キヤノン、展示会「Canon EXPO」で小型4Kカメラを披露

-30型/4Kモニタや、近接無線伝送/充電技術、拡張現実も


Canon EXPO Tokyo 2010

 キヤノンは10日、都内でプライベートショー「Canon EXPO Tokyo 2010」を開催した。会期は12日までだが、入場には招待状が必要。

 このイベントは5年に1度開催され、同社グループの製品やソリューションを一堂に展示。現行製品のほか、開発中の技術や未発表製品も多数展示されている。なお、既にニューヨークとパリでも同様に行なわれている。



■ 重さ2.5㎏の小型4Kカメラを披露。30型の4Kモニタも

4Kカメラの試作機

 カメラ本体で注目されたのは「マルチパーパスカメラ」と名付けられた4K動画/静止画撮影対応の業務用カメラ試作機。2/3型、800万画素CMOSを搭載し、フルHDの4倍の解像度と、60fpsを超えるフレームレートで撮影可能としている。製品化の時期や価格は未定。

 試作機は光学20倍ズームレンズ(F1.8~3.8、35㎜換算焦点距離24~480㎜)との一体型で、フル電子制御の新しいレンズ駆動方式を採用。記録部は本体に内蔵せず、HD-SDI出力を4系統装備。外部の大容量HDDユニットなどに記録することを想定している。液晶モニタとEVFは既存の業務用カメラのものと同等で、モニタが4型/123万画素、EVFが0.5型/150万画素。外装にはバイオプラスチックを用いている。重量は約2.5㎏。


レンズは一体型底面からHD-SDIで出力モニタ、EVF部

 また、このカメラの4K映像をそのまま映し出せる800万画素の30型液晶モニタも参考展示。詳細な仕様は明らかにされていないが、超高精細/広視野角/高階調表現を可能にするという同社独自の映像エンジンを搭載。Adobe RGBカバー率は100%としている。デザイン/CG業務や印刷、映像制作、デジタルシネマなどの業務での利用を想定している。


800万画素の30型モニタ。4Kカメラの映像を表示している4Kモニタの側面高精細だけでなく、高い階調表現や広視野角なども特徴だという
17型でフルHDのモニタも参考展示カラーマネジメント用のモニタ
非接触でデータ転送/カメラ充電ができる「クロスメディアステーション」のデモ。3台のカメラが置けるスペースを想定

 コンシューマ製品への採用が期待される技術として、デジタルカメラ/デジタルビデオカメラを置くだけで静止画/動画がワイヤレスで転送され、カメラ本体の充電も同時に行なえるという「クロスメディアステーション」を展示。データ転送には無線LANを、充電には「磁気共鳴」方式を用いており、カメラなどを置く位置を多少ずらしても、データ転送や充電が途切れることなく行なえることが他の技術に比べた優位点だという。

 接続したテレビなどに動画/静止画を表示できるだけでなく、インターネット経由で他のステーションへのデータ転送と、遠隔操作もできることが特徴。例えば子供を撮影した動画/静止画ファイルを祖父母の家にあるステーションに転送し、見せたい動画/静止画を遠隔操作でピックアップして表示させたり、祖父母の家のプリンタで印刷することも可能になる。

 今回の試作機では、カメラの底面にデータ転送/充電用のモジュールを取り付けた格好になっているが、製品化する場合は本体に内蔵する予定。今回の展示ではデータ転送にIEEE 802.11gの無線LANを用いていたが、11nの採用も検討されている。

クロスメディアステーション本体カメラの底面に専用モジュールを装着している充電モジュールの内部。ステーションの天面に触れると充電が始まる

ネットワーク接続したステーションで、同じ画像を表示させるプリンタで印刷


■ 3D映像や、指でCGキャラが描ける拡張現実など

 3D映像関連では、既存のビデオカメラとプロジェクタを用いて3D視聴できるソリューションを紹介。フルHD対応ビデオカメラの「IVIS XF105」と、プロジェクタ「WUX10 MarkII」をそれぞれ2台用いて、両眼視差による立体感を再現。プロジェクタの当社レンズの前に偏光板を置き、偏光メガネを掛けることで立体視が可能。「既存製品で3Dのインプット/アウトプットに対応できる」とアピールしている。

3D映像の撮影/リアルタイム投写デモ。左手奥にXF105が設置されているプロジェクタの前に偏光板フルHDプロジェクタ4台を用いた4K映像投写デモも
「MR技術」でカメラの内部をのぞけるデモ

 キヤノンでは、立体映像とヘッドマウントディスプレイ(HMD)を用いて現実世界と仮想世界を融合させる「MR」(Mixed Reality)技術も推進。同技術のキーデバイスとして、独自の自由曲面プリズムを搭載したHMDを開発している。これを装着することでCGで描かれた物体が目の前に存在しているように感じられ、“実寸感”を把握できるという。同社は1993年に自由曲面プリズムの特許を出願し、その3年後にHMDを発表。現在は「MR技術の事業化を目指して新たな局面に入っている」とし、昨今話題の「AR(拡張現実)も、MRに含まれている」と説明している。

 このMR技術を利用した展示も多数行なわれており、例えばHMDを装着することで、人がまるで小さくなってデジタルカメラ「EOS 5D MarkII」本体に入り、中をのぞけるというデモが行なわれている。HMDには3D-CADで設計された製品データを読み込んで表示し、装着者が前後左右に体を向けると、その方向にあるパーツが内側から見えるようになっている。

 また、インタラクティブなMR技術として、空中に指先で輪郭を描くだけで簡単にCGキャラクターが作れる「まるぽん」(MARU-PONG)の体験コーナーも用意。HMDを着けて、指先に装着したポインタを使って頭や腕などのパーツを描き、色やテクスチャを付けるとオリジナルのキャラクターが完成する。

HMDを装着視界の先にCGで作られた5D MarkIIの画像が
「自分自身が、あたかもEOSがとらえた光となった感覚で、内部を散策できる」という
MRでCGキャラが作れる「まるぽん」のコーナーHMDを着けてマーカーを見ると、特定の映像が表示されるデモ


■ 「1億2,000万画素CMOS」の応用例など紹介

 最先端の技術展示では、8月に発表された約1億2,000万画素のCMOSセンサーを搭載した「超多画素パノラマカメラ」が参考展示。CMOSセンサーはAPS-Hサイズで約1億2,000万画素(1万3,280×9,184ピクセル)を実現し、全体のうち、約1/60の任意の領域をフルHD/60fps、または4K2K/15fpsの動画で出力することが可能。展示コーナーでは、この任意の領域を動画で出力する機能が紹介されていた。

1億2,000万画素CMOS(左)と、それを搭載した「超多画素パノラマカメラ」(右)画像全体(左)から切り出して、4K動画(右)で出力。前述の30型/800万画素モニタで表示している

 同じく8月に発表された世界最大のチップサイズ、202×205mmのCMOSセンサーも展示。デジタル一眼レフで採用されている35mmフルサイズの約40倍で、約1/100の光量で撮影できることが特徴となっており、肉眼では物や人の動きしか見えないという1ルクス以下のもとで人の表情まで滑らかに動画撮影できるという。また、センサーサイズに合った大きさの光学系を組み合わせられ、天体望遠鏡などでセンサーの性能を発揮できるという。試作カメラを用いて、被写体照度0.3ルクス以下の環境で絞りがF6.8、シャッター速度1/60秒で撮影した映像が上映されていた。

202×205mmのCMOSセンサー(左)。右は通常のデジタル一眼レフ用のもの被写体照度0.3ルクス以下で撮影した映像のデモ

 そのほか、5,000万画素という高解像度のCMOSを使って、人間の視覚特性を超えた色識別能力を実現するというカメラも参考展示。CMOSセンサー上に6色のカラーフィルタを搭載し、RGBでは識別できない色の差まで判別可能にした。従来のマルチバンドカメラではカラーフィルタを交換しながら複数回の撮影が必要だったが、CMOSセンサー上にカラーフィルタを配置したことでワンショットでマルチバンド撮影が可能になった。

 光の当たり方や見る角度によって発色が変化する被写体を、このカメラで多視点撮影することにより、色が変化する様子も判別可能。この技術により、文化財などのアーカイブで実物そのままの色情報が保存できるほか、医療や電子商取引に使われる画像で、正確な色情報でデータがやり取りできるとしている。

 また、同じCMOSセンサーと全方位ミラーを組み合わせた「全方位カメラ」も展示。360度のうち任意の方向の映像を切り出して見ることができる

5,000万画素CMOS搭載で、人に見えない色が写せるカメラの試作機人の目に見える色(左)だけでなく、ある光を加えることで見える色(右)も記録可能
全方位ミラーと、5,000万画素CMOS360度の方向を撮影し、任意の方向を切り出せる全方位カメラの画像をパソコンのトラックボールで操作できるというデモ

 そのほか、次世代のユーザーインターフェイスをイメージしたコーナーも用意。オペラグラスのようなサイズの2眼3Dデジタルカメラ「3Dカム」や、GPSを搭載したナビとして機能する「イメージナビカム」、タッチ操作で動画/静止画編集ができるフォトフレーム「イメージパレット」といったコンセプトモデルが展示されていた。

次世代インターフェイスのコンセプトモデル小型の3Dカメラ「3Dカム」GPSナビ付きのカメラ「イメージナビカム」
高解像度CMOS/高倍率ズームレンズ搭載カメラのコンセプトモデル編集機能搭載のフォトフレーム「イメージパレット」ワイヤレス接続のHMDコンセプトモデル

 既存のネットワーク監視カメラ「VB-C60」の映像をiPad/iPhoneアプリ上で表示し、無線LAN/3G経由で制御できるデモも行なっている。

 カメラの操作はズームやパン/チルトを画面上のスライダーでタッチ操作する「スライダーモード」と、任意の1点をタッチしてその場所にフォーカスする「マップモード」、iPad/iPhoneの傾きセンサーと連動する「コンパスモード」の3種類から選択でき、静止画のキャプチャ/ネットワーク共有も可能となっている。店舗や建設現場、介護施設、病院などの利用をイメージしている。対応ネットワークカメラはVB-C60/C60BとVB-C500D/C500VDの計4モデル。

監視カメラをネットワーク経由でiPadから操作iPhoneでの操作画面静止画キャプチャ


(2010年 11月 10日)

[AV Watch編集部 中林暁]