クリプトン、24bit/192kHzのサラウンド音楽配信開始

-「Fireface UC」等活用。沢口真生が手掛けた3作品


「サラウンド寺子屋塾」を主宰する沢口真生氏

 クリプトンは、展開している高音質音楽配信サイト「HQM STORE」において、24bit/192kHzなど、高音質なサラウンド音源の配信を4月28日より開始した。

 コンテンツは、NHKのミキシングエンジニアとして数多くのサラウンドミキシングを開発し、現在は「サラウンド寺子屋塾」を主宰する沢口真生氏が立ち上げた2つのレーベル「UNAMAS Jazz」と「UNAMAS hug」から、3つのアルバムを配信。今後も順次拡充していくという。

 配信楽曲とフォーマット、価格は下表の通り。


アルバム名フォーマット
96kHz/24bit
FLAC ステレオ
192kHz/24bit
FLAC ステレオ
96kHz/24bit
FLAC サラウンド
192kHz/24bit
FLAC サラウンド
Forest
(UNAHQ-1004)
3,150円3,465円3,465円6,300円
熊野幻想
(UNAHQ-4001)
3,465円
山河幻想
(UNAHQ-4002)
3,465円



■ハイビット/ハイサンプリングのサラウンド配信

クリプトンの濱田正久社長。3月に配信を開始した「HQM GREEN」シリーズが好調なこともあり、HQM全体のダウンロード数は約3倍にアップしているという
 配信フォーマットには音質を考慮し、可逆圧縮のFLACを採用。しかし、ハイビット/ハイサンプリングのマルチチャンネルはデータ量が膨大になる。そこでUNAMASでは実験を繰り返し、「自然音やアコースティック楽器の再生ではセンターとLFEチャンネルは必要無い」と判断。4chのサラウンドで配信する事で、データ量を削減している。ただし、互換性を考慮し、配信形式としては5.1chとしており、センターとLFEはダミーデータとなっている。

 再生には、ハイビット/ハイサンプリングのマルチチャンネル音声に対応したソフトやDACが必要になる。クリプトンによれば、WindowsではuLilith、VLC、foobar2000、MacではPlayとVLCで再生確認を行なっているという。DACは、USB接続のRME「Fireface UC」などの利用を想定。DACからアナログ4chを出力し、AVアンプなどのアナログマルチチャンネル入力に接続。そこからフロント/リアスピーカー4個をドライブする形になる。

 なお、RME製品を取り扱うシンタックスジャパンのページでは、この配信開始に合わせ、Fireface UCなどの接続ガイドを同社ページで掲載している。

 ほかにも、DACとクリプトンの「KS-1HQM」のような、2chのアクティブスピーカー2基を接続して、コンパクトながら高音質なサラウンドを組むといった事も想定。なお、HDMI出力を搭載したPCによっては、ハイビット/ハイサンプリングのデータをHDMI経由でAVアンプに伝送し、再生する事も可能であり、クリプトンでは動作が確認できたソフトとハードの組合せの情報などを紹介する事も検討している。



■配信するサラウンドコンテンツ

 UNAMAS Jazzレーベルから配信される「ユキ アリマサ/Forest」(UNAHQ-1004)は、24bit/192kHzのサラウンドで配信。ステレオや24bit/96kHzサラウンドのデータも用意されている。

 バークリー音楽大学在学中に、ハンクジョーンズ賞、デュークエリントン作曲賞を受賞したジャズピアニスト・ユキ アリマサ氏が、永年あたためてきたというオリジナル曲を中心に構成したソロピアノアルバム。クリプトンによれば、「JAZZを24bit/192kHzのサラウンドで録音し、オンライン配信するのは恐らく世界で初めて」という。8曲を収録し、合計収録時間は約47分。

「ユキ アリマサ/Forest」のジャケット収録の様子

 UNAMAS hugレーベルからは2作品が登場。どちらも24bit/96kHzの4chサラウンドのみで、ステレオのデータは用意されていない。沢口氏が長年取り組んできた音楽と自然音のコラボレーション“サランドスケープ”をテーマにした作品となっている。

 「熊野幻想」(UNAHQ-4001)は、熊野で収録した自然音と、ピアニスト・村上史郎氏が手がけるピアノ楽曲を一体化させたもの。自然音は熊野に奈良側大峰山から入り、天川渓谷沿いに東へ下り十津川、玉置山、上北村、そして山深い不動七重の滝など、移動しながら録音。アカショービンの山々にこだまする歌声や、杉林を吹き上げてくる山風、カジカ蛙のコロコロとした響きなど、様々な自然音が優しいピアノの音色と共に楽しめる。

「熊野幻想」のジャケット収録の様子

 「山河幻想」(UNAHQ-4002)は、パワースポットとしても注目されている長野県伊那市の分杭峠、戸隠、そして、太平洋につらなる銚子海岸屏風岩などで自然音を収録。冬の山鳴りや、澄み切った深夜のせせらぎ音、熊笹がなびく風、早朝の鳥たちの大合唱、銚子屏風岩の波音などと、村上氏のピアノが組み合わさる。

 どちらのアルバムも収録曲は3曲だが、1曲が20分程度と長いのが特徴で、3曲トータルで約60分となる。また「HQM STORE」ではこれらを3分程度にまとめたデモデータもサラウンドで用意している。

「山河幻想」のジャケット収録の様子


■実際に聴いてみる

 発表会では、「Fireface UC」とヤマハのAVアンプをアナログ接続し、フロントにクリプトンのフロア型スピーカー「KX-1000P」を、リアにブックシェルフ「KX-3P」を使ったサラウンド環境で、再生デモが行なわれた。

PCとUSB接続したFireface UCフロントはフロア型スピーカーの「KX-1000P」リアはブックシェルフ「KX-3P」

 24bit/192kHzの「ユキ アリマサ/Forest」は、情感豊かで繊細なピアノのタッチや、かすかな音のニュアンスまで収録された情報量の多さが特徴。距離を置いたスピーカーで再生しているにも関わらず、情報量の多さがヘッドフォンで聴いているようにダイレクトに、生々しく聴き取れるのが実感できる。ホールトーンの広がりも映画などのサラウンドと比べ、極めて自然だ。

 「熊野幻想」では、頭上を移動しながら鳴く、野鳥の声の明瞭な音像や、風に揺すられたサワサワという森の葉音が、どこまでも広がる奥行き感に圧倒される。また、実際に森の中にピアノを置いて演奏しているような、自然音と楽器の融合感とバランスの良さにも感心させられる。

 また、「山河幻想」の川のせせらぎの音をサラウンドで聴くと、肩まで水につかっているような没入感が味わえ、4ch再生ながら、音場の高さも気持よく伸びている。まるで本当に川に入り、森の木々を見上げているような気分になる楽曲だ。

 BDソフトなどでもこうした環境音や、ヒーリング効果のある映像+サラウンドコンテンツは存在する。「UNAMAS hug」は映像の力を借りないことで、高音質なサラウンドが持つ空間描写力をダイレクトに楽しめ、実際に森や、川のそばで目を閉じたような気分が味わえる。また、自然音と音楽が、どちらも主張し過ぎない絶妙のバランスになっており、自然音だけでない楽しさと、音楽だけでない開放感が両立。独自の魅力を生んでいるようだ。



■「音楽50%、自然音50%のバランスを重視」

 沢口氏は、デジタル技術の進化やPCの能力が向上し、ハイビット/ハイサンプリングなデータを扱えるようになった事、それをネット配信できるインフラが整った事を挙げ、高音質なサラウンドをユーザーに届けられる環境が整いつつある事を説明。しかし、高音質なコンテンツが不足している現状もあり、「我々のように、フットワークが軽い小さなブティック・レーベルこそが先鞭をつけなければならないと考えた」という。

 また、高音質なサラウンドを手軽に作成できるようになった事から、「サラウンドで表現したい」と考える若手のアーティストなども多く存在するという。沢口氏は「国内外を問わず、そうした人達が作品を発表する場にもなればと考え、レーベルを立ち上げた」と説明した。

 音楽と自然音がコラボした“サラウンドスケープ”を体現する「UNAMAS hugレーベル」については、「私は“音浴”と呼んでいるが、音に浸かっているような、リラックス効果が得られる。音楽と自然音のバランスが重要で、アーティストは音楽で100%表現したいという人がほとんどだが、私は音楽50%、自然音50%のバランスを重視している。そのため、音楽の作曲では“50%の中での100%”を目指してもらわなければならない。今回、それを理解してくれる若手ピアニストの村上さんと作品を作ることができた」と、こだわりのポイントを語った。

 なお、UNAMAS hugレーベルの楽曲が1曲20分程度と長いのは「聴いていると坐禅を組んでいるような感覚になる。例えば10分では短かすぎ、20分あると十分な効果が得られるから」だという。



(2011年 4月 28日)

[AV Watch編集部 山崎健太郎]