TAD、民生向けハイエンドブックシェルフ「TAD-CR1」
-小型のリファレンスSP。90kgのフルバランスアンプも
株式会社テクニカル オーディオ デバイセズ ラボラトリーズは、TADブランドの民生向け新製品として、ブックシェルフタイプのスピーカー「TAD Compact Reference(TAD-CR1)」を11月中旬に発売する。価格は1本194万2,500円。12月中旬にはTAD-CR1専用のスピーカースタンド「TAD-ST1」も1本12万6,000円で発売する。
さらに、モノラルパワーアンプ「TAD-M600」も10月下旬に発売。価格は262万5,000円となっている。
■ TAD-CR1
同社は2003年に初の民生用スピーカー「TAD-M1」を発売、2007年には現行のフラッグシップモデル「TAD Reference One」(1本315万円)を発売している。「TAD-CR1」は、コンパクトながら、同じフラッグシップスピーカーとして開発されたReference Oneの姉妹機で、Reference One思想と技術をそのまま踏襲し、凝縮させているのが特徴。
デザイン的にもReference Oneの下部を切り落としたような形状。構成は一見すると2ウェイ2スピーカーだが、上部のユニットが独自のCST(Coherent Source Transducer)同軸ユニットとなっており、3ウェイシステムとなっている。
TAD-CR1 | CSTユニット。中央に見えるのがドーム型ツイータ | Reference Oneと比べるとデザインが良く似ている。上部を切り出したような形状がCR1だ |
CSTユニットは、16cm径のコーン型ミッドレンジと、3.5cm径のドーム型ツイータで構成されている。Reference Oneに使われているCSTとまったく同じもので、どちらのユニットも、振動板にTADの代名詞とも言えるベリリウム振動板を使っている。
ベリリウムは金属材料の中でも軽量かつ剛性の高いものだが、加工が難しく、振動板化するために均一にプレスすることが難しい。同社では、独自の真空蒸着法を採用。銅で振動板の型を作り、そこにベリリウムを蒸気化させて付着させ、最後に銅を溶かしてベリリウムの振動板だけを取り出すというもので、強度や均一性に優れ、ベリリウムが降り積もることで振動板の厚み方向に結晶が揃うため、内部損失も高くなる利点がある。
ツイータの形状はコンピュータ解析で最適化し、分割共振コントロール。100kHzまでの高域再生を実現した。ミッドレンジとの同軸配置を綿密な計算の上で設計しており、両ユニットの音響中心を同一にし、クロスオーバーにおける位相/指向特性を一致させている。その結果、スピーカーの軸上を外れても急激に指向性パターンが変化することが無く、広いリスニングエリアと安定した音像を実現した。また、CSTユニットとして250Hz~100kHzという広帯域再生が可能。人の声の主な帯域をカバーすることで、点音源で自然なヴォーカル再生ができるという。
CSTユニット。振動板にベリリウムを使っている | 構造図 |
ウーファは「TAD-M1」に採用された20cm径ユニットを使用。磁気回路には独自のOFGMS(Optimized Field Geometry Magnet Structure)を採用。ショートボイスコイル・ロングギャップタイプで、20mm長のロングギャップでありながら、その間の磁束密度を均一化。小さな振幅から大きな振幅まで動作が安定し、高い駆動リニアリティを実現したという。振動板はTLCC(Tri-Laminate Composite Cone)層構造アラミド振動板。エッジにはコルゲーションエッジを採用している。
ネットワークやエンクロージャの作りもReference Oneとほぼ同じ。バスレフポートも21mmの樺合板を骨組みとして使用。MDFを外装に使い、異素材の組み合わせで振動を抑制。形状は後部がすぼまっていくティアドロップ形状を採用。音の回折を低減している。
エンクロージャ下部には、厚さ27.5mmのアルミ無垢材プレートを配置。設置台の影響を受けにくい構造になった。外装の仕上げには、ポメラサペリの天然木が使われている。塗装工程はReference Oneと同じ20工程で、約3週間かけて仕上げられる。
専用のスタンドも用意される。組み合わせると重心位置が最適化されるという | 筐体を上から見たところ。ティアドロップ形状を採用している | スピーカーターミナルはReference Oneと同じものを使っている |
システム全体の再生周波数帯域は32Hz~100kHz。クロスオーバー周波数は250Hz、2kz。音圧レベルは86dB。最大出力音圧レベルは109dB。インピーダンスは4Ω。スピーカーターミナルはバイワイヤ接続に対応。ネットワークやターミナル部はReference Oneとほぼ同じ。外形寸法は337×440×627mm(幅×奥行き×高さ)。重量は45kg。
■ TAD-M600
TAD-M600は、対称性を追求したアナログのモノラルパワーアンプ。定格出力は600W(4Ω)、300W(8Ω)。
入力端子から出力端子までフルバランス構成を採用しており、電源回路でも正負電源の対象性を重視。同一トランスを2基搭載。部品レイアウト、回路の温度、磁界など、動作環境の対称性も重視した設計が特徴。そのため、入力端子はバランス(XLR)1系統のみで、アンバランスは搭載していない。出力は大型ネジターミナル2組で、バイワイヤリングに対応する。
共振しにくい鋳鉄を使った35kgの“土台”の上にパワーアンプを設置した構造になっており、鋳鉄は4点支持のスパイクで床と設置している。南部鉄器や鉄鍋を手掛ける岩手・及源鋳造に依頼したもので、鋳鉄の中でも振動吸収能力が高い片状黒鉛鋳鉄(ねずみ鋳鉄)。ピアノのメインフレームにも使われている。型の上から大量の砂をかけ、型を外し、そこに鉄を流し込み、砂を崩して取り出す手作りで生み出されている。
モノラルパワーアンプの「TAD-M600」 | 黒く見える部分が鋳鉄を使った土台。この部分だけで35kg、全体では90kgもある | 上から見たところ。左奥のスパイクのみ高さ調節が可能 |
トランスと鋳鉄シャーシの間には10mm厚のアルミニウム制振板を入れ、制振性を高めているほか、ヒートシンクにも低共振の肉厚チムニータイプのものを使っている。フロントパネルは18mm厚。前面窓には、TADのプロ用スピーカーユニットのシンボルマークである三角の突起がゴールドにライティングされ、突起が“進化”を意味しているという。
フロントパネルには進化を現すマークが | トランス部。10mm厚のアルミニウム制振板が付いている | 電力増幅段の基板。ヒートシンクはチムニータイプ |
増幅回路は電圧増幅段を1段で構成するシンプルな回路で、高域位相特性の向上と、シンプルな位相補償回路構成を追及。カレントフィードバックと組み合わせることで、安定度の高い増幅回路を実現。これにより、安定度向上のために、通常のアンプに組み込まれている出力チョークコイルを削除でき、よりシンプルな回路になったという。ほかにも、内部回路の最短化も徹底された。
周波数特性は1Hz~100KHz。定格歪率は0.03%以下(20Hz~20KHz/4Ω 300W出力時)。ゲインは29.5dB。外形寸法は516×622×307mm(幅×奥行き×高さ/スパイク受け装着時)。重量は90kg。
背面端子部。入力はバランスのみだ | 電圧増幅段の基板 |
■ ワイドレンジかつ、自然な再生音
試聴の様子 |
TAD-CR1の試聴環境はAyreのプリアンプ「KX-R preamplifier」(296万円)と、モノラルパワーアンプ「MX-R mono amplifier」(ペア/296万円)。プレーヤーはエソテリックのユニバーサルプレーヤー「UX-1」(131万2,500円)という構成。
女性ヴォーカル「Melody Gardot/My One and Only Thrill」では、スピーカーの前に張り出す音像の力強さと、声の余韻が広がる空間の広大さが印象に残る。背後のパーカッションやギターとの遠近描写も明瞭で、音場に立体感がある。それでいて、個々の音像の輪郭がカッチリ描写され過ぎない、ストレスを感じさせない自然な再生音は、フロア型のReference Oneの特徴と非常に良く似ている。
小型になると低域の再生能力が気になるところだが、オーケストラの打楽器(ティンパニなど)を入力しても、量感と音圧を併せ持った、低域のカタマリがズシンとウーファから吹き出してくる。打楽器が連打されても音象はボケず、余裕を持って再生している感があり、量/質ともに高い低域再生能力が確認できた。
モノラルパワーアンプ「TADーM600」は、Reference Oneと組み合わせての再生デモ。色付けの無い再生音で、Reference Oneのウーファを駆動する。チャイコフスキーの「雪娘 道化師の踊り」を再生すると、芯の通った低域と天井まで伸びやかに広がる広域が同居。高域のクリアさは今までのReference One試聴で体験したことの無いレベルで、CSTユニットの能力の高さを再確認した。
■ プリやプレーヤーへの展開も
TADの宮川務社長 |
また、チーフストラテジー&テクニカルオフィサーの高木一範氏によれば、今後の商品展開としてプレーヤーとプリアンプも予定しているという。「リファレンスシリーズとして音の入り口から出口までを揃えたい。少数精鋭でやっているので時間はかかるかもしれないが、クオリティに拘り、妥協の無い製品を届けていきたい」と語った。
(2009年 7月 7日)
[AV Watch編集部 山崎健太郎]