ミニレビュー

スマホで始めるハイレゾ再生。手頃なフラッグシップ機「HTC 10」のAV機能

 auが6月10日に発売した「HTC 10 HTV32」。この夏のauスマートフォンは、Xperia X PerformanceやGalaxy S7 edgeなど魅力的な機種が揃っているが、そうした中でHTC 10の強みは、フラグシップ機として十分な基本性能、ハイレゾを含む音楽再生、4K/ハイレゾ録音対応のカメラ性能などが挙げられる。

HTC 10 HTV32

 このパフォーマンスを持ちながら、価格は一括で8万円を割り、auスマートパスに加入して「毎月割」の24回適用後であれば3万7,800円という安さが魅力。2016年夏モデルのハイエンドスマートフォンとしては最も手に入れやすい値段で、同じ夏モデルの「Samsung Galaxy S7 edge」と比較すると実に約1万円安いことになる。

 オーディオ関連については、国内初とするハイレゾ対応イヤフォンの同梱も注目したい点の一つで、ユーザーの耳に合わせた音質に最適化するという「パーソナルオーディオプロファイル機能」も装備。さらにスピーカーは2ウェイ構成とするなど、ユニークな部分が多い。今回は「スマホでハイレゾ音楽再生が気軽に楽しめるか」などを中心に、HTC 10の機能をチェックした。

ハイレゾ再生環境が手軽に。付属イヤフォンもハイレゾ仕様

 筆者は、この夏モデルではS7 edgeなども触れてみてかなり素晴らしい出来だとは思ったのだが、それでもどちらが好きかといわれるとHTC 10の方がかなり好みだ。

 上記に挙げたような特徴に加えて、HTC 10は端末デザインもかなりスタイリッシュになったのも好印象。「カメリアレッド」、「カーボングレイ」、「トパーズゴールド」いずれのカラーバリエーションを手に取ってみると、前代のButterfly J HTV31などと比べてぐっと高級感が増しているのがわかるだろう。ちなみに、この3色展開を行なっているのは日本だけで、海外ではレッドの代わりにシルバーがラインナップされている。このシルバーが非常にいい色なので、できれば後で限定モデルとしてでも出してもらえればと思っている。

カメリアレッド、カーボングレイ、トパーズゴールドの3色。以前に比べ高級感が増した
左側が前機種のHTC Butterfly J HTV31、メタリックで高級感のある右側が新しいHTC 10 HTV32

 スマートフォンでの楽曲再生は、イヤフォンと内蔵スピーカーのどちらもHTC 10では強化されている。イヤフォンでの楽曲再生に関しては、ハイレゾ楽曲再生が可能になっている。24bit対応のDACやDSPを搭載しており、端末単体で192kHz/24bitまでのハイレゾ楽曲データを再生できる。

 筆者は、アニソンが好きで多くのアニソンをFLACで購入している。家では、USB OTG機能を持つスマートフォンに「Sound Blaster E5」や「S.M.S.L. IDOL」といったバスパワー駆動の小型DACを接続してこれらのハイレゾ楽曲を再生し、外出時はスマートフォン自体の再生機能を使って(ダウンコンバートして)聴いているが、HTC 10の場合は端末と付属のヘッドフォンがあればそれだけでハイレゾ楽曲が再生できるというのは便利。

 なお、端末単体で192kHz/24bitまでのFLAC、WAVの再生は、前世代の「HTC J Butterfly HTV31」でもできていた。HTC 10では、日本オーディオ協会の“ハイレゾロゴ”認証も受けたイヤフォンも標準添付されたのがポイント。

 HTC 10の場合、単純にハイパフォーマンススマートフォンとして考えただけでも割安なうえに、その値段でハードウェア・ソフトウェアも含めたハイレゾ音楽プレーヤー機能も手に入り、ハイレゾ用ヘッドフォンも付いてくる。スマートフォンを購入すれば誰でも手軽にハイレゾ対応環境を手に入れることができるようになるわけだ。

標準のGoogle Play Musicで実はハイレゾ再生も可能

 HTC 10でハイレゾ楽曲を聴く場合、別売の専用アプリを購入しなくても、端末に標準でインストールされている「Google Play Music」用のアプリだけで再生できる。

 Google Play Musicは、月額980円で3,500万曲以上が聴き放題のサービスとして提供されており、手持ちの楽曲をクラウドにアップロードして、アプリで再生することができるのも特徴。端末内にある音楽ファイルのプレーヤーとしても使える。HTC 10は単体でハイレゾ再生にも対応しているため、端末内にある192kHz/24bitのFLAC楽曲などもハイレゾのままで再生できる。

 なお、聴き放題サービスなどを利用するには前述の月額料金が必要だが、端末内の楽曲再生は会員登録していない状態でも行なえる。これにより、手持ちのハイレゾ楽曲のプレーヤーアプリとして使える。

microSDにFLACファイルをコピーして端末に挿入すると、Google Play Musicでハイレゾ楽曲を再生できた

 Google Play Musicで再生できる楽曲ファイルの形式は、MP3、AAC(m4a)、FLACなど。

 たとえば、PCとUSBでストレージモードで接続してHTC 10にFLACやAACなどの楽曲ファイルを転送しておいたり、microSDメモリーカードに楽曲ファイルをコピーしておき端末のスロットに挿入する、あるいはmoraやe-onkyo musicといった楽曲配信サービスのアプリを使って端末内に購入した楽曲ファイルをダウンロードすれば、Google Play Musicがこれらの楽曲ファイルを識別しオートプレイリスト「最近追加した曲」に追加してくれる。

 ここから先はGoogle Play Musicでクラウドのロッカーライブラリにある曲と同じように楽曲を再生すればいい。オートプレイリストからそのまま曲を選んだり、あるいは自分で作ったプレイリストに登録して再生できるわけだ。

Google Play MusicからmicroSDカードにアクセスしてハイレゾのFLACを再生

ハイレゾ対応イヤフォンの実力をチェック

 付属のハイレゾ対応イヤフォンは、本体カラー「カーボングレイ」と「カメリアレッド」に添付されるものがブラックで、「トパーズゴールド」モデルに同梱されるのはホワイト。ブラックのイヤフォンはデザイン性も優れていて、端末添付品とは思えないほどだと感じた。

イヤフォンのブラックモデル。一般的なスマートフォン添付のものより高級感がある
イヤフォンは、本体によって黒、または白どちらかのカラーとなる

 このイヤフォンはダイナミック型ドライバを搭載し、振動板の素材には“航空宇宙グレード”とするポリマー素材が採用されており、ユニット径は13mmと大きめ。HTC 10のイヤフォンはチャンバーが比較的小さめなためか、普段、低音重視傾向のイヤフォンを使っている筆者にとって、低音はこもりがちだと感じた。ただ、ボーカルから高音部はフラットに出力できるようで、最初に持つハイレゾ向けイヤフォンとしては良いと思う。

 筆者の守備範囲であるアニソンを使った評価では、手持ちのFLAC楽曲では、たとえばボンジュール鈴木の「あの森で待ってる」(ユリ熊嵐OP)の、演奏に高音部が多く、女性ボーカルが囁くような歌い方をする曲では、普段の再生環境に比べて高音部が澄み囁きの息遣いがよく聴こえ、相性がよいように思えた。

 また、高めの女声ボーカルとも相性がよいようで、例えばチマメ隊「ときめきポポロン」(ご注文はうさぎですか?? ED)で『3人の声を聴き分けつつ、水瀬いのりの声を堪能したい』という人にもお勧めしたい。

 西沢幸奏の「吹雪」(艦隊これくしょん -艦これ- ED)という曲は非常に音が多く普及機レベルのプレーヤー/イヤフォン泣かせだと思うが、このような曲もきちんと再生する程度の分解能がある。個人的には、スマートフォン付属のイヤフォンとしては一番良く、オーディオ機器としても評価していいレベルの製品だと思っている。

 なお、再生に使ったGoogle Play Musicは、本来はオンラインサービスのGoogle Play Musicを使うためのアプリであるということにちょっと注意しておきたい点がある。

 Google Play MusicではPCやほかの端末と楽曲を共有すると、クラウド上に曲データがアップロードされる際に、自動的にビットレート320kbpsのMP3ファイルに変換してしまう。これは一度端末内でプレイリストに登録したハイレゾ楽曲も同様で、何かのはずみでFLACファイルを端末内から消してしまうと、MP3に変換された楽曲ファイルが、代わりにインターネットからダウンロードされてしまう。

 しかもGoogle Play Musicアプリでは、端末内にある楽曲データがハイレゾなのかそうではないのかを把握する手段がない。つまり、操作を誤るとハイレゾで聞いていたはずの曲が、いつの間にかダウンコンバートされたものを聞いていて、さらにその確認手段がない、ということにもなりうる。

 それを防ぐためには、端末のGoogle Play Musicアプリでハイレゾ楽曲をプレイリストに登録した場合、リストの「共有」機能はOFFにしておくのが安全だろう。

Google Play Musicアプリ画面上ではハイレゾ(FLAC)、AAC、クラウドからダウンロードしてきたMP3の見分けは付かない

「パーソナルオーディオプロファイル」で耳に合った音質に

 HTC 10には、HTC BoomSound with Dolby studioというイヤフォン再生向けの音質強化機能を搭載している。また、個人の耳に合わせて音質をカスタマイズできる「パーソナルオーディオプロファイル」も備えている。一方で、他のスマホでは使えるGoogle Play Musicの「グラフィックイコライザー」メニューは、HTC 10では使えなかった。

 また、HTC 10はノーマライザーを用意していないので、FLACファイルをGoogle Play Musicで音楽を連続再生したときに、曲によって音量がバラバラになるということが起きてしまった。

 例えばソニーのXperiaシリーズの場合、ダイナミックノーマライザー機能があり、設定でこれをONにするとGoogle Play Musicでの連続再生時も音量レベルがある程度揃えられるようになっている。「楽曲を高音質で楽しむための機器で勝手に音量をいじられるのがいいのか」という意見もあるかもしれないが、個人的には、Google Play Musicからこれらの機能がON/OFFできるようになっていればよかったと思う。

 Google Play Musicは確かに最初に使うプレーヤーとしては問題ないが、筆者が確認した限りGoogle Play Musicでなくても、たとえばAndroid版の「foobar 2000」など別のプレーヤーアプリをインストールして再生するのは問題なく動作したので、ある程度HTC 10という環境に慣れてきたら、ほかのアプリを使ってもよいと思う。

 HTC BoomSound機能は、Dolby Audioの技術を汲んだもので、HTCは「様々なソースに対応し音量バランスと深みがあり歯切れのよい豊かなサウンドを再現する」としている。従来機のButterfly JやDesire Eyeでは内蔵スピーカーがこのBoomSoundに対応しており、スマートフォンとしてはかなりの音質の音楽再生を楽しめ、音楽好きモバイルユーザーに評判がよかった。

 HTC 10では、Bluetooth接続時除くイヤフォン/スピーカーどちらの音楽再生でもこのBoomSoundが効くようになっている。この音質強化に際して、特に有線のイヤフォンやヘッドフォンを使う際にユーザー個人の耳の特性や使っているヘッドフォン・イヤフォンの特性に応じて強化ポイント、具体的には強化する周波数やレベルを設定することができる。これがHTC 10の新しい機能「パーソナルオーディオプロファイル」だ。

 5月31日の製品発表会の記事でも簡単に紹介されているが、この機能では、年齢などの質問に答える「簡易作成」か、「詳細測定」で聴力測定のようにかすかに聞こえる音のレベルがどの程度かを左右、および周波数を変えて測定し、実際の音声再生時にはその情報に合わせて音の調整を行なう。

楽曲を耳やイヤフォンの特性に合わせて特定周波数を中心に調整
詳細作成の画面。無音から大きくしていくのではなく、聞こえる程度の大きさからギリギリまで小さくしていく方が分かりやすかった

 このオーディオプロファイルは複数作ることができるので、たとえば、自宅で使うヘッドフォン用、外出先でのイヤフォン用、運動中のスポーツイヤフォン用というように用途ごとに作っておくことも可能だ。

 オーディオプロファイルを作成すると、プロファイル適用ありなしでの聞こえ方の違いと、低音高音でどのように再生音にブーストをかけるか周波数ごと、左右ごとに目で見ることができる。筆者の場合、この機械によれば、どうも右耳が左よりも弱いらしくどのイヤフォンでも右側偏重で、かつ高音を強くしたようなプロファイルで作られた。

 筆者は以前の機種から一応、HTC製端末のBoom Soundの音質への効果を知っていたつもりだったのだが、このHTC 10のオーディオプロファイルを使ったBoomSoundの効果は、これまでとは比較にならない、抜群の効果だった。

 詳細作成でオーディオプロファイルを作成すると、プロファイル適用有無での音の聞こえ方の違いを比較することができるようになっている。この比較よりも、実際に様々なソースを聴いてみると、想像以上に、臨場感や音の迫力が増すと感じられる。

パーソナルオーディオプロファイルの作成結果

 筆者が一番驚いたのは、インターネット配信ビデオの音声である。

 アニメ番組配信サービス「dアニメストア」を見るのが日課の筆者だが、気に入った回があったので数時間前に特に音質強化機能などはないNexus5で見た後、HTC 10で同じ回を見た。で、その回には少女がひざまくらをしている少年に「……大変だったね。」と慰めるように耳元でささやくシーンがあるのだが、このセリフの臨場感が全く違ったのだ。

 音声の奥行き感と、少しだけ音量レベルが上がる演出で少女の口元が近づいたような感じ、ささやきの息遣いがはっきりを聞き取ることができるようになったという違いなのだと思うが、これらがシーンの臨場感に与えるインパクトは物凄いものがあった。筆者がこのアニメにかなり入れ込んでいるのもあるが、このシーンを見るためだけでHTC 10を買ってしまいたいと思ってしまったほどの違いだった。

 何本かのイヤフォン/ヘッドフォンを接続してこのパーソナルオーディオプロファイルを作ってみた。安く、低音がくぐもり高音が割れる安いイヤフォンを試しに使ってしまうと、音は確かに変わるもののイヤフォンのダメなところはダメなまま。HTC 10のイヤフォンが一定のレベルに達しているので、わざわざ音の悪いイヤフォンを使うことはないと思うが、Boom Soundを使えばなんでも音がよくなるというモノではないようだ。

外付けDAC利用でDSD再生も

 これまで紹介したハイレゾ再生からさらに一歩進んで、BoomSoundなどを介さずハイレゾ音源をそのままの音で聞きたい、あるいはスマホ側のDACが対応していないDSD音源を再生したい場合は、外付けのDAC/アンプとデジタル接続して聴く方法もある。

 HTC 10のUSBポートはOTG(On The Go)に対応しているので、USB DACであればUSB Type-Cに対応したホストケーブルさえあれば仕様の上では、接続してバスパワーでデバイスに給電させつつ、楽曲データを再生可能。スマホ内蔵のものより高機能なDAC/アンプでデジタル-アナログ変換と増幅を行なえるのがメリットだ。

 なお、HTC 10に付属するUSB Type-Cケーブルは充電用のため、これにUSB OTG変換機をつけても動作しない。USB DACと接続する場合は別途USB Type-C/Micro USBコネクタを持つOTGケーブルを購入する必要がある。

 今回、DSD再生を試してみるため、ティアックのDSD対応ポータブルヘッドフォンアンプ「HA-P5」を試用した。再生には、対応アプリ「TEAC HR Audio Player for Android」を使用。なお、今回は、1回目の接続時はうまく使えたものの、2回目以降は、アプリの最初のスプラッシュ表示から先に進まなくなってしまった(編集部注:TEAC HR Audio Player for Androidは7月中のバージョンアップで改善予定と案内している)ので、同じGibsonグループであるオンキヨーの「HF Player」を使用したところ、ハイレゾも正しく再生できた。

ティアックのDSD対応USB DAC/ポータブルヘッドフォンアンプHA-P5と接続。別途USB Type-C OTGケーブルが必要

 いずれのプレーヤーアプリでも、接続した場合にパフォーマンスに関する警告が表示されるという点以外は、HA-P5で問題なくDSD音源を再生できるようだし、この組み合わせで筆者が試した限りではスマートフォンの性能不足による遅延や音切れも経験していない。試しに再生したDSDもFLACも、本体のみでの再生に比べてこんなに奥行き感が出るのかと、驚くような音が出たので、いずれ筆者も改めてこのクラスのUSB DAC/アンプを購入して聴いてみたいと思っている。

ユニークな2ウェイスピーカー内蔵

 HTC端末といえば、HTC Jでの「筐体上下に、スマートフォンとしては非常に大きな口径のスピーカーを配置し本体を左右に寝かせてステレオ音声を聞く」というスタイルが斬新だったのだが、今回のHTC 10でも面白い試みをしている。本体下部にスリットを開けてウーファを、本体正面上部にツイータを配置しているのだ。HTCの説明によれば、ツイータは小さなスリットの中に2つのスピーカーユニットが入っていてステレオサウンドを出力しているとのこと。ただし、スピーカーはハイレゾ対応ではないという。

端末表側上部のスリット内にはツイータがある
本体下部にあるウーファ

 このウーファ/ツイータと、Boom Soundのサラウンドモードのおかげで、スマートフォンとしてはかなり立体感/厚みのある音が出せているように思う。たとえば、スマートフォンで映画などの映像コンテンツを、複数人で一緒に見たいというような用途に有効だろう。

 小さなスリットでステレオスピーカーにする意義はともかく、スマートフォンを机の上に置いてウーファを自分の側に向けて音楽を再生すると、このサイズの筐体としてはいい音がする。ウーファのあるスリットに指を当てて塞いでみると、このウーファが、特に音楽再生に大きな威力を発揮していることがわかると思うので、もし実物に触れる機会があったら、一度ウーファを指で塞いでみて、違いを実感してほしい

暗所&手ブレに強いカメラ。動作には気になる点も

 HTC 10のウリのひとつであるカメラ機能についても触れたい。

HTC 10のカメラ撮影時の画面

 HTCはHTC J Oneの販売開始された3年ほど前の機種から、カメラに関しては「Ultra-Pixel」という名前で独特のコンセプトのカメラ機能を打ち出している。

 Ultra-Pixelとは、最新の世代のものよりあえて少ない画素数のイメージセンサーを利用することで一画素あたりでとらえる光量を多くし、ノイズの少ない画像を撮影しようというものだ。これに映像処理のチップ「HTC ImageChip 2」を組み合わせることでHDR動画撮影なども可能にしている。

 また、以前からHTC端末にある「ZOE撮影」モードも引き継がれており、たとえばシャッターを押して静止画を撮影してみたが動きが面白いからとシャッターを押し続けるとそのまま動画を撮影する、というようなこともできたりする。

 この辺も含めてHTC端末のカメラ機能を一度でも触ったことのある人に向けて説明するならば「感触も含めて以前からの特色を引き継いだHTC感」が満載だ。昼間の街角や植え込み、十分なライティング環境下のオブジェクトの撮影などは非常に快適にできる。撮影モードを「プロ」モードに切り替えることでRAWモードにもできる。

 メインカメラでは4K解像度(3,840×2,160ドット)の動画撮影も可能だ。ファイル形式はMP4。さらに、動画の音声は192kHz/24bitのハイレゾでも撮影できるのだが、マイクがいい位置にあるのか非常にクリアだ。ちなみに最大撮影時間はハイレゾ録音モードでは収録は最大6分までとなる。

昼間のスナップ写真などは、手軽に思ったような絵が撮れた
アボカドサラダの食品サンプル
レーザーAFにより、一瞬で簡単に手前のフォークと肉にフォーカスが合った

 それでは変更されたところはというと、レーザーフォーカスによる非常に素早いピント合わせが実現され、場面によっては非常に使いやすいカメラ機能となった。

 なお、メインカメラのイメージセンサーはHTC Butterfly J HTV31の東芝製T4KA7から、裏面照射型のソニー製Exmor R IMX377に変更になっている。有効撮影画素数は約2,020万画素から1,200万画素に減った。ちなみにIMX377はNexus 5Xなどでも採用されている。

 レンズは開放F1.8と明るい。そして、これはメインカメラだけでなくインカメラなのだが、撮影中に加速を計測しそれに対応してレンズをサーボ制御で動かすことで手ぶれをキャンセルする光学式手ぶれ補正機構(OIS)が搭載された。

 どんな絵が撮れるだろうとさまざまな写真を撮影した。しかし、これまでのHTC以上にかなり癖のあるカメラ機能に仕上がってしまっていて筆者は正直、困惑してしまった。

 確かにこれだけ暗所対策をてんこ盛りにしただけあってHTC 10はとにかく多少暗い場所の撮影にはかなり強い。たとえば、ビルの上層階から眼下の夜景を撮るというような場合は並のスマートフォンでは撮れない絵が撮れたりする。それどころか夜の8時過ぎに撮影しているのにモノによっては昼間のように撮れてしまうことがあった。ただ、OISの効果もあって全く手ぶれの心配はなかった。

間違いなく夜景を撮影したはずだが、明るい

 気になったのは、夜の撮影中に明るい箇所があるとそこが破綻しやすかったこと。たとえば夜の秋葉原中央通りを撮った時に、ネオンや街灯といった光源にフレアのような筋が入ってしまったことがあった。CMOSイメージセンサーのIMX377は、他のスマートフォンでも採用実績も多いがこんな問題は聞いたことがなかったので、画像処理がうまくできていなかったのだろうか。

ISO 250、シャッタースピード1/30秒で手ぶれせずOISは正しく動作しているようだ。ただし、光源にフレアのような筋が出てしまった

 また、昼間の撮影でも問題が起きることがあった。直射日光の下で撮影をしようとすると、カメラを起動した時に液晶のバックライトが消えたように真っ暗になってしまったのだ。本体が熱くなるといったことはなく、単にカメラを起動すると、1分もしないうちに画面が暗くなる。

 そうなると、カバンの中など暗い場所に入れてのぞきこまない限り、ほぼ何が表示されているのかわからない。何度か本体を再起動してみたが、何時間か経った後でも、直射日光下でカメラを起動すると、再びこの症状が起きてしまった。個体の問題なのかは分からないが、せっかくスペックの高いカメラを搭載しているので、安定して撮影できるようにして欲しい。

ハイレゾ入門や手軽な再生環境としての力を実感

 カメラ機能に関しては、期待の高さに比べて気になる点もあったが、当初の目的の一つだった「ハイレゾ入門機に使えるか?」という点で、十分な選択肢となることが分かった。スマホを買えばハイレゾ再生環境が付いてきて、追加購入が必要なのは楽曲データくらい。Google Play Musicは多くのユーザーにすでに使われているので操作に迷うこともない。

 イヤフォンの音質も満足度は高く、ハイレゾ音楽を実際に聴いて「低ビットレートのMP3などとは違う」ことも実感できた。ただ再生できるだけでなく、プロファイルを作って「自分にとっていい音ってなんだろう?」と考えるきっかけにもなると思う。

 日頃からPCに接続したDACやポータブルアンプを使ってお気に入りのヘッドフォンからハイレゾ音楽を聴いている方にも一度手に取ってみてほしい。手軽にハイレゾが再生できて、ちゃんと聴けるいい音が出ることに、きっと驚くのではないかと思う。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身のライター。88年、パソコン誌「Oh!X」(日本ソフトバンク)にて執筆開始。PCやスマートフォン、モバイル関係のQ&A、用語解説、プログラミング解説などを書く。代表作は「ケータイ用語の基礎知識」(インプレス・ケータイWatch) Oh!X誌上では「オタッキー(で)」とも呼ばれた、その筋人。最終学歴は東海大学漫画研究会。ホームページはhttp://ochada.net(イラスト : 高橋哲史)