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NHK、「インタラクティブ8Kビューアー」を開発。“原爆の絵”8K番組を放送

 NHKは、8Kスーパーハイビジョンの超高精細カメラで撮影した絵を、タブレットで自由に操作して見られる「インタラクティブ8Kビューアー」を開発。広島の原爆を体験した被爆者が描き残した「原爆の絵」を8K撮影したコンテンツを制作し、報道向けに体験会を行なった。8K制作番組「“原爆の絵”は語る~ヒロシマ 被爆直後の3日間~」のナビゲーターを務めた波留さんも来場し、番組に関わって感じたことなどを語った。

8K制作番組「“原爆の絵”は語る~ヒロシマ 被爆直後の3日間~」ナビゲーターの波留さん

 「原爆の絵」は、原爆の惨禍を生き抜いた被爆者たちが、自らの実体験を描き残したもの。1974年から募集が始まったもので、現在およそ4,200枚が広島平和記念資料館に所蔵されているが、劣化が進んでおり、展示されているのはごくわずかに過ぎないという。

 そこで、NHKは8Kスーパーハイビジョン対応の超高精細カメラで、絵の細部まで丹念に撮影。時系列に沿って被爆直後の3日間をたどる8K番組を制作した。

8K制作番組「“原爆の絵”は語る~ヒロシマ 被爆直後の3日間~」

 NHKと平和記念資料館が共同で、約4,200枚の「原爆の絵」全てを超高精細画像で記録してデータベース化。タブレット操作で検索することで、8Kモニターに広島の3D地図上に日時・場所情報とリンクさせて表示させるシステム「インタラクティブ8Kビューアー“原爆の絵”」を制作した。8月1日~16日に広島平和記念資料館で、8K番組「“原爆の絵”が語るヒロシマ(10分)」とともに展示される。

「インタラクティブ8Kビューアー“原爆の絵”」の画面

 今回の取り組みに合わせて開発された「インタラクティブ8Kビューアー」は、85型の8Kモニターとタブレット(iPad Pro)、画像のサーバーとアプリで構成。保存する画像データは2TB SSDに収められている。

 タブレットを操作して、見たい画像を選ぶと8Kモニタに表示。デジタル化された絵の内、描いた場所や日時がはっきりしている約1,000点は、地図上にプロットしてサムネイルを表示。8月6日から5日間の範囲で日時を選んで地図上でタップすると、その絵を8Kモニターに表示する。タブレットからの操作で、見たい場所を拡大表示することなどが可能。

時間を指定すると、その時の絵がサムネイルで地図上に表示
見たい部分を拡大しても精細に表示

 日時や場所が正確に残っていない絵は、キーワードでの検索も可能。例えば「雲」と入力すると、様々な視点から描かれたキノコ雲が見られる。このほかにも、爆心地からの距離や、作者名などからも検索可能。絵とともに残された手記もキャプションとして表示され、日本語と英語の切り替えも可能。

「雲」でキーワード検索
キノコ雲が描かれた絵
検索方法

 絵の撮影には、Phase One製の1億画素センサーを持つ静止画カメラを使用。NHKと平和祈念館の学芸員らが協力して絵を1枚ずつ撮影。拡大しても細部まで見られるように15K相当の解像度で記録されている。

絵の撮影の模様

 絵は、被爆した人々それぞれが記憶を頼りに画用紙などに描いたもので、拡大すると、筆の細かなタッチもわかるほか、紙の質感や、かつて掲示されていた時の画鋲やセロテープの跡などまではっきり見える。

 広島平和記念資料館の以外での展示については検討中としている。今回の8Kシステムは、今後もUIの改良などを進めて活用予定で、例えば西洋画や日本画の研究用途なども見込めるという。

8K番組は7月31日から順次放送。波留「多くの人が知るきっかけに」

 「“原爆の絵”は語る~ヒロシマ 被爆直後の3日間~」の放送予定は、スーパーハイビジョン試験放送が7月31日~8月2日、4日~9日、11日~16日のそれぞれ午後1時~1時43分。NHK総合(HD)は8月6日午後1時05分~1時48分。

「“原爆の絵”は語る~ヒロシマ 被爆直後の3日間~」の大久保幸治チーフ・プロデューサー(左)とナビゲーターの波留さん(右)

 番組は8Kで制作。“原爆の絵”の一部を、ナビゲーターの波留さんと東出昌大さんが、それぞれの作者の手記とともに紹介。8月6日からの3日間を追体験するようにたどっていく内容となっている。音声は22.2ch

 番組撮影は、F65と単板カメラを混在する形で行なわれた。8Kで制作することになったの経緯について、広島局 制作統括番組の大久保幸治チーフ・プロデューサーは、「被爆70年となる2015年に、焼け野原からの遺品などで短い番組を制作したところ、8Kで撮影した絵が、まるで目の前で見ているように、筆致まで伝わる感覚に心を打たれた。“絵を今まさに見ている”という感覚を時系列にすることで、一つの線としてとらえる番組にした」と説明した。

大久保幸治チーフ・プロデューサー

 苦労した点については「明かりの問題。8Kは明るさが命だが、絵に対しては明かりが負担になるため、平和記念資料館の学芸員の方に立ち会っていただき、絵に負担にならない明かりを模索して撮影した。絵はズームなどは極力避け、フィックスにこだわった。絵をフルサイズで見せて、見たいところに目線を移していただけるようにした」としている。

 番組にナビゲーターとして出演した波瑠さんは、「最初は生まれも育ちも東京の私になぜナビゲーターを任せていただいたのかと思っていました。私は原爆を体験した方の孫世代と同じくらいですが、実際は私のようによく知らない人の方が多いと思います。そうした人が知ろうとするきっかけ、糸口になれたらいいのかなと思って、やらせていただきました。絵を描いた人の思い、記憶が生々しく残っていて、そういうものが劣化せず、できる限りそのままの質で届いていくことはすごいと思います。8Kで何千枚も絵を取り込んでいく作業などは大変だったと思いますが、今回の取り組みに少しでもお手伝いできて本当に良かったです」と語った。

波留さん