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鴻海とシャープが買収契約に調印。「有機ELよりIGZO」
「買収ではなく投資」の独立運営。大阪本社買い戻す?
(2016/4/2 15:51)
台湾の鴻海精密工業(鴻海)とシャープは2日、大阪 堺市の堺ディスプレイプロダクトにおいて、共同会見を開催し、鴻海によるシャープへの出資についての契約に正式に調印した。
鴻海はシャープへ3,888億円の出資を行ない、シャープは、鴻海傘下での再建を目指す。鴻海はシャープの持つ液晶技術や製品を活かすとともに、有機EL開発を加速する。
シャープの高橋社長は、「(鴻海創業者で会長の)テリー・ゴウ(郭台銘)氏は、世界的な実績を積み上げてきた起業家。鴻海は一流の設計会社であり、開発・生産会社で、興隆するアジアの成長感、スピード感、そのもの。鴻海の強みは、独自の視点で技術トレンドと製品ニーズをとらえ、その生産力でグローバルな顧客に高品位に展開できる」と資本提携の意義を説明。
また、数年来、絞られてきた資金を成長への投資に振り向ける。「近い将来、いろいろな製品がクラウド化し、インテリジェンスを持ち、ビックデータにより、家電は世界中の日常的なニーズを満たすことがある。スマートな製品により、世界の文化や生活に貢献する。両社の文化を認め合い、経録して、相互の遺伝子、ベンチャースピリットを共有し、アジアから新しい創造の姿を表していきたい。このアライアンスによってシャープが脱皮し、10年、100年と価値を想像し続ける会社を目指す」とした。
鴻海のテリー・ゴウ会長は、「私は日本が好きです、シャープが好きです」と述べ、日本とのつながりを強調。「今日は、鴻海とシャープにとって重要な日である。シャープは引き続きイノベータであり、シャープの技術は高く、堺ディスプレイプロダクツでの共同作業では、不屈の精神を見せてくれた。」とシャープを評価。イノベーションとして、8Kディスプレイについても言及し、「66歳の私を若々しく見せてくれる」と笑いを誘った。
また、「100年以上の歴史を持つ日本の会社がなぜ海外の会社に、という疑問を持つ人もいるかもしれない。しかし、世界はフラットになり、ビジネスは国境のない事業体になっている。株主は世界中にいる。シャープな日本の会社ではない、グローバルカンパニーだ。鴻海も同様のグローバルカンパニーで、その両社が協力する」と述べた。
企業文化の違いこそ重要。明確なロードマップで再生
また、テリー・ゴウ会長は、「このアライアンスでは企業文化が違うという人もいるが、それが重要なこと。だからうまくいく」と説明。「鴻海は、世界でもっとも優れた会社と取引しているが、もっとも厳しく、また重要なお客様でもある。顧客からは、常に厳しい要求がつきつけられるが、だからこそそれを実現するために努力する。強く求められることで、さらに上を目指せる。違いを利用してお互いをより高いところへ押し上げることが重要だ」と両社の提携がうまくいくと強調。「鴻海もシャープも変化を促すことができなければ、競合他社に食べられてしまう。懸命に泳ぎ続けなければならない」とした。
また、再建計画については、「明確なロードマップを持っている」と説明。
・シャープがスピーディかつ最高の技術、品質で製品化できること
・シャープが再び、先端のグローバルブランドになるようサポートする
というプランの元、再生に取り組むという、詳細は言えないとしながらも、新たなIoT機器や、蚊も取れるスマート空気清浄機、スマートエアコン、スマート調理家電などの事例を紹介した。
また、直近では3月31日に支払った1,000億円を次世代のIGZO、有機EL、カメラ、センサー技術などのディスプレイ技術に投資することを紹介。「有機EL(OLED)ばかり言われるが、IGZOも重要で、シャープは世界のリーディングカンパニーだ」と強調した。さらに「最先端技術をつかって、生産能力を増強する」とし、シャープの技術や鴻海の販路などを組み合わせて、世界の需要を満たしていくとした。
シャープから学ぶこととしては、「鴻海は、シャープから100年企業になる術を学びたい。いまは42歳で、まだ先は長い。一方で、シャープがさらに100年イノベーションをすすめることができるようにフルサポートする」と強調。シャープの社員に対しては、「皆さんとともに働くことを楽しみにしている。シャープの成功のための明確なロードマップがあり、必要なリーダシップを提供し、立て直す。私とともに今後100年、繁栄、生存できるような旅路に一歩踏み出してほしい」と呼びかけた。
テリー・ゴウ会長は、「今日は素晴らしい日だ。両社、従業員、株主にとって素晴らしい日になる。世界の経済やIT産業にとっても素晴らしい日になる」と締めくくり、両社の成長をアピールした。
有機ELよりIGZO? 弱みは語らない。消費増税は「止めて」
シャープの弱みについて尋ねられたゴウ会長は、「記者会見で重要なのは、弱さについて語ることではなくて、強さについて語ることだ。弱みはしゃべらない。長くデューデリジェンスをやってきて、弱点は知っている。シャープも鴻海の弱みを知っている。だが、それは小さな会議室でお互いに開示すること。重要なのは、強みはシャープのDNAのなかに研究開発、技術重視があること」と述べた。
鴻海による出資では、2,000億円を有機EL関連の投資に振り向けるなど、多くのリソースを有機ELに注入する計画となっている。一方、ゴウ会長が本日の会見で強調したのは「IGZO」の重要性で、「シャープのIGZOのリーディングカンパニー」と述べ、有機ELよりIGZOが優れているとし、コスト競争力やシャープの技術を強調。「有機ELもIGZOもあるが、競争の土俵が変わるタイミング。技術の将来を考えているが、早く動いたところが勝つ」と言及。会見の最後にも「IGZO(テリー氏は、イグゾーではなくアイジージーオーと発音)が一番」とアピールした。
また今回の投資の利益が出るまでに何年かかるか? との問いには、「個人でも出資しており、心の中では、皆さんより強くそうあってほしいと思っている。私は日本の経験が長いので、2年で利益がだせそうでも、私は4年と答える(笑)。だが、2年か? 4年か? という問いには答えない。私は保守的な人間だが、心のなかで計画を立てておく」とコメント。「シャープは優れた製品を持っており、潜在能力は高い。日本のマーケットでは厳しい状況にあり、シャープは開発投資する資金が乏しいのに、市場でリーダーになっている製品がある。テレビは1位、空気清浄機などの白物家電でも1、2、3位にいる製品が多い。日本人はシャープが好きで、サポートしている。だから我々もサポートする。皆さんシャープ製品を買ってほしい」と述べた。
さらに、政府とメディアへの要望として、消費税の増税をやめるように要請。消費から貯蓄に向かってしまう懸念を表明した。
シャープは独立運営。大阪本社を買い戻す?
また、鴻海は「買収ではなく投資」(テリー・ゴウ会長)とコメントしており、シャープと鴻海を独立して運営していくと説明。シャープ高橋社長は、「我々もそういう気持ちで、自分たちで立っていかないといけないと思っている。今回得た資金は成長投資にあてていく」と強調した。
また、鴻海精密工業の載正呉副総裁は、資金の使いみちについて、「(売却が決まっている)大阪本社を買い戻したい。100年の歴史があるシャープ。皆さん(報道陣)にもサポートしてほしい。買い戻せなければ、隣接地に、シャープと早川徳次の博物館、スマートハウス、エコハウスの展示を作りたい」とコメントした。
シャープの経営について、テリー・ゴウ会長は、「ディスプレイ技術は高いが、スマートフォンはそれほどでもない。ただ、スマートフォンのチームがダメなのではなく、業務の統合ができていない。複数のチームを一緒に管理する役職が必要だろう。組織を見ると適材適所ではないものもある」と言及し、構造改革を示唆した。雇用については可能な限り維持するとした。