レビュー
「FMラジオってこんなに音よかったの!?」元アニラジ少年が、FIIO「RR11」使ってみた
2025年7月3日 08:00
ラジオ聴いてる? いや、ラジオコンテンツ聴いている?と質問した方がよいか。radiko、Podcast、WEBラジオ……そして、地上波のラジオ。今改めて音声コンテンツの価値が見直され始めている。筆者も数年ぶりにPodcastを聴いたりして、懐かしい気持ちを味わっている1人だ。
今回で取り上げるのはFMラジオの新製品。内部にDPSなどを使ってはいるが、チューニング操作などはアナログにこだわったポータブルラジオだ。FIIOのレトロ復刻シリーズとして、ポータブルステレオFMラジオ「RR11」が今月発売された。価格はオープンで、市場想定価格は8,800円前後とお手頃プライスだ。
【お詫びと訂正】記事初出時、“完全アナログのポータブルラジオ”と記載しておりましたが、DSPなどを使っており、誤った説明になっておりました。お詫びして訂正します。(7月4日)
USB-DACやヘッドフォンアンプ、DAPなど、ポータブルオーディオ界隈で高い人気と知名度を誇るFIIO Electronics。自社ブランドであるFIIOは、モバイルオーディオやデスクトップオーディオファンの間で、定番かつ安心のブランドとして認知されてきた。筆者も、いくつかのUSB-DAC付ヘッドフォンアンプを愛用してきたし、現在も「Q3 MQA」を活用している。
編集部から「RR11を使ってみませんか?」と連絡が来た時、「FM専用」と聞いて、ちょっとだけ不安を覚えた。というのも筆者は子供の頃から、AMばかりにお世話になっており、今も聞くのはTBSラジオや文化放送のradikoタイムフリーやPodcastアーカイブだからだ。
しかし、RR11はそんなAMリスナーも安心である。ワイドFM(FM補完放送)に対応しているため、AM放送がFM専用のラジオでも聴けてしまうのだ。ワイドFMは、地上アナログ放送の終了に伴って、空いたアナログ波の電波帯を利用してはじまったことで知られる。
ワイドFMを受信するには、従来のFM放送用の周波数76.1~89.9MHzに加えて、90.0MHz~98.9MHzに対応することが求められる。RR11は64~108MHzまで幅広く対応するため、日本のFM放送だけでなく、世界中のFM放送、大学のFM放送なども聴取(受信)出来るという。
ラジオで思い出す青春の1ページ
RR11を使う前に、少し昔話をしよう。
筆者がAMリスナーだった理由は、学生時代アニラジを愛聴していたことが一番の理由である。静岡県浜松市で育った橋爪少年は、東京の放送局がかすかに聴こえる夜間を狙って、窓際にAMループアンテナを絶妙な角度で設置。アジア圏の放送が干渉した文化放送やTBSラジオ等の深夜番組を聴取していた。中国語らしき言語の中から、日本語の話だけを聞き取るスキルは、地方在住のリスナーなら経験した方も多いだろう。
高校時代には、時間を指定して予約録音できるMDCDラジオカセット、いわゆるバブカセを用いて録音。ゲムドラナイト、電撃大賞、ポリケロのぬわんちゃってSAY YOU、ESアワー ラジヲのおじかん……もう番組名も思い出せないが、まだまだあったと思う。爆笑シーンをカット編集したMDは、永久保存版の青春の1ページである(もうデッキが無くて聴けない)。
FMについては日常的に聴いていた経験はなく、思い出と言えば、地域のコミュニティFMに出たことか。2つの高校教師と生徒がチームを組んで、終戦直後の沖縄を舞台にした映画の自主上映を浜松で開催する。その宣伝のために、コミュニティFMの番組でプロを相手に喋ったことをうっすらと記憶している。録音したMDは今となっては特級呪物だ。なんだか偉そうにペラペラと自説を述べた気がする。
上京してからは、自らの音楽ユニットBeagle Kickとして、レインボータウンFMの某番組に10年ほど前に出演。コミュニティFMのスタジオは独特で、とにかく演者との距離が近い。会話もより熱が入ったことを覚えている。
アナログ設計にこだわった「RR11を
さて、思い出話はこのくらいにして、目の前の最新ラジオに戻ろう。
レトロ復刻シリーズというから、どんなラジオかと思ったら、アナログ設計にこだわった逸品だった。チューニングはスクロールホイールによるアナログ的な操作。オレンジのラインが指し示す周波数を見ながら、ゆっくりと慎重にホイールを回し、放送が聴こえるところを狙う。
電池残量や受信状況はオレンジのLEDで表示される。ステレオ受信中のLED、放送受信中のLEDを備え、電池残量は4つのLEDが段階的に点灯して示す。
スマートフォンやPCと接続してヘッドフォンアンプにもなる本機。当たり前のようにDAC内蔵かと思いきや、DACは専用のUSB-Cケーブルに内蔵されており、あくまでRR11本体はアナログヘッドフォンアンプとして動作するという。付属のDAC内蔵オーディオケーブルは、PCM 384kHz/32bitまで対応するドライバー不要のオーディオデバイスとして認識される。
ならば、低音ブーストに3Dサラウンド効果はデジタルエフェクトかと思ったら、これもアナログベースのサウンドエフェクトだ。MAGIC BASS 1は低音ブースト。MAGIC BASS 2 は、低音ブーストに3Dサラウンド効果を付加するという。
そんなアナログな使い心地にこだわったラジオだが、高品質オーディオブランドであるFIIOが手掛けるラジオだ。音質へのこだわりも随所に見られる。FMラジオレシーバーチップには、シリコンラボラトリーズ製の「Si4831」を搭載。幅広い周波数をクリアで安定した品質で受信できる。アンテナは、接続したイヤフォンをアンテナ代わりに利用する定番の方法に加えて、高性能PCBゲインアンテナも内蔵することで、電波受信能力を強化しているそうだ。
また、FIIOの約18年にわたる豊富なオーディオ研究開発の経験を活かしたHiFiグレードのアナログ回路により高音質を実現したという。
出力端子は3.5mmステレオミニ、対応インピーダンスは8~100Ω。USB Type-Cの入力端子は、充電とアナログ音声入力に使用する。
300mAhのバッテリーを内蔵し、FM受信時は8.5時間以上、アンプモードでは約17.5時間の連続駆動が可能。充電時間は約2時間だ。5V/2AのUSB電源アダプターを推奨し、9V以上の急速充電アダプターは非対応。充電しながらのFM受信もできるが、スイッチング電源アダプターがFM周波数付近で動作するため、干渉が起こることもある。モバイルバッテリーなどから充電すれば干渉を抑えられるそうだ。
外形寸法は、約83.2×39.4×13mm、重量は約46gと小型・軽量。パスケースと並べてもご覧の通りだ。カラーバリエーションは、ゴールド、ブラック、シルバー、レッドの4色が用意されており、レトロな機能にモダンな雰囲気も併せ持つ。付属品は、ステレオイヤフォンとイヤフォンスポンジカバー、USBe-C to Type-CのDAC内蔵オーディオケーブル、USB充電ケーブル。
今回試用したのは、ゴールドカラーだ。シュッとしたデザインと筐体。電源スイッチを兼ねるボリュームノブは、レトロっぽくもあるが、どこかオシャレでカッコいい。各部のスイッチは固い手応えがあり、鞄の中でも誤操作は起こりそうにない。スクロールホイールのレスポンスは滑らかでありながら、惰性は効いていないので、微調整に適している。
専用アクセサリーのPUレザー製保護ケース「SK-RR11 Brown」も合わせて使ってみた。ケースに収納しても全てのスイッチやポートにアクセスできる。ストラップは、写真のロングバージョンの他に少し短めな長さの2種類を付属していた。
久しぶりにラジオ受信、してみる
まず、筆者のマンション(築37年、鉄筋コンクリートRC造)でイヤフォンを接続して使ってみる。付属のイヤフォンは、スポンジカバーを取り付けて装着するインナーイヤー型だ。耳へ詰め込む必要がなく、長時間の装着でも疲れにくい。
今回は、RR11そのものの音質評価と、FIIO製品を購入する方はお気に入りのイヤフォンを持っているだろうという期待を込めて筆者常用のイヤフォンを使用した。SENNHEISERのインイヤーモニター「IE 400 PRO」だ。
FM1~FM3とスイッチを切替えて一通りの周波数帯を試してみたが、筆者宅はラジオの電波が届きにくく、自宅の中ではほとんどの放送局が入らない。唯一受信出来たのは、横浜エフエム放送だった。窓際に近付けば、文化放送とか一部の局がノイズ混じりに聴こえる。何年も前に買ったポータブルラジオは、窓際でも一切のFM放送が受信出来なかったので、一部の局だけでも受信出来る事実は、高性能なPCBゲインアンテナやレシーバーチップの影響といえそうだ。さすがである。
なお、以前買ったポータブルラジオはAMも受信できるが、AM放送のごく一部はギリ受信できた。一般的にはAM放送は建物内では受信し難く、FM放送は建物の中でも受信出来ると言われる。一方、山があったときに反対側に回り込みやすいのはAMで、回り込みにくいのはFMだ。マンションの周囲は特に山も丘も無いし、FM放送の屋内聴取が厳しいのは悔しい結果だった。
それにしても、イヤフォンのコードを延ばしたり、本体の向きを変えたりすると、受信状況が微妙に変わるのは、ラジオらしくてとても懐かしい。筆者が住むマンションでは厳しい結果となったが、木造家屋の方はきっと結果も変わってくるだろう。
スクロールホイールを回しながらのチューニングは、そこそこにシビアだ。後述する屋外のリスニングではいろんな放送局が入りまくるので、ちょっとでも動かすと別の放送局が入ったりする。東京だというロケーションもあるだろうが。このシビア具合も含めて楽しめるのはRR11の特徴でもある。
ポータブルヘッドフォンアンプとしても使える
外出する前に、パソコンに接続してのヘッドフォンアンプモードを試した。専用のUSB-CケーブルにはDACが内蔵されているので、刻印の向きに注意しながらホストデバイス(PC)に接続しよう。より正確に聴くために、イヤフォンではなく、モニターヘッドフォンのT3-03を使用した。
ケーブル内蔵のDACは本体価格相応のクオリティと感じた。解像度や歪み感の程度は、満足出来るほどではないが、贅沢はいえまい。映像配信を試聴したり、ロッシー配信の音楽を気軽に聴く分にはそれほど問題は感じない。
単体のアナログヘッドフォンアンプとして動作しているためか、音にはどことなく温度感があった。あたたかみのある聴き疲れしにくいサウンドだ。せっかくなので、しばしABEMAのライブ映像などをしっぽり堪能した。
DDBアナログサウンドエフェクトも使ってみる。MAGIC BASS 1にスイッチを合わせると、中低域がムッキムキになる。小型機器の低音強化機能にしては、しっかりと効く。電車の中で音楽番組を聴くときには重宝しそうだ。
MAGIC BASS 2に切替えると、低音ブーストと3Dサラウンドが同時に働く。頭内定位の改善というよりは、頭の周りを覆うような音場拡張タイプの効果を感じた。センターの音像が若干前に移動した感覚はある。これはライブ音源との相性もよさそう。個人的には、3D効果単体で使いたい。低音ブーストは派手めに効くので、音源との相性次第では個別にオフにしたくなった。
ここまで書いてきてなんだが、今時ラジオはネットで聴けるから要らないという方が多数派だと思う。ラジオのハードは持っていなくても、スマホにはradikoが入っていて、Podcastにはラジオ番組の公式配信を登録している方もいるだろう。
確かに筆者も日常的な地上波ラジオはradikoやPodcastだが、ポータブルラジオは一家に一台持っておきたいアイテムである。
その目的はなんといっても防災だ。ネット回線が落ちても、放送局と電気さえ無事なら、アナログのラジオは貴重な情報源となる。ガラケーの時代ならともかく、今時ワンセグでテレビを見られる端末を持っている人もいないだろうから、極限状態でも情報を得られる端末としてラジオは有用といえるだろう。
手回しで発電できるラジオ。小型でも大きな音が出る内蔵スピーカー。どこでも入手出来る乾電池駆動。などなど、防災に適したラジオの条件はいくつかある。
RR11はあくまでオーディオグレードのポータブルラジオで、防災用というわけではないが、自宅にラジオが1台もないという方は、導入の価値はあるのではないかと。まず、とてつもなく小型で軽量なので、常にバックに入れて持ち歩くことで、万一の事態に備えられる。広く普及するUSB-C入力だから、モバイルバッテリーを常用している方なら、スマホと同じように充電できる。
RR11を持って外へ出よう!
宅内受信が思わしくなかったので、我慢できず外へ出向いた。イヤフォンとRR11を持って、夕方から夜にかけて駅周辺を歩き回った。
結論から言えば、屋外で受信するFM放送はとてもクリアで、声の粒立ちも良好、FMならではのステレオ音声で、radikoとは比べものにならない音質を楽しめた。radikoだと携帯の電波さえ入ればどこでも聴けるが、どうしても圧縮音声ならではの高域のシャカシャカ感が気になる。
RR11で聴くラジオは、とにかく音がクリアで低ノイズ、音も適度に太く、声のディテールも鮮明だ。AMばかり聴いてきた筆者もワイドFMで聴く文化放送やTBSいい……と認識を改めた。
せっかくあちこち巡ったので、スポットごとの受信状況をレポートしてみよう。
まず駅ビルの屋上11階で、チューニングをしてみた。そうしたら、入るわ、入るわ! 自宅での厳しい受信状態が嘘のように、バンバン番組が流れてくる。文化放送にTBS、InterFM、NHK FM、コミュニティFMであるTokyo Star Radioも入った。大手の放送局の方が安定してノイズレスで入りやすい。またステレオで安定して受信出来る。
いったん下に降りて、2階部分から繋がる歩道橋で受信してみると、屋上とは変わらない。まあ、当然だろう。
続いて、ビルの地下へ移動。各パーキングに繋がる中央の地下道エリアでホイールを回してみたが、まったく入らない。地下ではさすがに厳しいか。
今度は、駅ビルの真向かいにある別のビルへ。ほぼ最上階の12階は屋外よりは受信が難しくなるものの、TBSはちゃんと入るし、文化放送は怪しいなど、濃淡があった。横浜エフエム放送もクリアに入る。外ではステレオで受信出来る局も、モノラルになってしまったりした。
2階に移動し、吹き抜け近辺の椅子に座って、選局をすると、12階より受信状態は悪くなった。ノイズも増えてしまった。
大きな窓があれば、屋内でも良好に受信できるのか。もう一度、駅ビルに戻って10階のレストランフロアへ。9階には吹き抜けの屋内ガーデンがあり、ガーデン真上の天窓からは、夕暮れどきの空が見える。ここなら!と思って電源を入れるとどこの局も入らない。窓からの距離が遠いからだろうか。都合2.5フロア分くらいはありそうだ。
ラジオ片手にあちこちを回って見たが、一番気持ちよかったのは屋上だ。ほとんど人がいない屋上のベンチで、コミュニティFMを聴いていると「スタジオの反響がちょっと入ってる」などと響きの違いに気付ける音の良さに唸ったり。思わず、TBSラジオのニュース解説に聴き入ってしまったり。“1:多数”の視聴者をイメージするテレビと違って、ラジオは“1:1”が基本。“貴方のお耳を拝借”なんて言ったりするが、聞く側の心も番組に深く入り込めるのがラジオの魅力だろう。
スタジオの空間とRR11が繋がっている気がしてグッとくる
電車内でも試してみた。窓がいっぱいある電車は、走行時と停車時で受信状況が違った。文化放送なども受信出来るが、走行中はステレオLEDが不安定に点滅し、駅で停まると安定する。走行しているときはプチプチノイズが混ざって聴こえるが、喋りの内容を聴く分には支障はない。
地下に潜ると当然、全ての局が受信できなくなった。スマホのradikoなら、地下でもスマホの電波は途切れないので、そりゃradikoかなと思いつつ、なんだろう、受信が不安定になったり、途切れることもちょっと愛おしくなってくる。ラジオらしい挙動が少年時代のノスタルジーを呼び覚ましたのか、それともスタジオの空間と手元のRR11が繋がっている気がしてグッときたのか。ラジオは、ネット通信に慣れきった筆者にとって、コンテンツを得られるありがたみを思い出させる意外な効果があった。
通も唸る納得の品質のFIIO製品。数々のヒットモデルで磨かれたその技術は、1万円を切るお手頃価格のラジオでも確かに息づいていた。良好な受信状態で選局できたときの感想は「FMラジオってこんなに音よかったの!?」とたまげるほど。未だに単体のピュアオーディオ向けラジオデッキがある意味が少し分かった気がした。
FMはもちろん、ワイドFM対応でAM放送局もチェックできるポータブルラジオRR11。バックに入れっぱなしの常備アイテムとして、お勧めしたいガジェットだ。