ビクター、「マイクロHDユニット」採用カナルを聴いてみる
-低域の解像感が良好。実売6,000円の注目モデル
日本ビクターが19日に発表した「マイクロHDユニット」を採用したカナル型(耳栓型)イヤフォン「HA-FXC71」と「HA-FXC51」。仕様については既報の通りだが、ここではマスコミ向け発表会での試聴レポートをお届けしたい。価格はオープンプライスだが、店頭予想価格は「FXC71」が6,000円前後、「FXC51」が4,000円前後と、カナル型としてはエントリー向けの価格となっている。
最大の特徴は、口径5.8mmと、通常のイヤフォン用ダイナミック型ユニットよりも大幅に小さい「マイクロHDユニット」を採用する事。これにより、ノズルの先端にユニットを配置し、ユニットをそのまま耳穴の奥まで挿入するようになっている。
FXC71のブラック | イヤーピースを外したところ。ノズルの先端にユニットが配置されている |
上がトップマウント構造。下が通常のカナル型。小型ユニットであるため、耳穴の奥まで挿入できる |
これに対して、「HA-FXC71/51」はあえてユニットを小型化し、耳穴に挿入する事で、鮮度の高い高解像度サウンドと、遮音性が高まることでの低音再生能力のアップ、外部音の低減、音漏れの低減などを図ったモデルとなっている。ビクターではこれを「トップマウント構造」と名付けている。
イヤフォンを分解したところ。左から2番目がマイクロHDユニット | 指先と比べると非常に小さいのがわかる |
■ 聴いてみる
FXC71のラバーパッド |
再生にはiPhone 3GSを使用。FXC51から再生すると、解像感の高いクリアなサウンドが出てくる。バランスは若干低域に主張があり、迫力のある音作り。しかし、高域の明瞭度も高いため全体が低音にマスキングされる事はなく、個々の音がしっかりと聴きとれる、メリハリの効いたサウンドだ。
FXC51のホワイト | こちらはレッド |
特筆すべきは豊富な低音の中身。低価格なダイナミック型のカナル型イヤフォンには低域寄りのバランスのモデルが多いが、量感だけが豊富で解像度が伴わず、「ボンボン」、「ドンドン」と言ったゆるんだ不明瞭な再生音になる場合が多い。
FXC51の場合、量感は豊富なのだが、その中の動きも意外にシッカリ描写する。ケニー・バロン・トリオ「Fragile」のルーファス・リードのベースも、「ヴォーン」という凄みがありつつ、弦がバラバラにほどける動きが聴きとれる。
低域のこうした描写は、伝搬速度が速く、剛性の高いカーボン素材を新たに振動板に採用した効果と言えそうだ。
振動板の素材の物性値グラフ。赤丸がカーボン。高い比弾性率と低比重が特徴 | 従来振動板と比べ、よりダイナミックな低域再生を可能にしている |
ただ、高域に注目すると、高い音に固い付帯音が若干感じられ、高域の“抜け”を邪魔している。価格を考えると満足できる音質だが、バランスや高域の部分に不満が残る。
FXC71に切り換えると、こうした不満が一気に解消。低域の張り出しが抑えられ、ニュートラルなバランスに変化。量感が適度になった事で、低域の動きがより明瞭になり、低音が音場に広がる様も良く聴きとれるようになり、レンジそのものも拡大したように感じる。
また、高域の付帯音が消え、「藤田恵美/camomile Best Audio」から「Best OF My Love」などを再生すると、ヴォーカルの伸びが心地良く突き抜ける。高域の堅さがほぐれ、微細な音の変化が聴きやすくなったことで、再生音全体の質感がアップ。不満点に気を取られず、音楽そのものに集中できた。
FXC71では、ユニットの背後にブラスリングを追加しており、高比重のボディと合わせて振動ロスを低減している(デュアルシリンダー構造)。高域の明瞭さアップは、この構造によるところが大きいようだ。
中央のパーツがブラスリング | 耳穴にユニットを深く挿入する特徴をメインに、広告展開も行なわれる |
ダイナミックのカナル型イヤフォンは1万円程度に人気モデルが多く、激戦区となっているが、「FXC71」はそれよりも約4,000円低価格ながら、1万円帯のモデルにひけをとらない再生音を実現しており、注目のハイコストパフォーマンスモデルと言えるだろう。
(2010年 5月 19日)
[AV Watch編集部 山崎健太郎]