「ジャパンディスプレイ」で中小型液晶世界一へ
ソニー、東芝、日立ら中小型液晶統合で正式契約
産業革新機構(INCJ)とソニー、東芝、日立製作所は15日、INCJを中心として中小型液晶事業を統合する件について正式契約を締結した。
ソニー、東芝、日立の子会社の中小型ディスプレイ事業を統合し、INCJを含む4社が出資する新会社「ジャパンディスプレイ」(予定)を設立する。対象子会社はソニーモバイルディスプレイ、東芝モバイルディスプレイ、日立ディスプレイズ。
ジャパンディスプレイでは、スマートフォンやタブレットを中心とする高精細、高付加価値製品の需要急騰により成長が見込まれている中小型ディスプレイ市場でのグローバルリーディングカンパニーを目指す。ジャパンディスプレイにはINCJを割当先とする第三者割当増資により、2,000億円が投入され、2012年春の事業開始を目指す。資本金は株主構成はINCJ 70%、ソニー10%、東芝10%、日立10%となる。
新会社には、対象子会社がそれぞれ有する高付加価値技術を生かし、INCJから投入される成長資金を最大限活用することで新規生産ラインを立ち上げ。高付加価値市場における需要に対応することを目指す。また、「生産能力をより有効に活用することでコスト競争力を高め、中小型ディスプレイ事業におけるグローバルリーディングカンパニーとしての地位を強固なものにする」としている。
ジャパンディスプレイの代表取締役社長には、前エルピーダメモリ取締役の大塚周一氏が就任予定。大塚氏は、「我々すべての関係者は、本統合の意義を共有し、世界をリードする中小型ディスプレイ企業を創るという強い思いを持って臨む。その熱意を実現すべく、中立、公平な立場で大胆な経営を行なうことで、新会社ジャパンディスプレイをグローバルリーディングカンパニーに導くことが私の使命だと考えている」とコメントしている。
また、ジャパンディスプレイは、パナソニック子会社のパナソニック液晶ディスプレイ茂原工場も取得することで、パナソニックと基本合意。同工場に中小型ディスプレイの新規生産ラインを設置する予定。12月末を目途に正式契約を締結し、2012年4月中に譲渡を完了する見込み。
■ “第6世代”の茂原は中小型に最適。有機ELも視野に
代表取締役社長に就任予定の大塚周一氏 |
ジャパンディスプレイの代表取締役社長に就任予定の大塚周一氏は、「8月の統合発表後、新会社統合に向けた準備を進めており、この2カ月議論に参加している。春先に(就任の)依頼を受けたが、(半導体大手の)エルピーダを定年退職した身なので、できれば半導体みたいな厳しい世界は遠慮したいという気持ちもあった。しかし、現在の日本の『技術で勝って、ビジネスで負ける』状態を変えたいと思っていた。中小型のディスプレイで、日本のグローバルリーディングカンパニーを実現したい」と就任までの経緯を説明。「2カ月ほど議論に参加しているが、感銘を受けたのは、3社からの経営陣やメンバーが、このジャパンディスプレイ、日本の中小型ディスプレイ産業を何とかする、成功しなければいけない、という熱い思いで議論しており、頼もしい。高い志と情熱を持ったメンバーが、意義を理解している。この思いを共有し、リーダーシップを発揮することで、成功の可能性があると確信している」と語った。
今後の製品戦略については、「中小型は汎用品ではなく、アプリケーション(応用製品)が多く、カスタマイゼーションが強いビジネスモデル。したがって、3社が持っていた固有の優れた技術、高精細化、広視野角化などの技術が生かせる。また、これらを融合させることで、より付加価値が高く、差異化できる技術にしていける」と説明。「中小型のビジネスでは、顧客により要求が微妙に違う。色や額縁、視野角など、懐に飛び込んで細かい要求を聞きながら、仕様を詰めていく、そういう開発ができるのが日本企業の強み。さらに、3社の高付加価値技術を融合して強みを出していくほか、次の世代に向けたディスプレイなど、技術についてもリードできる環境。その上で、大型投資でお客に満足いただける、供給力とコスト競争力を身に付けていく。ジャパンディスプレイは、市場で勝つ大きなチャンスがあると考えている」という。
同社の経営については「今回、INCJから大きなプレゼントをもらっている。1つは2,000億もの資金提供により、大型設備投資が可能なこと。研究開発においてもパラダイムシフトを起こす研究に取り組める。もう一つはINCJが70%の株式を持つので、経営のリーダシップを持って迅速な意思決定ができる。この2つを活かして、大胆な経営のかじ取りをするのが私の使命」とした。
第6世代の設備で、パナソニックがテレビ向け液晶パネルを製造していた茂原工場は中小型向けに転用する。「1,000億ほどかけて、LTPS(低温ポリシリコン)の中小型に切り替え、今後伸びていくスマートフォンなど向けに活用する。(中小型への)スイッチには、1年ぐらいはかかるが、環境を見極めて最適な規模で投資していきたい」とし、「スマートフォン向けが中心になるが、そのために顧客を取りに行く。大規模な立ち上げになるか、パイロットラインからになるかも、そうした状況をみながら決める」とした。
なお、買収金額や人員については、「パナソニックと12月末までに契約完了するので、その話の中で詳細を決めていく。どういう形になるかわからないが、我々はラインを来年度購入するという考え」と説明。
国内に合計6拠点があるのに茂原で新規ラインを作る理由は、「すでにインフラが整備されており、一部設備が使える。アモルファスからLTPSへの投資転換を図り、早いタイミングでライン立ち上げができるというメリットがある。新規に工場を作るより早い。また、中小型のビジネスは、カスタマイゼーションが強み。高い生産能力と、コスト競争力を持つことが重要で、中小型は第6世代の基板サイズでやるのがベスト」と説明。既存拠点の今後の投資予定は「状況を見ながら決めていきたい」とした。
有機ELの研究開発も進めるが、量産については未定。「ソニーが大型有機ELの研究開発をやっており、その特許ライセンスを受けて中小型の生産開発ができる。また東芝も技術を持っている。これらの技術を机上に置いて、どういうアプリケーションで有機ELをやるのか。現状のビジネスと全く同じものなのか、新たな展開をしなければいけないのか、もう少し明快にしないといけない。技術的には'13年ごろに実用化できるかもしれないが、それがベストソリューションといえるかどうかを見極めないといけない」という。
経営統合への課題については、「当面はスムーズに統合し、新会社に移行すること。通常は半々とか1/3の出資社がそれぞれ順次統合されていく形だが、今回は親会社の比率が各10%でジャパンディスプレイが主体になる。少ない時間の中で、スムーズに統合できるかは懸案事項だ。ただ、重要なのはスムーズな統合だけではなく、成長戦略に向けて、どう舵取りをし、何を開発/強化していくか。各社の技術、コスト、生産プロセスを活かして、シナジーをどうだすのか。これから力を入れてやっていきたい」とした。
(2011年 11月 15日)
[AV Watch編集部 臼田勤哉]