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日本放送協会(NHK)は、東京・世田谷区にあるNHK放送技術研究所を一般公開する「技研公開2006」を開催した。会期は5月25日から28日まで。入場は無料となっている。
毎年開催されている、NHK放送研究所の研究活動の成果を視聴者に公開・説明するイベント。サーバー型放送など、デジタル放送の今後の展開や、スーパーハイビジョンシステムなど未来の放送に関する展示などを行なう一方、専門的な要素技術研究の成果も公開されている。
■ サーバー型放送が現実的な姿に 会場入り口で紹介されているのは、HDDを内蔵したハイビジョンレコーダやSTBを使用したサーバー蓄積型放送。2007年のサービス開始を計画しており、通常の番組視聴やHDDに録画した番組の再生に加え、通信回線を経由してNHKのアーカイブにアクセス、過去の放送などの有料コンテンツをHDDにダウンロードし、家庭内ネットワークを使って様々なデバイスから視聴できるという。 昨年までの展示では番組に付与されたメタデータを利用し、視聴している人の嗜好などに合わせて自動編集した番組を再生するなど高度な機能を紹介していた。しかし、今年は「レコーダメーカーが現在の技術で十分開発/対応できる機能に絞ってデモをしており、実際にスタートする際のサーバー型放送に近いイメージになっている」という。 そのため、展示されているホームサーバー筐体のデザインはブラッシュアップされているが、搭載する1TB HDDに変更はなく、メタデータ関連の機能も絞って搭載するなど、現実味を増している。 デモ機ではBMLを使ったメニューからNHKのサーバにアクセスし、番組を購入/ダウンロード。その際、コンテンツのフォーマットは「受信機(ホームサーバ)用」、「光ディスク用」、「携帯端末用」の3種類が選択可能。家庭内LANを経由して他の部屋の受信機で再生したり、ワンセグ対応の富士通製Linux端末「.u Visual」や携帯電話で視聴するデモも行なわれている。
また、ワンソースマルチユースを実現するための権利保護技術も展示。KDDI/KDDI研究所と共同で開発を進めているアクセス制御システム「CAS」を利用し、放送波、もしくは通信から送られる視聴ライセンス情報に基づいて、携帯端末の利用形態に即したサービスの実現を目指す。イメージデモだが、ホームサーバーと連携できる、CASカードスロットを接続した次世代光ディスク再生機や、CASカードを挿入できるポータブルビデオプレーヤーも展示されている。
ダウンロードした番組コンテンツのライセンス購入デモでは、コンテンツのコピーに関して「家庭内では可能(無料)」、「限定なし(買い取り)」など、利用シーンに合わせて柔軟に対応できるコピーガード技術であることをアピール。なお、限定なしで買い取りをし、Blu-rayやHD DVDに書き込む場合には、同保護技術は外れ、AACSなど、各光ディスクの保護技術に任される。
また、携帯端末向けの技術も開発。NTTと共同で開発しているSSO(Single Sign On)認証は、放送を受信する際に1回個人認証作業をするだけで、番組のデータ放送などからリンクで飛んだ先のサイト上で認証作業を行なわずに、自動認証で会員向けサービスが受けられるというもの。認証作業は全て自動で行なわれるが、各サービスに登録されているユーザーの個人情報をサービス事業者間で受け渡さないシステムとなっており、個人情報も保護できるという。 ほかにも、5月17日に発表されたKDDI/KDDI研究所と共同開発の「K2」技術も展示。携帯端末向け放送での使用を想定しているコンテンツ保護技術で、PCよりも処理能力が低い携帯機器でも高速に復号化できる負荷の軽さが特徴。CPUを利用し、ソフトウェアのみで復号化できコスト面で優れるほか、暗号鍵を通信で取得するため、セキュリティ機能も高い。
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■ スーパーハイビジョンを家庭に送信するまでのシステムが完成 技研公開の目玉として、毎年ブラッシュアップされているスーパーハイビジョンシステム。昨年は2025年に家庭向け本放送を開始するというロードマップが公開されたが、今年はそれを家庭に届けるためのトータルソリューションを展示している。 映像フォーマットはMPEG-2で、解像度は7,680×4,320ドット。カメラの撮像素子は1.25型/800万画素のCMOS 4板式。G信号は斜め画素ずらし。音声は22.2チャンネル(24チャンネル)で収録している。撮影機材に大きな変更はないが、新たに色収差補正機構を投入。ズームレンズに対してもRGBの収差をリアルタイムに補正するハードウェアで、周辺部の画質が向上。「収差を抑えたレンズは大きく/重くなりがちだが、このハードウェアを導入することで小型/高画質なスーパーハイビジョンカメラが実現できる」という。 撮影したデータは24Gbpsと大きく、HD-SDIケーブルを16本使用して中継場所に伝送。そこから放送局まではシングルモード光ファイバーで伝送する。24Gbpsを1本の光ファイバで伝送でき、伝送遅延も数msと小さいことが特徴。2005年11月に千葉県の鴨川からNHK技研までの伝送に成功しており、会場でも300kmの光ファイバケーブルを介した伝送デモを行なっている。 スーパーハイビジョンの放送には衛星を使った21GHz帯の伝送が計画されている。しかし、21GHz帯でも24Gbpsをそのまま放送することは難しいため、MPEG-2の180~600Mbpsの映像に圧縮。音声も1/4となる約7Mbpsに圧縮して伝送する。なお、デモでは16台のハイビジョン対応MPEGエンコーダを利用し、スーパーハイビジョン解像度を分割して処理することでリアルタイム圧縮を実現している。また、実現に向けてはさらなる圧縮も必要なため、MPEG-4 AVCや独自フォーマットの開発も視野に入れ、スーパーハイビジョンに適したフォーマットの開発を進めているという。
圧縮されたデータは最後に、家庭に到着。1.2TBのHDDを搭載したレコーダに送られる。デモで使われた信号は250Mbpsで、1.2TBに10.5時間録画可能。600Mbpsの場合は4.5時間しか録画できない。 なお、上映ルームでは例年と同じ450インチのスクリーンと、22.2チャンネルのスピーカーを使ったスーパーハイビジョンの上映デモも実施。今年は技研の玄関口にカメラが置かれており、玄関口の映像をリアルタイムで表示。自然や海外の街並みなどの映像も再生されるが、来場者の誰もが目にした場所がスーパーハイビジョンで表示されるため、その高精細さを身近に感じられるデモになっている。
■ 超高精細PDPとフレキシブルディスプレイ スーパーハイビジョンの走査線4,000本級を家庭で表示するために、PDPの高精細化技術が研究されている。PDPはガス放電で発生した紫外線で蛍光体を光らせているが、高精細化するためには、セルの微細化による励起粒子の生成効率の低下や、セル壁面での損失などによる輝度の低下などが問題だった。 画素ピッチを小さくするためにセルを小さくすると、励起粒子の損失が大きくなる。だが、封入ガスの圧力を大気圧近くまで高めると、損失が少なくなる現象を発見。輝度の低下をカバーできるという。 技研では対角100インチで走査線4,000本級を実現するため、画素ピッチを0.3mmと設定(従来のパネルは約0.9mm)。昨年は白色に光るだけだったが、今年は動画の表示を実現した。また、電極保護膜に新素材の酸化ストロンチウムカルシウムを用い、低電圧化も実現しているという。 試作パネルは6.5インチで、解像度は192×160ドット。輝度は300cd/m2。パイオニアなどと共同で開発は進められている。 紙のように薄く、丸められるフレキシブルディスプレイの開発も進んでいる。フレキシブル有機ELディスプレイでは、RGBの燐光材料をインクジェット方式でプラスチック基板に付着させることで色再現性と発光効率を改善。5インチの試作ディスプレイを展示している。 フレキシブル液晶ディスプレイでは、高速応答の液晶分子(強誘電性液晶)の並び方がポリマー壁によって乱れる現象を分子配向技術を工夫することにより低減。コントラストを改善し、表現力を向上させた。さらに、初めてフィルム液晶と有機TFTを一体化させたアクティブ駆動フレキシブル液晶パネルも試作している。
■ 超高速高感度な小型カメラを開発 撮影用機材では、30万画素の解像度と、最高撮影速度100万枚/秒を実現した小型カラーカメラを開発。これまでは3CCD方式だったが、高速読み出しが可能で、特殊な構造の単板カラーCCDを新たに開発。CCD内の各画素のフォトダイオードに映像を記録する144フレーム分のメモリを直結することで、高速度撮影を可能にした。さらにフォトダイオードの面積を大きく設計することで、通常の高速度撮像デバイスの約10倍の感度を実現した。 CCDが単板式となり、カメラが小型化したことで、写真用レンズが利用可能になった。今後はさらなる高感度を目指し、「通常の光源下でも高速度撮影が行なえるよう改良し、光量が不足しがちな顕微鏡での撮影などにも対応していきたい」という。
また、ドラマ「クライマーズ・ハイ」でも使用されたというハイビジョン用超高感度HARPカメラも展示。光を電気に変換する半導体の膜における「電子のなだれ倍増現象」を利用することで感度を高めたHARP撮像管を使用している。従来は大災害後の報道など、真っ暗な中での撮影を想定していたが、月明かり程度の弱い光でも鮮明に撮影できることから、映画やドラマでの利用シーンが増加。画質を高めるために、新たに赤色光に対する効率を従来の4倍に高めた増感型HARP撮像管の開発が進められている。
■ よりハイクオリティな番組作りを目指す スタジオ用技術として、CGと実写の合成を容易にする技術開発も進められている。スタジオのセットなどに赤外線LEDを設置。赤外線センサを備えたカメラで番組を撮影することで、カメラには映らない赤外線からLEDの位置情報を取得。CG合成用システムと連動させることで、カメラのアングルによって映り方が変化する“自然な3DCG”を簡単に実写映像の中に挿入可能。カメラ用雲台を使わず、手持ちなどの自由なカメラワークのCG合成も手軽に実現できるという。
「製作支援情報掲示装置」は、カメラの電子シャッターと同期した間欠表示を行なうシステム。肉眼では見えるが、カメラで撮影すると映らない文字情報を表示でき、“視聴者には見えないカンペ”が実現できる。
「アクシビジョンカメラ」は、ハイビジョン撮影を行ないながら、被写体の奥行き情報を検出できる「3次元形状検出カメラ」。近赤外光を発するLED光源をカメラの周囲に取り付けてあり、被写体に反射した光を超高速シャッターカメラで撮影。カメラとの距離を画像の濃淡で検出でき、CGとの複雑な合成が行なえるという。また、人物の形状計測、ゲームソフト制作、医療、セキュリティ、ロボットの視線など、様々な分野での応用が期待されている。
■ その他 ワンセグ関連では、緊急警報放送を受信すると、自動的に起動する端末を試作した。従来の受信回路をそのまま緊急警報の待ち受けに使用すると消費電力が大きくなってしまうため、ワンセグの432本の搬送波のうち、警報を伝送する搬送波のみを受信。さらに、警報信号が約0.2秒ごとに間欠送信されることに着目。常時監視するわけではなく、0.2秒にタイミングを合わせて間欠的に受信することで、待機電力を1/10以下にしたという。 システムの小型化が課題であり、LSIによるワンチップ化を想定。「将来的にはワンセグチューナモジュールに組み込める」という。また、緊急放送非対応のテレビ用のシステムも開発。テレビのリモコンを制御するユニットで、テレビを付けていない際にリモコンをテレビに向けて置いておくことで、緊急放送を検知するとリモコンから電源ON信号が発信される。将来的にはリモコン内に同受信/リモコン制御システムを組み込むという。
□NHKのホームページ
(2006年5月25日) [AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]
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