ミニレビュー

小型スピーカーで本物の音が聴ける? Bluetoothも備えた「iLoud Micro Monitor」

 「小さくて満足度の高いスピーカーなんて、そうそうあるわけない。やっぱり何十キロもある重量スピーカーの方がいいに決まっている」。昔はそう思っていた。今回紹介する「iLoud Micro Monitor」は重さ1.7kg(2台合計)で、“世界最小クラスのリファレンス・モニター・システム”を謳っている製品だ。

iLoud Micro Monitor

片手サイズでパワフル仕様のモニタースピーカー

 オーディオの世界で文章を書くことになって3年目だが、なかなか巡り会えないカテゴリの製品が「小さくて正しい音のスピーカー」だ。筆者にとって「正しい音」とは、生音に対して違和感の少ない音、嘘や誇張の少ない音である。好みの音は人の数だけあっても、正しい音はシンプルだと思う。音声録音や音楽制作に関わる筆者にとって、オーディオ的に魅力的なのはもちろんのこと、欲を言えばやっぱり正しい音で聴きたい。

 iLoud Micro Monitorは、世界最小、リファレンス、モニター……。なんだか筆者の願望を満たしてくれそうな触れ込みだ。外形寸法は90×135×180mm(幅×奥行き×高さ)、重量は920g(左)、800g(右)。IK Multimedia国内正規代理店のフォーカルポイントが扱っている。直販価格はペアで37,000円と小型モニターとしては、決して安くはない。ユニットは3/4インチ(約1.9mm)のソフトドームツイータと3インチ(約7.6mm)のウーファ。同価格帯では、もっと大口径のウーファを搭載した製品もある中、このサイズでどんな音のクオリティを実現しているのかは気になるところ。

片手にのるサイズ

 本題の前に改めて解説すると、音楽制作のプロがチェック用のスピーカーとして使っているのが「モニタースピーカー」。音を正確に判断するため、周波数特性のフラットさはもちろん、楽器のディテール、音色や定位、空間表現からノイズの有無まで、入力された音をそのまま鳴らす性能が求められる。そんなモニタースピーカーの多くが、本体にアンプも内蔵しているアクティブスピーカーだ。これは、別途アンプを用意しなくて良いという使う側のメリットはもちろん、アンプとスピーカーを同一筐体に収めることによって、意図通りのサウンドを開発側がコントロールできることにある。

 昨今のモニタースピーカーは、大きなパワーの割に小型の製品が増えた。またXLRやTRSフォンだけでなく、ステレオミニやRCA、あるいはBluetooth接続といったマルチな入力を備えたモデルが次々に登場している。これは音楽を自主制作するアマチュア層が増えて、間口が広がったことが影響しているのは間違いない。

 iLoud Micro Monitorは、プラグインなどでDTMユーザーには馴染みのあるIK Multimediaの製品だ。左右ワンユニットで持ち運びに便利な「iLoud」というモデルを既に販売していたが、昨年12月に本格的なモニター環境を省スペースで構築できるiLoud Micro Monitorが国内でも販売開始された。小型サイズながら、リファレンスたり得る再生能力を持っているのか、その実力をチェックしていこう。

下部のスタンドを立てた状態

 定格出力50Wのハイパワーを実現するのは、高能率のクラスDアンプ。高域と中低域に別々のアンプを擁するバイアンプ構成だ。正確な位相や定位、リニアな周波数特性を実現するため56bit DSPにタイムアライメント処理を担わせている。サイズはとても小さい。ペットボトルを2本並べたよりも容積は小さく、重さも左右合わせて1.7kgと十分持ち運びができる範囲だ。

 左右のスピーカーは極太な1.5mケーブル1本で接続。アンプは左側のスピーカーに4ch分搭載されているので、このケーブルは右側のスピーカーを鳴らすためのものとなる。電源は専用ACアダプタが付属。音声入力はRCAピンとステレオミニ。Bluetoothにも対応している。

左右のスピーカーをつなぐケーブル

 底面に装備されたスタンドは、立てることで上方に向けて角度を付けられる。机の前に座ったときの耳の高さに合わせられるだけではなく、机に反射する音を緩和してよりクリアな音場を確保できるのだ。机に直置きなら問答無用でこのスタンドは使いたい。

スタンド収納時
スタンドを立てた場合

 底面にはマイクスタンドが取り付けられるネジ穴(UNC 3/8”-16)がある。机では左右対称に置けない等の不都合がある場合は、机のサイドや後方に2本のストレートタイプのスタンドを立てて設置するとよいだろう。

底面

豊かな低域ながら、バランスの取れた音仕上がり

 普段、作業机として使っているコタツの上に、左右いっぱいまで広げてスピーカーを設置。様々なソースを試聴した。

 再生は、ノートPCの内蔵イヤフォン端子からのダイレクト接続と、ハイレゾ対応デジタルオーディオプレーヤーのCOWON「PLENUE M」を試した。PLENUE Mはナチュラルなサウンドで定評のあるPLENUEシリーズの中級機だ。

PCとの組み合わせ
ポータブルプレーヤーのCOWON「PLENUE M」と接続

 音楽を再生してすぐに気付くのは、ローエンドの伸びと量感だ。ピアノトリオのH ZETTRIO「Smile」(88.2kHz/24bit)はグランドピアノの重厚な鳴りと、ベースの迫力がしっかり伝わってくる。本当にこのサイズのスピーカーから出ている低音なのか、側面にもう一個ウーファが付いているのではと疑いたくなる。当然ながらノートPCの埋め込みスピーカーとは比較にならないし、デスクトップPCにオマケで付いてくるようなサイドスピーカーと比較しても音の説得力が段違いだ。

 小型のスピーカーにありがちな、低域再生の限界をごまかすために中低域を盛りに盛って「低域出ている感」を演出しているタイプとは完全に別次元。それでいて破綻無く高域から低域までフラットに聴かせてくれる。池頼広の劇伴から「HEROES N.C.1978」(96kHz/24bit)を再生するとオーケストラの演奏が実にリアルだ。全体的に音色の癖が少なくスタジオでミックスに立ち会っているような贅沢な気分になれた。

 高域はあまり強く主張しないが、チェック用であれば華やかさなど不要なので問題ない。空間表現力や定位はこのサイズのスピーカーなら十分合格点。ちょっと変わった音源としては、「ナイツ爆笑漫才スーパーベスト」(192kHz/24bit、ファンを集めた公録形式)からいくつかネタを聴いてみると、二人の掛け合いとそれをふわりと包み込む会場の笑い声が明確に分離し、ミックスの意図が如実に伝わってきた。グッと前に出て聴きとりやすい二人の声は、会場で自分が聴いた周波数バランスそのままだった。

 音場感は、セッティング次第でさらに追い込めそうな実力の高さを感じさせる。特にスケール感はサイズを遙かに超えているので、ニアフィールド試聴に限らず、距離を取って楽しんでもきっと面白いはずだ。「サガオケ! The Orchestral SaGa -Legend of Music-」から「時代の幕開け」(96kHz/24bit)を聴くと、目を閉じた方が自然なくらい広大なサウンドステージが広がり、一気に盛り上がる中盤以降も余裕を感じさせるドライブ能力に恐れ入った。

 やや気になったのは音像の彫りの浅さ。音場全体に薄モヤが掛かったようで、ディテール再現が甘めに感じられた。解像感はもう少しほしいところだ。キャビネットはABS樹脂と思われるが、音量を上げてもほとんど箱鳴りは感じなかった。

 背面には、部屋の環境に合わせたサウンド補正ができるスイッチがある。高域が耳障りだったり、低域がブーミーになってしまった場合などに使うといいだろう。デスクトップへ切り替えるスイッチは、中域部分をスッキリさせる効果があるが、乱反射が気にならないならFLATのままでよい。筆者の環境ではどのスイッチも使う必要を感じなかった。すべてFLATにしておけばより純度の高い音が楽しめる。

背面のEQスイッチ

 アンプのパワーが大きく能率も高いため、背面のボリュームはそれほど上げなくても力不足は感じない。デスク周りの共振や音場の飽和感が起こるなら上げ過ぎなので、適度な音量で設定したい。

 なお、PCとの接続にはステレオミニ→RCAの変換ケーブルを使ったが、ハイレゾプレーヤー「PLENUE M」との接続時に比べると、PCのイヤフォン出力は同じ音源でもまるでハイレゾがMP3になったみたいに貧相な音だと感じる。のっぺりとした音場はチープ感が激しく、楽器の音も曇って明瞭さに欠けていた。再生ソフトのx-アプリでWASAPI排他を選ぶことで、最良のイヤフォン出力を確保しているはずだが、専用機であるPLENUE Mとの差は如実に出た。逆に言えば、本機は音質の差をしっかり描く力があるということになる。

 なお、本機のRCA端子の入力レベルは、-10dBV。業務用の機器やDTMの機材を繋ぐときは、TAPE OUTなどのRCAピンの出力から繋ぐようにしよう。その際、出力レベルが+4dBVや+6dBVだったときは、切り替えスイッチなどで-10dBVに変更してから音を出さないと歪んでしまうことがある。

 筆者の環境では、USB DACから出力したRCAやステレオミニの信号は、本機の入力レベルには合わなかった。USB DACとしてNuPrimeの「uDSD」とMeridianの「Explorer2」を試しており、オーディオインターフェイスはTASCAMの「US-366」からRCA出力で使用した。ところが、ASIOにしてDACへネイティブ出力すると軒並み音が割れてしまった。3機種とも固定音量のため、スピーカー側のボリュームを操作しても音割れは変わらない(2VrmsのLINE出力は音割れとなった)。なお、US-366のLINE OUTつまみ(ボリュームノブ)はRCA出力には効かず、TRSフォン出力のためのつまみだ。よってRCAでは固定音量での出力となる。

 再生ソフトのHQPlayer側で最大音量を-10dBに抑えると、問題なく再生できた。ただ、これではDACにネイティブで出力できていない。ネイティブ出力が必須なMQA再生ではExplorer2のランプがMQAを認識できずデコードできなかった。

 なお、WindowsからMacに変更してUS-366を繋いでPro Toolsを試したところ、特に支障なく聴くことができた。個人的にはDTM向けの製品かなと感じた。

TASCAMの「US-366」と接続
DACからのネイティブ出力によりMQAをデコードしているExplorer2
PC内部でデジタル処理(音量が処理)されているため、MQAとして認識できないExplorer2。“折り紙”展開前の48kHz/24bit音源として再生された
Pro Toolsで再生

 Bluetooth接続も試した。設定は背面のボタンを押して青点滅したら端末側で本機を選べば終わりだ。プロファイルはA2DPに対応。音質は想像よりずっと良好で、radikoやポッドキャストなど、圧縮音源とは思えない生々しい音に感動した。音楽も再生したが、作業BGMとして聴くならまったく問題ないクオリティだった。

Bluetooth接続時

実際の音楽制作でも問題なく使える?

 筆者はWebラジオやボイスサンプルなどの音響エンジニアとして長年Protoolsを使用してきた。そこで、iLoud Micro Monitorを使って模擬的に編集作業を行なったところ、実に有用であることが分かった。

 まずCompとEQを通さない素の音声は真に迫るリアルさがある。プロの録音スタジオで聴いているような極めてフラットな周波数バランスだ。ローカットなどのEQは明確に掛かるし、定位(PAN)の変更もハッキリ分かる。音声と音楽のミックスは各トラックの分離が明瞭で目的の音を捉えやすい。

 どんなにカタログで美辞麗句を並べられても、仕事で使うモニターは音が信頼できなければアウトだ。嘘くさい音声に聴こえたら、その嘘の音を信じて編集しないといけない。その点、本機は安心のフラットバランスと驚異の低域再現性を実現している。

 今回、ネイティブ再生では前述した音割れがあったため、ハイレゾ音源とCD音源の厳密な試聴は、前述したポータブルハイレゾプレーヤーの「PLENUE M」を使っている。これなら、単体でハイレゾをネイティブ再生できて、音量も手元で調整できる。

PLENUE Mの良さをそのまま活かして聴けた

 筆者は知人の作曲家と組んでハイレゾ音楽を制作している。Beagle Kickというユニット形式で活動し、かれこれ4年半ほどになる。自分は総合プロデューサーという立場でレコーディングからミックス・マスタリングまであらゆる過程の音をスタジオで聴いているため、本機でも自前の楽曲を試聴した。

 Beagle Kickの最新シングル「EVERYTIME」からミディアムテンポのフュージョンEVERYTIMEとLOVIN'YOUを聴く。CD版とハイレゾ版の違いは空間表現力で明確な差異が見られた。CDの音はグッと前に出て平面的な音場だ。ハイレゾになると、リバーブの響きが繊細になって前後感もハッキリと分かる。

 1st.アルバム「BRAND NEW KEYS」から祈りの丘を聴くと、4種類のパーカッションの残響が解像度を増して消え際まで美しい。歪ませたチェロの音が印象的なGritも聴く。こちらは通常の96kHz/24bitのハイレゾの他に、オリジナルセッションからリミックスした192kHz/24bit版があるためそちらでも試聴した。やはりサンプルレートが上がっただけの広がりは明確に出る。左右にグッと音場が広がって、奥行きも深い。まだまだ十分な余裕を感じるので、もっと左右のスピーカー距離を広げたくなる。

 自分が現場に居て、生の楽器の音を聴いたり、コントロールルームで聴いていたリアルタイムの音に限りなく近い周波数バランス。このサイズのスピーカーでも真に迫るモニターサウンドは実現できる……認識を根底から覆された気持ちだった。

 iLoud Micro Monitorは、自宅で省スペースにDAW環境を構築したい人にはピッタリだ。また、制作者が聴いている“本当の音”を手軽に楽しみたい人にも向いている。

 サイズからは信じがたい低域再生能力に、生の音だと直感で分からせてくれる驚きのフラットバランス。小型で設置性に優れ、手軽にBluetoothでも接続できる汎用性の高さも魅力だ。DTMユーザーのみならず、音楽ファンにもオススメしたい。事実、私がこういう音で自分たちの曲を聴いて欲しいと素直に思っている。小型アクティブスピーカーで3万円台後半というと確かに悩むかもしれないが、最初に良質な製品を買っておけば長い間使える。気になった方は、机の上の空きスペースをぜひ測ってみて欲しい。“本当の音”は意外と手の届くところにある。

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iLoud Micro Monitor

橋爪 徹

オーディオライター。ハイレゾ音楽制作ユニット、Beagle Kickのプロデュース担当。Webラジオなどの現場で音響エンジニアとして長年音作りに関わってきた経歴を持つ。聴き手と作り手、その両方の立場からオーディオを見つめ世に発信している。Beagle Kick公式サイト