NHK、スーパーハイビジョンの進化版など「技研公開2009」
-SHVを中心に技術展示。103型4K PDP、折り曲げ有機EL
日本放送協会(NHK)は、東京・世田谷区にあるNHK放送技術研究所を一般公開する「技研公開2009」を5月21日から24日まで実施する。入場は無料。公開に先立って19日、マスコミ向けの先行公開が行なわれた。
■ スーパーハイビジョンは今年も進化。フル対応プロジェクタでデモ
スーパーハイビジョンシアター | ビクターと共同開発した新スーパーハイビジョンプロジェクタ |
NHKが、「今後10年、技研公開のフラッグシップとして取り組む」(NHK放送技術研究所久保田所長)というテーマが、スーパーハイビジョン(SHV)システムだ。
解像度7,680×4,320ドット、フレームレート60Hzの映像に、22.2chのサラウンドを加えた高臨場感システムを、例年通り450インチのシアターで体験できる。
今年の強化ポイントはビクターと共同開発した“フル解像度”の1.75インチ/7,680×4,320ドットパネルを用いたプロジェクタを採用し、画質を向上したこと。昨年までのプロジェクタは、1.7インチ、4,096×2,160ドットのパネルを4枚(R、G1、G2、B)使い、SHVの表示を画素ずらしで実現していたが、今年のモデルではRGBそれぞれのパネルが7,680×4,320ドットの画素を有しているため、SHVの映像を最大限に引き出すことができるようになったという。
上映映像は、「ねぶた祭り」や蒸気機関車、大海原に浮かぶ帆船など。雄大な船の姿や、色鮮やかなねぶたが大迫力で楽しめる。
さっぽろてれび塔から中継 |
また、札幌の「さっぽろてれび塔」に固定したカメラで撮影したSHV映像を、専用の符号化装置で100Mbps程度に圧縮し、鹿島の拠点にIPネットワークで伝送。その映像を実験衛星「WINDS」を用いて、SHV 3番組と多重化して衛星に送信し、NHK技研のアンテナで、受信/視聴にするというデモも実施している。
伝送実験のためにNHKではSHV映像を約100Mbpsまでに圧縮するエンコーダを開発。また、新しい誤り訂正符号化技術や広帯域復調器を開発し、SHVの多チャンネル伝送を可能とした。今後、この成果をSHVの21GHz帯衛星放送システムの検討に反映していくとしている。
衛星経由でSHVを受信 | 伝送構成 | SHVの受信システム |
3,300万画素3板式カラーカメラ |
また、ビデオカメラについても、画素ずらしではなく、”フル解像度”でのSHV撮影を可能とする3,300万画素3板式カメラのプロトタイプを製作。フル解像度のSHVの広帯域映像信号(72Gbps)を処理するためのカメラヘッドと、カメラコントロールユニット(CCU)を新たに開発し、輪郭補償処理などを加えて、画質改善を図った。イメージセンサーは、米国のベンチャー企業が製造している2.5インチCMOSとしている。
カメラヘッド/コントロールユニットの開発に合わせて、光ケーブルを利用して伝送する光波長多重伝送装置を開発した。ただし、まだフルSHV記録のための記録装置は、「6秒程度の記録が可能なテスト用のものしかない」という。今後、実用化に向けたカメラヘッドの小型化やリモート制御などの機能強化に取り組むという。
カメラヘッド部 | 2.5型/7,680×4,320ドットのCMOSを搭載している |
110万:1というハイダイナミックレンジ表現が可能となったSHVプロジェクタのデモも実施。昨年は静止画表示のみだったが、今年は新たに動画再生用の回路を開発し、動画表示が可能となった。
スーパーハイビジョン用ハイダイナミックレンジプロジェクタ | システム構成について |
プロジェクタはビクターと共同開発したもので、2段階の変調部で構成されている。「プロジェクタを実質2つつなぎ合わせたようなもの」とのことで、SHV映像を入力前に画像処理回路で3,840×2,160ドットの色変調データと、7,680×4,320ドットの輝度データに分割する。
色信号は800万画素/4KのLCOSパネルを3枚利用して表示。リレーレンズを介して、第2変調部で輝度用素子へと投写。輝度信号に対しては、7,680×4,320ドットの輝度データを単版LOCSパネルに入力して表示。この2つの映像を合わせたものがスクリーンへ投写することで、ハイダイナミックレンジ表現を実現した。映像は、月周回衛星の「かぐや」や、「ねぶた祭り」、「正倉院」などで、そのコントラスト性能の高さを十二分に体感できる。
■ 103型プラズマやビデオカメラなど4K関連機器も
103型/4Kプラズマディスプレイ |
パナソニックと共同開発したという103型の4Kプラズマテディスプレイも初披露。解像度3,840×2,160ドットの4K解像度を持つPDPで、電極抵抗の増加による明るさのばらつきをパネルシミュレーション技術により解析し、電極構造や駆動電圧波形の最適化を行ない均一な映像再生を可能としたという。
今回家庭用SHV表示に向けた中間目標として4K/2Kの実現に成功。試作機の輝度は非公表だが、市場投入されているフルHDの103型PDPよりは若干暗くなっているという。
また、ビクターと共同開発した4K単板ビデオカメラも展示。1.25型/3,840×2,160ドットのCMOSを搭載する小型のカメラヘッドと信号処理部で構成し、4K2K/60pのリアルタイムビデオ出力を実現した。カメラヘッドと信号処理部を分離したことで、カメラヘッドを約3kgまで軽量化している。
CMOSはアプティナ製。ビクターでは製品化に向けて準備を進めているという。
ビクターと共同開発した小型4Kビデオカメラ | 4Kビデオカメラの撮影デモ | パナソニックの単板ハイビジョンカメラは「ケータイ大喜利」などの番組で利用されている |
■ インテグラル立体テレビやフレキシブル有機ELなど
特殊なメガネなどを使わず、裸眼で立体視が可能な「インテグラル式」立体テレビも紹介している。
撮影時に微小レンズを大量に並べたレンズアレーを通して撮影を行ない、表示も同アレーを通して再生することで、多くの視点から見た映像を一度に撮影/表示するシステム。昨年は解像度(レンズの数)が180×140個だったが、今年は撮影や表示用のレンズアレーをさらに細かくし、400×250個に向上。約400×250ドット相当にまで映像の高解像度化を実現した。
位置に応じた立体像を見られることが特徴で、レンズアレーを通して撮影/表示する。多焦点かつ奥行き方向などの情報も含むため、SHV相当の解像度での撮影が必要となるが、今後も高精細化や画質向上などに取り組む予定としている。
インテグラル立体テレビ | 背面からレンズアレイにスーパーハイビジョンプロジェクタで投射している | インテグラル立体テレビの概念図 |
折り曲げ可能なフレキシブル有機ELディスプレイも昨年に引き続き出展。解像度は213×120ドット、サイズは5.8型、厚みは0.3mmと2008年の展示品と共通だが、輝度を昨年の倍以上に向上したほか、画素欠けを減らすなどの改善を図っている。
今年の展示品では、パターン形成時の電極や半導体層の作成方法の改良により、均一でより明るい表示が可能となった。今後もパネルの大画面化や高精細化に向けて開発を進めるとしている。
フレキシブル有機ELディスプレイ | 厚さは0.3mm |
ホログラム記録技術の展示も行なっている。NHKで開発したという新しい波面制御技術や光変調素子などを展示。スーパーハイビジョン時代に向けた大容量記録媒体の開発を進めるとしている。
波面制御技術などホログラム記録向けの技術を開発 | 技術概要 |
小型高感度カメラ向けの冷陰極HARP撮像板は小型化 |
(2009年 5月 19日)
[AV Watch編集部 臼田勤哉]