パイオニア、USB DAC機能も搭載したAVアンプ最上位「LX86」
-ダイレクト エナジーHDアンプ改良。DSD再生対応。LX76も
ハイエンドの「SC-LX86」 |
パイオニアは、AVアンプの上位モデルとして、ハイエンドの「SC-LX86」と、「SC-LX76」の2機種を9月中旬に発売する。価格はLX86が33万円、LX76が245,000円。どちらも9.2chアンプとなる。
両モデルともClass Dの「ダイレクト エナジーHDアンプ」を搭載。パワー素子に「Direct Power FET」を採用し、ハイパワー多チャンネル同時出力が可能。Direct Power FET素子は、従来のものとは異なり、半導体チップを基板に直結。ワイヤーボンディングやリード端子を排除したシンプル構造としており、信号経路によるインダクタンス成分の大幅軽減、高効率化、ヒートシンクサイズの小型化などを実現。
「SC-LX76」 | 左がLX86の基板、右がLX85 |
マスコミ向けの説明会でLX86を紹介するオーデイオ評論家の麻倉怜士氏。「D級のAVアンプは各メーカーが挑戦したが、どこも続かなかった。パイオニアはキチッと続け、LX85/75では素子を従来のICE PowerからDirect Power FETに変更。LX86では完成度が上がり、肉付きが良い筋肉質な音になった。2chのCDも、音楽として艶やかに再生できる」と評価 |
また、Direct Power FETをより効率的に活用できるよう、パターンレイアウトの見直しや、使用パーツを再選定。小信号回路、FETドライバーIC、アンプ電源などを最適化。「Direct Power FETのノウハウもたまってきており、グランドの取り方とパターンレイアウトの再構築により、より豊かな低域が得られるようになった」という。さらに、筐体に大電流を流さないようにすることで、クリアな中高域再生も実現している。
音のチューニングにはAir Studiosも参加。「前回のLX85で、多くの点でLX90より勝ったと評されたが、LX86ではさらに、中高域の質感・情報量、低音の押し出し感、地面を這って来るような低音の再現、クリアな立体感、あらゆる面でLX85を凌駕したと、お墨付きをもらった」という。
最大出力はLX86が360W×9ch(4Ω)、LX76が340W×9ch(4Ω)。4~16Ωまでのスピーカー接続に対応。マルチチャンネル再生でインピーダンスの異なるスピーカーも自由に組み合わせられるという。
「SC-LX86」 | 「SC-LX76」 |
■USB DAC機能やネットワークオーディオ機能
LX86の特徴は、USB DAC機能をAVアンプに内蔵している事。PCと接続し、FLAC/WAV/MP3/AAC/WMAなどの音楽ファイルが再生でき、FLAC/WAVでは32bit/192kHzまでのファイルに対応可能。ジッタを抑えた転送を行なうアシンクロナス転送に対応。PCでは付属の専用ドライバを使用する。対応OSは、Windows XP/Vista/7、Mac OS 10.5.7、10.5.6。
LX86/76のどちらも、ネットワークプレーヤー機能を装備。AirPlayとDLNA 1.5に準拠し、Windows 7認証も取得。AirPlayに対応することで、PCのiTunesライブラリや、iPhone/iPod touch/iPad内の楽曲をワイヤレスで再生可能。オプションのBluetoothアダプタ「AS-BT200」(オープン/実売9,800円前後)を使い、Bluetooth経由での楽曲再生にも対応できる。Bluetooth用には、iPod touch/iPhone/iPad向けに、音楽コミュニケーションを実現するというアプリ「Air Jam」も無償で提供する。なお、Android版もGoogle Play(旧Androidマーケット)から無償ダウンロード可能。
DLNAの対応フォーマットはMP3/WAV/FLAC/AAC/WMAで、24bit/192kHzのFLAC/WAVにも対応。インターネットラジオの「vTuner」にも対応する。Ethernet端子を備えるほか、オプションの無線LANコンバーター「AS-WL300」(オープン/実売10,800円前後)も用意する。
なお、前面のUSB端子にiPod/iPhone/iPadを接続し、デジタル再生する事も可能。iPhone内の楽曲をAVアンプのDACやアンプを使い、高音質に再生できる。iPadの充電もUSB経由で可能。USBメモリなどに保存したFLAC/WAVの24bit/192kHzファイルを再生する事もできる。
また、どちらのモデルも新機能として、DSDファイルの再生に対応。2chのみ、拡張子DSF/DSDIFFのファイルをUSBメモリなどに保存し、フロントのUSB端子から再生できる。なお、USB端子は、LX86が前面と背面に各1系統、LX76は背面に1系統備えている。
また、bit拡張処理機能「Hi-bit32 Audio Processing」も搭載。CDやUSB、ネットワーク経由の音源、BD/DVDなど様々な音声データを、32bitに拡張してからDACで処理することで、元のアナログ信号に近い音が出力できるとする。24bit/192kHzのハイレゾ音源も、32bit/192kHz化して処理可能。BDに数タイトル存在するマルチチャンネルの192kHz音声にも対応できる。DACは旭化成エレクトロニクスの32bit DAC「AK4480 Audio4 Pro」を全9.1chに採用している。
DACのフィルタは、入力素材に合わせてSLOW、SHARP、SHORTの3モードから選択可能。ハイレゾ音源やBDのマルチチャンネルなど、様々な音を、ユーザーの好みに合ったフィルタで再生できる。
筺体は、入力端子のグランドの結合力などを高めた「アドバンスド ダイレクト エナジーデザイン」を採用。すべての回路のグランドが1点のアースとして動作するクリーングランド思想を強化させている。電源供給はデジタル回路、アナログ回路、パワー部それぞれに合わせて独立。回路を構成する基板同士の接続もコネクタによるリジッド構造を多様し、伝送経路の短縮化を徹底している。
筐体内部では、パワー部とプリ部が独立したセパレート構造を採用。3次元スペースフレームも採用し、剛性も高めている。また、LX86向けには、専用にチューニングされた新開発の「磁束密度改善電源トランス」を採用。筐体内の磁束ノイズを大幅に低減したという。
シャーシ構造の解説 |
■スマホやタブレットで制御
iPhone/iPad/iPod touchやAndroid端末から、AVアンプの制御をする機能も用意。「iControlAV 2012」に対応しており、iOS用/Android用のどちらも、無償でダウンロード可能。イコライザのカーブを指で直接描けるなど、直感的な操作を導入してきたアプリだが、「iControlAV 2012」では「Sound Explorer」という機能を搭載。
AVアンプの様々な設定を行なうメニューだが、機能のアイコンが画面の上側から落ちてきて、iPadの画面に“積もる”ような動きをする。iPadを傾けると、アイコンもその向きに寄るなど、ユニークな動きも楽しめる。
操作したいアイコンにタッチすると、それ以外のアイコンが避けるように広がり、アイコンに指を触れたまま、ダイヤルを回すように動かすと、その機能のON/OFFや段階操作をする事ができる。なお、アイコンを綺麗に整列させたり、アイコンではなく、リストで機能を表示するモードも用意している。
また、後述する「Zone」機能の制御もアプリから可能。各ZoneのパワーON/OFFや、ボリューム調整、ミュートのON/OFF、インプット切替、ネットラジオやiPod入力操作、トーン調整、バランス調整、Bypass/ON切替が可能。
このアプリとは別に、アンプの接続設定や取扱説明を表示するソフトも用意。Windows用の「AVナビゲーター2012」と、iPad用の「AVNavigator for iPad」が用意される。
■MHLや4K映像に対応。シンプルオーバーレイも
付属のMHL-HDMI変換ケーブル |
HDMIにおける4K映像のパススルー出力に対応。4K対応プレーヤーから4K対応ディスプレイへ、映像をそのまま伝送できる。
Android端末と連携するために、MHLにも対応。フロントパネルのHDMI入力(HDMI 5/MHL)端子に、付属のMHL-HDMI変換ケーブルを用いて、対応Android端末を接続。ケーブル1本で、1080p/7.1ch音声のコンテンツまでが伝送できる。また、一部の端末は、AVアンプのリモコンからAndroidを操作できるという。AVアンプの電源がONであれば、Android端末の充電もできる。
シンプルオーバーレイ表示も可能。本体のFL表示と同じ、最大2行のメッセージを、映像に重ねて出力する機能で、テレビやプロジェクタを見ながら、ボリュームの値や、リスニングモードの名前、パイオニア独自機能のON/OFF、入力切替の結果、音声/映像パラメーターの調整といった、フロントFL表示と同じ情報が表示される。
文字は字幕を避けた位置に表示されるほか、この機能自体をON/OFFでき、一切表示しない事も可能。出力されるのはHDMI出力1のみ。AVアンプを見なくても、各種操作ができるため、ラックなどにAVアンプを収納しているユーザーに便利だという。
■低域遅延を自動補正
オートフェイズコントロールプラスの説明図 |
2機種とも、低域の遅延を抑えた再生を行なうための「オートフェイズコントロールプラス」機能を搭載。BDなど、コンテンツに収録されている低域効果音(LFE)のズレをAVアンプ側で補正する事で、キレのある低域や、クリアな中高域を実現する機能。従来はユーザーが音を聴きながら設定するものだったが、「オートフェイズコントロールプラス」では、AVアンプがリアルタイムにソース内の遅延を判別し、補正してくれるようになった。
これにより、ソースを変更しても再調整せずに利用できるようになり、細かな設定が難しいという人でも利用できるようになった。音楽のライブBDなどで効果的な機能だが、製作時に低域を後付けしている事で、LFEとメインの低音に相関が無いケース(映画に多い)では、あえてこの機能を働かせないという。
また、遅延だけでなく、LFEの極性が、メインチャンネルに対して反転しているケースにも対応でき、その場合はLFEの極性反転補正をして再生してくれる。
バーチャルスピーカー機能も強化。同社AVアンプでは、2009年モデルでサラウンドバックをバーチャル化、2010年はフロントハイトスピーカーをバーチャル化しているが、LX86/76ではフロントワイドスピーカーもバーチャル化して再生可能。従来のバーチャルハイト、バーチャルサラウンドバックと組み合わせ、同時に利用できるため、5.2chスピーカーを接続した状態で、仮想的に、最大11.2chを再生する事も可能。
また、対応するBDプレーヤーなどと接続した場合に使用できる、ジッタ低減技術PQLSに対応。音楽CD、DVD/BDのマルチチャンネル音声をビットストリーム出力した場合のジッタも低減する「PQLS ビットストリーム」機能となっている。
MP3などの圧縮音楽や、デジタル放送、ネットラジオなど、圧縮された音楽データに対し、最適な音質補正をかけて再生する「オートサウンドレトリバー」も備えている。「LX56」のオートサウンドレトリバーは、ARCからの入力による地上・BS・CSデジタル放送のマルチチャンネル音声の高音質化も可能。映像面では、プラズマテレビや液晶テレビ、プロジェクタなど、機器に合わせた画質をプリセットした「アドバンスド ビデオアジャスト」も利用可能。
自動音場補正機能は、付属のマイクを使って計測する「Advanced MCACC」を採用。測定された視聴距離のデータは、前述の「アドバンスド ビデオアジャスト」でも活用され、距離に合わせた映像に微調整される。
HDMI端子は、2機種とも8系統の入力(MHL兼用フロント1含む)と、3系統の出力を装備。Zone出力機能にも対応し、HDMI出力の1系統は、Zone4出力となる。従来のマルチゾーン対応の出力は、映像出力がコンポジットかコンポーネントのみだったが、HDMI出力が利用できるようになった。これにより、別の部屋(Zone4)でHDMIの高画質表示が楽しめるほか、そこにAVアンプを用意し、マルチチャンネル環境を構築する事も可能。
さらにZone2専用の独立サブウーファ出力も用意。メインルームで0.2ch分のサブウーファ出力を使いながら、Zone2の部屋で2.1chの再生ができる。前述の通り、Zoneのコントロールは、アプリの「iControlAV2012」からも行なえる。
2台のサブウーファをメイン部屋で使いながら、別の部屋でも1台のサブウーファが使える | Zone向けに、オーディオ/サラウンド調整ができる | Zoneルーム機能の接続例。Zone4でHDMI出力が利用できる |
どちらのモデルも「HDMIスタンバイスイッチング」機能に対応し、AVアンプの電源が入っていなくても、入力切替ができる。
左がLX86、右がLX76 | LX86の背面 | LX76の背面 |
その他、主な仕様は下表の通り。
モデル名 | SC-LX86 | SC-LX76 |
多チャンネル 同時駆動能力 (8Ω/9ch駆動時) | 合計810W | 合計770W |
最大出力 | 360W/ch(4Ω) | 340W/ch(4Ω) |
HDMI | 出力×3、入力×8 | |
音声入力 | アナログステレオ(RCA)×5 アナログ7.1ch(RCA)×1 Phono(MM)×1 同軸デジタル×2 光デジタル×2 | アナログステレオ(RCA)×5 Phono(MM)×1 同軸デジタル×2 光デジタル×2 |
映像入力 | コンポーネント×3、コンポジット×5 | |
音声出力 | アナログステレオ(RCA)×1、 アナログ9.1chプリアウト(RCA)×1、 光デジタル×1、 マルチゾーン(Zone2、Zone3/HDMI:Zone4) | |
映像出力 | コンポーネント×1 コンポジット×1 | |
その他の端子 | USB (LX86は前面と背面に各1系統 LX76は前面1系統のみ) Ethernet、12Vトリガー、 RS232C、IR入力×2、IR出力×1 | |
消費電力 | 370W (待機時消費電力0.1W) | |
外形寸法 (幅×奥行き×高さ) | 435×441×185mm | |
重量 | 17.9kg | 17.6kg |
(2012年 8月 9日)
[AV Watch編集部 山崎健太郎]