シャープ、IGZO液晶を亀山第2で量産開始。32型4Kなど

-TV、タブレット、Ultrabookに。「絶対的な競争力」


液晶モニター向けの32型/3,840×2,160ドット液晶パネル

 シャープは、世界初の酸化物半導体「IGZO」を採用した液晶パネルの生産を、2012年3月から亀山第2工場で開始したことを明らかにするとともに、4月から本格的な量産を開始すると発表。32型4K、10型WQXGA、タブレット用の1,280×800ドットパネルを披露した。

 2012年度下期には、亀山第2工場で生産される中小型液晶パネルのうち、7~8割をIGZO液晶パネルの生産に当てる計画で、「まずは高精細を求める顧客に対してIGZOを優先的に展開するが、将来的にはその多くがIGZOに移ると考えている。今後、シートレス化が進展すればますます高密度が求められるだろう。最終的にはアモルファスシリコンにとって代わるということも考えられる」などとした。


IGZOはシャープの亀山第2工場で生産される

 亀山第2工場は、2006年から第8世代の液晶パネルを生産してきた経緯があり、2011年4月にIGZO液晶パネルの実用化に成功したのを機に、この設備をIGZOの生産に流用することを決定。生産ラインの転換に着手してきた。同社では、「生産設備のすべてを、一から作るのではないという点でもコスト競争力がある」としている。

 第10世代の生産ラインを持つ堺工場でのIGZOの生産については、「検討をしているが未定」とした。

 同社では、タブレット端末向けにIGZO液晶パネルを供給する姿勢を示していたが、Ultrabookをはじめとする高精細ノートPCのほか、家庭用テレビやデジタルサイネージといった液晶モニター向けにもIGZO液晶パネルを供給していく考えを示した。

 今回、サンプルとして3種類のパネルを公開。液晶モニター向けの32型液晶パネル(3,840×2,160ドット、画素密度140ppi)、高精細ノートPC向けの10型(2,560×1,600ドット、画素密度300ppi)、タブレット端末向けの7型(1,280×800ドット、画素密度217ppi)を用意した。


液晶モニター向けの32型液晶パネル。画素数は3,840×2,160ドットのQFHD会見でIGZO液晶パネルの量産化を発表するシャープ 執行役員ディスプレイデバイス事業本部・方志教和事業本部長高精細ノートPC向けの10型液晶パネル(右)。画素数は2,560×1,600のWQXGAとなっている
Ultrabookの今後の市場拡大がIGZO液晶パネルの需要拡大につながると見込むタブレット端末向けの7型IGZO液晶パネル(右)。画素数は1,280×800ドットタブレット端末市場も高精細モデルの需要が高くなると予想

 また、昨年、IGZOの開発を表明した際に参考展示したタブレット端末向けの11型液晶パネル(画素数1,366×800、画素密度147ppi)も展示した。

昨年発表済みのタブレット端末向けの11型液晶パネル(下)。上の画面に表示されているのは、指によるタッチの反応度を示したもの。全体のノイズが少ないので、的確に反応する。力が弱い小指でも確実に反応しているのがわかる

■ IGZOに「絶対的な競争力」。外販比率が高くなる

シャープ 執行役員ディスプレイデバイス事業本部 方志教和事業本部長

 シャープ 執行役員ディスプレイデバイス事業本部・方志教和事業本部長は、「すでにタブレット端末向けには量産出荷を開始している。ノートPC向けおよび液晶モニター向けは、サンプル出荷の段階。今月中にはサンプル出荷したパネルを使った試作品が、多くの人の目に触れる可能性がある。IGZOは、外販比率が圧倒的に高くなると想定しているが、今年度中には、シャープ製のタブレット端末および液晶モニターに、IGZO液晶パネルを採用して製品化することになる」などとした。

 今回、公開したタブレット端末向けのサンプル品は、量産モデルとは仕様が異なっており、タブレット端末の外販先については、「個別の顧客に関する情報であり公表できない」として明言を避けた。

 また、「鴻海(ホンハイ)グループとの戦略的提携は、シナジー効果がでる部分については検討を進めていくことになるが、IGZO液晶パネルについては、まだ具体的な話し合いの段階には入っていない」とした。

 さらに、32型以上の液晶テレビへの採用については、「技術的には可能」としながらも、「家庭向け大画面テレビの視聴距離を考えると、IGZOが持つ高精細性や、タッチパネルの高性能化といった特徴が生かしにくいともいえる。タッチ操作が使われるデジタルサイネージでの利用や、デスク型のディスプレイ装置、CADなどの細かい映像表示が求められる分野での応用は見込めるだろう」などとした。

電子移動度では、アモルファスシリコンの20~50倍に達する

 IGZO液晶パネルは、シャープが、2002年から開発に着手。インジウム(In)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)から構成される酸化物半導体「IGZO」を採用することで、従来のアモルファスシリコンを利用した液晶パネルに比べて、薄膜トランジスタの小型化を図ることができるのが大きな特徴。これにより、1画素あたりの透過量を高めることができるほか、新規駆動法により、データの書き換え回数が減少できることから低消費電力化を実現。さらに同社独自のUV2A技術で培った光配向技術の活用により、高品位表示を実現するという。

 固体物質中での電子の移動のしやすさを量で示す「電子移動度」では、アモルファスシリコンに比べて20~50倍となっており、これにより高機能な薄膜トランジスタが形成できるという。

 「携帯電話やスマートフォンなどに搭載されているCGシリコンを採用した液晶パネルでは、アモルファスシリコンの100倍以上の電子移動度があるが、IGZOが持つ20~50倍の電子移動度でも、ノートPCや液晶モニターの領域では、CGシリコン並に高機能化した薄膜トランジスタを形成できる」とした。

 また、方志執行役員は、「高精細化、低消費電力化、タッチパネルの高性能化がIGZO液晶の大きな特徴」とし、「アモルファスシリコンよりも、オン電流が約20倍と高いため、駆動能力が高く、高性能トランジスタを形成しやすいほか、オフリークが低いことから液晶の画素の高機能化を図れる」とした。

 方志執行役員によると、IGZO液晶パネルでは、薄膜トランジスタの小型化や配線の細線化により、同等の透過率で2倍の高精細化が可能になるほか、アモルファスシリコンの液晶パネルでは、60分の1秒から30分の1秒ごとにデータを書き換える必要があったのに対して、IGZO液晶パネルでは、新規駆動法(休止駆動)により、データの書き込みの必要がない限り、5分の1秒~2分の1秒の書き込みに低減。これにより消費電力は5分の1から10分の1程度になるという。

IGZO液晶パネルの3つの特徴IGZOは同等の透過率で2倍の高精細を実現する新規駆動法の採用が低消費電力に寄与している
IGZO液晶と現行品との消費電力比較。右側がIGZO液晶の消費電力量。同じ映像を表示してもこれだけの差が出るほど低消費電力化が進んでいる
タッチパネルの高性能化も大きな特徴

 「最終商品にした場合には、顧客によって、明るさを優先したり、バッテリー駆動時間を優先したりといったそれぞれの傾向があるので、最終製品でも消費電力は半分程度に引き下げられている」などとした。

 また、「薄膜トランジスタの休止活動を活用することで、タッチパネル操作時に検出精度を高めることが可能になる。力がない小指でのタッチや、ボールペンや軍手を利用した操作にも適している」という。

 しかし、IGZOの量産化は、当初の計画よりも大幅に遅れていた。

 その理由として方志執行役員は、「第8世代の生産設備を活用して、安定した量産品質を確保できなかったこと、顧客の仕様にあわせた作り込みの部分で時間がかかったこと」をあげた。


IGZO液晶パネルはクラウドの窓になると位置づけられる

 「安定した品質を確保できるようになったのは、材料とプロセスの改良が鍵。歩留まりには苦労したが、この半年で大きく改善した。むしろ、アモルファスシリコンの方が、光の透過率を確保することが求められるため加工が難しい。その点では今後の微細化ではIGZOの方が優位性があるデバイスとなる」などとした。

 さらに、中小型液晶パネルにおいては、今後、ジャパンディスプレイとの競合も見込まれるが、「需給バランスにおいては厳しいものがあるものの、高精細なパネルだけをみれば需要が逼迫している状況にある。コストはアモルファスシリコンに比べて多少は上がるが、付加価値がそれを吸収する。IGZOの絶対的な競争力によって、優位性を発揮したい」などとしたほか、「IGZO液晶はホーム、モバイル、ビジネスのあらゆる領域のデバイスに活用され、いわばクラウドの窓になる」と説明した。


(2012年 4月 13日)

[ Reported by  大河原 克行]