ミニレビュー
約5,000円のハイレゾドングリ「Co-Donguri 雫」を買ってみた
2016年7月11日 08:00
個性的なイヤフォンを手がける音茶楽の技術を採り入れた、TTRの「茶楽音人(さらうんど)」ブランド。6月に5,000円を切る価格でハイレゾ対応を謳うイヤフォン「Co-Donguri 雫(SHIZUKU)」が発売された。コロッとしたキュートなデザインに惹かれ、ハイレゾ対応としては比較的安価なこともあって、購入してみた。
「耳に優しい音」をコンセプトに掲げる音茶楽のイヤフォンは、筐体内部の定在波を抑制し、より自然な音質を再現するためにどんぐり型のデザインを採用した「Donguri-欅 Ti Plus」(実売56,700円)や、「Donguri-楽(RAKU)」(同15,100円)など、独特な形状を採用したものが多い。製品名もアルファベットと漢字が入り混じり、さながら和洋折衷といった趣があって、個人的に以前からちょっと気になる存在だった。
「欅」や「楽」は、いずれも高価なモデルのため、購入に踏み切るにはややハードルが高かったが、茶楽音人ブランドのCo-Donguriならば、試しに買ってみようと思える価格設定だ。量販店で実物に触れてみると、金属筐体を採用していることもあってチープさはない。コンパクトでスマートフォンに合わせてみるのも良さそうだと感じ、購入することに決めた。ヨドバシカメラでの購入価格は5,520円だった。
「トルネード・イコライザー」搭載。絡みにくいケーブルが好印象
丸みを帯びた筐体の中にダイナミック型の10mm径ユニットを搭載。さらに音茶楽の特許技術である「トルネード・イコライザー」を備える。これは、外耳道を塞ぐことで生じる共振を抑え、音圧のピークを改善して高域のマスキング現象を抑制することで、10kHz以上の高域を伸びやかに再現するというものだ。
周波数特性は5Hz〜40kHzで、ハイレゾ再生に対応。出力音圧レベルは106dB/mW、インピーダンスは18Ω。付属のシリコンイヤーピース「SpinFit」を外してよく観察してみると、音道にはフィルタが入っていないように見える。音への影響を考慮したためと思われるが、塵の侵入などが気になる場合は、コンプライTxシリーズなど、耳垢ガード付きのイヤーピースを用意したほうがいいだろう。
どんぐりの実に当たる部分には、光沢を抑えて微細な凸凹のあるメタリック塗装が施されている。カラーはDawn Blue、Silver Moon、Smoky Goldの3色。今回は薄青色が見た目に涼やかなDawn Blueを購入してみたが、ネット上の反応を見ていると、この色の人気が高いようだ。
コロッと小さく丸いデザインは、スマートフォンと並べても違和感がなく、合わせやすい。昨今はハイレゾ対応スマホが増えているので、付属のイヤフォンやハイレゾ非対応の安いイヤフォンからのステップアップに適している。
ケーブルは柔らかく、表面には細い溝を沢山刻んだ加工が施されていて、ポケットに無造作にしまっても絡みにくい。地味なポイントだが、使用時の快適さを損ねないための工夫がされていて好印象だ。
装着時はケーブルを垂らしたまま普通に装着できるほか、Shure掛けのように耳掛けスタイルで使うと、適度なしなり具合で耳にフィットし、衣服に擦れた時のゴソゴソとしたタッチノイズがほぼ感じられなくなる。
くっきりしたボーカルや自然な音の広がり
第5世代iPod touchやオンキヨー DP-X1、AK Jr、AK100IIと組み合わせて音を聴いてみた。購入当初は中音域がくっきりしているわりに、高低域がパッとせず、全体的なバランスが安定しなかったが、さまざまなプレーヤーでとっかえひっかえしてしばらく使っているうちに、聴こえ方が変わって落ち着いたようだ。イヤーピースは付属のSpinFitのままで聴いている。
iPod touchのHF Playerで「イーグルス/ホテルカリフォルニア」(192kHz/24bit)を再生を再生。音が前方に程よく広がり、中高域がくっきりとするためにボーカルが聞き取りやすい。特に、音場が狭くならず、ヴォーカル、ギター、ベースといったそれぞれの音像が距離を置いて配置されるのに軽い驚きを覚えた。ダイナミック型ではあるが、低域が抑え気味なことも意外と感じた。
プレーヤーをAk Jrに変えてみると、音像にメリハリがつき、音の広がりもわかりやすくなる。低域も若干勢いが増すが、不自然に膨らむということはなく、もっと出て欲しいとすら感じる。
AK100IIやDP-X1では音の広がりやメリハリに加えて、音の細部が聞き取りやすくなる。低音についてはiPod touchやAk Jrと比べて、わずかだが量感をそのままに下の方へグッと沈み込む感じに変化する。個人的には、このイヤフォンを使うときは、スッキリした音で分解能が高いDP-X1よりも、ある程度甘さを残したAK100IIの鳴らし方のほうが楽しく音楽を聴けると感じた。
ただ、気になったのはシンバルや弦などが擦れる金属的な音がシャリシャリに聴こえること。プレーヤー自体の音の鳴り方の特性か、曲の違いによるのではと考え、ホテルカリフォルニア以外にもロックや大編成のオーケストラ楽曲をDP-X1やAK100IIに入れ、ボリュームが揃うように調節して聴き直してみたが、大差はなかった。特に高域寄りの音では「ツヤ」が足りない印象だ。
アニソンも聴いてみる。茅原実里「この世界は僕らを待っていた」(96kHz/24bit)では、冒頭からシンバルなどの金属的な音がやはりシャリシャリに聴こえて残念。Petit Rabbit's「ノーポイッ!」(同)では、ココアやシャロなど、声が高めなキャラの声のパートで、やや耳を突くような鳴り方になる。千夜のパート(といってもすぐにキャラが入れ替わるが)になるとホッと一息つける感じだ。高域がキツ目に感じることもあり、演奏に使っている楽器やボーカルの声質によっては聴こえ方に難がありそうだ。
気持ちよく聴けたのはサラ・オレインや、やなぎなぎなどのゆったりした歌い方の女性ボーカル曲。ギター+ボーカルのみの小編成や、落ち着いた曲調の楽曲に合うようだ。サラ・オレイン「Beyond the Sky」(同)では空に伸びていくような歌声が爽やかに感じられ、やなぎなぎなぎ「アクアテラリウム」(同)では声音の響き方や、波間にたゆたうような優しい雰囲気が、このイヤフォンにはマッチした。
イヤーピースを変えて音の変化を楽しむ
ここまでSpinFitイヤーピースを使ってきたが、奥まで入れると硬さが筆者の耳にはどうも馴染まず、装着感が気になった。そこでコンプライのイヤーピース「T200」を追加購入した。
交換してみると、乳白色のSpinFit装着時と比べてイヤフォンの見た目の可愛らしさがスポイルされてしまうが、装着感は良く、遮音性も高まって、足りないと感じた低域がより強く耳に届くようになる。
T200とともに改めて聴いてみると、特にiPod touchでは低域の聴こえ方がしっかりと向上する。さらに、交換前に聞いて今ひとつと感じた、TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUNDのアルバム「good night citizen」の楽曲など、テクノ系の打ち込みリズムもぐっと前に出てくる印象だ。アニソンOP/ED曲のような、疾走感のある曲もスカスカした感じにならず、楽しく聴けるようになった。
イヤーピースを交換するだけでもこのように聴こえ方が変わるが、耳穴との密閉度を高めるコンプライ製品は装着感が苦手、という人もいる。自分の耳穴に合ったものを探すと良いだろう。
こうしてみると、Co-Donguriは音場に広がりがあり、ボーカルなど中高域くっきり、でも高域はキツ目で低域は過度に主張しない、という個性が見えてくる。2,000〜3,000円あたりのイヤフォンと比べれば、音の情報量はぐっと増えるので、ハイレゾの音を細かく聞くには向いている。一方で、音の刺さりや低域が足りない点が気になるのなら、あえて低音たっぷりのゆったりした曲を選んで、スッキリ音を聴くという使い方もできるだろう。筆者はこちらの使い方が自分に合っていると感じる。
キュートな見た目とは裏腹に、音に意外な個性があるCo-Donguri。ちょっと気難しいけれど、個性にあわせた付き合いができれば良き相棒になってくれそうだ。