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2chから8K向け22.2ch音声に変換。8K映像は市販のPCで再生できる!?

 日本放送協会(NHK)は、東京・世田谷区にあるNHK放送技術研究所を一般公開する「技研公開2016」を5月26日から5月29日まで実施。入場は無料。公開に先立って24日、マスコミ向けの先行公開が行なわれた。ここでは、8Kスーパーハイビジョン(SHV)で採用される22.2ch音声に関する技術や、8K SHVをPCで再生するデモなどもレポートする。

技研公開のエントランス

高品位かつ簡易な22.2マルチチャンネル音響制作を目指す

 8K実用放送では、22.2chのサラウンド音声が採用される。しかし、22.2chの音響を収録したり、制作するには労力がかかるため、より高品位に、なおかつより簡易に制作するための技術も研究されている。

アップミックス・プリプロセッサ。ソフトウェアで変換する

 新たに開発されたのは「アップミックス・プリプロセッサ」。2chまたは5.1chの音素材から22.2chの音素材を生成(アップミックス)するソフトウェアで、既存の音素材を容易に22.2ch音響制作に活用できるという。

 2chからの変換では、2chソースから響きの成分を抽出して、サラウンドに活用。リスナー前面に展開する音像などを、22.2chサラウンドの前方5chスピーカーにメインで振り分けるといった処理を行なっている。

 5.1chも同様に、音像の場所や響きの成分を抽出し、22.2chに割り当てていくが、「2chよりも情報量が多くなるため、22.2ch変換した際に、よりクオリティの高いサラウンドになる」という。

 これとは別に、響きのない音素材に、スタジオ、ホールなどの残響音を付加する装置も開発。実測した3次元の残響音の特徴を保ったまま残響時間を延ばす技術で、空間印象の調整に重要な残響時間の可変範囲を2倍に拡張したという。例えばナレーションやアナウンスなどに、映像と違和感のない響きを付け加えるといった使い方ができる。

アップミックス・プリプロセッサの効果や、残響を付け加える装置が体験できるコーナー

 昨年改定された、国内外の標準規格に準拠した22.2ch音響対応のラウドネスメーターも開発された。人が感じる音の大きさ(ラウドネス値)を測定する事で、番組間で、著しく音の大きさが変化したり、不快な音量にならないようにチェックなどをするためのもの。

 さらに、音の信号から臨場感や広がり感、感動の種類とった、人間が感じる“音の印象”を推定して数値化する「超臨場感メーター」機能を新たに追加。“音の印象”を客観的に評価する方法として研究されているもので、例えば、同じ番組で5.1chのサラウンドと、22.2chサラウンドを作成した際に、著しく空間の印象が違ってしまうといった事態を防ぎ、「どの方式でも、近い印象が得られている」事を、数値で確認しながら制作していける。

 また、例えば22.2chサラウンドを家庭で手軽に楽しむための、バーチャルサラウンド機能付きサウンドバーなどをAV機器メーカーが開発する際に、この評価を用いる事で、製品のクオリティを追求する事も可能になるという。

人間が感じる“音の印象”を推定して数値化する「超臨場感メーター」

8K SHV映像をPCで再生

 8K SHVの技術は、放送だけでなく、例えば手術工程を撮影するといった医療分野での活用も検討。さらに幅広い分野で活用するため、“PCで8K映像を扱うデモ”も行なわれている。

8K SHV映像をPCで再生するでもコーナー

 使われているPCは市販のもので、CPUは「Intelの最上位モデルではなく、それよりも少し下のモデル」を使っており、「総額は100万円程度」だという。ソフトウェアデコーダを使い、7,680×4,320ドットの8K、60fps映像を8Kディスプレイに表示していた。映像のレートは130Mbps程度だという。

 ビデオカードからDisplayPort×4で出力し、それをHDMI×4に変換し、8Kディスプレイに入力している。

用意されたPC
DisplayPort×4で出力

 音声はHDMI×3端子からAACで出力。市販のAVアンプにHDMI入力し、各スピーカーをドライブ。業務向けの高価で特殊な機材を使わず、市販のPCやAVアンプ、スピーカーを用いて、8K/60fps/22.2chが再生できる事をアピールする展示となっている。

背後に設置された市販のAVアンプに、HDMIを用いてAACで22.2ch音声を入力。スピーカーをドライブしている

4Kカメラで手軽に深海撮影

 自然科学番組などでの活用を想定し、開発されたのが「4K小型深海カメラ」。深海探査艇などで利用する4Kカメラは既に存在するが、大型で、撮影の規模が大きくなり、費用もかかる。

 そこで新たに開発されたのが「4K小型深海カメラ」。筒状の筐体は市販のビデオカメラより一回り大きい程度で、安定して深海まで沈めるためのスタンドとポールに固定し、海に沈める。推進1,000mでの撮影が可能で、横のポールには近赤外線の照明装置を配置。

4K小型深海カメラ

 海に沈めた後で、映像のモニタリングはできず、内蔵したバッテリでスタンドアロンで撮影。深海の生物は光を当てると逃げてしまう事が多いが、近赤外線は感知できない生物が多いため、赤外線でライトアップし、撮影。後ほど引き上げて、どのような映像が撮れたかを確認する運用となる。大型システムと比べると複雑な機能は無いが、コストを抑えた4K深海撮影に活用できるという。

横のポールには近赤外線の照明装置を配置

(山崎健太郎)