ソニーPCL、3Dと4Kに対応した制作ソリューションを公開

-3D/4K作品の撮影から上映までトータルサポート


「3D撮影用Rig」と呼ばれる新しい3D撮影システム

6月5日公開

 海外、特に米国における映画館の3Dシネマ対応が進む中、国内でも既に約60館/130スクリーンで3D対応がなされており、3DCGアニメの上映などで人気を集めている。今年はさらに急速な拡大が見込まれているほか、最近ではスポーツイベントなどでの3D映像中継、博物館やプラネタリウム、動植物園での3D映像設備の常設、アミューズメント施設の3Dアトラクションの増加、BS11で実施されている3D放送など、映像業界全般で3D化に向けた取り組みが増加している。

 また、デジタルシネマでは、フルHDを越える2K(2,048×1,080ドット)や、4K(4,096×2,160ドット)などの超高解像度映像の制作ニーズが高まっている。

 映像の撮影、編集、DCP(デジタルシネマパッケージ)、Blu-rayなどのパッケージメディア制作までを一貫してサポートしているソニーピーシーエル株式会社(ソニーPCL)では、今後のニーズの高まりを見越し、3D/4K制作ソリューションを強化・拡充。その設備を5日、報道陣に公開した。


 ■ 3D撮影用の新システムを導入

 3D映像の基本は、撮影対象物を、水平に並べた2台のカメラで撮影するところから始まる。カメラは基本的に、人間の両目の幅と同じ6.5cm離して設置。視線が交わる“交点”と呼ばれる位置を決め、2台のカメラで異なる角度から同時に撮影。得られた左目用と、右目用の映像を、それぞれの目で見ると、交点よりも前に置かれたものは飛び出して、後に置かれたものは奥まって、映像が立体的に見えることになる。

 3D撮影用にソニーPCLではこれまで、目幅にレンズを並べ、その映像をプリズムを使って2台のカメラで記録する「目幅レンズ撮影システム」を使っていた。しかし、立体感の調整を行なう際の目幅の変更や、左右レンズをシンクロさせたフォーカス/ズーム操作が難しいなどの問題があった。

人間の目の幅と同じだけ距離をおいてカメラを設置。異なる角度から対象物を撮影する交点がスクリーンとなる。それより手前にあるものが飛び出し、後にあるものが奥まる従来の、レンズを横に2本並べてプリズムを使って撮影するシステム

 そこで今回新たに、「3D撮影用Rig」と呼ばれるシステムが導入された。これは、箱の中にハーフミラーを斜め45度に設置し、箱の真後と真上にカメラを設置。同じ映像をハーフミラーで分け、2台で同時に撮影できるというもの。カメラはレールの上に設置されており、移動が可能。これにより「目幅の変更」を可能にする。

 幅を広げると立体感は強調、狭めると緩和され、見やすい映像になる。コンサート撮影でヴォーカルのアップを立体感豊かに撮影し、会場全体を見渡す“引きの絵”は立体感を抑えて視聴者への負担を軽減する……といった具合だ。

新しい3D撮影用Rigを使ったシステム。左側にある箱の中にハーフミラーが入っている斜めに設置されたハーフミラー。奥にレンズが見える箱の真後ろに1台(写真では右)、そして箱の上にもレンズとカメラが接続されているのがわかる

 また、2台のカメラにはcamin製のフォーカス/ズーム制御装置が取り付けられており、手元の操作でフォーカス/ズームを簡単に連動動作させることができる。ハーフミラーを入れることで絞り1段分暗くなってしまうという欠点があるものの、焦点距離7mmからのレンズが利用でき、乗せるカメラを様々な種類に取り替えることもできる。暗さの問題も高感度な最新のカメラではその欠点をカバーできるという。

カメラはレールの上に載っており、移動可能。上部のカメラも移動でき、目幅が調節できる。ちなみにフルHD撮影する写真のシステム全体で3,000万円程度左側にあるユニットがフォーカス/ズーム連動制御装置。装置から伸びるケーブルがカメラレンズのフォーカス/ズームリング部に取り付けられている撮影動画を偏光眼鏡でチェック

4Kデジタルシネマカメラ「RED ONE」
 カメラのバリエーションも増加。S-Log対応カメラの「F35」「F23」、10bit RGB4:4:4対応の「HDC-F950」に加え、新たに4Kデジタルシネマカメラ「RED ONE」も導入。2K/4Kの撮影も可能になった。現在ソニーPCLにあるのは1台だが、前述の「3D撮影用Rig」に、2台の「RED ONE」を搭載することも可能だという。


 

■ 編集中のチェックも3D/4Kで

 こうして撮影された映像は、3Dや4Kに対応した編集制作環境に渡される。PCLでは国内では初仕様という、ステレオスコピック3Dオプションと、4K出力オプションを装備したQuantelの「iQ Pablo 4K NEO」というシステムを導入。「208 iQ Pablo 3D/4K対応編集室」として6月5日から運用を開始する。

 ワークフローの大まかな流れとしては、4K映像の場合は撮影したRAWデータをASSIMILATEの「SCRATCH」と呼ばれるソフトで現像。Final Cut Proで粗編集し、合成するCGやエフェクトなども盛り込みつつ、「Pablo」へと渡される。ここでは各カットの色調濃度を調整し、作品全体の統一感を出す「カラーグレーディング」が行なわれる。

 3D映像の場合は、撮影データ3D表示方式に合わせて変換。粗編集した後、「Pablo」でカラーグレーディングを行なうほか、「各シーンの立体感はこれでOKか?」という視差調整やその確認など、重要な作業が行なわれる。完成したデータはエンコードへと移り、試写という流れは4K/3Dともに共通だ。

4K映像制作時のワークフロー3D映像のワークフロー
208 iQ Pablo 3D/4K対応編集室Quantel社の「iQ Pablo 4K NEO」というシステムが導入された

 なお、通常4K映像の投射には大型の4Kプロジェクタが必要になるが、PCLでは解像度3,840×2,160ドットの56型モニタを導入予定。ソニー製の「SRM-L560」と呼ばれるモニタで、11月に発売予定。会場では試作機も特別展示された。LEDバックライトを装備しているのが特徴で、内蔵したRGBセンサと温度センサのデータをフィードバックし、デバイス温度や経年変化で生じるユニフォミティーと色の変化を安定化できる。パネルには10bitドライバーを搭載し、階調表現に優れているのも特徴。さらに、独自開発の12bit信号処理エンジンで、I/P変換、スケーリングなどを行なっている。入力はHD-SDI(Single/Dual)、DVI-D×4、HDMI×4など。

ソニー製の4Kモニタ「SRM-L560」高精細な表示と、LEDバックライトによる正確な色表現が可能入力部


 

■ 様々なタイプがある3D表示方法

3D上映方式の主な種類の一覧
 眼鏡をかけて見る3D映像表示方式には、「時分割投影方式」と「同時投影方式」の2つがある。「時分割」は、1台のプロジェクタで左右の映像を交互に投写するもので、「パッシブ眼鏡方式」、「アクティブ眼鏡方式」、「波長眼鏡方式」の3種類が存在する。

 Real 3Dに代表される「パッシブ眼鏡方式」では、プロジェクタの前に光を2方向に円偏光させるフィルタを設置。それを偏光眼鏡を通して見る。3D眼鏡の構造が簡単でコストが抑えられるのが特徴。

 これに対し、XpanDで採用されている「アクティブ液晶方式」は、再生機と赤外線パルスで連動する、液晶シャッターを眼鏡に採用したもの。右目用の映像が表示されている瞬間は、左目前の液晶シャッターを暗くして右目しか見せない仕組み。連動信号を出すユニットが必要で、赤外線受光部や電池が必要な3D眼鏡のコストも高い。Dolby 3Dが採用する「波長眼鏡方式」は、R、G、Bの各波長を、右目用/左目用にシフトさせそれぞれの目に異なる映像を送るというものだ。

 これらと異なり、2台のプロジェクタで「同時投影」する方式もある。プロジェクタの前に左右映像分離用の偏光フィルタを設置。スクリーンに重ねて投写し、それを直線タイプの偏光メガネで見るというシステムだ。

上映の仕組み。写真は同時投影する場合。プロジェクタの前に偏光フィルタを設置。スクリーン上に重ねて投写するその映像を、偏光眼鏡を通して観る脳内で立体映像と錯覚される
時分割投写時の図。交互に左右の目用の映像を表示していくアクティブ眼鏡方式の図式。液晶シャッターで左目表示の場合は眼鏡の右目を黒く、右目表示はその逆を行なうアクティブ眼鏡方式でも脳内で錯覚が起こる

 PCLのカラーグレーディングを行なう編集室では当然ながら、3D表示に対応したスクリーニングシステムが必要になる。編集室では「同時投影」型を採用。120インチのシルバースクリーンと、BRAVIA SXRDプロジェクタ(フルHD)を2台スタックで設置。レンズの前に左右映像分離用に偏光フィルタを貼り、スクリーンに重ねて投写。それを偏光メガネで見ながら仕上がりをチェックする。

編集室での試写。偏光眼鏡で見るBRAVIA SXRDプロジェクタをスタック。レンズ前にフィルタを貼っている実際の投写映像。これを見ながら仕上がりをチェックする

 これとは別に、PCLでは試写用に、約200インチ(16:9/シネスコでは230インチ)のスクリーンを用意し、スクリーニング環境を備えたデジタルシネマスタジオ「CineLaPista(シネラピスタ)を用意。3D試写に対応している。

 こちらではXpanD 3D方式を採用。3D対応の2K DLPシネマプロジェクタ「CP2000MR」(Christie製)を用いて、左右の映像を交互に投写している。観賞する時は液晶シャッター型のアクティブ眼鏡を装着する。なお、CineLaPistaには4K SXRDデジタルシネマプロジェクタ(ソニー製)も導入されており、4Kの試写にも対応している。

3D/4Kの試写に対応したCineLaPista3D投写を行なう2K DLPシネマプロジェクタ観賞する時は液晶シャッター型のアクティブ眼鏡を装着する
現在放送やセルソフトなどで活用されている3D表示の紹介も行なわれた。写真はBS11の3D表示に対応したヒュンダイITジャパンの専用テレビBS11の3D表示は、左右目用の映像を、横に並べた形(サイドバイサイド)で放送されている。これをテレビ側で横方向に引き延ばしつつ、重ねて表示。液晶パネル前に偏光フィルムが付けられており、偏光眼鏡を使って見るPSPのゲーム「METAL GEAR AC!D 2」で採用された3D表示機能。サイドバイサイド表示された2つの映像を、紙で作った「SOLID EYE とびだシッド」をPSPに装着して見る。内部で左右の目の間についたてを作るような仕組みだ

ソニーPCLの毛塚善文社長
 こうした設備強化の背景として、ソニーPCLの毛塚善文社長は、映画やイベント・博展映像、パッケージメディアの各分野で、次に来るキーワードが4Kや3Dだと予測。劇場で3D映像が“映画館の新たな付加価値”として注目されていることや、イベントや施設での3D表示、4K映像上映のニーズが高まっている事などを説明。

 さらに、Blu-ray Discソフトへの3Dハイビジョン映像収録が「今現在、標準化に向けた作業が進められていると聞いている」と語り、パッケージメディアにおいても3Dの波が訪れると予測。「ビジネス展開はこれからという段階だが、今日を境にクライアントの皆さんに3Dや4Kをアピールし、要望にきめ細かく応えられるトータルソリューションサービスの提供に努めていきたい」と語った。



(2009年 6月 5日)

[AV Watch編集部 山崎健太郎]