TAD、新Evolutionシリーズのスピーカー「E1」

-CST採用で1本105万円。ハイレゾ音源対応


中央が「Evolution one TAD-E1-WN」

 テクニカル オーディオ デバイセズ ラボラトリーズ(TAD)は、新しい「Evolutionシリーズ」のスピーカーとして、スリムなフロア型スピーカー「Evolution one TAD-E1-WN」を11月中旬に発売する。価格は1本105万円。

 Referenceシリーズのスピーカー「TAD-R1」(1本315万円)や「TAD-CR1」(1本194万2,500円)にも採用されている同軸スピーカーユニット「CST」を採用しながら、価格を抑えているのが特徴。CSTはツイータとミッドレンジの同軸で、それにダブルウーファを加えた3ウェイシステムとなる。サイズはツイータが3.5cm径、ミッドレンジが14cm径、ウーファが18cm径×2。

 CSTユニットは、250Hz~100kHzという幅広い帯域を担当しているのが特徴で、設計思想や担当帯域はReferenceシリーズのスピーカーと同じ。ただし、採用されている素材が異なる。


E1のCSTユニットR1のCSTユニットR1とのサイズ比較

 ツイータの振動板には、Referenceシリーズでも使われているベリリウム振動板を採用。独自に開発した蒸着法を用いて内部損失を大きくする事で、優れた高域共振の減衰特性を実現。素材固有の音が乗りにくいのも特徴。ただし、ベリリウム振動板を使っただけでは100kHzの高域再生はできないため、ドームとコーンを組み合わせたような独特の形状設計を、コンピュータ解析による独自の最適化手法「HSDOM(Harmonized Synthetic Diaphragm Optimum Method)」で実現。分割振動とピストンモーションをバランス良く組み合わせることで、100kHzまでの再生を可能にしたという。

 また、ツイータの指向性を積極的にミッドレンジのコーンを使って制御するのも特徴で、ユニットと正対した位置を外れた場所から聴いても、スムーズに減衰するような高域特性になっているという。

 ミッドレンジにはマグネシウム振動板を採用。素材固有の共振音の影響を排除し、歪の少ない音を再生するという。なお、Referenceシリーズでは、ミッドレンジの振動板もベリリウムを使っている。また、磁気回路は内磁型で、スチールのブロックから削り出した流線型ヨークを採用。磁気回路内の磁気の流れを最適化するとともに、振動板裏側のエアフローも十分に確保する事で、不要反射を防いでいる。

CSTユニットの概要CSTユニットの構成パーツ

 18cm径ウーファの振動板はアラミドの、織布と不織布を5層にラミネートした新開発の振動板を採用。センターキャップとコーンを一体化したシエル形状とする事で、豊かでクリアかつ、色付けのない中低域を再生できるという。

 マグネットは大型のネオジウムを採用。65mmの大口径ボイスコイル、大型のネオジウムマグネットを使っているが、振動板背面の抵抗を小さくするため、コンパクトな磁気回路を構成。ノイズの要因となる空気流の乱流を抑え、S/Nの良い低域再生を実現するという。また、リニアリティーを向上させるため、TADユニット開発で得られたノウハウを使い、最適化されたTポール型磁気回路やサスペンションの改良などを行なっている。

 システム全体の再生周波数帯域は28Hz~100kHzで、クロスオーバー周波数は250Hzと2kHz。出力音圧レベルは88dB。インピーダンスは4Ω。適合アンプ出力は50W~250W。

 エンクロージャはバスレフで、正面下部にポートを搭載。フレア形状のエアロダイナミックポートとなっている。

18cm径ウーファを2基搭載しているバスレフポートは前面に

 筐体デザインはReferenceシリーズに通じる流線的なフォルムを採用。音の回折を低減し、不要共振と内部定在波を抑えている。素材は厚さ18mmのバーチ(樺)合板を骨組みに使い、そこにMDF材を組み合わせている。仕上げはエボニー柄の突板塗装仕上げ。天然木仕様は、生地を活かした着色を行ない、クロースどポアのサテン調塗装仕上げで、「落ち着いた外観と木のぬくもりの感じられるデザイン」としている。

 ネットワークはベース部に格納し、10mm厚のアルミベースプレートにマウント。ユニットの磁気回路や音圧などの影響を受けないという。ネットワークのフィルタは、CST用には厳選されたPPフィルムコンデンサ、エポキシ封入無誘導抵抗、空芯コイル、アルミケース大容量無誘導巻線抵抗などを使用。ウーファには磁気特性に優れる低損失コアを用いたコイルなどを使用している。

背面下部にあるスピーカーターミナル

 ターミナルはバイワイヤ接続対応で、CST用の入力とウーファ用入力を独立して用意。端子は真鍮削り出しの大型端子で、10mmのアルミプレートにマウント。極太のケーブルも容易に接続できるとしている。

 外形寸法は334×512×1,162mm(幅×奥行き×高さ)で、重量は54kg。スパイクコーンや転倒防止スパイク、スパイク受けに加え、シングルワイヤ用のショートケーブルのロングタイプ、ショートタイプも付属する。




■音を聴いてみる

試聴の様子

 発表会において、短時間ではあるが試聴できたので印象をレポートする。再生環境は、パワーアンプがM4300、プレーヤーがD600、プリが「C2000」。ハイレゾ音源の再生はPCを使い、C2000内蔵DACでアナログ変換している。

 女性ヴォーカルの声の自然さ、中高域の繋がりの良さ、そして高域の伸びやかさにCSTドライバの利点が良く出ている。この印象はReferenceシリーズに通じるものだ。ベリリウム振動板を使った高域は極めてハイスピードで描写が細かい。ハイハットの音色に注目すると、付帯音や素材のキャラクターは感じさせず、どこまでもクリアな高域が突き抜ける印象だ。ハイレゾ音源を再生すると、高域の精密さがより浮き彫りになると同時に、しなやかさが加わり、良い意味で“ほぐれた”、聴きやすい描写になる。

 このハイスピードな中高域に、18cm径ウーファ2基による低域が見事に追従しており、全体的にレスポンスの良い、重厚ながらも軽快な面もあるサウンドに仕上がっている。圧倒的な低域の量感、スケール感など、Reference Oneにかなわない部分もあるが、E1はE1ならではの良さがあると感じられる。




■ハイレゾ音源への対応

ラインナップのカテゴリ紹介
平野至洋社長

 平野至洋社長は、同社製品ラインナップを整理。既に発売されているハイエンドスピーカー「R1」、「CR1」と、パワーアンプの「M600」、プレーヤーの「D600」がReferenceシリーズと位置付けられる一方で、今回の新スピーカー「E1」がEvolutionという新しいシリーズのモデルとなり、既発売のDAC内蔵プリアンプ「C2000」、パワーアンプの「M4300」、「M2500」も、同じEvolutionシリーズにカテゴライズされるという。

 それぞれの違いについて、平野社長は「Referenceシリーズは物量を投入し、妥協を配したシリーズ。Evolutionは、ハイレゾリューションな配信音楽への対応など、新しい技術に対応し、革新的な技術も取り入れた商品郡」と説明。

 また、価格やサイズについても「R1などの音質への高い評価は頂いているが、大きさや重さの面で、家に置けない、価格的にも買えないという声もある。Evolutionシリーズは、より多くの方にTADサウンドで音楽の感動を届けたいというコンセプトで開発しており、マンションのリビングルームに置けるサイズ、価格も安くはないが、サラリーマンがどうにか頑張れば購入できる価格を目指した。しかし、この価格帯のスピーカーにも革新的な技術を投入し、今後普及するハイレゾリューション音源にも対応していく」と語った。

 E1の販売台数は「初年度で400本程度を見込んでいる」とのこと。また、同社製品の今後の販売計画として「現在の比率はだいたい国内が6、海外が4の割合だが、海外での展開を積極的に行ない、国内2、海外8程度に増やしていきたい」と説明。地域としては欧米に加え、中国やアジア、中近東への展開も検討しているという。



(2011年 9月 28日)

[AV Watch編集部 山崎健太郎]