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KDDIとJ:COM、4K/8K/HD映像をCATVで同時伝送する技術
HEVCより高圧縮、帯域は半分。「SHVは衛星だけではない」
(2013/2/6 18:27)
KDDIとJ:COMは6日、映像の高圧縮技術により、フルHD(1,920×1,080ドット)と4K(3,840×2,160ドット)、8K(7,680×4,320ドット)の映像を同時に伝送する実験に成功したと発表した。従来の方式に比べて約1/2となるCATV 4チャンネル分の帯域で同時配信できる、世界初の技術としている。
8K映像の高圧縮技術と、フルHD/4K/8K映像をまとめて高圧縮する技術という2種類の映像圧縮技術をKDDI研究所が開発。J:COMが持つ既存のCATV網を使って配信する実験に成功。既存のMPEG-4 AVC/H.264圧縮を使った場合はフルHDでCATVの1チャンネル分(38.88Mbps/256QAM時)、4Kで2チャンネル分、8Kでは5チャンネル分、合計8チャンネル分の帯域が必要とされる中、新技術では約1/2となる4チャンネル分の帯域でHD/4K/8Kを同時伝送できたことから、これを世界初としている。
CATVで現在使用していない帯域を使って伝送できるため、実用化した際にも既存のCATVサービス(放送/電話/インターネット)や緊急放送などに影響することなく利用可能としているが、実用化の時期は未定。当初はパブリックビューイングなどのBtoB用途をメインに市場開拓を図り、その後でコンシューマ向けのCATVサービスにも活用していく見込み。
独自方式でHEVCよりも高圧縮化
8K/スーパーハイビジョン(SHV)映像は、解像度がフルHDの16倍となる7,680×4,320ドットで、これまでも、NHKのロンドン五輪のSHVによるパブリックビューイングや、スカパーJSATによる4KのJリーグ中継などで利用されている。
KDDIが開発した「8K映像の高圧縮技術」は、MPEG-4 AVC/H.264や、HEVC(High Effiiciency Video Coding)/H.265とは異なる独自の形式。ブロック状に区切って圧縮する際に、従来よりも大きめのブロックサイズにしても、問題無く圧縮できる(類似度が高い)という特徴を活かして、H.264に比べ半分以下に圧縮。HEVCよりも圧縮率を12~13%向上させたという。H.264で8K映像が160Mbpsの場合、HEVCでは80Mbpsに圧縮できる一方で、今回の独自形式では70Mbpsに圧縮できるとしている。
もう一つの「ハイビジョン、4K、8Kをまとめて圧縮する技術」は、各サイズの映像から解像度の差分情報を用いて圧縮するというもの。ハイビジョンを8Mbps、4Kとハイビジョンの差分を20Mbps、8Kと4Kの差分を62Mbpsで伝送でき、これらを合わせてCATVの4チャンネル分で伝送。復号後の4K/8K映像は、「元の映像に比べて画質は落ちない」(KDDI研究所の中島康之社長)としている。
発表会場では、映像伝送のデモも行なった。J:COMは、東京・練馬にある施設から、15km離れた東京・丸の内の本社まで、伝送距離40kmの社内ネットワークを持つ。この伝送路は同社CATVサービスのチェック用途のため、通常のCATVアクセス網と同様に光/同軸ケーブルを使って放送(地上/BS/CATV)と電話、インターネットが伝送されている。この伝送路を同時伝送のデモに使用した。
練馬にあるビデオサーバーから出力された映像を、ケーブルモデムの終端装置であるCMTS(Cable Modem Termination System)で、既存のCATVで使われているDOCSIS 3.0方式に変換して送信。本社側では家庭用にも使われているDOCSIS 3.0対応ケーブルモデムで受けた後、PC(4コアCPU搭載×6台)を使ってソフトウェアデコード。8K対応プロジェクタや4Kテレビなどで同時に受信/表示していた。音声は地上デジタル放送と同じAACステレオ。なお、発表では4チャンネル分の帯域を使用するとしているが、会場のデモでは3チャンネル分に減らし、より少ない帯域でも伝送できるとアピールした。
CATVを使うメリットとしては、既存のCATVモデムを使って伝送でき、事業者の負担を抑えられる点や、全国2,800万世帯(世帯普及率50%以上)というCATVネットワークを活用できること、既存サービスに影響を与えずに4K/8Kも伝送できることを挙げている。地上アナログ放送のデジアナ変換が終了する2015年3月より後はVHF帯も利用できるなど、使用できる帯域の広さも優位点としている。
今回開発された独自の映像圧縮方式については、既に国際標準方式としてITUに承認されたHEVCと現時点では互換性は無いとするものの、枠組みとしてはH.264やHEVCと共通している部分もあり、「HEVCを独自に今回の伝送に対応させることは、技術的にそれほど難しい話ではない」としている。今回の圧縮方式は、これまでの検討結果を国際標準方式であるHEVCによる4K/8K圧縮方式に適用し、HEVC拡張方式(映像の差分を使った今回の「階調方式」など)について、国際標準化に向け提案を行なっていく。
コンシューマ向けサービスの実用化時期については、「放送局の準備や、コンテンツ、モニタの普及度合い、(圧縮方式などの)標準化の進展を見てから準備しなければならない」として明言を避けたが、KDDIとしてはJ:COMだけでなくIPTVや他のパートナーCATV会社でも伝送実験を実施。パブリックビューイングなどのイベントでの利用を通じて利用動向を探る。
また、IPTV/CATVの放送サービスについても、IPマルチキャストや従来のCATV伝送であるRFを使った方法を含め、ネットワーク環境の自由度を活かしたサービスについて検討するという。
4K/8K放送の移行に向け、同時配信は必要
今回の技術発表の背景についてKDDIの理事 技術統括本部 技術開発本部長の渡辺文夫氏は、2012年のロンドンオリンピックにおいてNHKがSHVパブリックビューイングを実施したことや、International CESで4Kテレビ/サービスが続々と登場したこと、総務省がSHV実用化時期の前倒しを発表したこと(2013年閣議後会見にて)などを挙げ、「4K/8Kの映像サービスに期待が高まっている」と説明。
今回の新方式については「現在のテレビ(HD)と4Kテレビ、将来の8Kテレビがまぜこぜで使われる時代を展望して、その答えを出した。この技術を、現在普及しているCATVで実現していく」とし、既存の機器を活用しながら将来の方式にも対応していく姿勢を示した。また、実用化を時期が未定の状態で発表を行なった狙いについては「これから標準化を含め、色々なことをやらなければならないが、“4K/8KがCATV上でもすぐ近くにある”というメッセージを広めていきたい。“(一般には)スーパーハイビジョンは衛星じゃないとだめ”という思い込みもあるのではとも思い、この時期に発表した」と述べた。なお、今回の映像圧縮方式の名称はまだ決まっていないという。
J:COM 取締役 技術部門長の山添亮介氏は、HD/4K/8Kを同時に伝送することの必要性について、「これまでのアナログ放送からの移行を振り返ると、放送局はデジタル/アナログの両方を流さなければならなかった。4K/8Kへの移行期間も、両方を送る期間が何年か続くのでは」との見方を示し、今回の方式については「意外にエコノミーで、今すぐにでも送れる。実際にやるかどうかまでは進んでいないが、まずはJ:COMカバーエリアで、ビジネス向けの利用が出てくることを期待している。今後、地上波/BSで4Kが始まったら、CATVには再送信の使命がある。いずれはコミュニティチャンネル向けなどにも提供したい」とした。