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ヘッドフォン専用で30kg超の真空管アンプ「HP-V8」。フォステクスが秋発売
(2015/8/4 16:26)
フォステクスカンパニーは、同社のアナログ技術を駆使したという真空管ヘッドフォンアンプ「HP-V8」を、7日にオープンする同社ショールームにおいて報道関係者向けに先行披露した。8日の14時から、一般向けに事前発表会を行ない、そこで試聴もできる予定。発売は'15年秋の終わりごろを予定しており、価格は未定。
最終的な仕様ではないが、外形寸法が約430×416.5×230mm(幅×奥行き×高さ)、重量30kgを超えるという、正にフルサイズのHi-Fiアンプとして登場するのが「HP-V8」。特徴は、このサイズながらスピーカー出力はあえて搭載せず“ヘッドフォン専用”である点。スピーカーではなく耳に近いヘッドフォンで聴くからこそ、真空管では課題とされるノイズ対策へ徹底して取り組み、開発に2年以上を要したという。管球アンプながら、SN比は115dBという高い数値を示している。
真空管はドライブ段に300B、電源回路部にKT88という構成で、いずれもロシア製。電源部に整流管ではなくKT88を使用しているのも、ノイズ対策によるものが大きいという。出力トランスは、かつての山水電気によるトランスを引き継いだという橋本電気製で、特注にワイドレンジ化を図ったものを使用。コイルはダブル構成で、巻き線は手巻きでテンションを調整したことにより、音質に違いが出ているという。充填にはピッチ(コールタール)を使用。エポキシ樹脂に比べ適度な固さを持ち、振動のコントロールを最適化したという。電源トランスはバンドーエレクトロニクス製。コンデンサも、高耐圧のものを使用。
ドライブ段の300Bは、フィラメントを吊る構造のため、振動ノイズがのりやすいという。このため、本体内に無酸素銅を用いたサブシャーシを設け、さらにテフロンシートで制振。脚部には金属では無く振動吸収に優れた特別なゴム素材を用いたという。
出力端子はXLRバランスと、アンバランスの標準ヘッドフォンの切り替え式。バランス出力は4アンプで駆動するのではなく、トランスの巻き線をダブル構造にしたことで実現。4つのアンプで駆動することも検討したが、出音を聴いて判断し、この方式に決定したという。結果として逆起電力もカットできたことも大きいとのことだ。
ヘッドフォンのインピーダンスは16~600Ωに対応。前面のセレクタスイッチにおいて4段階で調整できる。ボリュームノブは新日本無線で、ギャングエラーの無いものを使用したという。電源インレットはフルテック製。
“管球を最大限に活かす”ためのサイズ
フォステクスのヘッドフォン関連製品といえば、真空管搭載のポータブルヘッドフォンアンプ「HP-V1」や、いち早くDSDに対応した「HP-A8」など、サイズはコンパクトでも機能が充実したモデルという製品が近年多かった。また、カラフルな「KOTORI」シリーズなどカジュアルなモデルにも幅を広げている。
今回の「HP-V8」を見た印象は、まるで“創業何十周年のアニバーサリーモデル”といった圧倒的な存在感だが、決して見た目だけのものでは無いのは、電源部などへの強いこだわりからも感じ取れる。小型製品ではどうしてもバッテリなどに制約が生まれ、ドライブには真空管を使えなかった(前述のV1では増幅部前段に真空管、後段にオペアンプを使用)ということもあった。V1のすぐ後にV8の開発が始まり、こうした制約に囚われることなく、管球が持つしなやかさなどの良さをふんだんに活かした製品を目指した結果、このサイズになったという。
同社のリファレンスヘッドフォン「TH900」でCD音源を試聴した。電源周りの余裕ある構成が、低域のふくよかさ、力強さなどにも感じられ、普段よく聴くハイレゾ音源と小型アンプの組み合わせとは大きく異なる新鮮な体験。音の輪郭や定位は明確に保ちつつ、広がりとつながりの良さが随所に感じられ、開放型など他のヘッドフォンでも聴いてみたくなった。アナログプレーヤーとの組み合わせも面白そうだ。
気になる価格は今後改めて発表される見込みだが、パーツ、構造、価格と、まさに“リファレンス”な存在になりそうだ。前述の通り、8日の発表会で展示されるほか、秋のヘッドフォン祭への出展も決まっているとのこと。今後、香港での発表イベントも控えている。購入方法については、まずは直販からのスタートになる可能性もあるという。