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“GaN”で進化するオーディオアンプ。「クラスDの理想に一番近いデバイス」インフィニオンが解説
2026年6月17日 16:07
インフィニオンは17日、窒化ガリウム(GaN)を使ったクラスDオーディオアンプに関する説明会を開催。広帯域かつ低歪でありつつ、発熱が少なく、ヒートシンクも不要なクラスDアンプを実現できていることなどを解説した。
充電器などで最近よく耳にする次世代パワー半導体GaN(窒化ガリウム)は、高効率・小型化が求められるさまざまな電力変換用途で注目されており、その応用先の一つとして、オーディオ用のクラスDアンプでの採用が今後進むと見られている。
GaNを使ったアンプの話の前に、インフィニオン米国法人で、クラスDオーディオ システムを担当するシニア プリンシパル エンジニアの本田潤氏は、“クラスDアンプの理想と現実”について説明する。
パワー半導体は、電力の流れを強くしたり、弱くする制御を行なうデバイス。従来のアンプでは、必要となるパワーを調整するために、抵抗的な手法を用いていたことから、電力損失が多く、発熱が増えるという問題があった。
そこで生み出されたのが、スイッチング動作によって電力を変化させるクラスD技術。
上の図の左上は、クラスDアンプにおける理想的なパワー半導体の原理を描いたもの。スイッチのON/OFFを非常に高速に、1秒間に何万回、何百万回と行なって電力を調整する。
原理的には、スイッチがOFFの時は電気が流れず損失は無し。ONにすると電流が流れるが、電力損失(スイッチにかかっている電圧と電流の積)はゼロ。電流は流れるが、スイッチ自体の抵抗がゼロで電圧降下がないため、パワーデバイスとして、エネルギー変換によるロスがまったくないというのが理想となる。
それに対して実際のパワーデバイスは、シリコンMOSFETなどを使っているので、スイッチのまわりに浮遊容量コンデンサーがあったり、スイッチ自体の抵抗がゼロではないため、ON/OFFした時に、電圧や電流の立ち上がり・立ち下がりに遅れが生じ、波形としては垂直ではなく“斜め”に鈍ってしまう。これがパワーロスとなってしまっている。
そこで、従来のシリコン素子と比べ、スイッチング周波数が飛躍的に高速なGaNを使うと、ON抵抗を低くでき、理想の波形に近づき、パワーロスを抑えられる。「時間の遅れや電圧の低下もなく、現状いちばん理想に近いと考えている」(本田氏)という。
GaNがシリコン素子と比べ、より高速なスイッチングが可能なのには、動作原理の違いがある。
シリコン素子は半導体の上に電極をつけ、絶縁された層の上にゲートを設置。そこに電圧をかけると、電子が集まり、電流が通る。もともと“OFF状態”のデバイスの、ゲートに電圧をかけると、電子が集まりチャンネルが作られ電流が流れるという仕組みになっている。
それに対して、GaNは、シリコンサブストレートの上にGaNの層を配置。その上に、アルミの層を設けている。
こうすることで、圧電分極という現象が生じ、GaN側に電子が集まり、2次元電子ガス層が発生する(何もしないと常にON状態)。この層に、「P-GaN(P型GaN)」を置くと、ガス層が空乏化(電子のない状態)し、OFF状態になる。ON抵抗が非常に小さいほか、P-GaNをゲートバイアス電圧で操作する構造にすることで、高速にON/OFFができるという特徴もある。
インフィニオンでは、こうしたGaNの特性を活かしたクラスDアンプのソリューションを開発。「IGC090S20S1(3×5mm)」というGaNを搭載した評価ボードも用意している。
シリコン素子を使った従来のクラスDアンプの評価ボードの最大出力は、例えば170W×2@4Ωや、ヒートシンクによる冷却機構も搭載した250W×2@8Ωといったもの。しかしGaNを用いると、ヒートシンク無しで、例えば375W×2@2Ωの「REF_Audio_GaNb_750W」や、600W×2 @4Ωの「REF_Audio_GaNc_1200W」といったスペックも実現。「これだけのパワーを出しつつ、高温でも動作する。シリコンでは不可能な製品が作れる」(本田氏)という。
発熱の低さは圧倒的で、シリコン素子を使った評価ボードで、1分で150度以上になってしまうような加速試験を実施しても、GaNを使ったボードでは82度に抑えられ、ヒートシンク無しでも動作するという。
高効率だけではなく、音質面でもメリットがある。
シリコンMOSFETのスイッチング周波数は400kHzでは、帯域も40kHzまでの増幅となるのに対し、GaN HEMTでは、2.5倍の1MHzでスイッチングし、100kHzまでフラットな特性を実現。
音楽信号のサイン波をPWM変換(パルス幅変調変換)する時にも、シリコンMOSFETでは歪みが発生してしまうが、GaN HEMTではより高速にスイッチングし、パルスの粒度が細かくなるため、歪みを抑え、ほぼ元のサイン波を再現できるという。
また、スイッチング動作もGaNの方がクリーン。理想的な動作としては、ハイサイドとローサイドの境目が綺麗になることだが、シリコン素子では、ONにする際に少し時間がかかってしまう。ハイサイドとローサイドの両方がONになった状態が発生すると、発熱が生じるため、そうならないように、どちらもONにしない“デッドタイム”が設けられる。
必要悪ともいえるデッドタイムにより、出力する波形に歪が発生。さらに、MOSFETでは、構造上どうしてもボディダイオードが形成されてしまう。これがデッドタイム中に電気を流してしまうと、次にスイッチが切り替わるときに逆回復電流というノイズが乗ってしまうという問題もある。
対するGaNは、スイッチが瞬間的に切り替わるため、ローサイドとハイサイドの隙間がほとんど無く、デッドタイムも短い。さらに、構造的にボディダイオードが存在しないため、ハイサイドのスイッチをONにした時にもノイズが乗らないという利点がある。
本田氏は、これらの利点を踏まえ、インフィニオンが手掛けるCoolGaNが、新素材、新しい動作原理による一番理想に近いパワーデバイスであること、広帯域、低歪率、小型化が同時に実現できるとアピールした。
さらに、家庭用のオーディオ機器だけでなく、車載用アンプを想定し、過酷な環境でも動作する信頼性の高いGaNデバイスも用意していることを訴求。
「GaN、SiCの包括的WBG(ワイドバンドギャップ)半導体の専門知識があり、GaN、SiCの持ち味を活かしたシステムの最適化や、自動車用グレードの信頼性のある製品も手掛けている。また、アプリケーションのサポートも充実しており、リファレンスデザインやSPICEシミュレーションモデルなども用意しており、開発者の皆さんに対して、シリコン素子からGaNの移行がしやすくなるようにしている」と話した。
製造インフラと生産規模にも強みがあり、シリコンウェハ上にGaNを成長させて量産する技術において、200mmを量産中であるほか、世界で初めて300mmの量産技術も確立しているという。
本田氏は、CoolGaNとは違う用途に向けたアンプの技術として、MOSFETにおいて、シリコンではなく、シリコンカーバイドを使った「SiC MOSFET」をインフィニオンが手掛けていることを説明。
シリコンカーバイドは高い電圧を、短い距離で耐えられる特性があり、それを活かしてゲートを短くできる特徴がある。さらに、ボディダイオードの性能を向上でき、PNでも電界強度が高く、逆回復電流が非常に少ないMOSFETを実現できる。これにより、高い電圧で、大きな出力をした時も、ノイズが少ないアンプを作ることが可能。
これにより、ビルのPAや、カンファレンスシステムなど、ハイインピーダンスシステム用として従来は専用のアンプが必要だった分野に、シリコンカーバイドのMOSFETを使うことで、ハイインピーダンスとローインピーダンスの両方を、1つのクラスDアンプでまかなえる製品が作れるという。
GaNを使ったアンプの音を試聴する
説明会では、従来のシリコン素子を使ったアンプと、GaNを使ったアンプの比較試聴も実施された。
違いは非常に大きく、音が出てすぐに「まったく違う」とわかるほど。
シリコン素子を使ったアンプで音楽を聴いたあとで、GaNのアンプに切り替えると、楽器などの音像が非常にシャープになり、余分な響きが無くなり、細かな音まで聴き取りやすくなる。
例えば、ピアノの音は、従来のアンプでは「ピアノの音」として1つのカタマリに聴こえるが、GaNアンプでは、鋭く打鍵した直接的な音と、ピアノの中で反響した響きの違いなど、“ピアノの音がどんな音で構成されているのか”が細かく聴き分けられる。
SN感やトランジェントもGaNアンプの方が優れており、静かな空間がより静かで、その音が無い空間から、ズバッと鋭く音が出て、スッと消える時も素早く音が消える。この特徴は、ボリュームを上げて大音量で再生しても変わらず、音の迫力と素早さが両立できていた。
このように、音質の面でも魅力的なGaNアンプだが、コスト面でも競争力を高めつつある。
GaNのデバイスコストは近年大きく低下しているほか、製品を開発する時も、電源が小型化できたり、発熱が少ないのでヒートシンクが不要になるといったコストメリットがあるため、「従来のアンプと比較し、何倍も高価になるといったことは無い」という。





















