「IP Liveプロダクションの拡がり」、「データアーカイブの重要性」を展示の見どころとしている。

 4K/HDRについては、日米欧でトレンドが少し異なり、4K/HDRに加えて8Kの設備導入も始まりつつある日本に対し、欧州ではHD解像度のHDRコンテンツ、米国ではHDのIP伝送に関心が高い傾向があるという。ソニーは、各地の状況に応じたソリューションを提供できる点を強みとしてアピールしている。

「Beyond Definition」を軸とした展示の重点ポイント

 高品質なHDR制作に関しては、S-Log3や、独自フォーマットのX-OCNによる高画質な撮影/編集や、ライブ中継において4KのHDRとHDのSDRを同時制作する「SR Live」、ブライダルやインターネット動画、米国などで盛んなカレッジスポーツといった「Instant HDRワークフロー」を紹介している。

用途に応じたHDR制作のワークフロー
SR Live
1システムで4K HDRとHD SDRを同時制作

 独自フォーマットのX-OCNは、4K撮影時に「16bitシーンリニア」データを採用。元の16bit RAWデータの階調を活かしたまま記録できる16bitシーンリニアデータで撮影し、朝日などの高輝度部分も階調性を損なわずに表現可能ながら、ファイルサイズを大幅に抑えられるという点が特徴。4K/24p記録のビットレートは、高画質なSTモードで660Mbps、サイズを抑えたLTモードでは389Mbpsと、XAVC Class480 10bit(1,024階調)の384Mbpsに迫るレベルを、16bit(65,536階調)の画質で実現する。

 現時点では、4Kカメラの「PMW-F55」と、背面に装着するレコーダ「AXS-R7」の組み合わせで利用可能。RAW撮影と同様に、後編集でカラーコレクションなどの作り込みがしやすくなることもあって、主に映画やCMといった現場での利用が始まっているという。

X-OCNは、16bitシーンリニアデータを採用
他の4Kフォーマットとのビットレートの違い
X-OCN対応レコーダの「AXS-R7」を、カメラのF55の背面部に装着

 ライブ制作のIP Live関連では、映像制作ワークフローのIP化を実現するスタジオサブシステムを、日本国内で初めて静岡放送が採用したことを7日に発表。同システムではIPによるライブ伝送の利点を活かした遠隔制作(リモートプロダクション)運用ができ、映像/音声/タリ―/制御などの信号を全てIPでスタジオサブにライブ伝送し、中継現場はカメラなど最低限の構成のみで映像制作できるといったメリットがある。

IP Live制作システム

 ディスプレイ関連の注目は、光源サイズ約0.003mm2で“漆黒に近い黒”を表現できる「Crystal LED」ディスプレイシステム。

 横10m×高さ2.7mの大画面を構成しているのは、コンパクトな320×360ドットの画素を持つディスプレイユニット144枚。このユニットの数と並べ方によって、様々なサイズや形状の画面を表示できる。コントラスト比は100万:1以上で「有機ELに迫る」としている。視野角は上下左右約180度。

幅10m構成のCrystal LED

 展示ディスプレイの主な仕様は、1月のCES 2017のものと同じだが、8K静止画や、120fps撮影のスロー映像、開発中のシネマカメラとアナモフィックレンズを使った映画風の作品など、様々なコンテンツを再生。鮮やかなスポーツカーの赤色などの高い色再現性や、真っ暗な夜と照明の高いコントラスト、人肌の表面に輝く細かい汗の粒など、高い表現力を改めて確認できた。

 なお、Crystal LEDは、'16年の発表時に「CLEDIS(クレディス)」というブランド名で紹介されていたが、現在は、技術名に基づいたシンプルなCrystal LEDという名称で展開。自動車/航空などのデザインや、ショールーム、美術館、医療/先端研究といった分野での活用を見込んでいる。

Crystal LEDの特徴

 有機ELや液晶のモニターも展示。ピクチャーモニターの新製品「LMD-B240」はフルHD IPS液晶で、2つの異なる映像の同時再生が可能な「シンクフリー サイドバイサイド」に対応する。

 有機ELの25型「PVM-A250」や、24.1型液晶「LMD-A240」などのPVM-A/LMD-AシリーズがVer.2.0にアップデート予定で、新たに色域はITU-R BT.2020対応となるほか、4K信号を3G-SDI×1で受けてHD表示する「2SIペイロードID」に対応。上記のシンクフリー サイドバイサイドもサポートする。

PVM-A/LMD-Aシリーズなどの業務用モニター

 また、参考展示として55型の4K有機ELモニター「PVM-X550」の、“高輝度モード”を紹介。通常輝度よりも250cd/m2アップしたというもので、「複数人で映像を確認する時などは、輝度が高い方がいい」という意見があったのを受けて試作。実際にX550のアップグレードサービスとして提供するかどうかは未定で、今回の内見会で得た意見を踏まえて検討するという。

 コンテンツアーカイブ関連では、長期保存に優れた光ディスクを用いた第2世代の「オプティカルディスク・アーカイブ」をテレビ朝日が導入したことを発表。4Kでも約9時間記録でき、実時間以下で書き込めて、100年以上の長寿命(推定値)を特徴とする。放送局以外でも、近畿大学 医学部でのゲノムデータ保存などでも活用されている。

第2世代の「オプティカルディスク・アーカイブ」
100時間分を1枚に収録

「PXW-FS5」などがHLG対応。iPhoneカメラで撮る「ワイヤレス取材」も

 カメラ関連のトピックとしては、4K Super35mm XDCAMメモリーカムコーダの「PXW-FS5」と、4K/1型センサーの「PXW-Z150」において、HDRのHybrid Log Gamma(HLG)に対応する無償ファームウェアアップデートを7月に実施することを紹介。FS5はVer.4.0、Z150はVer.2.0となり、いずれも4K/XAVC-Long 4:2:0 8bitまたは4:2:2 10bitにおいて、HLG収録が可能になる。

PXW-FS5

 その他にも、FS5ではS-Log2/S-Log3撮影時で感度を最低ISO 2000まで対応する(従来はISO 3200まで)ほか、1080/120fps撮影が時間無制限で可能になる(有償アップグレードライセンスのCBKZ-FS5HFR適応時)といった機能強化を予定。

 Z150は、QoSストリーミングや、タリー表示や最大3台の同時収録(別売コンパクトライブスイッチャー「MCX-500」、リモートコマンダー「RM-30BP」との組み合わせ)、ゼブラ機能のアップグレードが行なわれる。

PXW-Z150

 PMW-F55とPMW-F5用に、フルHD有機ELビューファインダ「DVF-EL200」を9月に発売。価格は未定だが、50~60万円前後を想定している。高解像度化により微細なフォーカシングが行なえ、従来のDVF-EL100と比べて約2倍の高輝度200cd/m2により視認性を向上している。

フルHD有機ELビューファインダ「DVF-EL200」

 夜間や暗い場所での利用を想定した高感度業務用ビデオカメラの「UMC-S3CA」は9月に発売。最高ISO 409600で4K動画が撮影できる、'16年発売モデル「UMC-S3C」をマイナーチェンジして、新たにゲンロック機能に対応。外部同期により複数カメラの同時運用が行なえ、マルチアングルだけでなく、VRなどにも活用できるという。価格はオープンプライスで、想定価格は75万円前後。

高感度業務用ビデオカメラの「UMC-S3CA」

 ワイヤレスクラウドサービスの「XDCAM Air」を用いた、ワイヤレス取材システムも紹介。現場のカメラに装着したアダプタを介して、インターネット経由で、放送局などにおいたネットワークRXステーション「PWS-100RX1」に伝送。SDI出力で最大2台同時にライブ映像を表示可能。Webブラウザから、ライブ映像のモニタリングや接続の管理などもできる。カメラだけでなく、スマートフォン用アプリの「XDCAM Pocket」からのストリーミングも可能。このアプリは単体ではなく、ワイヤレス取材システムの一部として提供される。

ワイヤレス取材システム
iPhoneのカメラで撮影してクラウドで管理

 ドローンを用いた撮影ソリューションも参考展示。有線で給電することにより最長9時間の飛行ができるのが特徴で、エアロセンス製のドローンと組み合わせて紹介している。室内を含めた、移動が少ない撮影シーンでの利用。また、車載などの可搬性も考慮したベースユニットを備えている。

ドローン撮影ソリューション
高度80mからの映像
旋回型カメラ「BRC-X1000/X800」はVer.2.0アップデート予定で、4KやHDの24p撮影に対応