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ヤマハが“新時代デスクトップスピーカー”をデザイン。ホルンに“蝶!?”謎の4スピーカーに迫る

発端は編集部に届いた1通のメール。差出人は、浜松にあるヤマハのデザイン研究所から。なんでも、「音と空間の関係性を再考する試みとして、デザイン志向スピーカーのコンセプトモデルを開発した」という。“音と空間の関係性を再考する”とは、どういう意味だろう? 首をひねりつつ、添付されていた写真を開くと、そこにはスピーカーと言うより“オシャレなオブジェ”にしか見えない4つの姿が。

「なんですか、これ?」「右端、チョウチョみたいなのが飛んでるんだけど」「デスクトップ用って書いてある、小さいのかな」「左端のこれって、本当にスピーカーなの?どこから音が出るの?」など、写真を覗き込んだ編集部全員の頭に無数のはてなマークが。

これはもう、実物を見てみるしかない。さっそく浜松のヤマハ本社にあるデザイン研究所へ……。

そこにあったのは、いずれも高さ30cmほどの4つのコンセプトモデル。従来のスピーカーのイメージから完全に解き放たれた姿と、オーディオメーカーであるヤマハが培ってきたアナログ技術が融合した、“新しいスピーカー”そのものだった。なお、これらはコンセプトモデルで、製品化の予定は無いそうだ。

デスクトップに最適なスピーカーとは!?

スピーカーの中身がどうなっているのか、どんな音が出るのかが気になるところだが、そもそも、この「デザイン志向スピーカー」がどうやって誕生したのかに迫ってみたい。そうすることで、“スピーカーの中がどうなっているのか”と“どんな音がするのか”も、理解しやすくなるからだ。

時はコロナ禍。テレワークが一気に広まり、家庭でパソコン仕事が快適にできるよう、大きな机を買ったり、モニターを買うなど、デスクトップ環境の充実が話題になっていた。

長年にわたり数々のスピーカーを開発してきたヤマハでは、スピーカー開発の可能性をさまざまな方向性で検討、議論していた。そのなかに、コロナ禍をきっかけに需要が伸びると想定された、デスクトップユースをターゲットにした案も含まれていた。

そこで、それまでにもヤマハの多くのスピーカーを手掛けてきた岡崎浩二氏と杉村禎一氏が、「デスクトップに最適なスピーカーはどのようなものか」という、要素技術の研究を開始した。

左から商品開発統括部HA開発部の杉村禎一氏、同SP開発部の岡崎浩二氏

机の上に設置するスピーカーにおいて、最大の問題が“机の反射”だ。

目の前にスピーカーがあると、「スピーカーのユニットから放出された音を聴いているんだな」と思いがちだが、実際は、ユニットから耳に直接届く音だけでなく、机に反射し、変化してしまった音まで、耳に入ってしまう。

机の反射の影響を最小限に抑えるには、音を放出するユニットそのものを、斜め上に向けて配置する必要がある。岡崎氏と杉村氏は、まずウーファーを斜め上向きにして、その同軸上にツイーターを配置したスピーカーを試作した。

「反射の影響は抑えられましたが、音がどうしても机上の低い位置に沈んでしまいました。スピーカーの間にパソコンなどを設置して、その画面から音が出ているような定位を得るためには、ツイーターを、ユーザーの向きに立たせる必要がある。そこで、ウーファーの上にヤグラを作り、そこにツイーターを乗せることにしました」(杉村氏)

斜め上を向いたウーファーの上に、ヤグラを作り、そこにツイーターを搭載した実験機(写真はミッドレンジを加えた3ウェイタイプ)

岡崎氏によれば、ウーファーとツイーターそれぞれを、どの角度で設置すると、周波数特性がどう変化するかを細かく測定することで、最終的にツイーターは45度、ウーファーは76度という結論に到達したという。

ウーファーは76度上向き
ツイーターは45度

このデータを基に実験機を作って鳴らしたところ、音像の定位が大きく改善。さらに、ウーファーとツイーターの間に、音が反射する筐体も無いため、見通しや広がりのある新鮮なサウンドのスピーカーになったという。

この研究は要素技術開発という位置づけだったものの、実験機が今までにないスタイルであり、社内で音の評価も高かったことから、ヤマハ社内のデザイン研究所とコラボし、 "デザイン志向スピーカーのコンセプトモデル"としてカタチにしてみよう、という話になったそうだ。

ヤグラのような実験機を前に、「この技術を活用した新しいスピーカーのデザインを考えて欲しい」と依頼されたのが、ヤマハのデザイン研究所に所属するイクイップメントデザイングループリーダーの勝又良宏氏と、大塚生奈氏、柏瀬一輝氏の3人。大塚氏は普段オーディオインターフェイスやモニタースピーカー、モニターヘッドフォンのデザインを、柏瀬氏はホームオーディオ機器のデザインを担当している。

リーダーの勝又氏は、「実験機を見た時に、“ツイーターをどうやって浮かせるのか”がデザインのポイントになるだろうと考えました。また、どうせやるのであれば、スピーカーの新しい概念を作りたいと考えました」と語る。

デザイン研究所 イクイップメントデザイングループリーダーの勝又良宏氏
左から勝又良宏氏、大塚生奈氏、柏瀬一輝氏

かくして、デザイン研究所の3人がアイデアやスケッチを出し合うことに。

「最初はグリルが付いているなど、オーソドックスなスピーカーに近いデザインもありました。しかし、ディスカッションを続ける中で、もっと面白くしたいという欲求が高まり、設計の2人に“ユニットが外に露出しないような技術はないのか?”など、問い合わせをして、そこからスリットホーンやユナイトホーン方式などを教えてもらい、“それならばこういうデザインもできるのでは?”と、どんどん増えていきました」(勝又氏)

こうした、設計とデザイン研究所のキャッチボールで開発は進み、2週に1回の頻度で成果を見せ合い、1年ほどで、なんと41個の形状試作機が誕生。実際に音が出るモデルも、15種類くらい作られた。そこから、人気投票や技術のバリエーションなどを考慮し、最終的に残ったのが、「Cristal(クリスタル)」、「Horn(ホルン)」、「Butterfly(バタフライ)」、「Sail(セイル)」の4モデルだ。

Cristal(クリスタル)
Horn(ホルン)
Butterfly(バタフライ)
Sail(セイル)

4モデルの詳細を試聴

実際に、4モデルを詳しく見ながら、試聴もしていこう。どれも、スピーカーとは思えないユニークな形状をしているのだが、前述の、“ツイーターとウーファーが別筐体”“机に反射させないように角度をつけて音を放出している”という実験機の特徴が、4台にも引き継がれているのがポイントだ。

なお、各スピーカーはアクティブではなく、パッシブであるため、別途アンプとネットワークを用意し、音源のスマホからBluetooth経由で聴いている。楽曲は、「宇多田ヒカル/First Love」、「レディー・ガガ/911」、「松井秀太郎/HYPNOSIS」などを聴いた。

Cristal(クリスタル)

「クリスタル」は、カバ材を使った木製キューブの上に、小さなキューブが浮かんでいるようなデザインのモデル。“結晶化”をデザインコンセプトとしており、「岩に乗った鳥」のような、情緒ある形像になっている。

“岩”にあたる下部の筐体には、2つのウーファーユニットを、向かい合わせに対向配置している。このように配置することで、ウーファーが振幅した時の振動をキャンセルし、クリアな低音を再生できるそうだ。筐体にスリットが入っているが、その隙間に目をこらすと、向かい合わせになったウーファーの振動板が見える。

このスリットに注目すると、上に向いた部分だけ解放されており、側面のスリットは塞がれている。側面や底面のスリットからも低音が出ると、音が机に反射してしまうので、上向きのスリットだけ解放したわけだ。実験機では、ウーファーが76度上を向いていたが、その代わりとして、クリスタルは上向きのみ解放したスリットを採用している。

スリットの上向きだけが解放されており、上に向けて低音が放出される

上部のキューブにはツイーターを搭載している。支えている2本の支柱が細いので、空中に浮いているようにも見える。ちなみに、この細い支柱にケーブルが格納されているというから驚きだ。ツイーターは密閉式で、振動板にロハセル®いう素材を使っている。

ロハセル®は、ドイツのローム(現エボニックインダストリーズ)が開発した、硬質プラスチック独立気泡発泡体だ。他の硬質発泡体と比べて、機械的強度や耐熱性、熱加工性に優れている。剛性が高くて軽量なので、航空機器の構造体にも使われている。振動板の素材にも最適というわけだ。

ロハセル®の振動板に表面処理を施して着色して仕上げている。なお、振幅の幅が狭いため、エッジを介さず、直接筐体に接着されている。

岡崎氏はロハセル®について、「ロハセル®は軽くて剛性がある素材なので、振動板を厚くしても軽く作れる。そこから“ウーファーに最適な素材”とされてきました。しかし、軽さをツイーターに活かせないか?ツイーター振動板面積を広くとれるのでは?と考えて採用しました」と話す。

「ヤマハはかつて、NS-20やNS30といった後面開放キャビネットのスピーカーにおいて、ウーファーの振動板に発泡スチロールを使っていたのですが、(今回ロハセル®を使ってみて)振動板を軽くしてレスポンスを高めると、楽器の音に近づくという、ヤマハのサウンドの原点を再確認しつつ、新しい発見でもありました」

クリスタルを聴いてみる

机の上に置かれたクリスタルの正面に座り、音楽を再生する。

ビジュアル的には、一般的なスピーカーのエンクロージャーと呼ぶには心もとない、小さなキューブが2個あるだけ。高さも20cmほどしかないので、正直「これでちゃんと音が出るのかな?」と不安だったのだが、音が出た瞬間にぶったまげる。

一般的に、机にスピーカーを置いて音楽を聴くと、音場は机の上に展開する。だが、クリスタルの音は机の上を遥かに超え、左右前後と圧倒的に広大な音場が展開。そこにボーカルや楽器の音像が、シャープに、ビシッと定位する。

筐体にカバ材が使われているが、木の響きの温かさ、芳醇さを聴くというよりも、余分な響きや色付けを削ぎ落とし、広大な空間にシャープに音が定位する、非常に現代的なサウンド。サイズがまったく違うが、Bowers & Wilkinsのノーチラスツイーターを搭載したスピーカーを聴いているような感覚にも近い。

音場が広く、定位が明瞭なため、聴いていると自然と姿勢がリクライニングしていき、目線も上へと上がっていく。机の上で音楽を聴くというよりも、ライブステージの最前列かぶりつきで座り、ステージに身を乗り出して、頭を半分突っ込みながら聴いているようなサウンドだ。

形状からは、低域と高域が分離したようなサウンドになるのでは?と心配していたのだが、低音から高音まで繋がりの良いサウンドに仕上がっている。これは、低音が上向きのスリットから放出されていることも寄与しているのかもしれない。

音の情報量もクリアかつダイレクトに聴き取れるので、ヘッドフォンのサウンドに慣れた人にも、親しみやすい音と感じるかもしれない。ポータブルオーディオのダイレクト感と、広大な音場が楽しめるスピーカー再生の醍醐味が、両立したようなサウンドだ。

Horn(ホルン)

2つの筒を重ねたようなデザインが「ホルン」。その名の通り、管楽器のホルンにも似ている。筐体は金属に見えるが、実は樹脂で、金属メッキで仕上げているそうだ。

こちらも、下部の筐体にはウーファーを対向配置し、上部に向けてのみスリットを設け、そこからキレの良い低音が吹き出すようにしている。

注目は上部の筒。「中にツイーターのユニットが入っているのかな?」と覗き込むと、なんと、竹輪のように中は素通しで向こう側が見えている。ただ、よく見ると、内部の壁面に、2つのユニットが埋め込まれている。

向こう側が見えている
壁面に注目すると、ユニットが2つ配置されているのがわかる

これは「背面開口式ユナイトホーン」と呼ばれる方式だ。通常、JBLなどのホーン型ウェーブガイドを持つツイーターは、お尻にドライバーユニットを搭載している。しかし、ユナイトホーンは、お尻ではなく、ホーンの途中に搭載している。そして“背面開口”の名前の通り、お尻の部分は素通しになっている。

このユナイトホーン構造では、ウェーブガイドから前に音が出力されるだけでなく、背後にも音が回り込み、アンビエントな効果が得られるそうだ。また、視覚的に、何もない空洞から音が出ているユニークさも味わえる。

デザインした大塚氏は、「とにかく、“スピーカーなのに向こうが見える”、“どこから音が出ているのだろう?”と思わせたかった」と狙いを語る。また、形状と金属メッキ仕上げから、「ヤマハの楽器から、管楽器のようなイメージも膨らませていった」という。

背面

ホルンを聴いてみる

“名は体を表す”。まさにホルンという音だ。筐体は金属ではなく、樹脂に金属メッキで仕上げだそうだが、金属質な響きが程よくプラスされ、煌びやかな響き、女性ボーカルに艶っぽさが出てくる。

そして、ホーンスピーカーならではの、音が前にグッと出てくるパワフルさが気持ちが良い。先ほどのクリスタルは、“クリアで精密”だったが、ホルンは“パワフルで情熱的”なサウンドだ。

面白いのは音場表現だ。ホーンスピーカーは、前へと吹き出すパワフルさが鮮烈なもので、そこばかりに意識が向くことが多いが、ホルンのサウンドは、驚くほど奥行きが深く、音場の立体的な再現能力も高い。

これはおそらく、エンクロージャーが小さく、また滑らかな形状であるため、余分な回析や反射が少ないこと。そして、背面開口式であることも寄与しているのだろう。

サイズが小さいため、フロア型スピーカーと比べると、音量も上げやすい。「これでオーケストラやジャズを思い切り再生したら、最高に気持ち良いだろうな」と思えるサウンドだ。

Butterfly(バタフライ)

バタフライはその名の通り、蝶が飛んでいるような形状。実物を前にしても「これがスピーカーなの?」という疑問が拭えないフォルムだ。

下部の筐体は、柏瀬氏によると、人工大理石の板を複数張り合わせて作っているそうだ。内部にウーファーを2基内蔵しているのは、ここまで紹介したスピーカーと同じ。ただ、バタフライのウーファーは、向かい合わせではなく、“背中合わせ”の対向配置になっている。

ウーファーを背中合わせの配置にしているのは2つ理由がある。

1つは振動のキャンセル、そしてもう1つが、内側と外側の音量を変えることで、音の広がりを変化させている。バタフライは“音の広がり”にこだわったモデルというわけだ。

なお、ウーファーが背中合わせの配置であるため、スリットも2つ設けられている。どちらも上方向に低音を放出しているのは同じだ。

“音の広がり”を象徴するのが、上部の蝶のようなツイーター。このツイーターは、ロハセル®を横長の振動板にしたもので、それを蝶の羽根のような形状に曲げて固定している。

この振動板の裏側、中央部分にツイーターのドライバーが取り付けられており、そこからの振幅が、羽根のような振動板に伝わり、高音を再生する。

ツイーターの筐体を砲弾型にするなどして、筐体に音が当たって変化する回析を抑えようというスピーカーは存在するが、このバタフライは、ツイーターの筐体がほぼ存在せず、振動板だけ空中に浮いている格好だ。

バタフライを聴いてみる

まさに“空間再生スピーカー”。音の広がる空間のサイズは4モデルの中でも随一で、どこまでも広がっていく。このバタフライ・ペアだけで、部屋中に音を満たせる感覚だ。

机の前に座って、正面で聴いていると、音場の広大さがありながら、ボーカルや楽器は明瞭だ。

面白いのは、机の前から離れ、真横や、真後ろに移動して聴いても、定位のシャープさが少しフワッと甘くなるものの、音の聴こえ方、音場の広大さが、ほとんど変わらないこと。

なお、このツイーターは角度を変えられるため、例えばより上を向かせると、無指向性スピーカーのような鳴り方になるそうだ。

部屋の中を自由に動きながら、どこにいても音楽に包みこまれる。正面に移動すれば、より音楽に没入できる。そんなスピーカーがバタフライだ。

Sail(セイル)

セイルもバタフライと同様に、「スピーカーなの?これが」という見た目だが、細部に注目すると、狙いがわかってくる。

先ほどのバタフライは、ロハセル®の横長振動板を、横向きにしていたが、セイルは、ロハセル®振動板を縦長、縦向きで配置している。

振動板の上部に糸が取り付けられており、この糸を引っ張ったり、伸ばしたりすることで、ヨットの帆を操作するように、ロハセル®振動板を立たせたり、寝かせたりできる。これにより、音の聴こえ方が変化するわけだ。なお、この機構には、ヤマハらしく、ギターの弦の調節機構のノウハウも取り入れらている。

筐体の下部には2基のウーファーを内蔵している。バタフライのように、背中合わせの配置だが、同軸上に配置するのではなく、上下にズラして配置している。こうすることで、筐体を薄くしている。また、ウーファーから放出された音は、反射板によって、上方向から放出される。

セイルを聴いてみる

セイルの音は、非常に面白い。

まず、縦長ツイーターを“起こした”状態で聴いたのだが、音が広大に広がる感覚はバタフライと似ている。特徴的なのは、ツイーターの振動板が縦に長いため、音のスイートスポットも“縦に長い”ことだ。

そのため、聴きながら頭の位置を低くしたり、高くしても、ボーカルの定位や音の聴こえ方があまり変化しない。逆に、机の正面から移動し、スイートスポットを外れると、高域のダイレクト感は薄れる。

そこで、糸を緩めて、ツイーターを“寝かせる”と、高域がより上方向に放出されるようになり、定位の明瞭さよりも、音の広がりが広大になり、どこで聴いても音が変化しにくい、無指向性スピーカーのような鳴り方になった。

寝かせた状態と、立たせた状態。調整ができる

スピーカーの根源的な楽しさ再び、オーディオメーカー・ヤマハの挑戦

どれもユニークなデザインだが、特にバタフライとセイルはぶっ飛んだデザインで、大塚氏も柏瀬氏も、「いかに“スピーカーに見えないスピーカー”を作るか」にこだわったという。

一方で、エンジニアの岡崎氏、杉村氏は「設計者が、いきなりこのスピーカーを作れるかと言われたら、おそらく考えもしない形状ですね」と笑う。

普段、モニタースピーカーのデザインもしている大塚氏にも、当然“スピーカーの形状とはこういうもの”というイメージを持っているが、「今回は“自由にやって良い”ということで、リミッターを外してデザインしました」と言う。まさに、エンジニアとデザイナーがボールをなげ合って高めていったからこそ、到達できたデザインと言えそうだ。

4モデルを試聴して驚くのは、スピーカーとは思えないデザインなのに、どれも“極めて音が良い”こと。要素技術の研究をキッチリ行なうだけでなく、長い歴史で培った技術の蓄積も感じられる。

個人的に興味深かったのは、これらのスピーカーに、DSPによる信号処理が使われていないことだ。ヤマハと言えば、1986年に、デジタル信号処理によって音場を創生する世界初のDSP搭載機「DSP-1」を開発するなど、信号処理で音場を作り出す技術に長けたメーカーであり、それが同社のAVアンプでも活用されているのはAV Watch読者には説明不要だろう。

ヤマハなら、信号処理によって、小さなスピーカーで広大な音場を再生することも可能なはずだ。しかし、4モデルでは、ユニットの向きを変えるとか、筐体の回析を抑えるなど、あえてアナログな工夫だけで、驚くべきサウンドを実現した。スピーカーメーカー・ヤマハの底力も感じられた。

消費者としては、このデザイン志向スピーカーを販売して欲しいところだが、あくまでコンセプトモデルで、残念ながら製品化の予定は無いそうだ。ただ、音楽配信・映像配信が普及し、デスクトップオーディオが盛り上がっている昨今、きっと、このデザイン志向スピーカーで培った技術やデザインを活かした製品が、ヤマハから登場することだろう。その日を心待ちにしたい。

山崎健太郎