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TAD、左右前後に新スリットポートを備えた1台80万円のブックシェルフスピーカー
(2014/8/29 14:06)
テクニカル オーディオ デバイセズ ラボラトリーズ(TAD)は、Evolutionシリーズの新モデルとして、ブックシェルフ型スピーカー「TAD-CE1」を発売する。価格と発売時期は、サイドフレーム/アルミパネルがブラック/シルバー(KS)のモデルが11月中旬発売、ブラック/グレー(KJ)が2015年1月発売でどちらも1台80万円。ホワイト/シルバー(WS)、ホワイト/グレー(WJ)も用意するが、価格は未定で、2015年夏の発売となる。
また、このスピーカーと組み合わせるスタンド「TAD-ST2」も用意。ブラックモデル(K)が11月中旬に1ペア18万円で発売予定、ホワイトモデル(W)は2015年夏発売で価格は未定。
ハイエンドのReferenceシリーズの思想と技術を継承した、Evolutionシリーズのブックシェルフ型スピーカー。3.5cmのドーム型ツイータと14cm径ミッドレンジを組み合わせた同軸ユニットと、18cm径のウーファを搭載した3ウェイ。エンクロージャはバスレフとなる。
Referenceシリーズと同様に、独自の蒸着法で加工したベリリウム振動板を使ったツイータを含む、中高域の同軸ユニット「CSTドライバー」を採用。Referenceシリーズで使っているものと基本的には同じで、ツイータとミッドレンジのクロスオーバーにおける位相特性と指向特性を一致させることで、全体域で自然な減衰特性と指向放射パターンを両立している。帯域としてはCST全体で250Hz~100kHzを担当する。
ウーファには軽量で剛性の高いアラミド繊維の織布と不織物を何層もラミネートした振動板を採用。一般的なユニットは、センターキャップとコーンが2ピース構造となっているが、1つのピースとしてシェル(殻形状)に一体化。内部損失が高く、強度もあり、かつ軽くすることができ、豊かな低音再生とクリアな中低域再生を実現したという。磁気回路にはネオジウムマグネットを使ったTポール型磁気回路を使っている。
スピーカー全体の再生周波数帯域は34Hz~100kHz。クロスオーバー周波数は250Hz、2kHz。出力音圧レベルは85dB。インピーダンスは4Ω。
左右と前後にスリット型のバスレフポート
大きな特徴はエンクロージャにある。高剛性の樺の合板を骨組みとし、内部損失の高いMDF材と組み合わせることで、強度と低共振を両立した「SILENTエンクロージャー構造」を採用。さらに、両側面に10mm厚の高剛性アルミパネルを装備し、筐体の共振をさらに低減している。
バスレフ構造で、サイドのアルミパネルはポートを形成するパーツも兼ねている。エンクロージャの両サイドに穴があいており、その上にアルミパネルを配置。エンクロージャとパネルの間には隙間があり、それがスリット形状のバスレフポートとして機能する。
開口部は外に行くつれて幅が広くなるホーン形状で、空気の流れを滑らかにしている。このポートシステムは「Bi-Directional ADS」と名付けられており、大振幅時のポートノイズを低減しつつ、ポートからの内部定在波の漏洩を抑制。レスポンスの良い、豊かな低音が再生できるという。
バスレフポートは丸い穴の製品が多いが、丸型の場合は、ポートの内壁に近い部分の空気が動きにくく、中央の空気は素早く動くという“流速差”が発生する。それによって空気の渦が生まれ、ノイズが発生する。スリット型でホーン形状とすることで、そうした問題が発生しないように工夫されている。
また、ポートの開口部は前後・左右対称にレイアウトされている。これは、ポート駆動による振動を打ち消し合って、自然な低域を再生するためだという。
表面の木目仕上げには、トロピカル オリーブの突板を使用。回折現象を防ぐために、角がRになっているが、それに沿うように突板は1ピースのものを上から下まで貼っている。その上に透明度の高い鏡面仕上げを施すことで、「天然木が持つ深み、立体的で綺麗な柄を出している」という。
ネットワークは「Evolution one TAD-E1-WN」と同じパーツを使用。入力ターミナルも上位モデルと同じものを使っており、バイワイヤ、バイアンプ接続が可能。
外形寸法は290×446×526mm(幅×奥行き×高さ)で、重量は30kg。ショートケーブルとクリーニングクロスを同梱する。スタンドのサイズは400×510.3×581mm(同)で16kgとなる。
サイドパネルのデザインを変更したスペシャルモデルも検討
平野至洋社長は、TADが目指すオーディオ機器の姿として、「芸術家の意図を正しく表現する事を目標としている。アルバムなどの作品には、演奏後、必ず録音エンジニアの意図が加わり、作品となる。ライブの空間で聴く音と、作品になった音は異なっている。我々が目指しているのはディスクであれば、ディスクの中にあるデータを正確に引き出す事。作品となったものを、できるだけ正確に再現する。何も足さず、引かない。純白のキャンバス」と説明する。
その上で、Evolutionシリーズについて「革新的な技術も取り入れた商品群」と語り、今回の「CE1」ではデザイン面にもその革新性が現れているとアピール。「今後のEvolutionシリーズでは、こうしたデザインを基調とし、ラインナップを拡充する。見た目もハッキリ違いが出るような形の製品を計画していく。また、アルミパネル部分のデザインを変えたスペシャルモデルなどにもチャレンジしたいと考えている」とした。
音を聴いてみた
クラシックのオーケストラを再生すると、まず驚くのはブックシェルフ型と思えないスケール感だ。中低域の量感が豊かで、沈み込みも深いが、それに輪をかけてトランジェントの良さに驚かされる。バスドラムのドンという音が出る瞬間も素早いが、その音がサッと消える様子も極めてハイスピードで、バスレフとは思えない、キッチリと低域がコントロールされているクリアさがある。
そのため、大音量でも音場や音像、各楽器の定位がブレず、ぼやけず、精密さが保たれている。それが“余裕”や“空気感”にも繋がっており、フロア型スピーカーを聴いているかのような安心感もある。同時に、奥行き方向の音の広がり方などに、ブックシェルフらしい利点も感じられる。
同時に、CSTドライバーによる極めてクリアで、付帯音が一切ない中高域も印象的。弦楽器の弦の震えや響きが、目に浮かぶほど精密で、鼓膜がゾクゾクするような繊細さがある。高価なモデルではあるが、ブックシェルフの利点を備えながら、その枠を大きく超える再生能力を持ったスピーカーだ。