ソニー、'13年黒字化へテレビ事業抜本改革

-目標台数は2,000万台に半減。“量から収益へ”


平井一夫 代表執行役 副社長

 ソニーは2日、2011年第2四半期決算発表にあわせて、赤字が続くテレビ事業の収益改善プランを発表した。中期的な目標に掲げていた4,000万台体制を、2,000万台規模まで縮小し、2013年度の黒字化に向けて、テレビ事業の経営体質強化や収益性改善のための施策を実施していく。

 同社が2009年11月に発表した中期計画では、液晶テレビの継続的な高成長を前提とし、2012年度に市場シェア20%、販売台数4,000万台の事業体制構築を目標としていた。しかし、その後の市場成長の鈍化や欧米の景気悪化などを受け、'11年度の全世界販売台数を2,000万台に変更。2,000万台規模で安定的な収益を得られる体制を構築するための施策を実施する。


2011年度のテレビ事業は1,750億円の営業損失だが、そこに2,000万台体制転換に向けた追加費用500億円が含まれている

 具体的には、'11年度に設備の減損やモデル数の削減を行なう。これにより、追加費用が500億円発生。この費用を含んだ'11年度のテレビ事業は、売上高8,750億円、営業損失1,750億円と見込む。

 なお、モデル数の削減について平井一夫代表執行役副社長は「新興国では市場の拡大も見込め、ソニーブランドも強く、ニーズに合わせてモデル数を増やす事もあるかもしれない。市場成長以上の拡大を目指していきたい。先進国では皆さんに喜ばれるモデルに注力し、モデル数が減るという事はあるだろう」と語り、地域ごとにラインナップを最適化していく考えを示した。

 2,000万台体制への転換にともない、更なる固定費削減も進める予定。しかし、製造事業所の削減などにより、固定費はすでに削減が進んでおり「全世界でテレビの製造事業所は4拠点だが、それを見直すという予定は、現時点では無い」という。平井氏は、「固定費が大きいことがテレビ事業の最大の赤字の原因だと思われているが、アセットライトを既に進めているため、固定費削減の成果は既に出ている。現状では、それよりも変動費に大きな要因があると考えている」と分析。

2013年度までに改善が必要な1,250億円の内、約4割がパネルコストの削減となる

 その変動費の中で特に大きな割合を占める「液晶パネルの調達コスト削減が課題」とする。「2011年度テレビ事業の1,750億円の損失から、体制転換費用の500億円を引いた1,250億円が、2013年までに改善しなければならない額とすると、その内4割は変動費に含まれるパネルのコスト削減が重要。市場のパネル価格の下落に追従できず、価格競争の激化により、S-LCDがフル生産になっていない事などで、500億円程度の損失が出ている」という。

 その上で平井氏は、「サムスン社と、競争力を改善するための様々な施策を協議している」という。しかし、一部で報道されているS-LCDに関しての、サムスンとの合弁解消の可能性については「ソニーとサムスンには様々なビジネスの関係があり、その中にS-LCDもあると考えている。グローバルで液晶パネルビジネスが厳しくなる中で、ソニーとサムスンがどういう施策をしていくのかという議論が必要になる。しかし、現時点では特に発表するような事は無く、憶測や噂が出ているが、それについてコメントは控えたい」とした。

 改善額の約4割を占める「パネル調達コスト」以外では、約3割が「商品力強化とオペレーション改善による限界利益率改善」が占める。その具体案として、以下が発表された。

  • 先進国におけるモデルミックスの改善
  • 新興国におけるニーズに合わせた地域別モデルの強化による市場成長以上の拡大
  • 新サプライチェーンマネジメントシステムの導入により、来年度には在庫回転日数を約10日間削減予定
  • 超解像高画質エンジンなどの独自技術の進化、展開と次世代テレビの開発推進複数の機器及びネットワークサービスなどの連携による統合UX(ユーザーエクスペリエンス)の実現
  • 1事業部で運営していたテレビ事業を、11月1日付で、(1)グループ内設計・製造による製品価値の向上に注力する既存液晶テレビ事業領域、(2)設計・製造の外部委託により低コスト製品を実現するODM事業領域、(3)次世代テレビ開発の3事業部に再編。各事業のターゲットを明確化した運営を実行するとともに、マーケティング及び商品戦略機能を統合し、商品化プロセスを強化

 平井氏はこの中の、「超解像高画質エンジンなどの独自技術の進化」について、「業界最高画質を実現するための、超解像エンジンなどの独自技術の開発をさらに進めていく。また、液晶パネルが次世代パネルに取って代わられる時代がいずれはやってくるが、その転換期に我々が業界をリードしていけるように、次世代テレビの開発を加速している」という。

 テレビ事業における、3事業部体制への再編については、「ODM事業領域では、外部設計・外部生産を行ない、これまでの内製テレビのオペレーションと切り離して、既存の枠にとらわれない無駄を排除したオペレーションを構築する」と説明。次世代テレビ開発については、「全社横断的な次世代商品戦略に合わせて、次世代ホームエンターテイメントを構築していく」とした。

 平井氏が最後の改善ポイントとして掲げるのが、先進国販売会社の販管費の削減、設計プロセス改革による研究費の効率化、マレーシアなど海外への設計プロセスの移転、本社事業部の間接コストの削減など。これらを合わせ、改善額の残り約3割のインパクトを見込んでいる。

 平井氏は「これはテレビ事業部門だけで解決できる問題ではないので、全社プロジェクトとして取り組んでいく。構造改革は聖域を設けずに行なっていくが、具体的な人員規模については控えたい」と語り、人員削減については「他部門や配置転換も含めた議論になるので、人員削減に即繋がるとは考えていない」とした。

 最後に平井氏はテレビ事業の重要性について、「ネットワーク戦略を進める中で、画面の大きさからもわかるように、テレビは家庭の中で色々なコンテンツを楽しむ際の中心にあるもの。だから今後のソニーにとっても非常に重要な柱だと考えており、ソニーの主力事業という位置づけから変化はない。2013年の黒字化は必達の目標だと認識しており、全社一丸となって取り組んでいきたい」とした。



■ソニー・エリクソンの100%子会社化に関して

 ソニーは10月27日に、ソニー・エリクソンを100%子会社化する事も発表している。これは、ソニー・エリクソン株式の内、エリクソンが保有している株(50%)をソニーが取得し、100%子会社化するもので、携帯電話市場でスマートフォンが中心となっていることを受けてのもの。

 平井氏は「ネットワーク製品の中で、お客様のニーズ、他の製品やサービスへの影響という観点で、スマートフォンの戦略的重要性が著しく高まっている。この事業の経営権を完全に掌握し、開発・オペレーションのスピードを上げ、スマートフォン自体でリーディングポジションを獲得することが、ソニーのモバイル事業全体を成長させる上で大変需要だと考えている」と100%子会社化意義を説明。

一つのサービスプラットフォームから、様々な端末、画面サイズにサービスを提供する4スクリーン戦略

 ソニー・エリクソンの重点施策としては、「スマートフォンの最大マーケットである北米でのプレゼンスとシェア拡大が重要。(100%子会社化で)そのための施策が打ちやすくなると考えている。ソニーのブランド名に統一し、販売、マーケティング面での協力、PlayStationNetwork(PSN)、ソニーエンターテイメントネットワークを柱としたネットワークサービス、そしてコンテンツ事業との連携強化を進め、北米市場でもしっかりとした基盤を築いていきたい」という。

 また、「タブレットや携帯音楽端末、モバイル製品など、他の事業にもプラス効果がある。これらの機器で、統合ユーザーエクスペリエンスを提供していく。一つのサービスプラットフォームのもと、お客様に様々なアプリケーションを、異なる画面サイズ、デバイスで提供できる。この4スクリーン戦略は、ソニーのテレビ自体の商品力強化にもつながっていくだろう」とした。



(2011年 11月 2日)

[AV Watch編集部 山崎健太郎]