スペック、第1弾のデジタルアンプ「RAS-F1」を9月発売

-予価123万円。「管球アンプの音色と半導体の駆動力」


RAS-F1

9月中旬発売

予定価格:123万9,000円

 スペックは、同社初のオーディオ用プリメインアンプ「RAS-F1」を9月中旬に発売する。予定価格は123万9,000円。

正面。セレクターとボリューム、電源スイッチというシンプルなデザイン
 2010年1月に設立されたスペックは、第1弾製品として、スピーカーからの逆起電力を吸収する事で、音質を高めるというオーディオ用周辺機器「RSP-101」を3月より発売。今回の「RAS-F1」はそれに続く製品で、初のアンプとなる。

 真空管アンプの“自然で美しい音色”と、半導体アンプの“駆動力”の両立をテーマにしたモデルで、PWM方式のデジタルアンプとなっている。

 米IR社の高精度なPWMスイッチングデバイスを採用。パワー段に新開発のパワーMOS FETを採用することで、ノイズの少ない理想的なスイッチングを実現しているという。また、ドライバー段には高耐圧で時間軸制御に優れたドライバーICを採用。パワー段のMOS FETの特徴を最大限に引き出し、デジタルアンプの高域に見られるノイズ感も大幅に改善。中低域のドライブ能力も高く、良好なダンピング特性を実現しているという。


ボリュームの周囲のイルミネーションは輝度が背面パネルから調節できる航空機のスイッチのような電源スイッチはロック機能付。一度手前に引っ張ってから上げ下げする手触りの良いセレクタ

 仕様は予定のものだが、最大出力は60W×2ch(8Ω)、120W×2ch(4Ω)。なお、RAS-F1では、電源の利用効率が最大出力時で96%と高能率であるため、電源供給能力や電源の質が音質に直結するという。そのため、電源供給能力の高い電源部を採用している。

 具体的には、最小パーツによるアナログ電源、コンデンサーインプット型のブリッジ整流による±電源を採用。トランスには大容量のRコアトランスを使用。整流器には業務用電力変換器などに使われるウルトラファースト・ソフトリカバリー・ダイオードを使っており、音質に悪影響を与えるダイオードの整流ノイズを最小限に抑えているという。

 電源部のコンデンサには、国内ケミコンメーカーと共同開発したオーディオ専用電解コンデンサを採用。中高域のESR(等価直流抵抗)の改善を目指し、高耐圧の信号用として最高品質のコンデンサを並列に接続している。

 最終段のローパスフィルタはトロイダルコイルとコンデンサで構成され、音質を大きく左右する部分であるため、採用コンデンサを試聴を繰り返して決定。米国の航空宇宙産業を支える部品メーカーにカスタムで製造を依頼したもので、MIL規格やRoHS対応の特注パーツをふんだんに使っているという。

 筐体はアルミ製だが、その下部にスプルース材を使ったベース板を配置。さらに、ベース板とアルミ筐体の両方を支える形でカエデ材を使ったインシュレータを3点支持で配置している。

アルミ筐体の下部にスプルース材のベース板を配置しているカエデ材を使ったインシュレータ部カエデ材のインシュレータは3点支持

 スプルース材は適度な減衰性と美しい響きを持ち、ヴァイオリンやチェロ、ギターなどにも使われる木材で、剛性の高い鋼板シャーシと複合させる事で、「聴き心地の良い豊かな音楽性を再現する」(スペック)という。カエデ材のインシュレータはスプルース材の振動を適度に抑制する効果があり、自然な音の伸びを支えるという。

ベース板も様々な木材をテストし、最良のものを選択したという。写真は試作機の1つ天板とフロントには「DESIGNER AUDIO」のマーク。エンジニア達が外観的なデザインだけでなく、音質や製品自体を作り上げた事を示すマークだという

 入力はバランスを1系統、アンバランスを3系統装備。スピーカーターミナルは1系統。周波数特性は10Hz~20kHz±1dB(6W 1Ω)。高調波歪率は0.02%(1kHz/80%負荷)。外形寸法は450×422×130mm(幅×奥行き×高さ)。重量は22kg。


■ 高解像度かつ、芳醇なサウンド

 同社の試聴スペースで実際に音を体験する機会に恵まれたので、特徴を簡単に紹介したい。まず、Jazzヴォーカルをかけると、高域のハイスピードなトランジェントの良さや、広大かつ精密な音場の表現、ヴォーカルやギター、ピアノなど、個々の音像の分離の良さなど、デジタルアンプならではの良さが挙げられる。

 興味深いのは、そのままの傾向が中低域にまで及ばず、中域は肉厚で音圧が高く、アコースティックベースの豊かな量感が胸に迫ってくる事だ。「管球アンプの美しい響きを目指した」というコンセプト通り、音楽の“美味しい部分”を、ドラマチックに聴かせてくれる。同時に、低域は芯の通った解像感の高い音で、大口径ユニットをしっかりと駆動している事がわかる。「展覧会の絵」の「バーバ・ヤーガの小屋」のようなスケールの大きなオーケストラも余裕を持ってドライブしており、電源部のクオリティの高さもうかがえる。

 ハイスピードで高解像度な現代的サウンドをベースとしながら、たっぷりとした響きを含んだ中域も聴かせる、相反する要素が両立したモデルで、この“音作りの上手さ”が最大の魅力と言えそうだ。なお、音質はさらにブラッシュアップされる予定。今後は、同モデルに導入された技術を用いた、より購入しやすい下位モデルや、さらなるハイエンドモデルなども検討しているという。



(2010年 7月 7日)

[AV Watch編集部 山崎健太郎]