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パナソニックが有機ELテレビを欧州へ投入する狙い

TV事業部トップに聞く“ポスト・プラズマ”への自信

 パナソニックは、ドイツで9月9日(現地時間)まで行なわれた「IFA 2015」において、コンシューマ市場をターゲットとした65型有機ELテレビ「CZ950」(TX-65CZ950)を発表。10月から欧州市場向けに発売することを明らかにした。日本市場への投入時期は現時点では未定だが、パナソニック アプライアンス社テレビ事業部・品田正弘事業部長は、「パナソニックの有機ELテレビは、プラズマテレビを凌駕した製品になる」と位置づけ、有機ELテレビが、ポスト・プラズマテレビの役割を担うことを明確に示した。

パナソニックがプラズマテレビを超える画質と位置づけた有機ELテレビ「CZ950」
パナソニック アプライアンス社テレビ事業部・品田正弘事業部長

 また、曲面ディスプレイを採用したテレビも欧州市場向けに投入。パナソニックのテレビ事業を加速する。今年4月にテレビ事業部長に就任した品田事業部長に、有機ELテレビについて、そして、今年度黒字転換を狙う同社のテレビ事業の今後の取り組みなどについて聞いた(以下敬称略)。

有機ELテレビ欧州投入の狙い。日本での発売は?

――IFA 2015の会場で、有機ELテレビを、10月から欧州市場向けに発売することを発表しました。この狙いはなんですか。

品田:もともとパナソニックには、最高画質を実現するテレビとして、プラズマテレビがありました。しかし、プラズマテレビから撤退後、その位置を担うテレビが欠落していたともいえます。ようやくここにきて、液晶テレビがハイエンドを担う画質を持った製品になるといった認識が定着しはじめましたが、パナソニックが投入する新たなトップエンドのテレビはなにか。その役割を担う製品が必要でした。そこに投入したのが、今回の有機ELテレビということになります。

 パナソニックが持つ画質のフィロソフィーをここで表現していくことになります。今回のIFA 2015のパナソニックブースでは、プラズマテレビと有機ELの画質を比較するコーナーを設置しました。パナソニックの有機ELテレビは、プラズマテレビを凌駕したということを、実際に見てご理解いただけたのではないかと思っています。

プラズマテレビなど他の方式と有機ELテレビ(手前)の画質を比較

――有機ELテレビは、なぜ、欧州市場から投入するのですか。日本での投入についてはどう考えていますか。

品田:欧州で先行したのは、プラズマテレビからの撤退で、最も影響を受けたエリアが欧州市場だったからです。プラズマテレビからの撤退によって、欧州市場におけるパナソニックのシェアは大きく減少しました。有機ELテレビは、その欧州市場において、パナソニックのテレビのポジショニングを明確にしていくという狙いがあります。今年春には、ODMから調達した曲面テレビをはじめとする新製品を欧州市場に投入し、今年7月には、自社設計、自社開発の曲面テレビを欧州市場向けに投入しました。そして、今回、10月に有機ELテレビを投入し、さらに来年春には次の新製品を投入する予定です。この4連打によって、欧州におけるパナソニックのテレビ事業のポジションを明確にし、プラズマテレビ撤退で失ったブランドイメージを取り戻したいと考えています。

 この4つの製品に共通しているのは、欧州市場に適合した製品であるという点。しっかりとしたモノづくりをしないと厳しい市場ですから、画づくりの観点からしっかり評価していただけるものと投入していきます。とにかく、欧州市場は、見る目が厳しい。このブランドであれば、これぐらいのものを出さない駄目だという基準値が消費者のなかにある。それぞれのブランドにふさわしい商品になっているかという見方があります。パナソニックのブランドを鍛えてくれる大事な市場だといえます。

 有機ELテレビの価格は、最終的にはまだ決定していませんが、LG電子が投入している有機ELテレビの9,000ユーロよりも高いものになると考えています。一般的な65型液晶テレビは、4,000〜5,000ユーロなので2倍近い価格設定になる予定です。

 一方で、日本において、現時点では投入するかどうかについては決めていません。すでに、LG電子が、日本市場向けに有機ELテレビを発売していますが、そんなに数が売れているわけではありません。また、日本の場合は、今回のような既存のテレビの延長線上で行くのか、あるいは有機ELの特徴を活用して、これまでとは違うことを提案していく方がいいのかという点も検討していきたいですね。パナソニックは、日本のテレビ市場においては強いポジションにありますので、ビジネスの枠組みがある程度できた段階で投入していきたいと考えています。また、アジア、中南米向けには、ビジネスとしてのリターンが薄いと考えていますので、当面、投入する予定はありません。

――有機ELパネルはLG電子から調達していますね。LG電子の有機ELテレビとの差はあるのですか。

品田:パネルを駆動させるエンジンが違っていますから、大きな差があると考えています。パネルを供給するメーカーからも、「我々にはパナソニックのような画が出ない」と言われますが、ここにはパナソニックが持つすり合わせの技術であったり、長年培ったアルゴリズムであったり、といったところが生きており、画質に違いが出ています。今回の有機ELテレビには、昨年のAX900シリーズで搭載し、画質の向上に大きく貢献した「Pro5イメージプロセッシングエンジン」を採用しており、それにより、色域や解像度においては、高いスペックを実現しています。もちろん、パネルメーカーとの協業では、こちらからも技術を提供し、パネルそのものの画質向上にも寄与していますが、テレビとして最終製品にした際の差が生まれてくるのは確かです。

――どれぐらいの販売数量を計画していますか。

品田:そんなに大きな数は想定していません。経営上の数字への貢献も限定的だと見込んでいます。むしろ、パナソニックが、きちっとしたモノづくりをしていく姿勢や、フィロソフィーといったものを、この有機ELテレビで表現していきたいと考えています。ただ、2018年度を最終年度とする中期経営計画や、東京オリンピックを見据えた2020年に向けては、しっかりとした枠組みを作っていきたいですね。有機ELは、可能性を秘めたデバイスです。薄いし、曲げることもできる。従来のテレビの延長線上の製品と、テレビの枠組みを超えた製品との両にらみで行きたいと考えています。

テレビ事業黒字化に向け「1,000万台」が目安に

――欧州市場では、曲面テレビの投入も開始しましたね。

品田:昨年から曲面テレビがバズワードになっており、欧州の量販店では、積極的に売り場に展示する傾向がみられていました。テレビの進化が停滞しはじめたタイミングで、目に見てわかる差別化として曲面テレビが注目されたという背景はあると思います。テレビメーカにとっては、欧州市場における入場券のようなものだったといえます。そうした観点から製品投入をしています。

7月から投入した欧州市場に投入した曲面テレビ「CR850」

――IFA 2015では防水仕様の24型ポータブルテレビの開発試作品も展示しましたが。

防水仕様の24型ポータブルテレビの開発試作品

品田:これは日本では、プライベートビエラと呼んでいるテレビの技術を活用したものですが、24型という大画面サイズながら、防水仕様にしています。もともとプライベートビエラは、日本でもようやく昨年からブレイクしはじめた製品で、人気が出るまで4年ほどかかっています。欧州でも慌てずに、時間をかけて広げていきたいと考えています。欧州の場合は、一部を除くとお風呂に入るという習慣がありませんから、日本のようにお風呂テレビの提案からスタートするというわけにはいきませんが、パーソナルでテレビを視聴するというように、テレビの視聴環境も変わってきていますから、そのあたりを捉えて、お風呂以外の用途で提案していくことになります。

――2015年度はテレビ事業の黒字化を必達目標に掲げていますね。

品田:黒字化は必ずやり遂げます。いまは白字化という言い方をしていますが、少しでも黒字化して、ゴールに倒れ込めればいいと考えています(笑)。

――第1四半期は厳しい内容になっていましたが。

品田:昨年の第1四半期には、ワールドカップ需要があり、それに伴い、欧州、中南米での需要が大きく伸びた反動が出ていたのが理由です。これらの地域では、前年同期に比べて、圧倒的に売り上げが少なくなったことが大きい。しかし、第2四半期以降は、こうした特需の反動はなくなりますし、技術開発の固定費低減効果も、第2四半期から利いてきます。第2四半期は、目指している状況に近い形でいけると見ていますし、悲観する状況ではありません。

――白字化、黒字化に向けての課題はなんでしょうか。

品田:ひとつは、少ない台数でも成り立つように事業のフレームワークを作るという点です。年間600万台、700万台という数字でも黒字化する仕組みを作るとともに、1,000万台という台数に対してもストレッチできるような体質を作り上げることが大切です。

――1,000万台は具体的な事業目標として捉えていいですか。

品田:グローバルのテレビ市場が年間2億台。そのうちの5%を確保するという点では、1,000万台という規模になります。パネルを外部から調達する際にも、やはり5%程度の力は必要です。つまり、市場規模から逆算してみると、1,000万台というのはひとつの目安になるという話です。テレビ事業は、高価格帯だけのビジネスでは成り立たないところがあります。たとえば、4Kでもボリュームがある領域から逃げてはいけません。そこの領域は、ある程度、しっかりやっていくことが必要。そうしなければ顧客がついてこない。もちろん、収益的には良くない領域なので、オペレーションをどれだけ効率よくやるか、モノづくりをどうするか、開発プロセスやパネルの在庫の持ち方はどうするかということもしっかりやらなくてはいけない。だが、逃げないということは必要だと考えています。

 一方で、価格が高いモデルであればあるほど収益性を高めたいと考えています。販売現場も、高いものを売れば儲かる構造のほうがわかりやすいし、売る気になってくれる。それを実現する原価構造にしていきます。これは、言い換えれば、きちんとお金を払っていただける、価値がある商品をつくるということでもあります。価値と価格と原価のバランスをすりあわせて、その価値にお金を払っていただくものにしなくてはならないと考えています。

 このように、ボリュームを意識したデザイン優先の製品と、価値を意識した画質優先の製品の両方を投入していくことになります。実は、私が事業部長に就任してから、技術開発費を増やしました。そうしないといい製品が作れないと考えたからです。その分、オペレーションコストをもう少し引き下げるようにしました。コストは、これでバランスさせます。技術開発をしっかりとやらないと、パナソニックが目指すポジショニングを維持できないという危機感があります。開発プロセスをダイナミックに短くし、軽くすることにトライしており、これを2016年度モデルに反映させる考えです。メリハリを利かせ、同時に製品ラインアップそのものも見直していくことになります。

画面サイズが変わる“アンビエントディスプレイ”など新たな提案

――テレビ事業部長に就任してからの5か月間はどんなことに取り組んできましたか。

品田:2016年度以降に向けて、ビジネスの骨格をどうつくるのかということに取り組んできました。つまり、どれだけの限界利益で、固定費はどれだけに抑え、どんな利益構造にするのか、どんな体質にするのか、ということを考えました。そして、それを踏まえて、商品レンジのあるべき姿はどうなのか。2016年度以降のどんなラインアップを組んで、どんなポジショニングを得るのかということを考えてきました。これは、2018年度を最終年度とする中期経営計画のなかに盛り込むことになります。2016年度に関しては、基本方針は固まりました。

 もうひとつは新たな価値を創造していく製品はなにかという点です。そのひとつが住空間のなかでテレビをどう位置づけるかということになります。住空間においては、テレビを視聴していないときには、その存在が邪魔だったりします。この課題をどう解消できるか。大きな挑戦でありますが、ここに大きな可能性があるといえます。

 今回のIFA 2015でも、最適な画面サイズに変わるアンビエントディスプレイを展示しました。ふだんは巨大なスピーカーのような薄い板ですが、テレビを見るときには、ディスプレイがせり上がって、画面が大きくなる。これも住空間のなかでテレビをどう位置づけるのかという提案のひとつです。

最適な画面サイズに変わるアンビエントディスプレイ

 今回展示したものは、私自身、まだリビングに置くには大きいかなという印象もあります。もっと薄く、軽い感じのものがいいかな、という気持ちもありますね。ただ、今回の展示を通じて得られた意見をもとに、改良を加えていきたいですし、また、これ以外にも、いくつかのアイデアがありますから、それも世の中に出してみて、どこに住空間を意識したテレビの本筋があるのかを追求したいと思っています。去年はまだプロトタイプというイメージが強かったのですが、今年はもう少し製品に近いイメージにしてみました。ビルイトインにすると、販路が限定されますが、スタンドアロンだと販路を広げることもできます。

 住空間におけるテレビのあり方や、住空間における困りごとを解決するというのは、スマートテレビの可能性を遥かに超えるものになるといえるでしょう。

――テレビを超えた製品を作ると宣言していたパナソニックが、なぜテレビ事業部という名称を復活させたのでしょうか。

品田:そこにはあまり深い意味があるとは考えていません。むしろ、テレビの事業を継続的にやっていくこと、そして、テレビ事業を単体として経営数字を捉えていくことが大切だというのが理由だといえます。テレビは、大画面したり、スマートテレビになったりといった進化を遂げてきましたが、やはり最も多い視聴スタイルは、テレビの映像を受動的に見るということです。また、ネットを通じて映像を見るという点でも、コンテンツをみるという基本姿勢は変わりません。しかし、先ほども触れたように、住空間のなかで、テレビをどう位置づけるのかということはしっかりとやっていく必要があります。今後のパナソニックのテレビはどうなるのか。テレビ事業に関わるリソースが減ったり、制約があるなかで、どんな価値を提供できる製品を投入できるのかが、この5年の最大の課題だといえます。また、住空間という視点で考えたときに、どんなデバイスがいいのかという視点もある。

 超短焦点のプロジェクタを使ったり、有機ELをどう使うのかといったことの裏返しとして、分厚くて、重たい液晶ディスプレイに頼らない形でビジネスができるのかということも考えなくてはいけません。それに向けて市場を育成していくことも必要です。この変化は一気には起こらず、何年かをかけて、ようやく売り場が変わることになるでしょう。少しずつトライをして、成果を形にしていくつもりですし、長丁場のビジネスとして捉えています。

 テレビにおいて難しいのは、不満ごとがないということなんです。テレビほど不満がない商品はない。カメラ、冷蔵庫、洗濯機もお客様の不満が顕在化しており、そこを潰していくと新たな商品企画ができる。テレビの不満として挙がってくる不満はホコリがつきやすいとか、電源を入れてから映るまで時間がかかるといったことです。これが商品企画を難しくしています。住空間において、新たなテレビの価値をどう創造をしていくか。ここに挑戦していきたいですね。まだまだやれることは一杯ある。コンシューマ事業を支える事業として成長させたいと考えています。

(大河原 克行)