CEATEC JAPAN 2009【ソニー編】

単眼3Dカメラと240fpsで“自然な3D”。曲がる有機ELも


ソニーブース

会期:10月6日~10月10日

会場:幕張メッセ

入場料:大人1,000円/学生500円
    (事前登録で無料/最終日は無料)

 ソニーブースでは2種類の3D展示が行なわれている。1つは、1日に発表された、毎秒240フレームでの3D撮影を可能にする単眼レンズ3Dカメラを中心とした展示。詳細は本田氏のコラムが詳しいが、簡単に概要を説明しよう。

 従来の3D撮影では、右眼/左眼用の2つのレンズを備えたハーフミラーシステムが使われる事が多い。しかし、人の眼は両眼画像の大きさや回転、上下のズレ、画質といった違いに敏感なため、撮影中にズーム/フォーカス操作を行なう場合、左右の映像の光軸や画像サイズ、フォーカスにズレが生まれないよう、正確な操作と複雑な技術が必要とされていた。

 ソニーが参考展示したのは、単眼レンズでより手軽に3D撮影が行なえるカメラで、シャッターの代わりにミラーを内蔵。リレーレンズにおける平行光領域(物体側焦点位置の点光源から広がる光が平行になる領域)で、入射光を同時に左右の画像に分離し、左右それぞれのCMOSセンサーで記録する。そのため、左右の眼の撮像時刻に差が無く、動きの激しいシーンなどでも自然でなめらかな3D映像が記録できるという。

単眼レンズ3Dカメラ単眼レンズ3Dカメラの内部。ミラーで左右の眼用の画像に分離して録画するソニーの研究の結果、人間の眼が動画観賞時にぼやけやジャーキネスを感じにくくなるのが240フレームだという

 また、記録するCMOSセンサーが毎秒240フレームでの撮影に対応しているのも特徴。ソニーの研究により、人間の眼が動画を見ている際に、“ぼやけ”や“ジャーキネス”(パラパラと見える現象)がわかりにくくなるのが240フレームであり、これを前述の3Dシステムと組み合わせる事で、「立体的に見え、フォーカスやズームしても映像が自然で、動きも滑らか」という3D映像が実現する。ソニーではこれを「HFR Comfort-3D技術」と総称している。

 CEATECでのデモでは、試作カメラで撮影した映像を、240フレーム表示に対応したプロジェクタで、円偏光をかけて左右眼用の映像を同時に投写。パッシブの偏光眼鏡を介して観賞する。一般的にイメージする3D映像からすると立体感が控えめだが、眼が疲れない映像で、飛行機から撮影した砂浜など、高速スクロールする映像でも3D映像がカクつかず、肉眼で景色を見ているような、解像度を維持した滑らかな表示が楽しめる。

 また、海辺のテーブルに置かれたグラスにカメラのフォーカスが合った後、海の彼方の地平線にフォーカスが移動するような映像では、フォーカス移動に合わせて見ている人間の眼の焦点も自然に追従。途中が不自然な映像に見えたり、立体感がおかしくなるような違和感も無い。また、左右の映像のズレが少ないため、偏光眼鏡を外しても“普通の2D映像”のように見えるのも特徴。わずかではあるが、像がズレているため、うっすらとぼけた印象は受けるが、裸眼でも十分に映像内容が確認できる。

パッシブの偏光眼鏡で観賞する写真では伝えられないが、リンゴにフォーカスが合った3D映像から、奥の彫刻にフォーカスが移っても立体感は維持されたまま。3D映像なのに写真撮影した2D画像が“普通の画像”に見えている事にも注目だ
まず浜辺の遠景からテーブル上のグラスへとズーム。その際も立体感やフォーカス感は維持される。そのままフォーカスが地平線に移るが、その流れも非常にスムーズに立体視できる

 もう1つはIFA 2009やディーラーコンベンションなどで展示されたものと同じ、1,920×1,080ドットの52型BRAVIAを使い、フレームシーケンシャル方式で3D表示を行なうデモ。アクティブシャッター眼鏡をかけて観賞する。従来の3D表示と比べ、水平解像度が半分になる弊害がなく、高精細な3D表示が楽しめるのが特徴だ。

 展示機に変更は無いが、CEATECの展示ではデモ用のゲームコンテンツが拡充されたという。会場にはPS3を使った3Dゲームだけでなく、スポーツ/ドキュメンタリーなど、映像の種類ごとに3D表示コーナーが設けられている。

52型液晶での3D表示デモコンテンツごとにデモが用意

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■ 曲がる有機ELディスプレイ

ブース中央のステージは3D一色のソニーブース

 毎年、有機ELの研究開発状況を試作機でアピールしているソニーブースだが、今年は若干趣が異なる。昨年27型や11型が展示された、普通のテレビようのなフラットタイプの有機ELは展示されておらず、代わりに曲げられるフレキシブルタイプの有機ELのみが出展されている。「ソニーブースとして今年は“3D”を一番にアピールしたいため」だという。

 駆動部に使われている有機TFTは、半導体層の素材に有機物(炭素骨格の化合物)を用いた薄膜状のトランジスタで、製造時のプロセス温度が低く、プラスチックなどの薄くて柔らかいフィルム上に直接形成できる。そこに、有機半導体や有機絶縁膜をインク状にして添布・印刷している。

 試作機は2.5型で、解像度は160×120ドット。厚さは0.2mm。2007年に発表されたものより、発色などの画質が向上しており、製造プロセスも改良されたという。会場にはフレキシブル有機ELの採用を前提とした、ウォークマンやノートPCなどのデザインイメージも展示されている。


フレキシブル有機ELデザインモックも展示こちらはウォークマンのモック


■ Transferjet

 近接高速無線転送技術「Transferjet」のコーナーも設けられている。対応機器同士の無線データ転送を手軽に行なう技術で、例えば対応デジタルカメラをリーダの上に乗せるだけで、USBケーブル接続やメモリーカードを抜くことなく、PCに画像データを転送できるようになる。

 ソニーは今回のCEATECで、PC以外の機器や、屋外での利用も提案。1つはデジタルフォトフレームと連携するもので、リーダの上にカメラを乗せると、フォトフレームへ画像が転送/表示される。自宅での使用だけでなく、ホテルなどに導入して「旅の写真をホテルに戻って気軽に確認/観賞できるといった使い方も想定している」という。

 もう1つはCDショップやキヨスクなどでの配置をイメージした店頭端末。コンテンツのイラストが印刷されたCDがディスプレイされ、その下にあるタッチ部に対応携帯電話をかざすと、CDの試聴用音楽ファイルや、映画のトレーラーなどが携帯電話に転送され、取得できるというもの。自分の携帯とイヤフォンで中身をチェックし、気に入ったらCDを購入するといった使い方が可能になる。

 Transferjetの規格は物理フォーマットが策定されており、アプリケーションの策定も近いうちにまとまる予定。ソニーでは「対応製品を2010年の早い段階で市場投入したい」という。

店頭設置用端末の試作機ディスクの下にタッチすると、プロモーション用コンテンツが携帯電話に転送されるTransferjet対応のデジタルフォトフレーム試作機。左の台にカメラを置くだけで画像が転送できる


■ PS3を使ったデジタルサイネージ

 また、PlayStation 3(PS3)と、その周辺機器を使ったデジタルサイネージという、一風変わった展示も行なわれている。3台のPS3と、テレビの上に設置したカメラでユーザーの動きを検出する周辺機器「EyeToy」3台、大型テレビ3台を組み合わせたシステムで、3台のPS3には、専用プログラムと、広告表示用の動画などがインストールされている。

 3台のテレビを横に並べて設置し、その上にEyeToyを配置。テレビに広告を表示するのだが、EyeToyが人の存在を認識すると、3台のテレビの内、“その人が立っている前のテレビ”に動画を移動させる。人が動くと、動画もそれに追従する。

 3台だけでなく、例えば空港などの“動く歩道”の壁面に、大量のテレビを並べ、その前を流れる人を“広告が追いかける”といった事が可能になる。さらに、PS3の演算能力の高さを活かし、ハイビジョンカメラで撮影したその場の風景に、リアルタイムで水の波紋や炎といった映像エフェクトを重ねて表示。道行く人が、自分の体から炎が出ている映像に興味を持って集まったところに、効果的に広告を流すといった使い方も提案された。

3台のPS3、テレビ、EyeToyを使ったデジタルサイネージシステム道行く人から炎が立ちのぼるエフェクトがリアルタイムで重ねて表示される

 映像表示の同期をとるため、PS3同士はLANで接続されている。またPS3には映像入力が無いため、ハイビジョンカメラの映像はPCに取り込まれた後、マルチキャスト配信でLAN経由でPS3に入力されている。実用化はまだ未定の技術参考展示だが、「低価格なPS3とその周辺機器が使える事で、安価でも訴求力のあるサイネージシステムとして提案していきたい」としている。

BDレコーダとウォークマン、PSPを連携させるおでかけ転送機能などもアピールWindows 7をプリインストール。11.1型ワイド液晶を採用した超薄型ノートPC「VAIO Xシリーズ」も参考展示された


(2009年 10月 6日)

[AV Watch編集部 山崎健太郎]